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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第三章 精霊編

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シルフィードに会いに行こう!(風の谷の~…マジサーセン(5)


「…終わったわよ

「わ~!ありがとう!!本当に助かったよ。」


 作業を終えたあたしは立ち上がり、振り返ってシルフィーにそう告げる。満面の笑みで労ってくれたけれど、内心じゃ散々邪魔してくれてよく言うわって思いだったので、呆れ顔でため息を吐き出した。


「錆びてても、武具として認識出来る物に関しては、ちゃんと眷属化出来るのね~けれど、コレは流石に無理だったわ。」


 そう言いながら肩越しに視線を向けて、さっきまで向き合っていた山の残骸を指差した、そこに遺されていたのは、武具と呼ぶには憚られる残骸の数々だった。


 完全に折れてしまっている弓矢類に、刀身の半ばからポッキリ折れている上、錆が酷くて金属の棒にしか見えないロングソードに、割けた革製の防具の数々…etc.正直、ゴミと大差ない品物の数々が、無残な姿を野に晒していた。


「あぁ、そこら辺は仕方無いよ。後でちゃんと片付けておくから気にしないで。本当にありがとうね、お疲れ様

「そう。なら後はお願いね。ンーッ!!」


 改めて彼女に向き直り、そう答えてから思い切り伸びをする。ずっと座りっぱなしで作業してたから、あちこち筋肉が硬くなっていたのを、ストレッチをしながらほぐしていった。


「…さて、コレでようやく本題に入れるわね。」


 ストレッチを終えて、口の端をつり上げ不敵な笑みを作って向けると、彼女はニコニコと満面の笑みを浮かべて、頭の後ろで両手を組むポーズを取った。


「アハハッ!せっかちさんだね~解ってるってば。じゃぁルールを説明するよ。」


 そう言いながらシルフィーは、そのポーズのままゆっくりと上空に浮かび上がっていく。


「エイミーちゃんから聞いてるだろうけれど、ボクの出す試練は『追いかけっこ』だ

「追いかけっこね…それで、あたしの相手をしてくれるのは、一体誰かしら?

「当然ボクさ!!決まってるでしょ?」


 自称異世界一のスピードクイーンに、事も無げにそう告げられて思わず苦笑を漏らした。まぁ、それも想定の範囲内だから良いけれどね。


「フィールドはこの谷全域だ!相手がボクだからね、エイミーちゃんに補助魔術を掛けて貰おうと、2人がかりだろうと、何でもありで構わないよ!!

「随分気前が良いのね。それって、()()()()()()()()()()()()()()良いって事かしら?

「アハハッ!察しが良いね~!!勿論構わないよ、子供達にもちゃんと伝えてあるからね~」


 言葉の端を捉えて、思った事を口に出して聞いてみると、彼女は無邪気にそう答えてくる。その様はまるで、その位のハンデが無いと勝負にすらならないと、暗に言っているように思えて内心ムッとし、無自覚に目つきが鋭くなってしまった。


 そんなあたしの内心は、彼女にはまるでお構いなしなんだろう。シルフィーは相変わらず無邪気な笑みのまま更に続ける。


「勝敗は…そうだね、ボクに一瞬でも触れたらキミの勝ちって事で良いよ~触れる箇所は、ボクの身体の一部なんて、ケチ臭い事は言わないからさ。服の裾に触れるだけでも良いし、道具の先で触れても良いよ。ただし、武器を操って飛ばしてって言うのは無しで!あくまでもキミの身体の延長である事が条件だよ?

「言われなくてもそんな箏し無いわよ。それから宣誓しておくけれど、ちゃんとあなたを抱きしめて捕まえてあげるから、そのつもりで居なさい。抱きついて、全身まさぐって頬ずりまでしちゃうんだからね!!

「ゆ、優姫…」


 静かに対抗心を燃やしつつ、見上げながらに拳を握って宣誓すると、呆れたようなエイミーの呟きが聞こえてきた。その反応を無視しつつ、あたしは両手を腰に当てて鼻息荒く仁王立ちする。


「へぇ!言うねぇ~それじゃ、ボクに抱きつけたらキミの勝ちって事でも良いかな?

「是非も無いわ!

「アハハッ!解ったよ。そしたら早速始めようか!!合図はボクが『スタート』って言ったらで良いかな?

