真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす!(顔はダメだぜボディボディ(2)
ガイアースに向かってそう告げた後、エイミー達を巻き込まない為に、ゆっくりと前へ進み出る。そんなあたしに、彼女はこれ見よがしにため息を吐いて見せ、手にした戦鎚をその場に残して、再び移動を開始した。
「トパーズ、貴様等に任せる
「…はい、ガイアース様。」
その言葉に応える様に、ガイアースが残した戦鎚の真横に、何の前触れも無くトパーズが現れ、残された戦鎚を手に虚ろな瞳であたしを睨んでくる。と同時に、周囲に黄系の微精霊が多数現れ、それらが集まって更に数人の精霊達が姿を現した。
トパーズを中央に、その両側に女性というより中高生位の少女が3人。多分、アクアと同じ上位精霊なんでしょうけど、その手には所謂メイスの様な鈍器が握られている。
更にその周りには、小学生位の恐らく中位精霊が5人、宙に浮いてこちらを恨めしそうに睨んでくる。現れた彼女達は皆、トパーズと同じ浅黒い肌に燈色の髪をしていて、着ている服もまるで一緒だった。
そして何より、やはりその目もトパーズと同じで、何かを諦めた者のソレだった。改めて、その事実に吐き気を覚えて、苦々しく舌打ちする。
「…とんだ腰抜けね。あれだけ挑発したって言うのに
「自惚れるなよ小娘。イフリータに手傷を負わせた様だが、いくら貴様が新たな精霊王だとしても、その程度の魔力量では、そこのトパーズにさえ勝てる訳が無いのだからな
「あらそ。なら試してみようじゃない。」
そう告げてから、その場で立ち止まったあたしは、木刀を呼び出し正眼に構えて精霊化する。同時に、現れたガイアースの眷属達も、あたしを警戒して身構えた。
視線で彼女達を牽制しつつ、さっきブチ切れた時に起こったであろう、自分自身の変化について、手短に検めていく。
相変わらず、精霊化すると袴姿になるみたいね…それは良いけど、この間帝都で眷属化した手甲と胸当て、あと指にもリングが追加されてるわね。何より…
そこで、自分の腰回りに視線を向ける。そこに、ほんの数分前まで在った筈の九字兼定の姿が、どこにも見当たらなかった。
それを改めて確認した後、視線を再び前方へと戻した。
…どうやら、さっきブチ切れた所為で、精霊化が進んじゃったみたいね…まぁお陰で、いちいち抜刀して精霊化するなんて、面倒な動作も必要なくなったみたいだし、こうして精霊界に足を踏み入れる事も出来たんだけど。
とは言え、覚悟していたとしても、自分が自分で無くなっていく様な感覚がして、正直良い気分になれる筈も無い訳で。もしかしたら、あの身を焦がす怒りと殺意の元は、兼定から流れてきたのかも知れない。
ともあれ、最低限確認しておかないといけない事を確認し、思考を切り替える意味でも、何時ものルーティーンである深呼吸を2度3度と繰り返す。細かい変化のチェックは後でも出来るんだし、目下の問題を片付けないとね。
「…ねぇ、トパーズさん?出来ればあなた達を傷付けたくないのよ。だから、引いてくれないかしら?
「でしたら、ヴァルキリー様が退いて下さい…我々は、ガイアース様の命にただ従うのみです…
「そう、残念ね…なら力ずくで押し通るだけね。」
短い会話の後、正眼の構えのまま闘気を露わにする。すると、それに気が付いたトパーズが、動作で周りの姉妹達に指示を出す。
それに従う様に、メイスを持った少女達が身構え、何時でも飛び出せる様に腰だめになる。宙に浮く中位精霊達は左右に広がり、あたしに向けて両手を翳すと、その周りに無数の石礫が現れる。
「ストーンブラストです!気をつけて下さい!!」
背後から聞こえるエイミーの注意を浮け、心の中で感謝しつつ、正眼の構えのまま静かに彼女達を一瞥する。恐らく、中位精霊の魔法攻撃を目眩ましにして、上位精霊3体で押し切ろうって所かしらね。
その予想通り、現れた石礫が放たれると同時、身構えた上位精霊達が、滑る様に宙をかけ始める。
…やっぱりそうね、この子達…
迫る石礫を微動だにしないまま静かに見据えながら、人知れず落胆しため息を吐いた。そして、ギリギリまで石礫を引きつけた所で…
「…来なさい。」ガガガガガンッ!!
