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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第三章 精霊編

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間章・風の乙女の人生相談

 優姫達が去った後も、彼女達は様々な事を語り合っていた…


 主に喋っていたのは中位以下の子供達で、内容はどれもたわいないもので、取り留めのない事ばかり。彼女はそれに、ただ耳を傾けているだけだったのだが、今まで会話らしい会話なんて、彼女の前では出来さえしなかった。


 別に、彼女の前で喋っていたからといって、特に注意されるからだとか、怒られるからだとか、そんな事は一切無い。まるで、彼女の周りに見えない分厚い壁でもあって、そこだけ隔絶されているんじゃ無いかと思える程、まるで興味を示されないだけだ。


 それから考えれば、しっかりと子供達の話に耳を傾けているだけでも、十分進歩したと言って良いだろう。今はまだ、何を喋って良いのか解らず、会話に入っていけないだけで、これからきっと改善されていく事だろう。


 少なくとも、彼女――ガイアースは、変わろうと動き出したのだ。今はまだ、その自覚は無いのだろうが、向き合う努力をしようという姿勢は確かに窺えた。


 何千年と、自分の子供達との間にまで、距離を取っていた彼女だから、どうすれば良いのかが解らない様子で、本当に手探りからのスタートだけれども、その気持ちが通じるからこそ、中位以下の子供達が中心になってはしゃいでいるのだ。


 子供は大人の態度に敏感だと言う。それはやはり精霊でも同じで、むしろ下位以下の精霊は鋭敏だと言って良い。


 劣悪な家庭環境で育った子供が、そのストレスで情緒が不安定になりやすい様に、精霊達も育つ環境の雰囲気が悪いと、そのストレスで著しく成長が遅くなってしまう。


 トパーズ以外の高位の精霊達は、全員大昔の戦争で戦死してしまったのだが、それから数千年経つというのに、未だ彼女以外に高位精霊が育たないのは、それが1番大きな要因だった。今回の一件で、幾ばくかの時間は掛かるだろうが、それもきっと改善される事だろう。


「…どうされましたか?ガイアース様。」


 それまで、地面に横たわって子供達の会話を聞いていたガイアースは、不意にゆっくりと身を起こした。その身体には、未だ優姫が付けた傷跡が残り、そこから血の代わりに黄色い光の粒が漏れる。


「傷口に障ります。まだ横になられていた方が…

「いや、良い。この程度で死ねるのであれば、苦労も無いさ…そうであろう?シルフィード

「えっ?」


 ガイアースはそう呟くと、空中の1カ所に視線を向ける。それに倣って、彼女の子供達も会話を止めて、同じ方向に視線を向けた。


 すると、視線が集まって観念した様に、その場所につむじ風が巻き起こる。そしてその風が収まると、エメラルドグリーンの髪をした、羽の生えた1人の少女の姿があった。


「…久しぶり、ガイア…」


 姿を現した少女、風の精霊王シルフィードは、どこか緊張した様子だった。その理由は、一同の視線が自分に集まって、恥ずかしいからとかでは決して無く――


「…何の用だ?」


 シルフィードに対して、相変わらず感情が感じられない、能面の様な表情で問い掛けるガイアース。その問い掛けに対して、あからさまに彼女は肩をビクリと震わせた。


「あ…の、何時からボクの事、気が付いてたのかな?

「つい今し方だ…が、貴様の事だ。大方、大分前からヴァルキリーとのやり取りを見ていたのであろう?

「うん…

「相変わらず貴様は、人の領域にズカズカと足を踏み入れてくるのだな

「その…ごめん。気に障ったかい?