「構わないわよ。」


 あたしの返答を聞いて満足そうに頷いた後、ようやくシルフィーはそれまで取っていたポーズを解き、自然体になって構えて静かにあたしを見据える。そしてあたしは、未だ余裕の笑みを浮かべている彼女に倣うようにして、同じく自然体で構えた。


「それじゃ、いくよ?スタート――」


 彼女が言い終わるか終わらないかのギリギリのタイミングで、瞬間的に精霊化して一気に跳び上がった。ちゃんと『ト』の発音が聞こえた瞬間に、行動に出たんだからしっかりとルールは守っているはずだ。


 まるで遊びのような試練のお題で、実際彼女にしてみたら遊びなんだろう。それは、出されたハンデもそうだけれども、宙に浮かんだシルフィーの位置取りも、正直あたしを侮っているとしか思えない距離感だったから、殊更そう感じさせられた。


 あからさまに一足飛びで掴まえられる位置に、わざわざ陣取ってあたしを挑発していたのだ。まるで、取るに足らないと言わんばかりのその行為に、流石のあたしもカチンときた。


 だから、瞬間で決着を着けてやろうと考えて、何時もの軽口を叩きつつ、全神経と意識を研ぎ澄まして奇襲を掛けた。ただでさえ、一足飛びで瞬間的に跳躍出来る距離なんだから、更に精霊化したあたしの身体能力なら、それこそコンマ数秒で辿り着ける距離だった。


 あたしの思惑通り、『ト』と発音したままの状態で固まっているシルフィーは、既に腕を回せば抱き寄せられる位置にまで到達していた。スローモーションのようなコマ送りの世界の中で、あたしは迷わず腕を回して彼女に抱きつき――


「――。残念、こっちだよ

「ッ?!」


 ――次の瞬間、彼女の姿は忽然と掻き消えて、その声が真後ろの耳元から聞こえた。聞こえてきた声に、あたしは思わず驚愕しながら後ろを振り返ると、そこに声の主の姿は無く、気配だけが真上に現れた。


「アハハッ!思った以上に早く動けるんだね~ちょっとビックリしちゃったよ

「ッ!」


 慌てて向けた視線の先にも、もはや彼女の姿は残像さえ残っておらず、遠くから『こっちだよ~!』と聞こえた声に振り向けば、その先にミニチュアサイズの姿がようやく確認出来た。振り向くだけのほんの一瞬で、そこまで遠くに移動出来る彼女のスピードに、ただただあたしは絶句するしか無かった。


 成る程、自称とは言え世界最速を名乗るだけの事はある。目にも留まらぬ速さなんて言葉があるけれど、そんな言葉が可愛く感じる程に、彼女のトップスピードはずば抜けて速い。


 敢えて言うなら、()()()()()()()()と言って差し支えないだろう。るろ○の瀬田宗○朗きゅん以来、とんと聞かなかった単語ですね!


 正直、ここまで早いとは流石に思っても見なかった。素直に脱帽だし、自分で勝敗の難易度上げちゃった事に、今更ながら後悔し始めていた。


 ハッキリ言って、例えエイミーに補助魔法を掛けて貰って、更に銀星のスピード強化を使っても、どうこう出来るレベルに思えないわね。ここは素直に、シルフィーの眷属達の力も借りて…


「どうしたどうした~?まさか、たった今の攻防だけで諦めちゃったのかな~?!プーッ!クスクスクスッ!!意外とだらしないんだね~」ブチッ!!

「ヒッ?!」


 作戦を練っていた所に、遠くから聞こえてきた楽しそうな笑い声を聞いた瞬間、あたしの中でスイッチが入る音が響いた。そして、それと同時に聞こえてきたのは、エイミーの上擦ったような悲鳴。


「フッ…ふふふっ…

「あ、あの…優姫?落ち着いて…

「大丈夫よ?エイミー…ちゃんと落ち着いてるから…

「ほらほら~ボクはココだよ~!おお~い!!おし~りペンペン!!

「あ、あの!シルフィード様もそんな煽らないで下さい!!どんどん優姫の表情が、今まで見た事無い位酷い表情に…」


 それどんな表情なん?って、冷静な部分のあたしが思いつつ、悠然とシルフィーの居る方角へと向き直った。


「エイミー

「は、はい!?

