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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第三章 精霊編
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シルフィードに会いに行こう!(風の谷の~…マジサーセン(4)

 そんなやり取りを交えつつ、2枚の岩がへの字になって屋根の様になった場所にやって来た。その屋根の下に、高く積まれているのは間違いなく武器の類いだった。


「雑な扱いね。武器に頓着しないと言っても、これは酷いわ…」


 半眼になってその山を眺めつつ、呆れながらに呟いた。屋根があると言っても、前後は完全に吹き抜け状態で、野ざらしと余り変わらない。


 雨風を完全に凌げる状態じゃ無いのは間違いない上、吹き付ける風が潮風とくれば、武器の状態は間違いなく、最低を通り越して最悪だろう。無造作に置かれた武器の山が、妙に薄黒く見えるのは、日陰の下にある所為だけじゃないでしょうね。


「あ、あははは…ボク達はほら、魔力で武器も具現化出来るからさ。魔剣とかなら流石に扱い方も変えるけど、それ以外の物なんてただの鉄と大差ないからさ

「あなた達にしてみたら、おもちゃみたいな物なのは解るけど…にしたって、もう少し何かあるでしょう?これじゃお値打ち物も何も関係ないじゃ無い。」


 愛想笑いで誤魔化そうとするシルフィーに対し、1度ちゃんと向き直ってから苦言を吐いた。それでも笑って済まそうとする彼女に、肩を竦めながら苦笑した後、武器の山に向き直って近付いていく。


 近付く事で一層ハッキリと解ったけれど、積み上げられた武具の大部分が錆びてそうな雰囲気だった。漂ってきた匂いからして、相当錆び臭かったからね。


 まぁ、逆にちょうど良いかもしれないわね。ちょうど眷属化出来る範囲も知りたいと思っていたのよね~損傷してたり錆びてたりしている物を、眷属化させたらどうなるのかとかも知りたかったし。


 なんて、前向きに考えながら、錆び付いた武具の前に座り込んで、早速作業に取りかかっていく。


「そう言えばエイミーちゃんは、イリナスちゃんから加護受け取ってたよね?

「え?えぇ、それがどうかされましたか?」


 早速作業に取りかかったあたしを余所に、秒でエイミーに会話を振り始めるシルフィー何なん?と思いながらも、山から掴んだ物をちゃっちゃと眷属化していく。知り合って1時間と経っていないけれど、彼女が喋ってないと落ち着かないタイプの困ったちゃんだって言うのは、もう既に解っちゃってるんだし気にしたら負けよ。


「多分、気が付いてないと思うから教えておくよ。イリナスちゃんの加護を受け取った事で、ラズベルに目を付けられたと思うから、気を付けるんだよ?

「えぇ?!

「どういう事よ?」


 作業しながら聞き耳立てていたら、いきなり聞き捨てならない話が聞こえてきたので、肩越しに視線を向けて訝しがる。するとシルフィーは、呆れ顔で肩を竦めて嘆息をもらした。


「イリナスちゃんの加護の力によって、精霊の同時召喚が出来るようになってるって、エイミーちゃん気が付いてる?

「へ?え、いやまさか、そんな…

「あ~、その様子だとやっぱり気が付いてなかったか~」


 シルフィーの言葉に、困惑した表情で狼狽え始めたエイミーを見て、彼女は呆れ顔のまま苦笑する。


 精霊使いであるエイミーだけど、あたしという精霊を召喚し続けている事になっている彼女には、あたしとの間に繋がれているパスをどうにかしない限り、他の精霊を召喚する事が出来ない筈だ。だけど、もしもシルフィーの言葉が本当だとするなら、今の状態の彼女でも、もう一体精霊を召喚する事が出来る事になる。


「試しにさ、ボクの力を召喚するつもりでパスを繋げてご覧?

「え?!あ、はい!」


 シルフィーにそう促されて、未だ困惑しつつも生真面目な性格の彼女は、言われるがまま目を瞑り意識を集中し始めた様だった。そして暫くした後、驚いた表情になって目を見開き、シルフィーへと視線を向けた。


「ね?

