表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第二章 訪問編
47/398

いちはじ!(はーど!)(5)

 ドゴンッ!!「きゃあああ?!」


 イフリータの放った火の玉は、ほんの少し前まであたし達が立っていた場所に着弾すると、勢いよく爆発を起こして辺りに爆炎と煙をまき散らす。タッチの差で巻き込まれたけど、エイミーを脇に抱えながら飛び出すと、地に足を着くと同時に駆け出した。


 ちなみに悲鳴は、脇に抱えたエイミーの物です。あたしがそんな、いかにも女子っぽい悲鳴なんて上げる訳無いじゃない?言ってて空しいけどさ!


「なかなか良い反応だ!そらそら、どんどん行くよ!!」


 その言葉に、チラッと後方を振り向くと、さっきよりも幾分小さな火の玉が、無数にイフリータの周りに出現して、彼女があたし達に向けて手をかざすと、それらが一斉に放たれた。


「いいっ?!ちょ、ちょっと!」ドゴンッ!「いくら何でも」ドドンッ!!「あり得ないんですけどーっ?!」ドガァンッ!!


 放たれた火の玉が、あたし達を追って迫り、すれすれの所で爆発していく。それら全てを、速度を決して緩めず右へ左へと方向を変えては、ギリギリの所でなんとかやり過ごしていく。


 けど、当たり前だけど、脇に人1人抱えてなんて、走りにくいったらありゃしない。今はなんとか躱せてるけど、これじゃハッキリ言って時間の問題ね。


 いや、違うわね…躱せているんじゃ無くて、わざと躱させてくれてるって所ね。準備運動のつもりかしら、腹立つわね~


 けど、だとしても走りにくい上に、このままじゃ余計に体力を消費するのも確かだった。チラッと脇に抱えたエイミーに視線を向けると、彼女にしては珍しく、気が動転している様子だった。


 まぁ、無理もないとは思うけどね~気持ちの整理もつかないうちに、こんな事になってんだから。


 けど、このままじゃじり貧なのよね…仕方ないわね。


「エイミー!

「は、はい!」


 意を決したあたしは、爆音にかき消えないように大声で彼女を呼んだ。そして…


「ごめん!()()()()!!

「…へ?」


 言うが早いか、脇に抱えた彼女を両手で持ち直して、ソイヤッ!と安全な場所に目星を付けて、文字通り放り投げた。次の瞬間、間の抜けた彼女の声が聞こえた気がするけど、爆音にかき消されたから、聞こえなかったと言う事で。


 放り投げた瞬間、姿勢が崩れたのを慌てて直しつつ、彼女を放り投げた方向に視線を向けると、尻餅ついてお尻さすってるエイミーの姿が確認できた。か~わいい~


 なんて、思ってる場合じゃ無いけど、ひとまずこれで動きやすくはなったわね。あと、気がかりなのは…


「あんたも、そこに居たら危ないんだから、あの子の所に行ってなさい。」


 視線を戻してそう呟いた瞬間、あたしの髪から何かが飛び出す気配を感じた。けど、そっちに視線を向けて、微精霊の安全を確認している暇は、残念ながら今のあたしには無いのよね~


 なんでかって?そりゃ、エイミーを放り投げて身軽になった途端から、イフリータの攻撃の手数が一気に増えた上に、数発に1発の割合で確実に当てにきてんだもん。


 それでも、まだまだ彼女が様子見だって言うのは、腹立たしいけどすぐに判った。こっちは割と全力疾走で、駆け回ってるって言うのにね。


 それでギリギリ回避できる感じね~こっちは常に、イフリータの姿を視界に収まるように、円を描くように走ってるんだけど…正直、向こうがその気だったら、いつでも当てられるんでしょうね。


「ほらほら!さっさと精霊化しないと、勝負にさえなんないよ!?」ドゴンッ!

「くっ!このッ!!」ドドドゴンッ!!


 イフリータの言葉の直後、至近距離で着弾して爆発が起こり、思わず立ち止まり顔を守って覆った直後、あたしを中心に4カ所で立て続けに着弾する。威力はそこまでないものだったけれど、視界は完全に覆われてしまい、下手に飛び出せない状況に陥ってしまう。


 これじゃ恰好の的だから、すぐさま動かないといけない。頭ではそう考えていたのに、何故か次の攻撃が来る様子も無かったので、視界が晴れるまで敢えて動かない事にした。考えにくいけど、相手もあたしを見失って、攻撃の手を緩めたのかもしれないし。


 と、思えれば良いんだけど、絶対無いわね。とにかく、すぐさま行動に移れるように、警戒だけは怠らないようにしないと…


 そして視界は晴れたあたしの目には、さっきまでと変わらず、周囲に炎の玉を無数に浮かべて、静かにあたしを見据えるイフリータの姿。


「…これじゃ埒があかないね。やる気あるのか?

