ガイアースに会いに行こう!(家庭訪問は玄関先塩対応(1)
ウィンディーネに早速食事を持っていたアクアを、待っている内に日が暮れてしまったので、その日のうちに出発する事を諦めたあたし達は、結局セゼリにもう1泊する事にした。夜になってようやく戻ってきた彼女は、何故かボロボロになって戻ってきて、それはもうビックリしたわよ。
何があったのか聞いたんだけど、余りにも突然の事で何が何だったのか、本人にもさっぱり判らないとの事。ウィンディーネに聞いても、はぐらかされて教えて貰えなかったそうだ。
そして一夜明けた今日、予定より遅れて早朝にはセゼリを出発し、帝都~セゼリ間を走破した時と同じように、数度の休憩を挟みながら、ガイアースの住むというメルクフィート山を目指してジープを運転していた。
時刻はこの世界の言い方で、前の刻限13時過ぎ。セゼリを出発したのが前の刻限4時前だったから、9時間と少し経った位ね。
もう既に、目的地のメルクフィート山が見えているし、この分ならあと1時間もしないで着くでしょう。本当なら、昨日の内に出発して、山に向かう途中の街で一泊してから、今日の昼前にガイアースと会う予定で居たんだけど、予定が狂ったんじゃ仕方ないわよね。
予定狂わせた人は、昨日ボロボロになって帰ってきて、今も別の意味で酷い状態だから、責める気にもならないしね~
「う、うぅ~ん…
「大丈夫ですか?アクアさん
「は、はい…」
助手席に座ったエイミーが、心配そうに後部座席を振り返り、うめき声を上げて横になっているアクアを気遣う。どう言う状況か判ります?おまえもかーい!状態ですよ。
しかも、彼女結構乗り物に弱いっぽくて、終始こんな感じだから、正直今後も着いてきて平気か心配する位だ。まぁ、知識だけを頼りにして運転してるあたしに、単純に技術が無いからって可能性もあるけど。
運転上手い人とか、よく聞くフレーズだけど、どういった運転が上手なのか、いまいちわかんないのよね。それに、それってちゃんと舗装された道路を運転して上手いだから、未整備の道だとそう大差ないと思うんだけど、やっぱり違うのかしら?
「悪いけど、もう目的地も目の前だから、休憩挟まず一気に向かうわよ
「は、はい。私の所為で出立が遅れてしまったんですし、気にせず進んでください。」
ルームミラー越しに視線を向けて、アクアの現状を確認しながら声を掛ける。すると、後部座席を全て倒して、その上で仰向けに寝ていた彼女が、力なさげに頭を起こしてそう返してきた。
可哀想だとも思うけど、もう目の前に目的地が見えているんだし、サッサと着いて楽にしてあげた方が良いと思うのよね。
「…エイミーも、あんま後ろ向いてると、また気持ち悪くなるから気をつけてね
「は、はい。
「アクアさん、オヒメみたいに宙に浮いて、車の振動回避するとか出来ないの?」
未だ心配そうに後ろを見ていたエイミーを、気遣うつもりで釘を刺しつつ、再びルームミラー越しにアクアに問い掛けてみる。
「…出来なくは無いですが、ずっととなると流石に厳しいんです。下位精霊の頃だったら、なんともないんですが、今は身体も大きくなっているんで
「あ、身体の大きさで飛ぶ為の魔力って違うんだ
「魔力消費もそうですが、この場合は回復量ですね。下位精霊だったら、飛ぶだけに魔力を使っていたら、回復量を上回りませんので
「でも確か、イフリータとかずっと宙に浮いてたけど?
