異世界リサイクルショップ開店!(しませんよ?(2)
「所で、浩太さんは何故あんなに離れた位置にいらっしゃるんですか?」
そう言ってエイミーが振り返った先には、部屋の隅で椅子の背もたれを前にして座って、小説か何かを読んでいる浩太の姿があった。あたし達の会話と視線に気が付いた彼は、小説を読む為に手元に落としていた視線を上げて、あたし達に向かって苦笑を浮かべながら軽く手を上げて見せた。
「あぁ、さっきあたしの胸元覗き込もうとしたから脅したのよ
「えっ…
「いやいや!だから覗いてないですってば!!」
あたしの意地の悪い説明を真に受けたエイミーが、言葉を失った様子で胸元を隠しながら身構えて、軽蔑の眼差しで彼を睨み付ける。それを受けて、慌てて弁解を口にする浩太。
「後ろから覗き込んだのは謝りますから!本当に勘弁してください…」
再び謝罪をする彼の姿に、意地の悪い笑み浮かべながら、身構えているエイミーの身体に軽くタッチすると、それであたしが彼をからかっているのが伝わったようで、一応警戒しつつも胸元を隠す仕草を解いた。
「…優姫、人が悪いですよ?
「あら、乙女の秘密を暴こうとしたんだから、当然の報いだと思うけどね。」
呆れながらにそう言われて、あたしは茶目っ気たっぷりに舌を出しながら笑って答えた。
「さて、エイミーも戻ってきた事だし、ちゃっちゃと終わらせましょうかね。
「えぇ、頑張ってください。」
そして再びテーブルに向き直ったあたしは、エイミーの声援を受けながら早速作業を再開する。
とは言っても、銃火器を眷属化するに比べたら、今度は大分楽だったけどね~多分、扱った事無い銃とかと違って、近接の得物だからイメージもパッと思い付きやすいんだと思う。
なので、手に取った瞬間、眷属化出来ると感じた物を、ちゃちゃっと眷属化させて精霊界に送っていく。銃火器で回数をこなした時点で、いちいち口に出して『去れ』なんて言わなくても、武器を向こう側に送れるようになっていたのも、スピードアップの要因でしょうね。
そして銃火器以外の武器の結果は以下の通りです。
西洋式の片刃のサーベル1本、鋳造型の両刃片手剣2本に両手剣1本
フォールディング型ナイフ5本、軍用ナイフ1本、キッチンナイフやツールナイフもいくつか
日本刀銘無し刀が2本、脇差し1本、小刀2本、太刀が3本、竹刀と木刀が1本づつ
中国刀は意外に少なく、柳葉刀が1本、幅広な青銅製の中国剣が2本
槍では日本製の薙刀、中国式の三叉槍、西洋式ランスが1本づつ
後は木製トンファーとヌンチャク、琉球古武術で使われる犀、刺叉と特殊警棒、めずらしいので鉄扇なんてのも在ったし、木のバットも眷属化出来た
投擲武器では古いタイプの投石機を始め、チャクラムや日本人おなじみの手裏剣もいくつか
それから和弓・洋弓にクロスボウと、矢がいくつか
まぁ当然だけど、近代兵器の銃火器に比べたら、刀剣類や原始的な投擲武器の方が、流石に多いわよね~
めぼしい武器はその位で、お次は防具類
鋼鉄製、手の甲まであるいわゆる山付き手甲1組、革製の手甲・半手甲が都合3組
鋼鉄製で大きさもまちまちの円形・四角・楕円盾が都合10枚
鋼鉄製胸当て2着、革製が4着
鎖帷子2着
軍用ヘルメットや、バイクとかで着けるような半帽メット・フルフェイスメットなんかもあった。
「…ふぅ。ようやく終わったわ
「ご苦労様です優姫。」
そう口にして、背もたれに体重を預けながら、首を回して凝り固まった筋肉をほぐしていく。黙々と作業を続けていたあたしを、黙って見守っていたエイミーが、にこやかな笑みを浮かべて、労いの言葉を掛けてくれた。
「改めて思うけど、いろんな物があったわね…塵も積もればって訳でも無いでしょうに
「それだけ多くの同郷の人が、こっちの世界にやって来ていたって事なんでしょう。お疲れ様でした、鶴巻さん。」
テーブルの上に残った、眷属化出来なかった残りの物を見ながら呟いていると、距離を置いていた筈の浩太さんが、労いの言葉とともにやって来た。
「この国だけで、これだけの異物があるってんだから、そりゃこっちの人達も問題視するわよね
「そうですね…この残りの品々はどうされるんですか?