「別に構わん。」


 恐る恐ると言った雰囲気で、言葉を紡ぐシルフィードに対し、ガイアースは淡々とした調子で、受け答えをしていく。そのやり取りから、彼女達の間には明確な壁があり、過去に何かあったのは明白だった。


 そして唐突に――


「…すまなかった

「…え?」


 本当に唐突に何の脈絡も無く、ガイアースは唐突に頭を下げて謝罪の意を示した。余りにも唐突過ぎて、理解が追いつかなかったんだろうシルフィードが、間の抜けた表情を浮かべて、ずっと頭を下げている彼女を見つめる。


「な、なんでキミが謝るのさ!だってボクは…

「裏切り者…そんな風に罵ってすまなかった。この数千年、貴様が姿を見せないだけで、我の様子を伺っていた事には気が付いていた

「ッ!ガイア…

「あの神代戦争で、お互いに多くの犠牲を払ったと言うのにな。今なら解る気がするよ…あの時貴様は、我を諭そうとしていたのだという事がな…」


そう言って、ようやく顔を上げたガイアースは、今にも泣き出しそうなシルフィードの表情を見て、ぎこちなく微笑んだ。


「今更、都合が良いとは思っているよ。それでも尋ねたいのだ…友よ、我を赦してくれるか?

「ッ!当たり前じゃ無いか!!」


 その問い掛けに、シルフィードは空を駆けてガイアースへと飛び付いた。そして、強く強く抱きしめ、他人の目も憚らずに大粒の涙を流し出す。


「謝らないといけないのはボクの方だよ!キミと共に、母上の仇を取ると約束した日の事は、今も鮮明に覚えているさ。奴等への憎しみは今でも心の中で、消える事無く燃え続けているさ!!けれど…終戦後、フェアリー達がボクの顔を見て怯えていたんだよ…」


 そう言って涙を拭った彼女は、顔を上げてガイアースの瞳を真っ直ぐ見つめる。


「母上が居た頃は、笑顔を絶やした事なんか無かったフェアリー達が、まるで恐ろしい者でも見るみたいな表情で、ボクの事を見ていたんだ。それを見てボクは、母上から受け継いだフェアリークィーンとしての使命を、思い出した…

「あぁ、あの時貴様はそう言っていたな。なまじ、ドワーフ達は戦いに長けているから、あの時の我には理解も出来なかった。すまなかったな…

「違う!違うんだよ!!」


 そう言ってガイアースは、目を伏せ再び謝罪に頭を下げる。それを目の当たりにしたシルフィードは、声を張り上げてその行為を止めさせてる。


「キミに拒絶されたあの日、ボクはキミの前から姿を消すべきじゃ無かったんだよ!!キミを諭す役割は、優姫ちゃんじゃ無くてボクであるべきだったんだ!!キミと約束を交わしたボクが、キミを止めるべきだったんだ…

「…それこそ、貴様に非は無いだろう。精霊同士も当然であるが、精霊王同士が争うなど言語道断よ。あの娘は、精霊王である以前に異世界人であるからな。その取り決めの枠外と言う所か…」


 そう宥められても、しかしシルフィードは納得いかないと言った表情で、顔を横に振ってみせる。


「優姫ちゃんの言葉を借りるなら、()()()()――だよ。自分の知らない所で決められた取り決めなんかに囚われず、キミを止めるべきだったんだ。キミの友人として…

「シルフィー…

「取り決めを理由にして、ボクはあの時逃げたんだよ…キミに拒絶されたのがショックで、それ以上何か言われて、キミに嫌われるのが怖かったんだ…ごめん。こんな弱虫なボクで、本当にごめん…」


 そう胸の内を曝け出し、今度は反対にシルフィードが、頭を下げて謝罪する。その彼女の行為に、未だぎこちない微笑みを再び浮かべる。


「そうか…貴様も我と一緒だったのだな

「え?

「我も、貴様に拒絶されたと思っていたのだ。だから、貴様が近くに居るのが解っていても、知らぬふりを通していた…

「ガイア…

「そうか…我等は互いに、拒絶されたと勝手に思い込んでいたという訳か…成る程確かに、これでは守護者の資格以前の問題であるな…」


 そう語りガイアースは、少し明るくなった様な気がする自身の世界を仰いだ。それを真似する様に、シルフィードも薄暗い空を無言で見上げる。


「…今からでもやり直せるであろうか?

