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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第三章 精霊編
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真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす!(顔はダメだぜボディボディ(1)

 この感情に、正確に名前を付けるとしたら、きっと『母性』で間違いないんだろう。


 初めて姫華を見た瞬間、妹やあたしの子供の頃に、そっくりだったと言うのも在ったんだろうけど、それを抜きにしても、初めて『ママ』と呼ばれてその笑顔を見た瞬間、当たり前の様に彼女の存在が、ストンと自分の中に入ってきたのが解った。


 なんとも言えない、心の奥の方がジンジンとする様な、それでいてほんわり暖かくなる様な、そんな不思議な感覚だったと思う。なんでそんな簡単に、当たり前の様に彼女を受け入れられたのか、自分でも不思議に思っていたから、ふとした瞬間には何時も考える様になっていた。


 ハッキリとした事は言えないけれど、でもきっとその理由は、あたしの育った家庭環境…特に家族関係が、すこぶる良好だったからなんじゃないかって、あたしはそう結論付ける事にした。


 一般的な家庭と比べたら、それなりに裕福だったと思う。じいちゃんは普段は好々爺って感じだし、お父さんもあたしと特に妹にはベタ甘だったけど、その代わりにママが厳しかったかな。


 兄達に対してはママ達の役割が真逆で、それがちょうど良いバランスだったんだと思う。


 兄妹間の関係も、勿論良好だった。まぁ、こっちに来る前に、妹とは変な感じになっちゃったけれど、もっと酷い様な喧嘩だって、今まで散々繰り返してきたし、むしろ兄妹ならそれが普通なんじゃ無いかな?


 あたしが家族との思い出で、特に印象にあるのは、抱きしめあったりする事が多いって事かな。思い返すと、何時も誰かに抱きしめて貰ったり、特にあたしは妹を抱きしめる事が多いのよね~


 兄妹で喧嘩した後や、ママに怒られた後なんかには、昔からよくぎゅってされてたから、それが仲直りのサインみたいな所もあったのよね。まぁ、それだけ喧嘩したり、怒られたりする機会が多かったって話なんだけどね(笑


 中学に上がった頃に、友達と話している時なんかに、他の家庭じゃそんな風に振る舞わないって聞いて、ビックリしたのを覚えてる。『中学に上がってまで、親に抱っこされてるの?』って、からかわれたりもしたんだけれど、全然嫌な気持ちには成らなかったな。


 ただ、なんでそんな風に言われたのか不思議に思ったから、その日の帰りにママにその事を話したら、はにかんだ笑顔で抱きしめられた。それがなんだか嬉しくて、目一杯ギュッと抱きしめ返したら『痛いわね!』って言われて、笑いながら頭をはたかれた。


 それが、あたしにとっての家族の『カタチ』だし、あたしにとっての『普通』で、これから先も当たり前の様に続いていくんだと思っていた。そして何時か、自分がお母さんになった時は、ママにされた風に子供を抱きしめてあげるし、その子が大人になって親になっても、変わらず続いていって欲しいと願っている。


 愛される事がきっと子供の特権で、笑顔を絶やさず健やかに成長していく事が子供の義務で…子供を愛してあげる事が親の責任で、成長を見守ってあげる事が大人の使命なんだと、何の疑問も抱かずに、当時のあたしは思っていたし信じていた。


 そんな、酷く稚拙で了見が狭かったあたしに対して、現実を見ろと言わんばかりに、悲惨な出来事が目の前で起きたのも、ちょうどそんな時だった――


……


 彼女がうちの近所に引っ越してきたのは、中学1年の秋の末だった。近所の公園に、ぽつんと居た小学校低学年の女の子を、あたしと賢兄さんは見つけた。


 他の子に交じるでも無く、ぽつんと暗い表情で座っていたのを覚えてる。それが気になって、思わず話掛けてみたんだけど、初めのうちは驚かれて逃げられてしまった。


 それから、ちょくちょく近所の公園で見かける様になって、懲りずに根気強く話掛けていく内に、次第に向こうも慣れてくれて普通に会話出来るようになるまで、ひと月位掛かったかな。両親が離婚して母親に引き取られたんだと、彼女の口から聞いたのと、最近家の裏手にあるアパートに越してきた、母子家庭の母親の怒鳴り声が凄くて、虐待なんじゃないかって噂が立っているって、ママから聞かされたのが同じ日だったのを、今でもハッキリと覚えている。


