よそ者が首を突っ込むなって?じゃ腕か脚なら良いのかい?なんなら刀を突っ込むよ!(3)
「さてと。」
そう呟いて、あたしはストレッチをやめて、腰に手をあて空を仰ぎ見た。さっきまで真っ暗だった夜空は、少し柔らいだ感じになりはじめていて、さっきジョンが言っていたように、夜明けが近い事を教えてくれていた。
話を戻して、異世界ラノベ定番のチート能力でないのなら、じゃああたしが感じている違和感や、届くはずのない所に届いたり、ゴリラみたいな怪力で、甲冑をひしゃげる程の威力で、軽々とおっさんを吹っ飛ばした力の正体は、一体全体なんぞや?察しの良い人なら、きっと気が付いたんじゃないかな?
確実とまでは言えないけど、確信を持って断言出来る。この世界は、間違いなく地球より重力が弱いのよ。
正確にどの位とかは流石にわかんないけど、地球の1Gに対して6〜70%位じゃないかな?重力の計算は、引力と自転で生じた遠心力の合力だから、最初は自転のスピードが早いんじゃないかって思ったんだけど、1日が30時間なら、地球より遅いからその可能性はないかな。
引力は惑星の質量と距離で決まるから、多分この惑星が地球より単純に軽いか、地球よりもでっかいけど中身がスカスカか、どっちかでしょうね〜まぁ、詳しくはわからないし、今はその辺りは、あたしにとってどうでもいいけどね。
理由は何であれ、大事なのはこの世界の重力が、元の世界よりも軽い為、この世界での自分の身体能力が、未知数だと言う事なのよね。これって考えただけでも恐ろしい事よね。
安易に『これが噂のチート能力か!ヒャッハー‼︎』って喜んで、何も考えずヒャッハー出来たら楽なんでしょうけど、どうもあたしには無理なのよね。ラノベで読む分には、そういう能力があったらいいな、とか思って読む事も出来るけど、同時に『よくわからない力を、物語の主人公達は、よく平然と使えるものだ。』とも思っちゃうのよね。
そう思うのも、やっぱりあたしが一端の格闘家でありアスリートだからなんでしょうね。積み上げてきた経験が、確固たる技術として反映されて、それが研鑽を積むと言う事なんだと教えられて、それに何の疑念も抱いた事はない。
要するにあたしは、自分に起きた変化にちゃんと理由付けして、納得出来ないと気が済まないって事なのよね。その上できっちり何が出来るか、何処まで出来るか把握しておきたい。
敵を知り、己を知れば百戦危うからずってね。今後何があるかわからないんだし、まずは自分の性能を、しっかり把握しとかないとね。
「…どうするんですか?」
夜空を見上げていたあたしを、不思議な面持ちでジョンが声をかけてくる。それに対してあたしは、ニコッと笑って返すと、おもむろにスクワットをする様に足を折りたたんで、反動をつけて一気に飛び上がった。
さっきの木に飛びつく様な、軽いジャンプじゃなく、今度は本気で垂直飛びで、どこまで飛び上がれるのかを計測する。
「わっ⁉︎」
視界が一気に上下に伸びると同時に、ジョンの驚いた声が下から聞こえてくる。やっぱり急激な身体能力の向上で、動体視力が追いついてきてないのが、今のではっきり感じられた。
視界が安定した事で、最高到達点に達したと判ったと同時に、視線を動かして周囲を確認する。動かした視線の端に、さっきまで自分が掴まっていた木の枝が、あたしの膝下にあるのが確認出来た。
だいたい3mって所かしらね。身体が軽いし、滞空時間も長い…ふむ。
スタッ「わ、わわっ!す、凄いです!」
地面に着地すると同時に、ジョンの興奮気味な声で出迎えられた。なんか今、近所の子犬とこの子が、だぶって見えたわ。か〜わい〜いなぁ〜
「そんな凄いの?
「もちろんですよ!身軽で知られるエルフの戦士の中でも、なんの補助も無しにあんな高くジャンプ出来る人なんて見た事も無いです‼︎
「ん?補助あればいけるって事?
「あ、はい!初歩の戦士系スキルで『エンチャントアビリティ』と言う、マナを使った技があるんですが、それを使うと使用者の身体能力が高くなるんですよ。どの位高くなるかはその人次第なんですが、凄い人だと3倍にもなるそうなんですよ!
「へ〜それなんて界○拳?
「え?」
おっと、口に出てたわ。サーセン。
しかしスキルか〜魔法があるんだし、もしかしてとは思ってたけど、本当にあるのね。しかも初歩的なスキルだって言う割に、3倍とか凄い倍率よね。
ま、初心忘れるべからずって事なんでしょうね。剣道でも、機を狙った小手先の技で攻めてくる選手より、愚直に初歩を反復して鍛えた選手の方が、段違いに手強いし守りも固いからな〜
「魔法と一緒でマナを使うのね。ならあたしも使えるのかしら?