「そ、そんな!精霊王様と比べられたら、私達の立つ瀬が無いですよ…位階が上がれば、その分回復量や回復速度も高まりますから
「あ~まぁ、そりゃそうか。」
少しでも彼女の気が紛れればと思い、話題を見つけて会話する。酔い止めの方法なんかで、遠くを見ると良いだとか、運転した方が良いとかよく聞くから、意識を別に向けるってのは、案外効果があるのかも。
慣れていないって言うのが、何より一番の原因だと思う。特に彼女達は、空を飛ぶって移動手段があるから、基本馬車にだって乗った事無いんだろうし、それでいきなり悪路走る車乗れってなったら、そりゃ酔うわよね。
回数こなせば、きっと慣れて症状も改善されると期待しつつ、今出来そうな対処法を試してみまのも悪く無いわよね。まぁ人間用の対処法を、精霊に当て嵌めて良いのかは謎だけど。
「そういえば、マナポーションを飲ませたらどうなの?結構大量に買い込んだじゃない。」
魔力の回復量や回復速度というキーワードで、旅に出る前に自分達用に買い込んだ、あの毒々しい色したポーションの事を思い出す。気休め程度かも知れないけど、あれで回復量が上がれば、少しは浮いていられる時間だって増える筈だ。
そう思って、助手席に座るエイミーへと視線を向けると、難しい顔をされて顔を横に振られてしまった。
「私達にポーションの類いは効きませんよ。精神生命体ですから、本来なら食事だって必要ないんです
「そうなんだ…って、ならなんでウィンディーネは、食事を要求してあたし達にたかってきたのよ
「アハハ…」
あたしの突っ込みに、間髪入れず助手席に座るエイミーが、困った表情で乾いた笑い声を上げる。そして表情はそのままに、その疑問に答える為口を開いた。
「精霊王様達は、今でこそ精神生命体ですが、元々は肉体をお持ちでしたので、その頃の名残が色々な形で現れるんだそうですよ
「へ~ならウィンディーネは、食事に対して何か思い入れでもあったのかしらね?
「そうかも知れませんね
「じゃぁさ。」
そこで言葉を切って、アクアの側で彼女を心配そうに見ているオヒメを、ルームミラー越しに半眼になって見つめる。
「あの食い意地張ってる子は、なんでしょっちゅう食事してんの?
「え?あ…そう言えばそうですね
「ムッ!姫華食い意地張ってないよ!!」
あたしの言葉にすぐさま反応して、ムスッとした表情で文句を口にしたオヒメは、それで気が済まなかったのか、あたしに向かってビュンッと飛んできたかと思うと、その可愛らしい二の腕であたしの頭をポカポカ叩き出した。
「それについては、私に心当たりがあります
「え、本当?」
全然痛くないオヒメの攻撃を、片手で迎撃していると、不意にアクアがそう答えてきたので、再びルームミラーに視線を向ける。すると彼女は、少し気分が良くなったのか、上体を起こして鏡越しにこちらを見返して頷いた。
「恐らくなんですが、優姫さんの位階がまだ低い為に、姫華ちゃんの成長の糧である微精霊が、まだ産まれてきていないから、不足分を外部から摂取しようとしているんでは無いかと
「おっと!まさかのあたしに問題ある発言
「い、いえ!問題があるなんて、そんな
「あぁ、ごめんごめん。別に気に障ったとかじゃないから、そんな慌てなくて平気よ。しかしそっか~そう言えばルージュさんも、そんな事言ってたわね?
「そうでしたね
「う~ん…これは早急にどうにかしないといけないかもね。でないとオヒメが、あたしの所為でおでぶちゃんに成っちゃう
「おでぶちゃんになんてならないよ!もうもうママのバカ!!」
そう叫んで攻撃を再開したオヒメを、再び片手で迎撃する。そんなあたし達のじゃれ合いを、エイミーとアクアは可笑しそうに笑いながら見守っていた。
そんな和やかなムードの中、オヒメを迎撃しながら、チラリと視線をルームミラーに向けて、もう一度アクアの顔色を伺う。見れば大分落ち着いた様子だったので、これで一先ずは大丈夫かな?
