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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第三章 精霊編

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間章・そして動き出す者達

「…行ってしまいましたね。」


 奇声を上げて飛び去っていった優姫を見送り、1人ぽつんと取り残されたエイミーが、誰に言うでも無く呟いた。そして、一瞬の間を置いて悩ましげにため息を吐いた後、あれやこれやと思案した挙げ句、来た道を引き返すべく歩き出した。


 試練を受けているのは、優姫であってエイミーでは無いし、何より補助魔術を掛ける以外、彼女に出来る事は無いのだ。協力して構わないと言われてはいるものの、2人の今の速度に追いつけるとは到底思えない。


 それに、優姫の事だから、手助けが必要ならちゃんとお願いされるだろうし、それが無いと言うのであれば、今の所必要ないという事だろう。一見して、シルフィードの挑発に乗っかった様に見えるけれど、相手を油断させる為にわざとそう演じているだけで、きっと冷静なはずだ。


 まぁ、大分悪ノリしているとは思うけれど、裏を返せばそれだけこの試練は安全だという事だ。出会ってまだ10日と少しの間、優姫と行動を共にしていて、驚きの連続だったのだけれども、中でも特にエイミーが驚いた点は、その戦闘技術や身体能力の高さ以上の、危機察知能力の高さだった。


 戦闘技術や身体能力は、鍛える事によって向上するのは当たり前だ。トレーニングを積む事によって、肉体は強化されていくし、修練と研鑽によって技術が向上していくのは自明の理だ。


 だが危機察知能力は経験則だ。実戦などで実際に危険な目に合ってこそ、経験値が蓄積されていく類いの能力である。


 聞けば優姫の元々居た異世界では、戦争こそあるにはあるが、それは世界のほんの一部分でのみ起きている事で、彼女を取り巻く環境は至って平穏だと言う。当然、武術の心得は在っても、実戦経験など皆無で、ましてや人を手に掛けた事も無かったし、命の危機に瀕した事も無いと言う。


 武術やスポーツを多く嗜んでいると言う点以外は、至って普通の17歳の少女だ。17歳の人族と言えば、この世界では十分成人女性として扱われるのだが、1000歳を超えるエイミーから見れば、赤子も同然だろう。


 更に付け加えるのなら、冒険者として幾度となく死線をくぐり抜けてきた彼女だ。その彼女が、実戦経験の一切無い赤子同然の少女が、自分に引けを取らぬ程の危機察知能力を有しているのだから、それはもう驚くのも当然と言えるだろう。


 思えば、あの盗賊団の首領との一騎打ちから――もっと遡れば、エルフの里でベルトハルトに、喧嘩腰で挑発していた時からだが――優姫の片鱗は垣間見えていた。彼女にとっては、初めての実戦だったと言うのに、あの騎士崩れの男の事を最初は格下として扱っていた。


 それを見てエイミーは、当初優姫の事を相当な自信家だと感じた。何も優姫に限った話では無いのだが、異世界人には過度な自信家が多いというのが、この世界の住人の共通認識だったりする。


 その原因の1番の理由は、異世界人達の元居た世界の環境と身体負荷が違う所為で、常人以上の身体能力を誰でも発揮可能な為だ。その所為で、明らかに実戦経験の無い者でさえ、自分が強くなったと勘違いして気が大きくなる者が多いのだ。


 無自覚で在るのならば、まだ救いようも在るのだが、救いようの無いのは自覚して気が大きくなっている者だ。そう言う輩に限って、威勢に任せて冒険者となった挙げ句、半年と経たずに身の程を知るものだ。


 無論、そう言った者達ばかりでは無い。異世界に来て身体能力が向上したとしても、それに頼る事無い実力者達も少なからず居るもので、優姫もそちら側の人物だろうと、エイミーは当たりを付けていた。