 児童虐待・育児放棄…その言葉をテレビでよく聞く様になって久しい。けれど、知識としてその言葉の意味を知っていたとしても、実際にそんな行為が日常的に行われているなんて、あたしのそれまでの生活からは非現実的過ぎて、異国で起きている戦争やテロなんかと同じくらい、遠い世界での出来事だと感じていた。


 遠い世界の出来事所か、ドラマや映画の様な虚構の話だとさえ、当時のあたしは思っていた。世の中のあたし位の世代の子は、多少の差はあるだろうけれど、親に愛されてそれを感じて育っているんだって…


 あたしがそう感じている様に、時には嬉しく時には鬱陶しいなんて、贅沢な事さえ考えられる位には、家族っていうのは暖かい繋がりで結ばれているんだって…


 そう思っていた当時のあたしは、知りたくも無かった現実を目の当たりにして、金槌で頭を思い切りぶん殴られた様な衝撃を受けた。彼女…ケイと名乗った少女と知り合って、ひと月半が過ぎたある初冬の日…


 その日は酷く寒かった日で、何時もの様に公園で見かけた彼女の服装は、余りにも寒々しくて…


 その日のやり取りで、あたしは見てしまったんだ…その細く華奢な腕に、痛々しい痣の痕が残っている事に…


 それが、平手で叩かれて出来た様な痣じゃ無い事は、格闘技を習っていたあたしにはすぐに解った。同時に、噂が真実なんだと解って愕然とした…


 それまで、当たり前だと思っていた家族という『カタチ』が、音を立てて崩れ去ったなんて言ったら、きっと大げさに思われてしまうだろう。けれど、そうなってしまう位には、当時のあたしは純粋だったんだ。


 それからは、子供心にどうにかしようと親や兄達に相談したり、児童相談所にも連絡したりして、ケイを母親から引き離せさえすれば、きっと状況が好転するんじゃ無いかと考えて躍起になった。けれど、その考え自体が幼稚で…どころか、その行為が引き金となって、最悪の結末を迎える事になった。


 ケイは、母親と離れる事を拒絶した。両親の離婚の原因が自分にあるんだとケイは語り、だから母親は自分を叱っているんだと、仕方の無い事なんだと、あろう事か自分を責めていた。


 自分が許されれば、きっと両親が再婚すると信じていた。結局、どんなに横暴だろうと、虐待を受けたとしても…彼女にとっては、母親はそれでも母親だったという事だった。


 そんな彼女の心に、気付いてあげられなかったあたしは、やっぱり子供で…大事にしてしまった結果、母親の虐待はエスカレートしてしまい、その数日後…


 けたたましいパトカーと救急車のサイレンの音に、嫌な予感を覚えて家の裏手に走って向かった、雪の振る夜の日…


 担架に担がれて運ばれていく見知った少女の、あの痣だらけの腕は力無くだらんとしていて、虚ろに開かれたその瞳には、生気がまるで感じられなかった。


 それを目の当たりにして、自分の無力さを痛感した。そしてようやく実感したんだ…子供のあたしが、出しゃばって良い様な問題じゃ無かったんだって。


 だから、早く大人に成りたいと、力が欲しいと願ったあたしは、やっぱり幼稚な子供で…


 子供が笑顔で居られない世界なんて、クソッタレで蹴っ飛ばしてやる!なんて、稚拙で粋った想いを胸に抱いているあたしは、やっぱり今も子供のままだ。


……


 殺す!!