それを確認した後、視線を前に戻して運転に集中しつつ、さっきの話をもう1度思い返す。さっきは戯けて返したけれど、正直どうしたもんかしらね…
そこまで深刻な問題じゃないとは思う。アクアだって、あたし達に併せてだろうけど、飲食は普通にしているし、ウィンディーネだって進んで食事を摂っているんだから、人の食べ物が精霊の身体に悪影響を起こす事は考えにくい。
けれど、それが正しい精霊の成長方法で無いと言う事は、これでハッキリしたのも事実だ。なら、オヒメの為にも、精霊の位階を高めるってのをもう少し意識して、行動するべきなのかもしれないわね。
位階を高める目的の為に、こうして精霊王達の元を訪れてるんだけど、もう少し気を引き締めた方が良いのかも知れないわね。特に、これから会うつもりのガイアースは、ちょっと問題がありそうだし…
自分を戒めるつもりでそう思い、間近に迫ったメルクフィート山を静かに見据える。
「…そろそろ着くわよ。」
あたしの呟きに、エイミーは無言で頷いた。
それから程なくして、無事にメルクフィート山へと到着し、そのまま山道をジープで駆け上がっていく。折角の4駆なんだから、行ける所までこのまま行っちゃいましょうか。
「…凄いですね、山道をものともしないなんて
「その分揺れは酷いけどね。2人共大丈夫?
「はい、私はなんとか
「だ、大丈夫です!」
2人から返ってきた返事を聞いて、ひとまず胸をなで下ろした後、ハンドルを握りしめて運転に集中する。一応は進みやすそうな道を選んでいるけど、人の手が入った形跡の無い山道は、凹凸が激しく運転が難しい。
正直、運転初心者には絶対におすすめ出来ない様な道だったけど、目的地は山を大分登った位置にあるのみたいなのよね~徒歩で登っても良いんだけど、それだと下山する頃には、辺りが真っ暗に成ってる事間違い無しだし。
じゃぁ一泊明かせばって思うだろうけど、ご存じの通り予定が狂ってるのも事実だし、そもそもこの辺一帯に街なんて無いから、野宿するしか無い。一応、急ぐ様な旅じゃ無いから、それでも構わないちゃ構わないんだけどね~
急ぐ旅じゃ無いけど、気持ちが早る理由はあるのよ。エイミーの話だと、車での移動が思った以上に便利だった事もあって、明日明後日中に風の谷まで行ける事が出来たら、もしかしたらリンダ達と合流出来るかも知れないって言うのよね。
帝都で合流予定だったリンダ達3人は、風の谷から更に西に向かった、クローウェルズと言う港町に向かったらしい。彼女達がその街を目指して帝都を発ってから、まだそこまで時間が経っていない筈だから、今もその街に滞在している可能性が高い。
もしも既にその街を発ってしまっていたとしても、2~3日中にその街で彼女達のその後の足取りをつかめれば、近い内に必ず合流出来るだろうというのが、エイミーの見立てだった。そんな事を聞いてしまっては、1も2も無く面倒事を片付けて、彼女達と合流したいじゃ無い?
そんな個人的な理由で急ごうとしてるんだけど、もちろんそれ以外にも理由がある。正直ガイアースとの面会は、無駄口叩かずとっとと終わらせたいと、そう思わされる様な理由がちゃんとね。
「…あ、見えてきました!あそこです
「…そう。」キイッ…ガチャ、バタン
山道に入って車を走らせる事約30分。走り続けて、開けた感じの広場にたどり着いた所で、エイミーがある一角を指差して口を開いた所で、車をその場に止めてサイドブレーキを掛け駐車する。
シートベルトを外して外に出ると、辺り一帯を一望する。遠い昔は採掘が行われていたというその場所は、当時の面影が一切残っていない。
ガイアースがこの地に住み着いてから、採掘が行われなくなったらしいんだけど、それはもう何千年も前の話なんだそうだ。その証の様に、さっきエイミーが示した先の、ぽっかりと口を開けた洞窟の奥からは、黄色い微精霊達が漏れ出す様に溢れていた。
人の気配は無し、聞いていた通りね…
心の中で呟いて、人知れずため息を漏らしながら、昨日エイミーに聞かされた話の内容を思い出していた。
その話の語り出しは、陳腐だけれどこんな感じでしょうね…昔々、在る所に母親を邪神の軍勢に殺された、哀れなドワーフの少女が居ました。
……
…
「今のガイアース様は、2代目だと言いましたよね
「うん。母親だった先代を、邪神の軍勢に滅ぼされて、その跡をついだんでしょう?