「あら、今更それをあたしに聞くの?勿論無いわよ。いい加減、解放してくれると嬉しいんだけど

「それは出来ない相談だな。腹立たしいが、イリナスから言付かってるんだ…おまえに、オレの力を分け与えろってな

「それよ。そもそもなんで、あたしがあなたの力を受け取らないといけないのよ?精霊術ってのは、精霊種にしか扱えない物なんでしょ?」


 油断なく彼女を見据えたまま、いつでも行動できるように身構えつつ、彼女との会話を続けていく。と同時に、脳細胞をフルスロットルで回転させて、なんとか打開策を見出そうと考えを巡らせ続ける。


「それを聞いたら、やる気になってくれるのか?

「ならないわね。あたし、よく判らない他人の指図は、受けたくないのよね~面白くないじゃない?

「フン、同意するね。オレだって、相手が相手じゃ無けりゃ、こんな事したくも無いさ

「そう。なら見逃してくれないかしら?そもそもあたし、精霊化ってのしたくても出来ないのよ。ここに刀も無いし…」


 会話を重ねていき、少なくともあまり乗り気じゃないと告げる、彼女の言葉を逆手にとって、どうにかこの場所から逃れられないかと試みる。とにかく上手い事言って、どうにか1度この場所から出てしまえば、後は2度と近寄らないようにしてしまえば良いのよ。


 そう上手くいくとも思えないけれど…ね。けど、試すだけ試さないとね~


 けれど、どうやらあたしは、この局面で致命的な大ぽかを、ここに来て行ってしまったらしい…


「はぁ?精霊化したくても出来ないだぁ?それは嘘だね。」


 そう彼女断言されて、あたしは内心焦りだしていた。


 …落ち着け、まだ大丈夫な筈よ。いつも通り自分を騙しきって、相手を巻き込んで騙してみせる。


「いやいや、本当だって!何度か試したけど、あたしがこの世界に来た時に、手にしていた刀がないと、あたしは精霊化出来ないのよ!その刀を、宿屋に置いて来ちゃったの!!だから無理な物は無理だってば!」


 焦りをなるべく出さないように、努めて隠している素振りをわざと演じつつ、だけどその言葉は一切の嘘偽り無く、彼女の説得を続ける。語るは事実、隠すは真実ってね。


 相手にこちらの嘘を信じ込ませるテクニックって、色々あるんだけれど、最もポピュラーなのは、事実9割虚実1割かしらね。嘘なんて物は、ほんの小さなほころびで良いのよ。


 そのほころびを、事実で塗り固めて相手に信じ込ませる。信じ込ませてしまえば、その虚実は相手にとって事実と大差ない情報になる。


 そうしてそのほころびを、丁寧に大きくしていく…ここであたしが仕込んだ嘘は、精霊化出来ないという事柄よ。


 刀がないと精霊化出来ないのは本当よ?けれど、今すぐ出来ないかと言えば、それは…


 そして、今尚この状況の打開に向けて、思考し続けるあたしの脳細胞が導き出した答えも、それしかないと告げていた。そうだとしても、どうにかこの場は口八丁で凌いで見せないといけなかった。


 でないと、あたしの立ち位置が揺らいでしまう…いえ、違うわね。エイミーの立ち位置が、あたし以上に揺らいでしまう…が正解かしら。


 だからあたしは、彼女の為にも率先して認めちゃいけないのよ。召喚術の失敗で、こちらの世界に迷い込んでしまった、1人の犠牲者と言う立ち位置を、あたしは守らなくちゃいけない。


 でないといけない…そうしないと、一生懸命その責任を取ろうとしているエイミーが報われないのよ。


 けれど、それを守り続ける事が、果たして良い事なのか?あたしは最近、そう考えるようになっていた。


「…あのなぁ。その刀がないと精霊化出来ないって言うなら、それとセットでおまえは、『精霊』としてこの世界に顕現したんだ。なら、その刀ってのとおまえは、魂レベルで繋がってるって事だ。なら、おまえの意思で喚べるだろうよ。」


 呆れたようにイフリータがそう告げると、それまで取り繕うように演じていた仕草を消して、ため息交じりに苦笑を浮かべて、イフリータを睨み付ける。


 はい即バレ。あ~あ、やっぱ無理か~まぁ、ダメ元ついでの時間稼ぎだから、別に良いけどさ。


 そりゃバレてて当然よね。彼女はあたしなんかよりも、精霊について詳しい、精霊の中の精霊なんだから。


「なんだ。気付いてないと思ったら、その様子だと思い当たる節があるんじゃ無いか。食えない女だね…だが、それなら何の問題も無いね。」


 そう告げるイフリータから、再び闘気が膨れ上がる。それを感じ取ったあたしは、油断なく腰を沈めて重心を低く取り、いつでも動けるように構える。


「待って下さい!!

「あん?

「エイミー!!」


 まさに一触即発のちょうどその時、あたしとイフリータとのちょうど中間の位置に、両手を広げて立ち塞がる1人の姿。その後ろ姿を見て、すぐに駆け寄ろうとしたけれど、イフリータに一瞥されて動くに動けなかった。


「もう止めて下さい、イフリータ様!彼女はただの被害者なのです!!

「あぁその通りだ。おまえもそいつも、イリナスの被害者だな

「でしたら!!