「は、はい…確かに、シルフィード様との間にパスが繋げられました…

「本当に?!良かったじゃない!」


 未だ驚いた様子のエイミーの言葉を聞いて、あたしは思わず振り返って両手放しに喜んでみせた。正直言って、自分の存在の所為で彼女の経歴に影を落としているような気がしてて、申し訳ないなって思ってたのよね。


 元々、金等級の冒険者である彼女だけれど、そこに至る為には様々な実績や、他の冒険者達とは一線を画す実力が当然問われる。そして、精霊使いである彼女の実力とは、当然ながら召喚する精霊の強さであり、飛び抜けて多い契約精霊の数だ。


 彼女にとって、最大の武器であるその2つが、あたしがこの世界に召喚された事によって、封じられてしまっているのは事実だ。その事について責められた訳じゃ無いし、エイミーの事だからきっと気にしていないと言うんだろうけれど、後ろめたさを感じずにはいられなかった。


 強さとは、突然降って湧いてくる物じゃ無いと言う事を、武道家でアスリートでもあるあたしはよく知っている。日々の鍛錬と研鑽の結果として、自身の肉体に反映されるべき物だと思っている。


 エイミーの精霊術だってそれと同じだ。全国を巡って精霊王と契約を取り交わすだけでも、相当な労力や根気が必要だったでしょう。


 その上、精霊王と契約を終えた事で、冒険者として在野最上位として認められる訳が無い。そこに至るまでに様々な苦難だって在ったし、何度となく壁に阻まれもしただろう。


 その結果として、在野最上位として認められるまでに至ったのだ。これを努力と呼ばなければ、一体何と呼ぶんだろうか。


 だって言うのに、あたしの存在が今現在、彼女の足枷になっているのは事実だ。あたしの意思じゃ無いにしても、それが第3者の故意による物であり、意図せず片棒を担がされている以上、気にするなと言う方が無理な話よね。


 だから、あたしにとってその事実は、喜ばしいというのは勿論だけれど、それ以上に罪悪感が少し軽くなった様で、ホッと安堵したと言った方が正直正しい。けれど、それで今度はラズベルからも目を付けられたって言うんじゃ、何時までも無邪気に喜んでも居られない。


「で、それがそうしてラズベルに目を付けられる事に繋がるの?

()()()――だよ。考えてもみなよ?エイミーちゃんは現在、トールちゃん以外の精霊王と契約している…()()()()()()ね。その上、ヴァルキリー・オリジンと言う精霊王と個人契約迄結んでしまった。この時点で、元々例に類を見なかったのに、更に規格外になってしまった。その上、女神イリナス・オリジンから直接加護を受けて、精霊王の力を同時召喚出来るとなったら、()()()()()()()()()()()()()()()()認められてもおかしくは無いだろう?

「「ッ!?」」


 呆れ顔でそう言うシルフィーに対し、あたしとエイミーは思わず息を呑んで硬直する。彼女の言葉通り素直に受け取るのなら、今のエイミーだったらそれだけの待遇を受けてもおかしくない。


 イリナスやクロノス達同様、同等の存在である魔神デモニアと女神ラズベルにも、その加護を受けた守護者達が存在している。その数はそれぞれ7名づつで、その数にちなんで『7つの大罪』と『7つの美徳』なんて呼ばれ方をされている。


 その彼等の扱いも、一応は冒険者とされていて、等級は金以上の白金等級。彼等の為だけに用意された等級だとさえ言われていて、その恩恵は計り知れない。


 けれど…


「待ってよ。ラズベルに目を付けられたって言う事は、つまりその守護者に選ばれるって事?けど、女神教に属していないといけないんでしょ?なら、イリナス達を信仰しているエイミーは…」


 疑問をそのまま口にすると、シルフィーは顔を横に振って、あたしの言葉を否定する。


「そんなのは些細な問題なんだよね。ね?エイミーちゃん

「はい…実際、魔神教・女神教が定めた守護者達の中には、信仰など関係なく加護を授かっている、異世界人の方々もいらっしゃいますし。それに、白金階級の恩恵を受けたくて、精霊教を信仰したまま守護者となった前例もあるんですよ

「そうなんだ。それで、実際エイミーはどうなの?白金等級を目指していたりするのかしら?