「補助魔法頂戴

「わ、解りました!!」


 端的に要件だけを告げると、慌てた様子で呪文を唱え始めるエイミー。その彼女を尻目に、素早さ関連が上昇する装飾品の眷属達を召喚していく。


 精霊としての位階が高まった所為か、最初は全く不明だった装飾品関連の眷属が持つ、特殊効果が解る様になっていた。やっぱり当初のエイミーの見立て通り、眷属に出来る装飾品には、何かしら特殊な効果が付与されている物に限るらしい。


 とは言っても、それも劇的に変化するって言うような物ではなく、あくまでも補助的に向上するだけなんだけれど、この際そんなのは関係ない。今まで精霊化すると、必ず袴姿になっていたんだけれども、それにもちゃんと理由があって、こっちで入手した衣服なんかよりも、単純に強度が強いからって理由だったらしく、意識すればその辺もちゃんと変更出来た。


 なので、動きやすさ重視って事で、衣装もあのエルフ民族衣装の超短パンに、パッツパツのベストに変更。そこに、エイミーから補助魔法を掛けて貰った所で、両手を前に突き出した。


「来なさい!夜天!!銀星!!」ブンッ

『え、えぇ?!な、何ですか?!マスター!!

『おぉ~!?』


 召喚に応じて、元の姿で出現した姉妹を握りしめ、伝わってくる困惑した銀星の言葉をさえ無視して、姿勢を低くして構える。


「わぁ~!わぁ~!!さっきまで一瞬で勝負を決めちゃる!!みたいな感じだったのに、なんか必死だ!必死だ!!プーックスクスクス!!」


 イラッ「フッ、フフッ、フッ…&5$%※※らーっ!!」


 自分でもよく解らない雄叫びを上げて、本能の赴くままに見えない足場を蹴って掛ける。さっきまでとは比べものにならないスピードで、ぐんぐん加速していく。


 だって言うのに、目に写っている彼女は相変わらずのにやけ顔で、人を小馬鹿にしている感じがありありと見て取れる。そんなの構わず一気に接近して、再び彼女に抱き付こうと飛び付き――


「こっちだよー!

「チィッ!!」


 再び忽然と姿が消えて、右手に現れた気配に飛び付く。けれど飛び付いた先に、肝心の彼女に姿は無く…


「こっちだよ!「ほらほら!!「こっちだってばさ~!!「どこ向いてんのさ!ボクはココだよ~」


 まるで、瞬間移動でもしているかの様に、振り向いた側から忽然と姿を消していくシルフィー。予測を立てて、先回りして飛び付いたとしても、彼女のスピードだったら見てから回避するで、十二分に間に合うんだから質が悪い。


 一方のあたしは、移動の瞬間さえ目に写らないんだから、予測自体立てるのだって困難だ。極めつけが、これでまだ彼女は全力じゃ無いのが、あからさまに伝わって来るんだから、勝算の『しょ』の字さえ見えやしない。


 それでも飽きもせずに、むしろもうやけっぱちになって、シルフィーの見えざる姿を追いかけ続ける。どれだけそうしていただろう…


『ど、どう言う状況なのかしら?マスターは全然返事を返してくれないし…

『ん~、追いかけっこに夢中みたいだね~

『全く!理解出来ませんね…こんなのが試練の内容なんですか?

『ま~ま~

『何が『ま~ま~』です!これじゃフェアリー達と遊んでいたのと、大差ないじゃありませんか!

『ん~…むしろそうなんじゃ無いかな?

『…何ですって?

『だってほら~シルフィーもそうだけど、マスターも何か愉しそうだよ?

「シルフィー様!でしょ!!

『もぉ~細かいなぁ~銀は…

『フンッ!けれど、そうね…でも、やっぱり理解出来ないわ。』


 なんて、姉妹達の会話を片隅に聞きながら、夢中になってシルフィーを追いかけていく。あたしをおちょくるのに飽きたらしい彼女は、今は気持ちよさそうに、谷全域を縦横無尽に飛び回っている最中で、それをかなり離された所で追いかけている所だった。


 実際の所、夜天の指摘は正しい。確かに最初は、シルフィーの態度にイラッとした所もあって、ムキになっていたけれども、そんなのは最初の内だけで、いつの間にか頬が緩んでいる事には自分でも気が付いていた。


 考えてみれば、昔から習い事ばかりの毎日で、こんな風に誰かと思いっ切りかけっこをしたなんて記憶が、あたしには無かった。だからという訳でも無いんでしょうけれど、頭を真っ白にしてただがむしゃらに走るのが、こんなにも爽快で気持ちの良い事だなんて知らなかった。


