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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第二章 訪問編
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以降の難易度は追加コンテンツ(8)

『…今の我には、謝罪する事しか出来ません。本当に、申し訳ないと思っております。』


 暫くの沈黙の後、ようやく発せられたテレパシーに、あたしは軽くため息を吐いた後、椅子から立ち上がってエイミーの肩を叩く。それに対して、肩をビクッとさせたエイミーが、不安そうな表情のままあたしに顔を向けてくる。


「そろそろ行きましょうか。聞きたい事は聞き終わったし、今夜の宿も探さないとだしね

「ですが…はい。」


 あたしの申し出に、何か言おうとして飲み込んだ彼女は、未だに頭を下げているイリナスを一瞥した後、椅子から立ち上がって部屋のドアへと向き直り歩き出した。それを確認してから、あたしはもう一度イリナスへと視線を向ける。


「乗りかかった船だもの、協力はするわ…けど、指図は受けないからそのつもりでいてね。オヒメ、行くわよ

「うん…」


 それだけ言い残して、相手の返事も待たずに、オヒメと一緒に部屋のドアに向かって歩き出す。あたし達が近づくと、エイミーが扉を開いてくれたので、そのまま何も言わずに部屋を退出した。


「失礼致しました。」パタン…


 その後、退出したエイミーが、律儀に挨拶してから扉を閉めて、疲れた様子でため息を吐いた。


「しんどそうね

「えぇ、そうですね…でも、優姫程ではありませんよ

「無理しなくって良いのよ。」


 短い会話を交わした後、来た時と同じ長い廊下を、2人肩を並べて歩き出した。ちょうどその時…


 ガチャッ!パタン…


 後ろで扉が開く音が聞こえて、肩越しに振り返ると、ヤマト王が部屋から出てきて、あたし達に向かって近づいてくる姿があった。


「…なんのご用かしら?

「いやなに、会話に割って入る隙も無かったのでな。世間話でもしながら、私の要件をお伝えしておこうと思ってな。」


 近づいてきた彼に、眉をひそめながらあたしがそう問うと彼は、部屋で見せていた精悍な眼差しはそのままに、一国の王様とは思えない位の気軽な雰囲気で語りかけてきた。


「なにぶん、()()()()()()()()()()()()()()からな。」


 そして、さっきあたしが彼等に言って聞かせた言葉を引き合いに出して、ニヒルな笑みを浮かべて嫌みったらしくそう告げてくる。それを聞いてあたしは、苦笑を浮かべながら肩を透かして見せた。


「まずは何よりも、先ほどは愚弟が失礼したな。あれは文官としては優秀なのだが、典型的な貴族質の持ち主なのだよ

「別に、もう気にしていませんわ。化けの皮を剥いでやった事で、こちらの溜飲も下がりましたし

「そうであれば、こちらとしても助かる。あれでこの国を思う気持ちは本物であるし、民衆にも慕われておるのでな。」


 あたしの返答に、どこか安堵した様子のヤマト王。まさかとは思うけど、次あのクラマってのに会ったら、あたしが問答無用で斬りかかるとでも思ってたのかしら?


 それにしても、ヤマト王の身内贔屓ってのもあるんでしょうけど、あのThe貴族が民衆に慕われてるって言うのは意外ね~人は見かけによらないってヤツかしらね。


「それと、イリナス様の代わりに、言い訳をさせていただきたい。貴女の考えたとおりの思惑もあった事は間違いないのだが…」


 そこで言葉を一旦切って、一瞬エイミーに視線を向ける。


「…それ以上に、イリナス様が直接、この場に異世界人を召喚する事が出来ない理由があるのだよ。」


 そして、その言葉を聞いたエイミーが、思わず立ち止まって振り返った。それに伴って、仕方なくあたしも立ち止まり、軽くため息を吐きつつヤマト王へと向き直った。


「軍国の事はご存じかな?

「この世界一の大国で、邪神の軍勢との前線になっている国…だったかしら?

「その通り。そして、人種人間族のみしか入国を許されていない国でもある。同じ人種でありながら、巨人族も小人族も魔人族も翼人族さえも、入国出来ない人間族の国なのだ。」


 その説明に、あたしは眉を潜めた。軍国については、この大陸の真裏にある大陸の国だったし、初めてその国の事を聞いた時、あまり良い印象も無かったから、興味も無かったので知りたいとも思わなかった。


 更に今聞いた内容で、あたしの中での軍国って国のイベージは、更に悪くなったのは言うまでも無い。だって、いろんな種族が住むこの世界で、人間以外入国出来ない国なんて、差別主義以外無いじゃない。


