間章・目下の所異世界人ランキング1位の人だそうです
3人も居なくなった事で、急に寂しくなった室内で、イリナスは自嘲気味な笑みを浮かべながら、未だに椅子に座ったまま、外に繋がるドアを静かに見据えていた。
『嫌われてしまったでしょうか』
不意に部屋の空間自体が、微細な振動を起こして声のような音を発した。
「…なんじゃ。よもやあの娘に好かれたかったのかえ?」
そのイリナスの発した音に、彼女の後ろに控えていた全身フルプレートの人物から反応が返ってきた。その声は女性のもので、とても幼く可愛らしかったのだが、その声音とは不釣り合いな位に、古めかしい言葉遣いをする人物のようだった。
「全く。急に儂を呼び付けるから、一体何用かと思えば…儂にあの娘を見せたかったとはのぉ…」ガチャッ…
『申し訳ありませんね』『オウスメラギ』
呆れた風にフルプレートの人物がそう告げると、その顔を覆う兜を両手で掴んで外す。そして露わになったその姿は、まるで日本人形のような顔立ちをした、まだあどけなささえ残した少女そのものだった。
髪型は見事なまでに前髪ぱっつんのおかっぱ頭をしていて、大きな瞳と低めで小さな鼻に、小ぶりな口とふっくらとした頬。まるで童歌にでも出てきそうな背の低い少女が、厳めしいフルプレートを着込んでいるのだから、違和感しか感じられなかった。
そんな彼女こそ、皇旺とこの世界で名乗る人物。ギルドより白金階級を与えられた者にして、女神ラズベルの眷属、女神教7人衆の1人『希望のスメラギ』だった。
「これで、儂もなかなかに忙しい身なのだがのぉ。特に今は、フェンリルの抜けた穴を埋めねばならぬしな。」
『十分理解しています』
嫌味を込めた口調でスメラギがそう呟くと、そこでようやくイリナスは後ろを振り返って、申し訳なさそうな表情をすると同時に、再び空間を微細に動かして音を発した。
「ふん、まぁ良いさ。しかし…」
イリナスの発した音に対し、鼻を鳴らして答えた後、彼女は部屋の外に続く扉へと視線を移して目を細めた。
「鶴巻と言うたか…確か、鴻の分家にそのような名があった筈じゃったな。」
懐かしそうに呟いた後、苦笑を浮かべてため息を吐いて、肩を透かしてみせるスメラギ。
「こちらに来て80余年、よもや孫ひ孫の代を目に出来る日が来るとは思わなんだ。分家にして、あれ程の胆力があるならば、我が一族は相変わらずと言う事の様じゃな。」
そう呟いた後、急に顔を引き締めてイリナスを睨み付け、殺気さえ醸し出した上で、手にした槍を彼女へと向ける。
「納得出来ぬのは、何もあの娘だけではないぞ女神よ。よくも儂等以外の者を巻き込んでくれたな。」
幼く可愛らしいその声で、出来うる限りの凄みを効かせてイリナスに詰め寄る。しかし、返事はすぐ返ってこなかった。
「御主等、フェンリルが抜けた穴を、あの娘にさせる気じゃな?フェンリルが倒されると、事前に知っておったのだろう。」
『クロノスはそうでしょうね』『我はそこまで聞かされていませんでしたが』
「その言を信じろと?」
『信じられなくて当然だと思っています』
そこで会話は途切れ、暫くの沈黙と睨み合いが続いた。その緊張は時間にして数分も続き、不意にスメラギが槍を下ろした事で、ようやく終わる事になった。
槍を下ろしたスメラギは、不機嫌そうに舌打ちをした後、ガシャガシャとフルプレートを鳴らしながら、部屋のドアへと向かって歩き出した。
『申し訳ありません』
「謝るで無いわ戯けめ。あの娘は自身の意思で、こちらに残る事を決めたのじゃ。なら儂がとやかく言う事でも無いわ。それに…」ガチャッ
言いながら扉へとたどり着いたスメラギは、荒々しくその扉を開いた後、イリナスに向かって振り返り、その幼い顔立ちには似つかわしくない獰猛な笑みを浮かべる。
「アレも武神の端くれであるならば、何の心配も要らぬであろうよ。」