 そりゃ、今でも日課で起きたらランニングをしては居るけれど、それとは違った爽快感に、思わず胸が高鳴っているのが解る。何より、全力を出して出して出し尽くしても、それでも届かぬ高みが目の前にあるというのも、その爽快感に拍車を掛けている事は間違いない。


 どうあっても勝てないと、圧倒的な差を見せ付けられると、逆にいっそ清々しい。そして嫌が応にも思い知らされるのだ、自分が井の中の蛙であったのかという事実に。


 そして、だからこそ手を伸ばしたくなる。その高みへと、少しでも近付きたくて――


 たとえ、その先にあるのが灼熱の太陽であろうと、身を焦がしてでも手を伸ばさずには居られない。そんな圧倒的な差を前に、興奮で思わず武者震いが起きる。


 そして何より、その相手がシルフィーだったというのも大きい。彼女のあの天真爛漫で、裏表の無い明るい性格があったからこそ、焦がれる余りに妬んだりする事無く、純粋に楽しむ事が出来たんだと思う。


 素直に今が楽しいと感じる…こうして馬鹿みたいな事ではしゃいで、笑い合って競い合える事が、これからも出来るんだとしたら、こっちの世界に残る決心をした価値がきっとあると思う。


 シルフィーとの追いかけっこの最中、フェアリー達と戯れているオヒメ達の姿を目にした。あたしが夜天と銀星を呼んだ所為か、いつの間にかエイミーもその輪に加わっていて、楽しそうにはしゃいでいる姿が見えた。


 それを目にして、追いかけっこの最中だって言う事も忘れて、思わずほっこりした気分になっていた。それが伝わっているのか、手に握りしめた姉妹達も、さっきからずっと談笑している。


 降り注ぐ日差しも穏やかで、追いかけっこに疲れ果てたら、みんなで気持ちの良い場所を探して、お昼寝するのも良いかもしれない。なんて考えが頭を過り、既に試練の勝敗なんて、割とどうでも良くなっている自分に、思わず苦笑する。


 あぁ…今日はなんて気持ちの良い日なんだろう。こんな日がずっと、続けば良いのに――


 ビシッ…


 ――そんな甘っちょろい考えを抱いた時に限って、現実って奴は何時だって厳しく、知らしめるかのように忍び寄ってくるのよね…知ってる知ってる。


 バキンッ!バキバキ…ビシッ!!


 平和って言うのは幻想で、叶える為の労力は計り知れ無い癖に、維持するのは一時だって難しいなんて事、わざわざ現実様に突きつけられなくったって、ちゃんと理解してるってね。


「ッ!!何!?このプレッシャー…」


 聞き間違いじゃ無ければ、突然ガラスが割れるような音がしたと思った瞬間、異様な気配を感じ取ったあたしは、思わず立ち止まって辺りを警戒する。今まで感じた事の無いその気配は、ゾッとする程恐ろしく、そして――


『マスターッ!!気を付けて下さい!!

『来るよ、来る…奴等が来た!!』


 不穏な気配を感じ取ったと同時に、手にした姉妹達の雰囲気も一変する。感じた気配を威嚇するように殺気立つ銀星と、普段間延びして眠そうにしている夜天さえも、感じ取った気配に明確な敵意を示していた。


「奴らが来る…って、まさか!!」ゴオオオオッ!!「ッ!?シルフィーッ!?」


 夜天の言葉を察したあたしが、警戒を更に強めようとした瞬間、轟音と突風が突然吹き荒れ始め、谷の外縁に風の壁が生まれる。その風に乗って伝わってきたのは、さっきまであんなに無邪気に笑っていた筈の、風の精霊王シルフィードの想像を絶する殺意だった。


 それを感じ取って、彼女が向かった先を振り仰ぐと、殺気立った幼い少女が空の一点を見つめる姿があった。その一点へと、視線を滑らせるように向けると、天の一部がひび割れていて、その奥から悍ましい色の空が映し出されていた。


「あれが亜空間…ダリア大陸は安全だって言ってなかったっけ?!

『マスター!!それよりも!!

『早く!!エイミーや姫ちゃん達と合流しようよ、マスター!!

「急かさなくったって解ってる!行くわよ夜天!銀星!!

『はいっ!

『おぉーっ!!』


 一抹の不安を覚えながら、殺気立つ少女に背を向けて、仲間達と合流する為に見えない足場を蹴って走り出した。


 シルフィー…1人で無茶するんじゃ無いわよ!!


 彼女に伝われと、強く念じながらその場を後にした。

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