 それは、エルフの里で彼女が見せた、その場に居合わせた者達全員を、怯ませたあの殺気を見れば一目瞭然だった。だからこそ、優姫が盗賊団の討伐に協力すると言い出した時は、部外者を危険な目に巻き込むという後ろめたさは在ったものの、その申し出を強く拒む事が出来なかった。


 自信に満ちたその態度も相まって、無意識のうちに優姫を頼っていたと言っても良いだろう。盗賊団のアジトを制圧した後、彼女が実戦未経験だった事を知り、巻き込んだ事を後悔する事になったのだが…


 閑話休題。優姫の危機察知能力の高さについて話を戻そう。


 盗賊団の首領との一戦の際、当初自信たっぷりだった優姫の行動に、一抹の不安を覚えたものの、初見である相手のオリジナルスキルを、回避しきったその身のこなしと判断力。更にそれを機に相手の脅威度を数段上げて、拘束から殺害へと瞬時に切り替えた事からも、その危機察知能力の高さが窺える。


 リンダとの模擬戦での出来事もそうだ。シフォンから概要しか聞かされていなかったが、優姫との模擬戦で気が高まったリンダが、あろう事か本気の殺意を彼女に向けた。それに対して優姫は、瞬間的に危険を察知して戦闘態勢を取っていたという。


 そして、イフリータとの試練でもそうだ。イフリータには害意が無いと、最初から気が付いていた優姫は、どうにか煙に巻こうとしている様子だった。


 結局、それが叶わないと悟ってからの、変わり身の素早さも見事だったし、戦況を冷静に分析しながらも、エイミーに目を向けられる視野の広さも持ち合わせている。そして、長期戦が望めないと悟るや否や、躊躇無く捨て身で相手に挑んだのも、長期戦になったら自分が詰むと察知したからだろう。


 極め付けが、ガイアース戦で優姫が背に受けた戦鎚の一撃だ。あの瞬間、正直エイミーは生きた心地がしなかった。


 端から見えた限りでは、優姫はガイアースの一撃を振り向きもせず察知して、前に飛んでその威力を削ごうとしていた。それだけでも、十分危機察知能力が高いと言えるが、その程度でガイアースの一撃を凌げる訳も無く、明らかに致命傷の様にエイミーの瞳には映っていた。


 しかし実際は、優姫はケロッとした様子で起き上がり、その身を護るように召喚された盾がいつの間にか在った。それを優姫は、無意識のうちに召喚していたと言っていたけれど、それはつまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事に他ならない。


 熟達した戦闘経験の持ち主で在るならばいざ知らず、まだ17歳の少女で、しかもこの世界に召喚されるまで、一切の実戦経験が無かった者が、ここまで驚異的な危機察知能力を有しているのは、正直言って異常だとエイミーは感じていた。それもこれも優姫生来の過集中と、彼女の流派の源流・武神流の常在戦場の心得の賜で在るのだが、それを知らないエイミーにとっては、その驚きは無理からぬ事だろう。


 ともあれ、エイミーの知らない事実があろうとも、実際に彼女と行動を共にしてきたからこそ、解る事実もあるのだ。例えば、一見してシルフィードの挑発に乗っかったように見えるのもそうだし、()()()()()()()()()()()()()()だったのもそうだ。


「何と言うか、まるで悪友と無邪気に悪ふざけして居ると言うか…フフッ、闘っている姿も凜々しいですが、優姫にもあんな一面があるんですね。」


 歩きながら、先程の2人のやり取りを思い出し可笑しそうに笑うエイミー。試練の内容が内容だけに、身の危険が無いのは当然なのだが、エイミーには2人がじゃれ合っているように見えていた。


 今まで行動を共にしてきた優姫は勿論、以前からシルフィードの事もよく見知っているエイミーから見ても、性格的に似ている部分が多くあると感じていた。きっとその所為もあるのだろうけれど、シルフィードが試練を口実に、優姫と遊びたがって居る様にしか見えなかった。


