いちはじ!(はーど!)(2)
ダリア大陸南東側と、分断されたライン大陸の間に広がる、大小様々な島々から成る海洋国家が、魔神デモニアの聖地にして、魔王が統治する魔族領域、魔都トレンドと言うそうよ。
その魔族領域で、昔から暮らしていたエルフ達は、その時から暗色肌で銀髪の姿だったんだって。そして、神魔教が2つに別れた時に起きた宗教戦争の際に、その地域で神魔教を信仰していた一部のダークエルフ達が、魔神教に着いて戦争に加わったのが、若いエルフ達に少し湾曲された形で伝わっているんですって。
驚いたことに、この世界の魔族って言うのは、その魔族領域で暮らしている人間や獣人達、それにエルフやドワーフなんかも、全部ひっくるめて魔族って呼ぶそうなの。だけどそんな中で、同族から別種族として扱われているのは、ダークエルフだけなんだって。
これは、それだけ当時のエルフ達が、いかに精霊神や精霊教を神聖視していたかって事なんでしょうね~あのベルトハルトの、シフォンに対する接し方見るからに、当時のエルフ達によるダークエルフに対する差別は、相当酷かったんでしょうね。
何かと争いの中心になりがちな魔族領域なんだけど、そこで暮らす他の種族達も、共通して暗色肌と銀髪って言う、身体的特徴の差異があるんだって。特に大きな違いは、その地で暮らす種族は、他の地域で生活する種族よりも、魔力量が多い事だそうよ。
だからこの世界には、『魔術を極めたいなら、魔族領域で修行しろ。』なんて諺がある位何だってさ。あたしもそこで長く暮らしたら、肌の色と髪の色変わるのかしらね?
そんな感じで、ここ暫くはエイミーから、この世界のことについて色々と教えてもらってるのよね。聞くのは一時の恥って言うしね~
まぁ若干、目についた物を物珍しさから、手当たり次第に聞いてる感じもあるけどね~そういえば、こっちで暮らすことを決めた異世界人は、この世界のことを学べる専門の学校で、半年から最長で2年くらい、勉強しないといけないんですって。
そこで最低限の知識を身に着けられないようなら、最悪強制送還もあり得るんですって。結構厳しいのね…
そりゃ最低限読み書きできなきゃ、生活するのも大変だから仕方ないけどさ~この世界にやってきた異世界人は、言葉が通じる魔法が、誰にでも掛けられているけど、結局それは言語だけだからね。
でも強制的に召喚された人とか、最低限の知識身につかなかったら、強制送還とかとんでもない理不尽よね。まぁ、表向き異世界人召喚は禁止されてるって言うし、非公式に召喚されてたりしたら、その学校にすら通わせてもらえないのか…
「そういえば、この間教えてもらったあれって…」
「優姫さんの世界では~…」
ここ暫く、エイミーから教えてもらったことを整理して、新たに思い浮かんが疑問を口にしたり、目についた物を聞いてみたり、間々に雑談を挟んだりしながら、山道を2人並んで登っていく。あたしばかり質問しているように見えるけど、彼女からもあたしが元々居た世界について、色々聞かれる事があるので、会話のネタが尽きることが基本的に無いのよね~
そのお陰もあって、2人旅になってからも、会話が途切れて変な雰囲気になるとか、基本的に無いのよね~多分、全く会話しないのって、それこそ寝てる時くらいかしら?
自分でも結構ビックリしてるのよね、あたし元々そんな喋るキャラじゃ無いし。モノローグ激しすぎる癖にって?いやそれ、モノローグ弁慶なだけだし(笑
「あ、優姫さん。見えてきましたよ
「ん、あの洞窟?
「えぇ。」
そうやって、大体1時間は歩いた頃だった。言われるがまま、エイミーの視線の先を追って、あたしもそちらに視線を向ける。
するとそこには、山の肌にぽっかりと空いた穴が、確かに口を開けて存在していた。山の中腹って聞いていたけど、意外と低い位置にあったわね。
まぁ、その方が全然良いんだけどさ。ここからもう少し登ると、勾配が少し急になるみたいだから、その手前で着いたて良かったわ。
ここから見ただけだけど、見張りとか居ないのね~ぱっと見ただの洞窟だし。
なんて思いながら、洞窟の側までたどり着いたあたしは、入り口から中をのぞき込む。すると、少しひんやりとした空気が、中から漂ってきた。
「ん、中は意外と涼しいのね
「と言っても、外気に比べればですが。今は体温調整の魔術を使っていますから
「あぁ、そっか。」
そう言われて、今自分の周りを覆う、冷気の膜の存在を思い出した。クーリッシュと、エイミーが唱えていたその魔法は、初歩的な魔法らしいんだけど、この山を登るのには必須魔法なんだそうだ。
まぁこれだけ熱い場所なら、それもそうよね、変温動物ならともかくさ。この魔法覚えて向こうに戻ったら、クーラー必要なくなりそうで良いわよね。
ただこの魔法、効果時間がそんな長くないのよね~ここに着くまでに、2回はかけ直してたし、今もエイミーがまた呪文唱え始めたから、大体効果時間30分位って所なのかしらね。
「…勝手に入っちゃって良い訳?