「はい。ドワーフ達の伝承の中で、今でも語り継がれている話があります…」
『2代目ガイアース。2代目シルフィードと共に邪神への復讐を誓う。その心より生まれし力は絶大で、多くの犠牲を払いながらも、この2柱の精霊王の絶大な活躍により、見事邪神とその一派を亜空間に封じる事に成功する。我等ドワーフ、王を称え首都をガイアと名称すると共に、王にこの身を捧げ従う事を誓う。』
「それが?ただの英雄譚の様に聞こえるんだけど
「…英雄譚として歌われている間は、ですよ。今ではガイアース様は、ドワーフ達から非道の王と呼ばれています
「なんでまた…
「復讐に心を囚われてしまったんですよ…神代戦争の後、残党狩りが行われたそうです。残党の多くは、邪神が支配していたルアナの地に多く居ました。その残党狩りを買って出て、大軍を率いてルアナに侵攻したのが、後に軍国を建国する事に成る初代バージナル国王でした。そして、それとは別に侵攻を開始した精霊種の軍団が…
「ガイアース率いるドワーフ軍?
「はい。それとシルフィード様と、先代精霊王から仕えていた精霊達ですね。フェアリー達は、昔から臆病な種族でしたからね。」
『我等がガイアース王、1万の兵を率いてルアナに侵攻。人種の軍勢と共に見事残党を駆逐せん。しかし我が方の犠牲もまた甚大。5千の英雄と英霊を連れ帰還する。我等が王は、英霊とその親類の無念を背負い、邪神を討ち滅ぼす日を夢想して奮起する。」
「犠牲は5千と伝えられていますが、実際は7千だったとも8千だったとも言われています。それだけに止まらず、当時の高位精霊が2体、中位~上位精霊が4体、戦死しているそうですが、その一切が秘匿されました
「…情報操作?
「恐らくは。当時は神代戦争が終息しきっていなかった時期ですし、どの種族の被害も甚大でしたから、追撃戦に出るにしても、前種族から精鋭を募って少数精鋭で進軍するべきだとの声が多かったんです。ですが、それを無視する形で先走ったのが
「軍国の王とガイアース達だったと。情報操作しないといけない位、ガイアースへの不満が高まったって事か。」
『再びルアナへ侵攻。王を先頭に英雄達は邁進する。邪神が幹部を討ち滅ぼすは王の戦鎚。英雄達は見事、その身を呈して幹部を引きつける。英霊の魂を力に変えて、振り下ろされた一撃は、大地を穿ちて万難を排する。』
「その後も、何度か邪神の軍勢の侵攻や、上位個体の出現の報せがある度に、多くの犠牲を払ってその悉くを排してきました。この世界から見れば、その行いは紛れもなく英雄のそれでしょう。しかし、身内から見れば
「自分達を死地に誘う死神そのものって訳か
「はい。この詩が最後の英雄譚です。この直後に、ドワーフ達はイリナス様に、ガイアース様をどうにかして欲しいと訴え出ました。その訴えに応えて、当時地底大国ガイアに居を構えていたガイアース様を、今のメルクフィート山へと幽閉されました
「幽閉…ね
「以来、ドワーフ達はメルクフィート山に近寄ろうともしなくなり、ガイアース様の伝承は、今では恐怖の詩として語り継がれているそうです
「フンッ、成る程ね~気持ちは解らないでも無いけれど、1度は王と讃え崇めてさえいた癖に、勝手な話ね
「そうですね…ですが、いよいよ切羽詰まったんだと思います。このまままでは、邪神の軍勢に滅ぼされる前に、自分達の王に滅ぼされるんじゃ無いかと。恐ろしくて仕方無かったんだと思いますよ?その証拠に、未だに国名を変えていませんから
「人の心を支配する、最も簡単な方法は恐怖を植え付ける事…か。きっとドワーフ達は、ガイアースに恨まれてるって、そう思ってるんでしょうね。全く、反吐が出そうな話だわ…」