 恐らく優姫も、その事には薄々気が付いているだろう。必要以上に悪ノリしている様子だったのは、それを悟られないようにする為かも知れない。


 まぁ、敢えて挑発に乗っていたのは、元来の負けん気の強さからだろうけれど、と考えながら苦笑する。


 ともあれ、あの2人は放って置いても問題ないだろう。であるならば、彼女達がじゃれている間、自分は一体どうしていれば良いのかという事だけれども、そのまま待って居ても仕方無いし、それならば姫華達と合流しようと思い立った訳だ。


 銀星と夜天は、優姫が呼び出してしまったし、今頃姫華とアクアがフェアリー達の相手をしているはずだ。少人数が相手ならばそれでも問題ないのだけれど、もしも大勢に成っていたなら、たった2人ではきっと手を焼くはずだ。


 何せフェアリー達と来たら、遊ぶ事に関しては底なしの体力を発揮する種族なのだ。おまけに、楽しそうな雰囲気を察知する事にも長けているから、彼女達と遊んでいたら、知らないうちにその数が増えていたなんて事はよくあるのだ。


 姫華達と別れてから、時間的にそれ程経っていないのだけれども、そろそろ最初見た数の倍位には増えているだろう。そんな中で姉妹2人が抜けてしまったのだから、必然的に応援に馳せ参じるのがエイミーの役目だろう。


 フェアリー達と姫華に翻弄されて、慌てふためくアクアの姿を思い浮かべて、クスクスと笑いながらエイミーは歩く。ここまで手に取るように察せられるのは、自分もかつては辿った道だからに他ならない。


「あっ!エイミー!!

「えっ!?エ、エイミーさ~ん…た、助けて…

「あらあら…これは予想以上に集まってしまったわね。」


 やがて、姫華達と別れた場所が見えた頃、戻って来たエイミーに気が付いた2人が、それぞれ異なった表情で彼女を出迎えた。周囲に大勢居るフェアリー達同様、満面の笑顔を向けてくる姫華に対し、もう片方のアクアはというと、半べそをかきながら近づいてくる彼女に泣き言を述べてくる。


 フェアリー達の数は当初の倍以上に増えていて、その相手をたった2人でしていた様だ。予想と違うのは、集まった数が予想以上に多かった点だけれども、これはまぁ誤差の範囲内だろう。


「もぉ~一体どうなっているんですか?フェアリーさん達は、気が付いたらどんどん増えていっていくし、銀星ちゃんと夜天ちゃんは急に居なくなるしで…

「ウフフッ、大変だったみたいですね

「もう!笑い事じゃ無いですよエイミーさん!!」


 泣き言を言いながら縋り付いてくるアクアを前に、エイミーは可笑しそうに笑いながらそう言って労った。それに対し、不満げに抗議の声を上げるアクアだが、その背中を掴んで離さないフェアリー達が大勢居るのだから、彼女の反応も当然の事だろう。


「ねぇねぇエイミー!エイミーも遊ぼうよ!!

「ウフフ、そうね。みんな、私も仲間に入れてくれるかしら?」


 不意に、姫華にそう言われ、優しく微笑みながら周囲のフェアリー達に問い掛ける。


「遊ぶ?「何して遊ぶの~??「追いかけっこ~「かくれんぼ~!」


 すると、あちこちから反応が返ってきて、瞬く間に彼女の周りをフェアリー達が取り囲む。その余りの多さに怯む事無く、エイミーは穏やかな笑顔を彼女達に向けて受け入れた。


「では、私が鬼をやりますから、皆さん逃げて下さいね

「「「はぁ~い!!」」」


 流石、昔取った杵柄とはよく言ったもので、フェアリー達の扱いには慣れた様子だった。エイミーの宣言に、元気いっぱいな返事が返ってきたが、その中にちゃっかり姫華が混じって居たのはご愛敬だ。


 優姫曰く、精霊の保母さんの面目躍如と言った所だろう。当人からしたら、喜んで良いのか微妙な所だろうが。


 ともあれ、そんな感じで姫華達と合流したエイミーは、フェアリー達の相手をしながら、優姫の試練が終わるのを待って居た。途中、何度か高速で頭上を飛び交う2つの気配を感じ取りながら、もしかしたら、今日1日ここで足止めを食うのでは無いかと思い始め、それならそれで仕方無いと考え始めた頃…


 ビシッ…


「「ッ!!」」


 不意に、本当に何の前触れも無く唐突に、不穏な気配を感じ取ったエイミーとアクアが、表情を強張らせてお互いに見つめ合う。


「エイミーさん!