 怒りで頭がどうにかなったんじゃ無いかと思う程、沸き立った思考の中スッと冷めた部分があって、そんな風に考えて居る自分に気が付いた。


 殺す!コロス!!コロス!殺す!!殺す!!!!


 怒りに震える身体に力が漲り、爪が食い込む程強く拳を握り、歯を食いしばって目を開くと、一瞬にして視界が真っ赤に染まっていく。今鏡があったならきっとあたしの瞳は、酷く血走っている事でしょうね。


 巫山戯るな!巫山戯るな!!殺す!殺す!!


 そんな血走った瞳に、あの死んだ魚の瞳をした奴が、酷く歪な笑みを浮かべているのを目にして、あたしの殺意は更に増長する。掴み掛かろうとして上手く動けず、その場でまるで溺れたかの様に暴れ出した。


 そして、自然な動作で手を振るうと、『パアンッ』と乾いた音を遠くに聞いて、少しの落下感の後地面の感触。


「殺す!!」


 悪意と殺意に満ちたその言葉を自分が発したんだと、冷静な部分のあたしが理解するのに、ほんの一瞬の間が必要だった。


「…ハッ!ハハッ!!ハハハッ!!」


 そんなあたしに向かって、歪な笑みを更に深めて、実に楽しそうに声に出して笑い始める。それを見て…いいえ、血走った瞳で彼女を見た瞬間から、彼女があたしにとって明確な『敵』であると認識していた。


 感情をむき出しに、怒りと殺意に満ちた瞳で、『敵』を見据えて一歩踏み出そうと動く。


「ダメ!!

「ッ!?」


 そんなあたしと『敵』の間に、割って入る様に姿を現す小さな人影に、あたしの身体がビクリと強張る。と同時に、血走って赤く染まった視界の中、その人影にだけ色彩が鮮やかに蘇った。


「ママッ!!」


 その一言と、泣きそうなその表情を見て、()()()()()()()()()()歯を食いしばって一歩踏み出す。


 瞬間、血の気が一気に下がっていくのが自分でも解り、彼女を中心に世界に色が取り戻されていく。同時に壊れ物に触れるかの様に、ソッと彼女に手を差し出す。そして…


「…心配掛けたみたいね、姫華。ありがとう。」


 そう言って柔らかく笑いかけると、それまで見せていた泣きそうな表情から一転、その名前が表すに相応しい華の様な笑顔を咲かせたかと思うと、あたしの顔目掛けて飛び込んでくる。


「ママッ!!」


 それを、苦笑を浮かべながら受け止めながら、自分の迂闊さと単純さに自嘲する。


 全く、ミイラ取りがミイラとはこの事ね。あまつさえ、キレた原因がオヒメなら、踏み止まれたのもオヒメだなんて、ほんとに単純…


「優姫!!大丈夫ですか?!

「エイミー…うん、平気よ。」


 慌てて駆けつけたエイミーに呼びかけられて、そっちを振り返り答えると、彼女はホッとした表情で安堵する。けれどそれも一瞬で、次の瞬間には険しい表情になって、ガイアースへと視線を向ける。


 それにつられて、あたしもそっちに視線を向けると、赤い視界の中で見たあの歪んだ笑顔は既になりを潜めて、もうあたしには何の興味も無いと言った感じで、あの死んだ魚の瞳で亡霊の様に佇んでいた。


「優姫に何をしたんですか

「…何と言われてもな。先も述べた通り、この世界の成り立ちを見せただけの事よ。我の闘う動機と共にな

「それって…」


 事も無げにそう語るガイアースに、エイミーがハッとした様子であたしに視線を再び向ける。それに対してあたしは、苦笑を浮かべて肩を透かして応えるに留まった。


「少しは見込みがあると思ったんだが、どうやら思い過ごしだった様だな…まぁ良い。ともあれ、我の出す試練はこれで終わりとしよう。約束通り

「要らないわよ。」


 つまらなさそうに語り始めたガイアースに対し、あたしは鋭い視線で彼女を見据え、その言葉を遮って言い放った。瞬間、辺りにピリッとした緊張が走る。


「…今、何と言った?