小さく呟くと同時、眼前に2枚の長方形型の盾が出現し、それが直撃コースの石礫を全て防ぐ。そしてその盾は、そのまま迫ってきていたメイス持ち3名の視界を防ぐ形となって、慌てた様子でその場で急停止したのが気配で伝わってくる。
それを察したあたしは、連なって出現させた2枚の盾を、そのまま前方に射出させる。と同時に自分自身は、姿勢を低くして左手に飛び出した。
飛び出した瞬間横目で見ると、彼女達の意識が一瞬盾に注がれているのが確認出来た。これで、自分の邪推がかなり高い基準で当たっている事が確認出来た。
それは何かと言うと、単純に彼女達が闘い慣れしていないって事だった。あたしがちょっと闘気を出した瞬間、間髪入れず反応していたから、まさかとは思っていたのよね。
バトル物なんかで『先に動いた方が負ける』ってよくあるフレーズだけど、あれってお互いに相手の出方を伺ったり、力量を推し量ったりしてる訳で、睨み合いから既に戦いって始まっているのよね。相手の手の内を読む事が出来ない者や、自分の力量を過信して相手を侮った者が負けるって、要はそう言った意味合いの言葉な訳なのよ。
勿論、圧倒的力量差があれば、読み合いなんて面倒な課程をすっ飛ばして、相手をねじ伏せる事だって出来る。何より、精霊の力関係って言うのは、魔力に依存している部分が大きいみたいだから、中位に牽制役をさせて、上位3名で畳み掛ける算段なんでしょうね。
確かに、複数人で相手をねじ伏せるんなら、それも良いんでしょうね。イフリータから力を受け取ったって言っても、あたしの魔力量は未だに中位程度って位らしいし、上位精霊3人に加えて高位精霊を相手にしたら、勝ち目なんて無いって彼女達がそう考えるのも頷ける。
けれどそれは、ねじ伏せる相手が同レベルに限った場合だ。悪いけどズブの素人相手に、あたしが後れを取る訳にはいかないのよ。
「ッ?!」
彼女達の気が逸れている隙に、左手に展開していた中位精霊2体との距離を、一足飛びで一気に詰める。あたしの姿に気が付いた瞬間には、既に木刀の射程内に彼女達を捉えていた。
そこまで一気に距離を詰めた所為で、彼女達が驚きに顔と身体を強張らせているのが解る。その隙を見逃してあげる程、あたしは優しくは無い。
すかさず、手にした木刀で片方に突きを放つ。すると、間一髪の所で我に返って、服一枚の所で身を翻して躱される。
そんな事お構いなしに、通り過ぎ様にもう一方の中位精霊に向けて、身を捩りながら左手を伸ばすけど、その頃にはそっちは完全に我に返っていて、結局指先が服の先端に触れるだけに終わる。慌てた様子で宙を飛んで、二手に別れて距離を取ろうとする彼女達に、更に追撃で迫ろうと身を低くした瞬間、右手から迫る気配を感じ取って、重心を後ろに移して飛び退いた。
バキンっ!
その瞬間、それまであたしが立っていた場所に、巨大な岩の槍が突き刺さる。視線だけで飛んできた方向に目を向けると、トパーズがあたしに対して睨みを効かせている姿が確認出来た。
…彼女、あそこから動かないつもりかしら。舐められたものね…
集中力を高め、加速させた思考の中で、冷静に状況を分析していく。トパーズが支援だけで動く気配が無いのは、自分以外の戦力だけで、あたしを制せると思っているのか、それとも…
いずれにしても、今トパーズが動かないのは、こっちにとっては都合が良い。
「て、やぁっ!」ブォンッ!