「えぇ、この気配…まさか!!」


 バキンッ!バキバキ…ビシッ!!


 そして、ガラスの割れるような音が辺りに響き始め、それに伴って不穏な気配が、加速度的に増していく。それを感じ取ったのだろうフェアリー達も、それまで浮かべて居た満面の笑みを消して、暗い表情となって、身を寄せ合うように固まって、エイミーとアクアの側へと近づいていく。


 本能的に、自分達を護ってくれる人物だと感じ取った、フェアリー達の防衛本能が働いた所為だろう。それが解っているからこそ、彼女達を庇う様に背にして2人は前に立った。


「怖い、怖いよ~「恐ろしい人達が来るよ「早く逃げよう!「どこに逃げるの!?「シルフィード様~!!」


 フェアリー達の間で不安が伝播していき、その不安を吐露するかの様に囀り出す。半ば恐慌気味の彼女達を見て、何が起ころうとしているのか確信を持った2人は、固唾を飲んで頷き合い、緊張した面持ちで周囲を警戒していく。


 そして…それは何も、2人だけに限った話では無い――


「…オヒメちゃん?」


 周囲を警戒しつつ、雰囲気が一変した姫華の様子に気が付いたエイミーが、訝しがりながら呼びかける。しかしそれに、呼びかけられた本人は答えず、幼い顔立ちには似つかわしくない険しい表情で、空の一点を殺気立って睨み付けていた。


「…来るよ、エイミー、アクア」ゴオオオオッ!!

「「ッ!!」」ガシャンッ!!


 まるで優姫と見間違う様なその台詞と同時、轟音と共に突風が巻き起こり、やがて谷全体を覆う風の壁が出来上がる。それとほぼ同時、一際大きな破砕音が響いたかと思うと、辺り一帯に不気味な気配が広がっていく。


「クッ!アクアさん!!フェアリー達を

「解りました!!

「オヒメちゃんも下がって!!」


 すぐさま指示を出して前に立ったエイミーは、自分達を目指して向かってくる気配を察知して、懐から深紅の装飾品を取り出し戦闘態勢を取る。片手で印を結び、自身の内にある魔力を活性化させ、彼女が思い描いた精霊王へとパスと繋げる。


「『契約に従いて、我が元に汝のその力、顕現させよ』『浄化の炎よ、我等が怨敵を焼き尽くせ』ッ!」


 祝詞を唱え、視界に現れた黒い影を睨み付け、手にした深紅の装飾品をそちらへと翳した。


「出でよ!!炎の化身・イフリータッ!!」


………

……


 同時刻・港町『クローウェルズ』


 風の谷からほど近い、ダリア大陸西端に位置するこの港町は、帝都から出てライン大陸に渡る手段としては、最も近い場所に位置している。


 その港町に今、女神教が定める守護者7人の内、2人も居るなどとは誰も想像出来ないだろう。もしも見つかってしまったら、騒ぎになるのは明白だからと、目深にフードを被っているのだが、それで逆に目立っているとはご愛敬だろう。


 何せ、方や150センチ在るかどうかも怪しい小柄な子供と、方や180センチ以上は優にあろうかという大柄な人物が、目深にフードを被り連れ立って歩いているのだから、目立たない訳が無いのだ。更に小柄な人物のその腰に、特徴的な異世界の武器である刀を差しているし、大柄な人物の方も、背に立派な槍を背負っているのだから尚目立つ。