「さぁ…僕もそこまでは聞いていないので
「燃やせる物は燃やしちゃって良いんじゃ無い?正直、こんなん持ってこっちに来ちゃった人が、今どうしているんだか知らないけれど、人には言えない黒歴史でしか無いんだろうし。」
そう言いながら、ちょっと恥ずかしさに頬を染めつつ、テーブルの上に広げた物の中に紛れ込んでいたエッチな本やDVDを、苦笑いしながら指差して告げる。普段からエイミーにセクハ…過度なスキンシップ取りがちだから、勘違いされがちだけど、一応あたしでも直球なのは恥ずかしいんですよ?
まぁウブなねんねって訳でも無いし、上に兄2人居るから見た事無い訳じゃないから、免疫はあるけどね。それに、レディコミの方が男性向け誌より、表現過激なのも多いし。
「そ、そうですね。僕の方で処分しておきます
「そう言って着服するんでしょ?
「しませんってば!!」
あたしの発言で、他の2人もちょっと顔を赤らめてしまったので、それを吹っ飛ばす意味でも、からかい気味に浩太さんを弄った。いや~良い反応しますなぁ、ジョンキュン並みにからかい甲斐がありますわ。
そんなやり取りの後、残った異世界の物を木箱に押し込んで片づけて、お茶を用意すると告げて浩太さんは、その木箱を手に持って部屋から出て行った。彼を見送った後、エイミーはあたしの隣に椅子を持ってきて座った。
「あ~疲れた
「フフッ、お疲れ様でした。何か良い物は在りましたか?
「ん、ま~ね…来なさい。」
手を翳してそう告げると共に、イメージした物が手の平に現れた。
「…それは?
「竹刀って言う非殺傷武器よ。これと木刀…木の刀があったのは正直ありがたいわ。」
説明しながら軽く素振りをして、使い勝手を確認する。流石に、自分専用の使い慣れた物とは行かないので、若干の違和感があるのは仕方ないわね。
「木の剣ですか…
「えぇ、これで何かあるたんびに、兼定を振り回さなくて済むもの。真剣だと、いちいち気を遣わないといけないからね
「あぁ、そうですよね。」
短い会話の後、素振りを止めて竹刀を再び精霊界へと送った。そしてエイミーに向き直ると、浩太さんが出て行った扉を一瞥する。
「…とりあえず、現時点で解った事を少しまとめてみようと思うの。」
扉を気にしながら、エイミーにそう告げると、彼女も真剣な表情になって1つ頷いた。
「まずだけど、精霊化しなくても武器防具の眷属化が出来る。そして呼び出す事もしまう事も可能っと
「その刀は仕舞わないんですか?
「それなんだけど…」
そう言って、自分の腰に下げている九字兼定を手に取って、『去れ』と念じてみる。
「…やっぱり駄目ね。離れた場所にあるのを、呼ぶ事は可能なんだけど…」
実際、イフリータとの試練の時に、呼んで見せたしね~
「多分、兼定とあたしが魂で繋がっているって、証明なんでしょうね
「そのようですね。私がレプリカでやったらどうなるんでしょうか?
「やってみたら?」
あたしが軽い気持ちでそう言うと、昨日渡したばかりで、あたしの真似して腰に下げている九字兼定のレプリカを、手に持って眼前に持ち上げるエイミー。けどそこで動きを止めて、どうして良いのか解らないと言った雰囲気で、困った様子であたしに助けを求めてくる。
「ここじゃ無い場所…イフリータとの試練で閉じ込められた場所をイメージしながら、『去れ』って口に出して言ってみて。口に出した方がイメージもしやすいと思うから
「は、はい…去れ!!」フッ…
「おっ
「消えましたね
「なら喚ぶことも可能って事ね。じゃぁ次、さっきあたしが喚んだ竹刀、出せる?
「やってみますね…来たれ!」
意を決してエイミーは叫んだけど、結局何も起きなかった。一応、レプリカでもう一度試したら、そっちは問題なく現れたので、所有者登録か何かが必要なのかも知れない。
「あと気になるのは、あたしの眷属のオヒメが、あたしが眷属化させた物を呼び出せるかだけど、これは流石にこの子が起きてからじゃないとね
「クスクス、そうですね。」
そう話しながら、また胸元を開けて中を確認する。そこには相変わらず、気持ちよさそうに寝てるねぼすけの姿がある。
寝る子は育つって言うけど、どんだけ寝るのよこの子は…
「まぁ、それは良いとして、眷属化出来る範囲が思った以上に広かったのよね~
「そうなんですか?