「それは…まぁ、冒険者でしたら1度は誰もが憧れる地位ではありますが…」


 あたしの質問に対し、即答せずに言い淀む辺り、エイミー自身は目指している訳じゃ無いんでしょうね。


「イリナスちゃんの守護者としてならまだしも、ラズベルやデモニアの守護者なんて、進んでやるもんじゃ無いよ

「ん?何でよ

「だって、彼等の守護者って使いっ走りも良い所なんだもん。確かに白金等級はその恩恵も凄いよ?下手な小国の王よりも、権力があるって言われている位だし。帝都や聖都、魔都に地底大国なんかの5大大国の重要機密情報さえも、その権限で一部閲覧可能らしいし。

「5大大国って…あとの1国は軍国?

「えぇ、そうです。あそこは人間族しか入国出来ないですから

「守護者には獣人や魔人なんかが多いからね~生粋の人間族で守護者って、今代の中には異世界人を除いたら、居ないんじゃないかな?

「ふ~ん、成る程ね。それで、使いっ走りってどういう事よ?」


 あたしが改めてそう聞くと、シルフィーと何故かエイミーまでもが、苦笑を浮かべて顔を見合わせる。


「それはね、最高位の白金階級だって言っても、結局彼等も冒険者の一員だって言う事だよ

「恩恵は魅力的ですが、その為の代償もやはり大きいのですよ。国家の有事の際には、必ず召集が掛けられますし、邪神の軍勢が攻めてくれば、先頭に立つのは当然でしょうね。無論、私も冒険者の端くれですから、それが恐ろしいとは思いませんが…デモニア様・ラズベル様の守護者の方々は、何時もお忙しそうにしていて、年中あちこち飛び回ってるイメージしか私には無いんですよね…」


 何時もの困ったような笑みを浮かべて、申し訳なさそうに語るエイミーの姿を見て、そういう風に考えている冒険者って、意外と多いのかも知れないなんて思ってしまった。だって、あたしでさえその説明を受けて、思わず納得しちゃったからね~


 いくら恩恵が凄いとは言っても、その働きに見合った報酬を受け取る権利があるように、その恩恵に見合った働きを求められるのは当然って事ね。相互主義・成果主義世界、ここに極まれりって感じだけど…


「…まさかとは思うけど、守護者達が過労死しない為に、『不死』の加護を与えたなんてそんなオチじゃないでしょうね…」


 だとしたら、とんだブラック企業ね…


「アッハッハ!!案外そうかもね!それに比べて、イリナスちゃんやクロノスちゃんの守護者は良いよ~領地って訳でも無いんだけれど、ちょこ~っと問題ある土地に居着いて、その辺守護してれば良いだけだからさ~

「その問題ある土地ってのも曲者よね。大方が暴風吹き荒れる谷やら、マグマ噴き出す火山やら、荒れ狂う海域やらでしょ?

「後はね~半日も居たら生気を吸われちゃって、挙げ句アンデット化しちゃう湿地帯とか、大量に吸い込んじゃったら、内側からドロドロに溶けちゃう瘴気の吹き出る沼とか、濃密な魔力の所為で、長時間居たら発狂しちゃう森とかかな!

「可愛い笑顔でなんてワード連呼してるの!?やだこの子怖い!!

「あ、あはは…」


 爽やかな笑顔で、物騒なワードを連呼する見た目幼女のシルフィーに対し、完全に引いてしまったあたし達は、それぞれにリアクションを返した。守護してれば良いだけなんて、その守護する地をほったらかしにして、あたし達を尾行していた癖によく言うわよね。


 その後も、シルフィーのお喋りにちょくちょく作業を中断されながらも、処分して欲しいと頼まれた武具の眷属化を進めていった。軽く受け流せば良いんでしょうけれど、やたら人懐っこく話掛けてくるもんだから、ついつい話に乗っちゃったのよね~


 そんなこんなで、1時間以上掛かって作業を終えた結果はこちら↓


 完全に錆びたロングソード10本、そこまで酷くない物5本、錆びてない物が7本


 一般的な槍が3本、内2本は錆びが酷い。短槍が2本、ハルバードが1本


 後はナイフ類が錆びてるの含めて10本位に、木や革製の盾が5枚


 それから籠手やグリーブ類に、胴衣や胸当て肩当てと言った局所防具の類いもいくつかあった。


 錆びた武具なんて、眷属化出来るのかって正直疑問だったんだけれど、武器として認識出来る物だったら平気みたい。それと、今回の事で解ったんだけど、錆びた武具を眷属化すると、どうやら徐々にではあるみたいだけれど、錆びた部分が復元していくみたいなのよね。