 種族が多いんなら、ある程度差別みたいな事があってもおかしくないと思う。この世界の経済的な発展がどの位だか解らないけれど、地球の先進国って言われている国々にだって、未だに人種差別があるんだから、種の壁がなかなか消えてくれないのは、きっとどこの世界でも変わらないんでしょうね。


 だけどこっちの世界には、邪神の軍勢って全種族共通の敵が存在しているんだから、地球よりも他種族が手に手を取り合う為の、お膳立てだって出来てると思うんだけどね~だって言うのに、よりにもよってその最前線にある国が、差別主義だって言うんだから最悪よね。


 だけど、それ以上に不思議なのは、そんな国が邪神の軍勢との最前線を、長い間維持し続けているって言う事なのよね。戦いになれば、もちろん他種族や他国からの援軍は受けるんでしょうけど、主力である筈の軍国の兵が、種族能力値が下から数えた方が早い人間ばかりなんだから。


 魔法では精霊種の方が長けているし、身体能力では獣人種に遠く及ばない。同種内で見ても、人間族の上位互換みたいな魔人族は元より、膂力じゃ巨人族に圧倒的に負けているし、翼人種のように空を飛べる訳でも無い。


 今まであたしが話を聞いた限りじゃ、人間族の優位性を敢えて上げるとしたら、汎用である事と全種族の中で人口が1番多い事位で、悲しい事にそれ以上特筆する事が無いのよね。ちなみに、人間族よりも種族的に下なのは、平和主義の人種小人族と精霊種フェアリー族かしら。


「貴女が不思議に思うのも無理はない。なにせ、人間種は他種族から見れば、劣る面も多くあるからな。」


 あたしが眉をひそめた事に、彼は目ざとく気が付いた様子で、同じ人間族として自嘲気味に口を開いた。


「そりゃ~ね。まぁ、入国出来ないってだけで、()()()()()()()って訳じゃ無いんでしょうけど…あ、説明しなくて良いわよ?大体察しは付いたし、胸くそ悪くなりそうだから聞きたくないし。」


 そんな彼の言葉に、あたしは苦笑を浮かべながら、先回りしてそう告げる。


「それで、その軍国が一体どう関係してくるって言うの?

「それは恐らく、異世界人召喚術禁止令の事ですね。違いますか?」


 あたしの質問に対し、厳しい表情をしたエイミーが、ヤマト王の代わりに口を開いた。そしてそれがそのまま正解だったんでしょうね、その言葉に彼は首肯して肯定した。


「どういう事?

「優姫がこの世界に来た日に、少し説明したと思うのですが…この世界には、異世界人召喚術というものが存在しています。召喚術自体は、それ以前からイリナス様の手によって編み出されていたのですが、異世界人の高い身体能力に目を付けた軍国が、邪神との戦争の為の戦力増強として、召喚術に手を加えて編み出されたと聞いています。」


 また軍国か…なんだろね、あたしん中でどんどんイメージ悪くなるわね。


「確か、出来て100年もしないうちに使用禁止になったんだっけ?

「うむ。表向きは賢人議会を通して、国際法として決議した事になっておるが、実際にはイリナス様が可決させたようなものなのだよ。理不尽だと解っていても、邪神の軍勢の脅威を考えれば、どの国も戦力として戦える異世界人は、魅力的だったからな

「なるほどね。要するに禁止令を出した張本人が、進んで異世界人を召喚したってバレたら、他の国も揃ってやり始めるって訳ね

「左様。イリナス様が直接召喚されてしまったら、すぐに噂が広まってしまうからな。人の口に戸は立てられぬとは、貴女の国の諺だろう?

「あら、ずいぶん物知りなのね

「ハッハッハ。」


 気さくに笑うその姿は、一国の王とはとても思えない位のフレンドリーさがあった。まぁさっき彼も言ってたとおり、ここは謁見の間じゃないから他に人も居ないし、個人として接してくれてるんでしょうね。


「本来ならば、国賓待遇で貴女方をお招きするべきなのだろうが、そんな事をしても瞬く間に話が広がってしまうからな。最初はイリナス様に言われたとおり、貴女方がこの国にたどり着くまで、こちらから接触するつもりは無かったのだが、愚弟にその事を相談したら、迎えを出すべきだとせっつかれてしまってな

「それでああなったって訳。あからさまにあたしを利用する気満々だったみたいだけど、その考えに一考した末、あなたも乗っかったんでしょう?

「耳が痛いな…まぁ、その通りだが。」


 あたしの言葉に、彼は苦笑を浮かべつつ、いけしゃあしゃあと開き直ってそう告げる。なるほど、あのクラマってThe貴族と比べたら、懐も大きくて相当手強そうね。


「まぁ、そういった理由もあるって言う事は、素直に受け取っておくわよ。それで、イリナスの擁護をしに、わざわざ追ってきた訳じゃ無いんでしょう?