着地すると同時、迫ってきた上位精霊の1人が、可愛らしい声と共に手にしたメイスを振り下ろす。その軌道を瞬時に見切って、木刀を器用に扱って側面で払いのける。
メイスの様に重心が先端にある武器の軌道を読むのは、意外と簡単だったりする。特に彼女達の様な素人が扱うと、振り下ろすか横に払うかの2択になりがちだから尚更ね。
だからって、速度の付いた鈍器をいなすのは、言う程簡単な行為でも無く、それなりに技術が要るんだけど。彼女にしてみれば、何が起こったのか理解出来なかったんでしょうね、目を白黒させながら、メイスの振り下ろされた先を見つめていた。
「ッ?!きゃぁ!!」ブンッ
その隙に、彼女の背後に回り込み服の襟首を掴んで、迫ってくる2名の上位精霊に向かって投げつける。投げつけた少女を受け止めて、2人が動きを止めたのを確認してから、両手を左右に広げ両側面に再び盾を召喚する。
ガガガガガンッ!
そして聞こえきたのは、無数の石礫が盾に激しくぶつかる音。金属の甲高い悲鳴が鳴り止む事は無く、その音に紛れてよく聞き取れなかったけれど、彼女達が何か言い合っているのが、気配で伝わってくる。
大方、中位精霊に魔法の支援を続けろって、指示でも出したんでしょうけれど、生憎とこの程度の弾幕で怯むあたしじゃ無い。中位精霊達が体勢を整える前に、すかさず左右に展開した盾を、さっきと同じく両方向にそれぞれ飛ばし、あたし自身は右手の盾に身を潜めつつ駆け抜ける。
当然、同じ手が何度も通じるなんて思っていないから、盾に注意が向くなんて思っていない。だから、体勢を整えた中位精霊達から、魔法で狙い撃ちにされる訳だけど、この際そっちは無視して駆ける。
盾に塞がれて、あたし自身前方の視界が効かないけれど、ここがあたしの精霊界の所為か、ある程度の空間把握が出来るみたいだった。元々身に付いている気配察知と相まって、普通に視認するのと同程度には、相手の行動を認識出来る。
進行方向には、さっきの2体とは別の中位精霊が3体。多分指示通りなんでしょうけれど、迫っる盾にに対し健気に魔法で迎撃しようと、奮闘している気配が伝わってきた。
そして、背後から迫ってくる上位精霊達の魔法の気配も、振り向かなくても正確に把握出来た。だから、こんな無茶な真似が出来る訳なんだけども…
前方の中位精霊達が、ギリギリまで盾を引きつけた所で、ようやく魔法を撃つのを止めて左右に広がる。と同時に、先行させた盾の持ち手を空いた手でひっつかむと、自身の身体に引き寄せつつ、野球選手もビックリなスライディングを唐突に行って、背後から迫ってきていた魔法を、地面すれすれでやり過ごす。
年の為、盾で前面をカバーしながら、魔法をやり過ごしたあたしは、すかさず飛び起きる。間髪入れずに、振り向きざま手にした盾を上位精霊達に向けて投げつけると、その行方を見届ける事無く視線を巡らせ、目当ての人物を視界に収めて行動を開始する。
「ひっ?!」
目当ての人物、中位精霊の1人は、あたしと視線が合った瞬間、驚きと恐怖で顔を引きつらせて、慌てて逃げだそうと背中を向ける。失礼しちゃうわね、プンプン。
まるで、死に神か悪魔でも目にしたかの様な、その子の反応に若干の精神ダメージを受けつつも、ひとまずその事は考えない様に思考の片隅に追い払い、その子に向かって一気に駆ける。
ガシッ!「きゃぁ?!た、助けて~!!」
「ミーを離せ!!」
間合いを一気に詰めたあたしが、その子の襟首を掴むと、可愛らしい悲鳴と非難の声が同時に上がった。
あんれ~?これ完璧あたし悪者扱いじゃ無い…