「だが、それがあの女狐の…いや、クロノスの意思なのさ。無限に広がる可能性の中に、その女が…新たなこの世界の守護者として居たんだろうさ。」


 その言葉を聞いて、あたしは1人眉を潜めて思考を巡らせる。クロノスって言うのは、確かイリナスと対となる、精霊教の神様の名前の筈よね。


 イフリータの言葉を鵜呑みするなら、あたしをこの世界に召喚したのは、イリナスの仕業だけど、更にその裏で糸を引いているのは、もう1人の精霊神クロノス・オリジンだって事よね。それに守護者って…


「だとしても!!私には、彼女をこの世界に引き込んでしまった責任があります!!彼女を無事、元の世界に送り届ける責任が!!

「エイミー…」


 そう叫ぶエイミーの言葉に、あたしの心は揺れ動く。彼女の気持ちは、痛い程伝わってくるから、あたしはその想いになるべく応えてあげようとしてきた。


 だけど、そんなに気負わなくて良いんだって、もう少し楽に考えてくれても良いんだよって、本当は伝えたかった。けど、彼女の気持ちと責任感を考えると、なかなか言い出せなかった。


 言ってもきっと困らせてしまう…そう考えてしまうと、自然と出かける言葉を飲み込んでしまっていた。


 人を好きになるのに、時間は関係ないとはよく言うけれど、そうは言っても出会ってまだ7日なのよ。あれこれ構わず、ずけずけと物言い出来る程、気の許せる仲って訳でも無い…単純に怖いのよ、これ以上踏み込んでしまって、本当に良いのかどうか…


「…そうか。つまり、神の決定に背くって訳だな?

「ッ?!ちょっと!」


 不意の不穏な空気に、あたしは焦りの声を思わず上げていた。何故ならイフリータの敵意が、あたしじゃ無くてエイミーに向けられたからだ。


「ま、待ちなさいよ!エイミーはあなたの契約者でしょう?!それに、そこに居る微精霊だって、あなたの子供みたいなものなんじゃ無いの?!」


 そう言ってあたしは、エイミーとさっきのあたしの言いつけを守って、彼女の側でぐるぐる回っている微精霊を指差した。今イフリータを説得できる材料が、その位しか無いのが苛立たしいわね。


「あん?なんか勘違いしてるみたいだけど、そこに居る微精霊はオレじゃ無くおまえの子だよ。」


 と、突然の告白に一瞬フリーズ。え、あたしいつの間にママになってましたか?


 産まれてこの方、彼氏だって出来た事だって無い、ピッカピカの新品未使用なのに、出産経験が先に来るって、それなんて想像出産?無いわ~


 って、今はそんな馬鹿な事考えてる暇は無かったわ。サーセン


「初めて濃い精霊領域に来たせいで、精霊石の魔力にあてられでもして、イレギュラーに誕生しちまったんだろうな。オレの領域のせいで火属性みたいだし、オレの炎で消滅する事は無いから、まぁ安心しな。」


 そう言ってイフリータは、右手をエイミーに向けてかざした。


「契約者エイミー・スローネ。最後の忠告だ…我等精霊種の神の意に従え

「ッ!エイミー今は退きなさい!!あたしは大丈夫だから!!」


 あたしとイフリータ、それぞれの言葉を受けて、しかしエイミーは、その場から退こうとはせず、振り返ってあたしに笑顔を向けた。


「大丈夫です。優姫さんは私が護りますから。」


 そう彼女が告げると同時に、イフリータの周囲に存在する火の玉が、一斉に射出された。


「エイミーッ!!」ダッ!!

「プロテクション!!」


 彼女の名前を叫んで、地を蹴り駆け出したあたしと、顔を元に戻して魔法を展開するエイミー。その挙動はほぼ同時だった。


 一気にトップスピードに達して駆けるあたしの目に、彼女が展開した障壁に、イフリータの火球がぶつかっていく。それが2個3個とぶつかり、それが8を数えた頃、エイミーの張った障壁に大きな亀裂が生じた。


 それを見て、速く速くと念じながら、腕を振り足を上げて駆け抜ける。ほんの数十メートルの距離なのに、地平線の彼方のように感じるなんて初めてよ。


 あの子ったら無茶して!そもそも、あたしが居て召喚術が使えないのに、イフリータに敵う訳ないじゃ無い!!


 腹をくくれ!決意を固める!意地を見せろあたし!!立ち位置?そんな事知った事か!!


 エイミーを守れない位なら、元の世界に帰れなくたって良い。守護者だなんだ、そんな物に興味は無いわ。


 けれど、あたしが今まで培ってきた技術や経験は、目の前の女の子1人、守れない様ちっぽけな物じゃ無いって、証明して見せないさい!!


 だからッ!!


 ガシッ!グイッ!!「きゃっ?!」パキイイイィィィーン!!


 その細い肩を掴むと同時に引き寄せる。そして聞こえる可愛らしい悲鳴と、ひび割れた障壁が、甲高く音を立てて砕け散るのが重なった。


 そして、眼前に迫る火球を見据えて…


「来なさい!!兼定!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