よそ者が首を突っ込むなって?じゃ腕か脚なら良いのかい?なんなら刀を突っ込むよ!⑵
「ねぇ、それよりちょっと聞きたい事があるんだけど、よっと!
「なん…ッ⁉︎な、何ですか⁉︎」
懸垂をやめたあたしは、それまで掴んでいた枝に脚をかけて、ちょうど逆さずりの状態になる。すると逆さになった視界に、顔を真っ赤にして慌てて俯くジョンの姿が目に映った。なんぞ?
はて?と思い、改めて自分の姿を確認して、あぁと納得してほくそ笑んだ。全然気にしてなかったけど、かなり際どい格好をしてるあたしを見て、どうやら目のやり場に困らせてしまったようだ。
今あたしが着ているのは、昨日借りたエルフの民族衣装なんだけど、かなりぴっちりしてて身体のラインがはっきりわかっちゃうのよね。で、ここだけの話…実は下着つけてないのよね、今(照)
いやぁ、流石にさ〜昨日日課済ませてそのままこっち来ちゃったからさ、我慢しようかと思ったんだけど、やっぱり無理だわと思って道着と一緒に洗濯お願いしちゃったのよね。あ、でも一応下はタイツみたいなの借りて履いてるから大丈夫!けど上はまぁね、仕方ないかなと。
けどこれ、女性用の一般的なの借りたんだけど、なんか結構際どく攻めた感じの服なのよね〜上下に分かれてるんだけど、上下ともに緑がかった麻っぽい感じの生地で、上は襟の着いたベストっぽい作りなんだけど、胸の辺りまでしか無いから、腰やらおへそやらが丸見えなのよね。
下に至っては、今も借りて履いてる黒タイツに、膝上10㎝位でスリット入ったスカートか、生足見せての太もも全開な短パンかの2択が、女性エルフの一般的な格好らしい。何に対して攻めてるのかしらね、長命な分、繁殖意欲だって少ないんだろうし…まぁ逆にだからって気もするけどね。
さすがにノーパンに短パンはやだし、かと言ってノーパンタイツスカートなんて『痴女じゃん!』って訳で、タイツ借りて短パン履く事に落ち着いた。ちなみにエイミーはスカート派なんだけどさ、おっとりお姉さんがスリットスカートとか、男性陣は嬉しかろう?
まぁそれはさて置き、そんな格好で逆さずりになればどうなるだろうか。そう、ノーブラでなんの支えもない胸は、重力に従って下に垂れるので、当然だけど服がずれて下乳が見えているのさ!これが俗に言う逆セクハラってヤツですね、わかります‼︎
そんな乙女のあられもない格好を目にして、ジョンきゅん(62歳)は耳まで真っ赤にしてしまいましとさ。やっぱあれなのかしらね、精神年齢って見かけに引っ張られたりするのかしらね、可愛いわぁ〜
「この世界ってッ!時間って概念が、ちゃんとッ!あるのよねッ⁉︎」
彼の様子を一通り堪能し終えて、逆さずりのままそう話を切り出したあたしは、振り子のように大きく反動をつけて揺れ動き、腹筋と背筋を交互に鍛えはじめる。
「は、はい。もちろん
「じゃッ!今って何時ッ!位なの?
「ええっと…後の刻限の15時少し前ですね、あと半限もすれば陽が出てきますよ
「それ時計?
「はい、そうです
「ちょっと見せてもらっていい?
「えぇ、どう…ヒャッ⁉︎ど、どうぞ!」
そう言って何処からか出した懐中時計を、あたしに差し出してくる。その際、俯いていた顔をうっかりあげてしまい、黄色い悲鳴が上がるけど…見せつけてんのあたしだけどさ、普通逆じゃない?ってかヒャッなんて言われたら、さすがにあたしも傷付くわよ…
まぁ、話もいい加減進まないから、とりあえずそれは一旦横に置いといて。目をぎゅっと瞑って、耳まで真っ赤になっているジョンから、差し出された懐中時計を受け取って観察する。
…うん、読めにゃい。
まぁね、わかってたけどね。この世界に召喚された異世界人は、例外なく言語理解の魔術が付与されると、昨日説明を受けたけれど、それって結局言葉だけで文字には適用されないのよね、当然。
あたし基本天邪鬼だから、仮に耳に障害ある人や喋れない人が来たらどうすんの?とか思っちゃうのよね〜
それはさておき、改めて手渡された時計を観察してみる。形はまんま懐中時計で、大きな時計盤の中に小さな時計盤が1つある。普通に考えれば、大きな時計盤に短い時針と長い分針、小さな時計盤に細い秒針がきそうなものだけど、この時計はその逆で、大きな時計盤に長い針が1本と、小さい方にやや太めの針と、秒針のように忙しなく動く細い針の2本がある。
そして、大きな時計盤の長い針は、現在はもうちょっとで真上を指す位置にあり、小さな時計盤の太めの針は、斜め左下を向いていた。この状態がさっきジョンが言っていた、後の刻限の15時近くを表しているんだとすれば、少なくともこの世界は12進法ではないだろう。
まぁ普通に考えて、この大きな時計盤が時間軸で、こっちの小さな方が分針と秒針なんだろうけどね、文字が読めないから、字なのか模様かすらわかんないんだけど、大きな時計盤の方に印の様な物が15箇所あるのよね。小さな時計盤の方は、馴染みのある感じなんだけど…
「…これ、大きな方は15までなの?