「それはもちろん。まぁこれ以上引き留めるのも申し訳ないので、歩きながら世間話でも聞くつもりで居てくれればいい。」


 そう言われて、あたしとエイミーは顔を見合わせた後、建物の入り口に向かって再び歩き出した。


「こちらの要件は、貴女方の今後の活動についてだ

「何?行動制限でも付けようって訳?

「まぁ、ある意味ではそうなってしまうだろうな。まず第1に、貴女が精霊として召喚されたと言う事は、今後公言しないでいただきたい

「それはさっき聞いた禁止令の兼ね合い?

「話が早くて助かるな、左様。いずれは公表せねば成らなくなるだろうが、そうなるまでにこちらで然るべき理由を、でっち上げておかなくては成らないのでな。貴女にはそれまで、精霊としての力を着けておいて欲しいのだ。」


 歩きながら、腕を組んで考えを巡らせる。正直、言いなりになるようで癪だけど、それで禁止令が保護されて、召喚術の被害者が増えないのなら、ここは従うしか無いわね。


「解ったわ。まぁ元々、言いふらすつもりも無いしね

「すまんな、助かる。その変わりと言っては何だが、今後の貴女方の活動資金は、我が国で負担しよう

「そこまでしていただく必要はありません。自分達の生活費位、私達で補えます

「そうは言ってもだ、生活費だけならともかく、今後異世界の武器を集めるに当たって、どうしても資金は必要になってくるであろう。この世界製の武具に比べて、珍しい分価値も高いのでな

「それは…

「ま、くれるって言うんなら貰っておきましょうよ。流石に泥棒まがいの事は、あたしだってしたくないしさ。」


 言い淀んだエイミーに対し、あたしはそう言ってヤマト王の提案を支持すると、彼女も渋々と言った感じで頷いてくれた。まぁ、これ以上関わらないようにしたいってエイミーの気持ちも解るけど、現実的に言ってお金は重要だものね。


 当面の目的の1つである、異世界の武具蒐集だけど、問題の武器がその辺にゴロゴロ転がっている訳じゃ無いもの。ファンタジー世界お約束のダンジョンなんかがあれば、遺品として落ちてる可能性もあるんだろうけど、基本的にはリンダのような物好きな人の所有物か、あるいは商品として店頭に並んでいるかのどっちかだろう。


 所有物ならどうしょうも無いけど、商品として買えるんなら買ってしまった方が話も早い。けど、ヤマト王の言う通り、この世界の人にとって珍しい物なら、コレクターのような人だって居るだろうから、当然価値だって上がってくるでしょうね。


 そんなのを、いくつも集めないといけないんだから、個人の稼ぎで賄えるとも思えないしね~借りを作りたくは無いんだけど、これも仕方ないわね。


「とりあえず、すぐに手配出来る物は既に集めてある。今日は長旅で疲れたであろうし、明日にでも迎えの者を遣わそう

「気前が良い上に仕事も早いのね。今のうちに恩を売っておこうって魂胆かしら?

「まぁ、打算がないと言えば嘘になるが…単純に、未来への投資をしておこうと言うだけだよ。何せ今まで、精霊と契約出来るのは精霊種のみであったが、その常識が覆るのであるからな。」


 そう言って彼は、目を細めて遠くを見るような瞳で、あたしを見つめてくる。


「武具を眷属として従える精霊…その眷属を多くの騎士達が手にし、1人でも多く死地から生還出来る未来が来れば、この投資も無駄ではないというものだ。」


 そう、それこそがあたし…と言うか、九字兼定に課せられた真の目的。武具の精霊として、眷属にした武具のレプリカを複数産み出して、それらを兵士や冒険者に持たせる事で、この世界の戦力を底上げさせようって魂胆なのよ。


 正直、武具の精霊って言うよりも、戦の精霊って言う方がしっくりくるわよね~まぁ、戦鬼なんて銘の付いた刀にとっては、その方が本望かも知んないけどさ。


「…まぁ、その期待に応えるつもりは無いけどね

「それで構わぬよ。こちらが勝手に期待させて貰うだけだからな。何せ…」


 その物言いはまるで、初対面の人物に向けられる期待値にしては、異常に高いような気がしたあたしは、不審に思いつつ肩越しに振り返った。そして、次に聞こえてきた単語は、全くあたしが予想していなかった人物の名前だった。


「貴女は、オウ・スメラギの血統なのですからな。」


 その言葉に、あたしは思わず立ち止まって、驚きに目を見開いていた。


「…なんで…ここで皇旺(すめらぎおう)の名前が出てくるのよ…」


 皇旺…それは、あたしの流派の武人一刀居合流の源流、武神流六芸正当伝承者に与えられる、特別な名前だった。

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