「え?」


 どれだけそうしていただろう。ぽつりと先に呟いたのはガイアースだった。その呟きを耳にして、シルフィードは彼女に視線を戻す。


「…互いに謝りあったのだ。また、我等はやり直せるのか?」


 恐る恐るといった感じで、まるで捨てられそうになって、不安がっている小動物の様な問い掛けに、優しい笑みを浮かべて首肯する。


「うん…これからを変える事は出来るんだ。ボク達がそう願い続ける限りは、きっと大丈夫さ。」


 屈託なくそう笑って、シルフィードはガイアースの身体を、再び強く抱きしめたのだった。


………

……


メルクフィート山、ガイアースの洞窟入り口付近


 陽も沈もうとし始めた黄昏時、辺りに悲痛な叫びが木霊していた。


「お願いします!お願いします!!わ、私も連れてって下さい!!

「ちょ、いい加減離してよ!!

「いいえ!いいえ!!絶っっっっ対に離しません!!優姫さんが首を縦に振ってくれるその時までは!!

「ちょ!面倒くさいわねこの子…」


 ジープの運転席に乗り込もうとしている優姫の腰の辺りに、自分の来ている服が、地面にこすれて汚れる事さえ厭わず、必死にしがみついてわめき散らしているのは、水の上位精霊アクアマリンだった。彼女が何故、こうまで必死になっているのかというと…


「ウィンディーネの試練はもう済んだんでしょ?!ならとっととママの所に帰りなさいよ!!

「だ、駄目です~!!私まだママに1度しか食事を届けてないんですから~!!こんな早く終わらせる予定じゃ無かったんですから、渡した力返して下さいよ~!!

「返せる訳無いでしょう!!無茶苦茶言わないでよもう!えぇ~い!離せ!離せえええっ!!

「い~や~で~す~ッ!!」


 と、そう言った事情で、かれこれ10分以上言い争っていたのであった。


「姫華も混ざるーっ!!」ガシッ!

「な?!ちょっ!!こらオヒメ!!

「ママ~アクアちゃん連れてったげようよ~?

「な、ナイスです姫華ちゃん!!そのままママを丸め込んじゃって下さい!!

「ママ~

「クッ!オヒメを取り込むだなんて、この卑怯者め!!

「フッフッフ…何とでも言って下さい!!さぁ観念して私を連れてって下さい!!そしてご飯を奢って下さい!!

「恥ずかしげも無く何ぶっこいてんの!?やだこの子怖い!!

「お願いしますよ~身体で!身体で払いますから!!」


 尚も繰り広げられる、そんな彼女達3人のやり取りを、少し離れた場所から冷ややかな視線で見守る人物達達が居た。


「…あの茶番、いつまで続くのですか?

「あ、アハハ…銀星ちゃんは、言う事がキツいわね

「ふわぁ~…うるさくて寝られないよ~…」


 エイミーの肩に仁王立ちする銀髪の下位精霊・銀星は、不機嫌そうに優姫達を睨み付けて、呆れた様に呟く。一方の黒髪の下位精霊・夜天は、エイミーの手の平の上で眠たげな目を擦りながら、心底どうでも良いと言った風に呟いた。


 そんな2体の下位精霊に囲まれて、エイミーは何時もの様に困った表情を浮かべながら、優しく微笑んで優姫達を見守っていた。


「まぁ、どのみちこの時間じゃ、野宿するのはもう確実ですから、そう言わずにもう少し付き合ってあげましょう。多分、最終的には優姫が折れると思いますけど

「解りませんね。そう思うのでしたら、貴女もマスターに申し出れば良いじゃ無いですか。そうすれば、もっと早くに口論も収まったでしょうに

「フフ、そうね。けれど、ほら…賑やかで楽しいでしょう?

「理解しかねます。」


 エイミーのその言葉に、不機嫌そうに鼻を鳴らして、バッサリ切り捨てる様に答える銀星。そんな彼女に、心底楽しそうなエイミーは続ける。


「今は解らなくっても、その内解りますよ。だってあなた達も、優姫の子供なんですから。」


 そう囁く様に語ったエイミーに対し、変わらず不機嫌そうに鼻を鳴らして返した。


「お゛願゛い゛し゛ま゛す゛~!!

「ア゛ーッ!!もう!!ウィンデーネ!!次会ったらぶっ飛ばしてやる!!」


 一際大きく優姫が叫んだと同時に、夕陽は地平の彼方へと沈みきって夜の帳が下り、空には星が煌めきだした。結局、エイミーの想像通り、最終的には優姫の方が折れたのは、語るまでも無い事だろう。

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