「えぇ。見た目武器な包丁はまぁ解るし、野球ってスポーツで使う道具も、見た目鈍器だからまぁ良いとして…」
そう言って、手を上に開いて在る物を呼び出した。それは、古ぼけた一冊の本だった。
「それは?
「昔の兵法書よ。これがOKなら、バトル物の漫画だってOKに成りそうな物だけどね
「兵法書ですか…ならもしかしたら、魔導書も眷属化出来るかも知れませんね
「あぁ、成る程。その考えは無かったわ…」
そう言われて納得した。武器でも防具でも無いから、さっきリストにした物からは除外していたんだけどね。
あたし的には、武器防具の精霊って認識で居たんだけど、いよいよ『戦』の精霊って感じがしてきたわね。物騒で嫌よね~理想のか弱い乙女のイメージから、どんどん遠離ってる気がするわ。
そして、それ以外にもよく解らない点が1つ…
「眷属化出来る装飾品と、出来ない物があったんだけど、この違いって何かしら?」
そう呟いて、あたしは首を傾げて考える仕草を見せた。これも、さっきのリストからは除外した項目なのよね~
装飾品だから、防具の一種と言えなくも無いんだけど、何故か眷属化出来る物と出来ない物が存在していた。その理由に、思いあたる節が無かったから、一応除外しておいたのよね。
「そうですか…それはもしかして、金や銀製品或いは鉱石や宝石の付いた物ではありませんか?
「え?えぇ…そうよ
「でしたら多分、その装飾品に使われている材料の問題ですね。銀製品やクリスタルには、邪気払いの効果がありますから
「あぁ、パワーストーンとかそう言う事か。そう言えば眷属に出来なかったのは、おもちゃみたいな物ばかりだったわね。」
そこでまたエイミーの答えに納得して頷く。こういう時、専門的な人が居るって本当にありがたいわね~
「けど、なんて言っても1番驚いた事と言ったら…
「えぇ、アレしか無いですよね。」
「「洋服!」」
何の打ち合わせも無く同じ事を同時に告げて、あたし達は思わず顔を見合わせ笑い合った。
実は昨日、色々済ませてさぁ寝ようと、着替えようとした時に解ったんだけど、あのエイミーに買って貰った、青いフリフリのパジャマを眷属化する事が出来たのだ。ついでに言えば、エイミーの色違いの方も。
まぁ、服って要するに外気から身体を護る為の防具だから、眷属に出来ても不思議じゃ無いんだけど、正直ありがた嬉しい誤算だった。
だって、これから暫くこっちで生活するんだし、下手したら世界中を股に掛けて旅するかも知れない。そんな状況で、1番嵩張る荷物って言えばやっぱり服よね。
いくらあたしが男勝りだからって、2~3着用意してずっと着回しなんてしたくないもの。って言うかむしろ、あたしが唯一女らしい部分があるとしたら、自宅の衣服の種類の多さは、自慢できるくらいのちょっとした物なんだから。
お小遣いのほとんどを、毎回洋服に回していると言っても良い位だし、妹も巻き込んで貸し借りしたり、たまに兄さん達の服だって借りてる位だった。こっちに来てからは、仕方無いから我慢してたんだから。
んで、なんでありがた嬉しいかって言うと、当然だけど嵩張る荷物を気にしないで、好きなだけ洋服を買い込めるって事なのよね~エイミーも、女の子女の子してるだけあって、服は好きみたいだから、用事が終わったら街に出て洋服屋を回ろうって話してた位だしね。
まぁ、服のセンスはちょっと違うけどね~エイミーはパジャマでも解る通り、ゆるふわかわいい系で、あたしはイメージ通りのカジュアル系やストリート系だから。べ、別に!エイミーに見せるだけだったら、ゆるふわかわいい系を着たって良いんだかんね?!(興味はある
「本当に嬉しいです。嵩張るからと思って、服はほとんど里に置いてきてしまいましたし
「けど確か、里じゃ周りの人と同じ恰好してなかったっけ?
「それはそうですよ。エルフの里のような閉じた世界では、外界の服を着ていたら悪目立ちしますからね。だから何時も部屋着としてしか着れなくって…
「エイミーも大変だったのね。しっかし便利な能力よね~不謹慎だけど、嬉しすぎて精霊になれて良かったなんて、チラッと考えちゃったわよ
「それはどうかと思いますけど、気持ちは解ります。」
 