「練習すれば使えると思いますよ。基本的に体内のマナを感じて、それを循環出来れば、あとはその応用だと言われてますから
「ふ〜ん、あっちで言う気功に似た感覚なのね。向こうじゃ気もマナも感じた事ないけど、昨日感じたアレを思い出せばいけるかもね
「異世界人の方でも戦士系の冒険者になられて、一線で活躍している方は居ますから。優姫さんだったら、すぐに習得出来ると思います!」
若干興奮気味に説明してくるジョンの言葉に、はて?と首を傾げて思案する。この世界に、冒険者という制度があるのは、昨日エイミーと話してて察していたけど、それとスキルに何か関係があるのだろうか?
「…もしかして、そのスキルを覚え無いと、冒険者にはなれないのかしら?」
少し考えを巡らせて、思い至った結論を口に出して聞いてみる。するとジョンは、慌てて両手をパタパタ降って見せた。
…どうでも良いんだけど、この子もエイミーも、いちいち仕草が可愛いんだけど。狙ってやってるのかしらね?
「いえ、冒険者自体は誰でもなれるそうです。ただ、害獣や邪神兵討伐なんかを請け負える様になるには、最低でもエンチャントアビリティと、もう1種のスキルを会得している必要があるんです
「邪神兵ね…まぁそれは良いとして、他にはどんなスキルがあるの?
「基本とされているのは、身体能力向上のエンチャントアビリティ、武器を強化させるエンチャントウェポン、単純な筋力強化のパワードや防御力を強化するガーディアンなんかがあります。って…聞いてます?
「勿論。ちゃんと聞いてるから続けてくれる?冒険者についてとかも、興味があるし聞きたいわ。」
そう聞いてくるジョンに、あたしは腕を回しながら、キョロキョロと地面に視線を向けて軽く答える。いや、ただ聞いてるだけってのも手持ち無沙汰だから、自分の身体能力の把握を続けようと思ってさ。
「…はぁ。エンチャントアビリティと、もう1種のスキルを習得すると、冒険者の階級が鋼に昇格して、晴れて討伐系の依頼を受ける事が出来ます。討伐系の階級は、鋼・青銅・銅・銀・金・白金となっていて、依頼の達成率や信用度なんかで、階級が上がるそうです。ただ銅以上の昇格には、少なくとも1種以上のオリジナル技を習得しないと駄目らしいです。ちなみにそれ以外の商人や旅人、吟遊詩人なんかの職業の方は、翡翠の階級だそうです。」
ジョンの説明を聞きながら、あたしは手頃な石を手にして重さを確認する。それは拳大位の大きさの、なんの変哲も無い石だ。
見た目より軽いけど、まぁこれで良いか。
手に取った石を弄びながらそう思い、おもむろに振りかぶると、エルフの里とは真逆の方向に向かって、思いきり投げ飛ばした。飛距離がわからないと意味無いから、一応木々の間から遠くまで見通せる方角に投げたんだけど…駄目ね、思った以上に飛んでっちゃってわからないわ。
「…そのオリジナル技って?」
ボール投げの結果を見届けて、あたしはジョンに向かって振り返りそう切り出す。見ると彼は、ポカーンとした表情で、あたしが今投げた石の方向を見つめていた。
「あ!ええっとですね、スキルには大きく分けて2種類あって、身体能力や武器防具を高める補助スキルと、攻撃に転用させた攻撃スキルがあります。基本スキルには攻撃スキルもいくつかあるんですが、そのほとんどは補助スキルばかりで、基本的に攻撃スキルはオリジナルスキルと呼ばれるものを指します
「ふ〜ん ?オリジナルって言うくらいだから、個人で編み出してるのよね?そんな簡単に作れるものなの?
「あ、いえ。勿論自分で編み出す人も居るようですけど、有用なオリジナルスキルは、秘伝書にまとめられているそうですが、習得するのは基本スキルよりも、段違いに難しいらしいで…すっ !?」
あたしの為に、わかりやすく丁寧に説明するジョンが、またまた驚きに目を見開いた。
今度は何したかって?いやちょっとした幅跳びを少々ね、テヘペロ☆
後ろを振り返り、踏み込んだ位置から、今の自分の位置を目算で測る。ん〜だいたい5m位かな。
「も、もぅ〜びっくりさせないでくださいよ!
「あははは〜ごめんごめん。だいたい済んだし、もう終わらせるからさ
「…ほんとですか?
「ほ、ほんとほんと!だからそんな顔しないでよ。ね?」
疑わしそうに半目でこっちを見てくるジョンに、ちょっとやり過ぎたかなと思いながら、笑って誤魔化しつつそう言って彼の反応を伺う。すると疲れたようにため息をついてから、小走りでこちらに近付いてきた。
「もう良いですよ。それより終わったんでしたら、帰って朝食にしましょう?
「そうね、そうしましょうか。」
そう切り出した彼に、あたしは頷いて里の方へと足を向けて歩き出した。あらかた目的は済ませたし、辺りもだいぶ明るくなってきた事だしね。
それに、動いてお腹もだいぶ減ってきたしね。1日の活力は、朝食をしっかり摂る事が大事です。キリッ