 実際、察しの良い冒険者達は、その人物達の特徴的な出で立ちをひと目見て、『希望のスメラギ』と『正義のユズリハ』だと瞬時に理解していた。それは当人達も気が付いているが、騒ぎにならなければそれで問題ない。


 察しの悪い者は一生気付かないだろうし、そもそも一般人にバレなければ良いだけなのだ。目立つ外見なのは今に始まった話でも無し、開き直って堂々としていれば、存外気が付かれないものなのだ。


「やれやれ、折角ダリア大陸まで来たと言うに、そのままとんぼ返りとは災難じゃのぉ。のう?譲羽よ。」


 船着き場へと向かう道を歩きながら、小柄な人物・皇旺が、隣を歩く大柄な人物・天津譲羽へと話し掛けながら視線を向ける。話掛けられた方の譲羽は、首肯して返した後、両手を前に出して何やら印を組んでいく。


「ん?『召喚された鴻家の分家の娘とは、一体どんな子だったのか』じゃと?なんじゃ、おぬしも気になるのか。」


 手の印を目にして、譲羽の言いたい事を理解した旺がそう告げると、再び彼女は首肯する。それは、こちらの世界では余り馴染みの無い、意思疎通の方法である手話だった。


 譲羽は、生まれつき喉に障害があって、言葉を発する事は出来ない。幸い聴覚に問題は無い為、聞き取る分には支障は無いが、意思を伝える為には主に手話を使用していた。


 何故こちらの世界で、手話が馴染みが無いのかというと、この世界では言葉にする以外の意思疎通の方法として、テレパシーや思念伝達と言った魔術的方法が確立されているからだ。こちら側に来て長い年月が経つ彼女達も、当然のように出来るのだけれども、昔から馴染みのある方が何かと便利なのだ。


 何せ、こちらの世界で馴染みが無いと言う事は、逆を言うと解読出来る人物がまず居ないと言う事だ。出来るとすれば、同郷の出身者だろうが、日常的に手話を使っている者でも無い限り、読まれる事は無いだろう。


 そう言った考えから、彼女はテレパシーの類いは余り使わず、普段から手話を用いているのだ。そして旺も、誰にも聞かれたくない時には手話を用いている。


「そうさのぉ、あれは正に鴻の血統じゃな。負けん気の強さが目に見えておったわ。何?『儂が言うのか』じゃと?フン、おぬしの小言など聞きとう無いわ。うん?どうした譲羽。」


 そんな調子で、港へと続く下り坂を下りていく2人だったが、不意に何かに気が付いた譲羽が立ち止まり、それに察した旺も立ち止まった。彼女が視線を向ける先へと旺も顔を向けるが、いかんせん身長差の所為もあり、建物の影になって何も見えなかった。


「おわっ?!こ、これ譲羽!!儂を持ち上げるなと何時も言って…ッ!」


 旺が健気に背伸びして、なんとか彼女と同じ景色を見ようと躍起になっていた所、徐にその腰周りを掴んで持ち上げる。その様は正に、小さい子供を高い高いする恰好だったので、気恥ずかしさに慌てて批難と抗議を呈して止めさせようとする。


 しかし、一気に開けた視界の先に見えた光景に、その手を止め食い入った様子で見つめる旺。その先にあった光景とは――


「…あれは、風の谷の方角か?」


 そう呟くも、返ってくる言葉は無い。しかし、譲羽が首肯するのを気配で感じ取った。


 彼女達が向けた視線の先には、巨大な竜巻がとぐろを巻いて、天高く聳えている光景だった。


「予定変更じゃの。行くぞ譲羽よ、どうやら奴等が現れたようじゃ。急がんと、風の精霊王殿が全て片付けてしまいかねんぞ。」


 目深に被ったフードを払って幼い顔立ちを陽の下に晒しながら、その顔に似つかわしくない獰猛な笑みを浮かべて、彼女は意気揚々と愉しそうに語る。一見して、格好を付けているのだろうが、未だに高い高いされているので、全てが台無しだったのは言うまでも無い。

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