 それも、武器によって復元するスピードに個体差があるみたいで、その辺の詳しい事についても要検証かな。まぁそれは置いといて、ここまでが何の変哲も無い、こっちの世界製の武器防具の類いね。


 そしてなんと!ちゃんとありましたよ、お値打ち品!潮風に晒されて、錆びっ錆びの武具の中に普通に紛れてて、正直ビックリしたわ~それも2本だからね。


 1つは、大体戦国時代に作られた日本刀で、所謂『太刀』と呼ばれる反りの大きい刀身が特徴的な1振りだった。しかも帝都で眷属化した刀とは、明らかに一線を画しているのが、ひと目で解る程の業物で、しかも『茜丸』という銘付きなのが嬉しい。


 いろいろと試している時に発覚したんだけれど、漠然と『ナイフ』とだけイメージして召喚しようとしたら、包丁が出現しちゃったりしてたのよね。これは単純に、あたしのイメージ不足が原因なんだけれども、必要な時に最適な物が召喚出来ないんじゃ正直困っちゃうのよね。


 例えば、他に意識が向いている時に刀を召喚しようとして、それが脇差しや小刀程の長さの物か、或いは打ち刀や太刀なのかって、瞬間的にイメージするのってなかなか難しいのよね。流石に小刀なんて長さが違いすぎるから、間違えようは無いにしても、形状が違えば扱い方も微妙に違ってくるし、一振り一振りで微妙に癖なんかも違ってくるしね。


 それをいちいち把握して、具体的にイメージするってなると、いくら集中力が飛び抜けて強いあたしだって、それが戦闘中だったりしたら流石に無理だ。それを簡単に解決する為に、同系統の武具をナンバリングして管理する事にしたのよね。


 ま、要するに命名よね。これによって具体的なイメージが無くても、召喚がスムーズに行くようになったのよね~


 実際ガイアースに喧嘩ふっかけた時だって、形や大きさもまちまちな盾を、スムーズに召喚出来たのはナンバリングのお陰だしね。だから、他の武具と区別する為にも、銘があるかないかって結構重要なのよ。


 それに実の所、ガイアースとの一戦以降、兼定を召喚する事が出来なくなっていた。あの時、ウィンディーネとトパーズ達の力を取り込んだ事で、精霊としての位階が高まった所為か、兼定の意識が覚醒に近づいてるのかは解らないけれどね。


 兎にも角にも、そう言った状況だったから、兼定に引けを取らない位の業物を、このタイミングで入手出来たのは正直嬉しい。夜天に銀星も確かに業物だけれども、あたしの戦闘スタイルって、根本的には居合が主体だからね~


 そしてお値打ち品もう1品は、あの三国志で有名な関羽も愛用していたでお馴染みの青龍偃月刀。残念ながら銘は無いんだけれど、これも茜丸に負けない位の業物だ。


 元は儀礼用だったみたいで、刀身にはやたら豪華な装飾が施されていて、柄の部分もかなり拘った造りになっていた。形状は日本の薙刀にそっくりなんだけれど、帝都で眷属化した薙刀よりも大分幅広で長い刀身に、その刀身の割に一般的な槍より柄が短かい。


 これは、主に馬上から片手での取り回しを考慮した為って言われているんだけれど、刀身が大きい分やたら重い。こっちの世界での重力のお陰で、多少は軽くなっているんだろうけれどそれでも重く、片手で扱うなんてあたしにはまず無理そうだった。


 中国刀って、基本的な考え方が日本刀とは違うのよね~薄く鋭い刃を利用して、引いて斬るのが日本刀の良さだとしたら、中国刀は包丁に至る迄、刀身の重さでぶつ切りにするって考え方だからね。


 折角のお値打ち品だけれども、この子の出番はあまり無いかな~自在に使い熟せそうなのって、知ってる人の中じゃリンダ位かしら?

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