「え、えぇそうですよ
「小さな盤の方は…60?
「はい、そうです
「単位は秒分時で良いのかしら?
「えぇ
「じゃあ60秒で1分、60分で1時間。で、この時計は15時間分って訳?じゃあ1日は何時間なの?
「30時間です。」
時計をしばらく弄りながら、返ってきた答えにふむと考え込む。逆さずりの状態で。
「なるほど…ね。ありがとう
「あ、い、いえ!」
そう言って懐中時計をジョンに返して、再び腹筋と背筋を鍛えはじめながら、色々と考えを巡らせる。何というか、ようやく合点が言ったって感じだ。
とりあえず、これで12時間経っても未だ夜だった事は説明がついた。そりゃ1日30時間もあれば、必然的に昼と夜の時間も長くなるわよね。
長い間、地球の環境に慣れ親しんできたから、1日は24時間なんだと何の疑問も抱かずに考えていた。それがそもそもの間違いで、ここは異世界なんだから、地球で培ってきた概念なんて、あてにならないのが当然なのだ。
けど、30時間か…という事は、自転が地球よりも遅いって事よね。じゃぁこの感じてる違和感は別って事かしらね。やっぱ検証した方がいいわねこれは…
「よっっとっ!
「ヒャッ?!」スタッ
思うが早いか、トレーニングを切り上げたあたしは、枝から足を離して逆さまに自由落下して、手から着地して地面に降り立った。何の前触れもなく急に降ってきたもんだから、ジョンがまた黄色い悲鳴を上げて驚いた。
…実はこの子、女の子って事無いわよね?
「も、もう満足ですか?
「ん~?ま、ここまででウォーミングアップって感じかしら
「え…じゃ、じゃぁまだ続けるんですか?
「まぁね。ここからが本来の目的だし。」
ジョンの言葉に答えながら、足首や手首をほぐしていく。これからやろうとしている事を考えれば、入念にほぐしておく必要があるからだ。
あたしはさっき、木の枝に軽くジャンプして飛びついたんだけど、その枝の高さって、実は目測で3メートルちょっとの高さにある枝なのよね。あたしの身長が170㎝で、腕が平均よりもちょっと長くて70cm位あるんだけど、これで手を挙げた状態で肩の位置から考えてだいたい210cm。この時点であたしは1m位垂直飛びが出来ないと枝には届かない事になる。
んで、今年の春に測った身体測定の垂直飛びの結果は60㎝。はい、じぇんじぇん足りましぇん。
高2JKの全国平均がだいたい45~6位だったかな?それと比べると十分高いんだけどね!まぁバレー部のエースの子には負けたけどね、ケッ!
昨日も思ったんだけど、この世界は体にかかる負荷が低い。それはこの事からもわかる通り、気の所為の範疇を超えて、確信して断言できるレベルだ。
それが異世界ラノベでよくあるチート能力!!でない事も、あたしには断言できる。何故かと言えば、あたしが一端の格闘家であり、アスリートだからだ。
実家が道場だからというのもあるけど、あたしは物心ついた頃から、実家での剣道以外にも、色々なスポーツを学んでいた。別にそれは強制でやらされていたとかではなく、むしろ自分から嬉々として熱中して色々やっていた変な子だった(ママ談)
スポーツは自分との対話だ~とか、筋トレは筋肉との会話!とか言うけれど、まさに的を得た捉え方なのよね。結局トレーニングや練習って、自分の身体を鍛えて、何を出来るか何処まで出来るか、その限界値を引き上げるために行う事こそ、目的なんじゃないかってあたしは考えている。
例えば、単純に筋肉をつける為なら、超回復を狙って限界まで筋肉を酷使するってのは有名な話だけど、これだと『硬くて重い筋肉』になってしまうのよね。対してアスリートの筋肉は、質量よりも『しなやかで柔軟な筋肉』が求められて、負荷をかけるトレーニングよりも、反復運動とストレッチの方が重要になってくる。
まぁ、要するに一概に筋トレと言っても、目的や用途によって全然違うという事なんだけど、こういう風に考えながらトレーニングしていると、ある程度自分の身体の身体能力が判ってくる。それが培ってきた技術や経験と合わさる事で、何が出来るか何処まで出来るか、正確に判断できるようになるのだ。
例えば、さっきからずっと『体内時計でうんたらかんたら~』とか『目測でどうたらこうたら~』とか言ってたけど、これだってあたしが今まで培ってきた経験だからなせる業だ。
幼いころから日課として、必ず毎朝瞑想と模造刀や竹刀での素振りを、義務付けられてたんだけど、瞑想は毎日必ず30分と決まってたし、模造刀の刃渡りや竹刀の長さなんて体に染みついていた。
それがどうしたかって?よくプロのボクサーなんかは、時計を見なくても3分きっちり計れるって言うけど、あたしも起きている間は、時計見なくても割と正確に30分測れるのよ。
それに一流の剣客は、自分の武器の長さで、相手との距離や得物の長さを測ったり、空間把握の参考にしていた…って、じいちゃんに散々言われて耳タコなんだけど、つまりそういった技術も教えられていたって訳。
それがまさかこんな形で役に立つとは思わなかったんだけどね~