「あら、土の精霊だけに耳に泥でも詰まっていたのかしら?」


 死んだ魚の瞳で睨まれながら、そんな事お構いなしに、普段の調子を取り戻す意味でも、何時もの様にヘラッと軽薄な表情で軽口を1つ。けれどすぐに顔を引き締めて、怒気を込めてガイアースを睨み付ける。


「テメェの力なんて、あたしには必要ないって言ったのよ、このヤンデレが

「小娘が…」


 あたしの言葉に、ガイアースも怒気を露わにする。その所為で、辺りに更に緊張が走り、オヒメはあたしの背後に隠れて、アクアとエイミーが息を呑んで押し黙る。


 どれだけそうしていただろう、不意にガイアースの方から、怒気を引っ込めたかと思うと目を伏せて、あたし達に対して背中を向ける。


「…下らん。ならば好きにするが良いさ…」


 そう告げて、去って行こうとするその背中に向かって、あたしは右手を翳した。


「…エイミー

「はい?

「先に謝って置くわ。ごめんね…」


 唐突に、彼女に向かってそう呟いて、横目でその表情を伺う。てっきりあたしの言葉の意味を、解りかねていると思ったんだけど、あたしの言葉を聞いて彼女は、困った様な表情で苦笑を浮かべて首肯した。


「良いですよ。貴女を信じて共に在ると、そう決めましたから…それが個人契約を結んだ、パートナーの勤めですから

「エイミー…

「だから貴女は、貴女の心の思うままに行動して下さい。」


 その言葉は、まるでこれからあたしが何をしようとしているのかを、しっかりと理解した上での発言の様に聞こえた。きっと、事実その通りなんだろう事と、咎められるどころか激励された事に、流石のあたしも戸惑い驚く。


「ママ…」


 そして、背後から呼びかけられて、そっちに視線を向けると、オヒメが鼻息荒くガッツポーズを取ったかと思うと…


「頑張って!!」


 その一言に、思わず顔を綻ばせて…


「…はい、頑張ります。」


 そう答えた後、キッとガイアースの背中を睨み付けた。


 今のあたしがしようとしている事は、単なる自己満足の為の行動だ。先に正義なんて大義名分は無いし、昔の過ちを最悪な形で再現してしまうかもしれない。


 ガイアースに感情を押しつけるななんて、偉そうに吠えておいて、今からしようとしているのは正にソレだ。子供の癇癪だと言われても、仕方無いと自覚している。


 けれど…嗚呼、()()()()だ。ガイアースの…トパーズの瞳を目にした以上、ここで何もしなければ、過去の無力だった頃の後悔が、この先ずっと付きまとうでしょうね。


 あたしの力がどこまで通用するか解らないし、また酷い結果になるかも知れない…そう考えると正直怖い。()()()()()ガイアース、テメェはダメだ!!


「…これは、何のつもりだ?」


 それまで、精霊石に覆われていた洞窟内が一変する。其処は、果てしなくどこまでも続くかの様な、幻想的な白銀の世界だった。


 世界は一面、雲の様な絨毯に覆われ、キラキラとした白銀の光が、天に向かって昇っていく世界。これがあたしの…ヴァルキリー・オリジンの精霊界。


 あたしの世界に、閉じ込められたガイアースが、剣呑な雰囲気で振り返り問い掛けてくる。その問いに対してあたしは、口の端をつり上げてニヤリと不敵に笑う。


「貴女のあたしに対する試練が終わったんなら…次はあたしが貴女を試す番じゃ無い。ここから先は、ずっとあたしのターンよ。」

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