等と、思わず抗議の言葉を胸中に抱きつつ、威勢良く非難の声を上げた者の方へと視線を巡らせる。するとそこには、この子とさっきまで行動を共にしていた他の2名が、懲りずに石礫をあたしに向けて放ってくる。
「ッ?!」
それに対しあたしは、ミーと呼ばれた彼女を盾にする様に、迫る石礫の側へと差し出した。すると、魔法を放った2人が身体を強張らせたかと思うと、放たれた石礫が跡形も無く霧散した。
地属性のこの子が、同じ地属性の魔法に対して、恐らく怪我をする事は無いだろう事は、イフリータの言動から察していた。それはきっと、彼女達もちゃんと認識している筈だろう。
けれどそこは心ある存在の性って言うもので、頭で理解していたとしても、見知った人物を盾にされたら、戸惑ってしまうのは当たり前の事だ。それを逆手に取った罪悪感と、ちゃんと彼女達にも、姉妹を想う心があるという安心感で、どうにもやるせない気分に追い込まれる。
あたしは、ミーと呼ばれた彼女にだけ聞こえる様に、謝罪の言葉を口にして拘束を解く。と同時に、怯んだ2人の中位精霊に向かって駆け出した。
「ひっ?!」ガシッ
「うわっ!!」ガシッ
それに反応して、逃げようと動いた時には既に手遅れで、彼女達が気が付いた時には、両脇に抱えられて動けなくなっている状態だったでしょうね。目を瞑っていても、ある程度空間把握出来るって言う事は、相手の行動を予測して先回りする事だって、やろうと思えば可能なのよ。
だから、不意の危機察知も普段以上に鋭敏に働いてくれる。
「ッ!?
「その子達を離せ」ドゴンッ!!
突然、上空から降ってきたトパーズの気配を察知し、両脇に抱えた子達を放り出しつつ、その場から飛び退くと、一瞬遅れてあたしが立っていた場所に、戦鎚の鋭利な部分が地面に突き立てられていた。その光景を前にして、口の端をつり上げて笑みを浮かべる。
「ようやく動いたわね
「…どう言うおつもりですか?
「ん?何がよ。」
戦鎚を突き立てたまま、睨む様に見つめてくるトパーズの一言に、あたしは訝しがりながら聞き返した。
「力尽くで押し通ると言っておきながら、まるで攻撃の意思が無い。その剣を、打ち込もうと思えば、いくらでも出来た筈でしょう
「あぁ…なんだ、そんな事。最初に言ったじゃ無い?出来たらあなた達を傷付けたくないって。あれがまごう事無き本心だからよ
「それで、我々を制せると思っているのですか?
「えぇ、勿論。」
会話を交わす内に、他の精霊達が再びトパーズの周りに集まっていく。あからさまな時間稼ぎで、向こうが体勢を整えようとしているのが見え見えだけれど、そうと解っていて構わず会話を続けていく。
「…私には、貴女が遊んでいる様にしか見えませんね
「あら、心外ね?これでもちゃんと、真面目に相手をしているんだけれど。」
そう答えながら、大げさに肩を竦めてヘラッと軽薄な笑みを浮かべて見せる。それを目の当たりにしてトパーズは、あからさまに落胆した様子で、大げさにため息を吐いた。
「…もう良いです。次で終わらせましょう…」
そう告げて身構えたトパーズに対し、変わらず軽薄な笑みを浮かべたまま、再び正眼の構えで精霊達と対峙する。一見して、仕切り直しに見える状況だけれど、さっきまでとは決定的に違う点がある。
トパーズが身構えている様に、次は彼女自身も戦列に加わる気で居るのもそうだけれど、それ以外にももう1点…
細工は隆々、仕上げをご覧じろって所かしらね。出来たら、残りの上位精霊2人にも、触れておきたかったんだけれど、トパーズが出てきたんじゃ、それも仕方無いわよね。
「えぇ、そうね。それじゃ宣言通り、力尽くで押し通ろうかしら。」
あたしが一体全体何の精霊か、ここいらでハッキリ彼女達に示してあげようじゃない。