「『クーリッシュ』…はい。問題ありませんよ。」
魔法のかけ直しをし終えた、エイミーの返事を待ってから、あたしは意を決して洞窟内に踏み込んだ。洞窟内は意外と広く、きっちり人の手が加わっているのが見て取れた。
地面がコンクリとかで、きっちり舗装されてる訳じゃ無いけど、ちゃんと歩きやすいように、平らにならされて、小粒の石というか砂で整備されているし、道幅も3人くらいは並んで歩けるくらい、拡張されてるしね。
洞窟と言うよりは、ちゃんとしたトンネルって言った方が良いでしょうね。壁は岩がむき出しだけど、尖ってるような部分は、一切見当たらないしね。
ただ困ったことに、トンネル内に明かりが一切無いのよね。ここまで手を加えたんなら、火を灯燭台も付ければ良いのに。
まぁ、こんな所を訪ねてくるような人は、そう頻繁に居る訳じゃないし、ここに来れるって言うことは、イコール魔法が使えるって事だからね~明かりの魔法くらい、自分で使いなさいよって事なのかしらね?
とりあえず、ここで生活しているサラマンダー達には、明かりは基本的に必要ないって事だけは間違いないわね。エイミー達エルフもそうだけど、彼等精霊種って種族は、すごく夜目が効くらしいのよね。
しっかし、トンネルの入り口から近い部分は、まだ表の光が入り込んでくるから良いんだけど、奥の方はさすがに暗くて何も見えないわ。どんどん進んで行くにつれて、視界もどんどん奪われていくことに、さすがのあたしも気持ちが臆病になっていく。
そんなあたしの手に、暗闇の中そっとエイミーの手が添えられて、見えない闇の中へと誘われるように、手を引かれて奥へと進む。
「ね、ねえ。そろそろ明かり点けて欲しいんだけど…
「フフッ、いつもは強気な優姫さんも、暗いとさすがに不安なようですね、可愛い。」
完全に闇一色に染まった視界の中で、エイミーのそんな一言を耳にして、少し顔が赤くなるのが解った。繋いだ手から、あたしの不安が伝わったのか、この闇の中で、不安な気持ちが顔に出ている所を見られたか…
まぁ、多分両方なんでしょうね。我ながら恥ずかしいわ…
「ちょ、からかわないでよ…
「フフッ、すみません。ですがもう少しこのままで進んで下さい。そうすれば、きっと良い物見られますから
「まぁ…そう言うなら。」
彼女の言葉に、未だ不安な気持ちを拭えないままだったけれど、素直に頷いて引かれるままに歩いて行く。エイミーのことだから、ちゃんとした理由が、きっとあるんでしょうね。
まぁ、エイミーを抱き枕にして、頬ずりしたり、くんかくんかしたりしてたから、その仕返しって事も、無きにしも非ずって思わないことも無いけど…
はい、やっちゃいました。テヘペロ☆我慢?何それ美味しいの??
エイミーに手を引かれて、歩き続けること10分は経ったかしら。眼も大分暗闇になれて、前を歩く彼女の背中が、なんとなくぼんやりと見えるくらいにはなっていた。
手を引かれるまま、道を直角に曲がったちょうどその時だった。
「…ん?」
それまで真っ暗だった世界に、幾筋もの赤い光が現れた。壁や天井どころか、地面の至る所にまで走るその光は、通路の先まで続いていた。
1本1本は、とても細く頼りない淡い光だけど、それが無数に枝分かれしながら、ずっと奥に続いていた。その線の先を視線で追っていくと、通路の奥に淡い光を放つ塊を見つける事が出来た。
「あれって…
「どうです?驚きましたか?火の精霊石です。精霊様が住まう地には、その膨大な魔力がしみ込んで出来た、魔力結晶が取れるんですよ。」
エイミーの説明を聞きながら、淡い光を放つ塊へと近づいていく。それはまさに、赤みがかった水晶のような結晶だった。地面から突き出るように生えたそれは、まるで息づいているかのように、淡い光が明滅して、暗闇の中に咲いている様に見えた。
「…綺麗ね。あたしに見せたかったのって、これ?」
美しい物を見て、思わず顔がほころぶのを自分でも感じながら、視線を上げて問いかけた。すると彼女は、ニコニコした表情であたしを眺めていて、思わずあたしははにかんで笑って誤魔化した。
むぅ、そんな見つめられたら、さすがに恥ずかしいじゃない。って、これじゃいつもと立場が逆ね。
「これもそうなんですが、この先はもっと凄いですよ?
「へぇ~そんなこと言われたら、ちょっと期待しちゃうわよ。」
そう言ってあたしは、再びエイミーに手を引かれて歩き出した。う~ん…ここから先は、普通に足下も見えるから、もう手を引かれなくても大丈夫なんだけど…
エイミーって、見かけからしても母性とか強そうだからなぁ~ここ入ってから、分かり易く口数減らしちゃったし、ちょっと弱み見せすぎたかしら?
でもちょっと、さすがにこのままって言うのは、あたしのキャラ的にも恥ずかしいわねぇ…あっ、恋人繋ぎにして、横に並んだ方が逆に恥ずかしくないわ。えいっ!
思ったら即実行が信条のあたしは、繋いだ手の指を絡めて握り、彼女の横に並び立った。一瞬、エイミーが不思議そうに、繋いだ手とあたしの顔を交互に見てきたので、満面の笑顔で見返した。
それに彼女も笑顔で応えてくると、そのまま何事も無かったかのように、視線を戻して歩き続ける。あれ~?
反応薄いわね、頬を赤らめてくれたら最&高だったのに。もしかして恋人繋ぎって、この世界じゃ通じない?
その可能性もあるけど、単純に同性同士なんだし、意識する訳無いか。ちょっと巫山戯すぎたかしらね~てへっ☆
「…凄いわね。」
通路に走る赤い線に沿って進むにつれて、精霊石の塊の数もどんどん増えていき、気が付けば通路全体が精霊石で覆われるまでになっていた。その光景はとても幻想的で、思わず見とれてしまう程だった。
いくら光自体は淡くても、ここまで来ればもう昼と変わらないわね。まさに水晶の回廊ね…ん?蛍?
辺りを見回していたあたしの視界に、煌々と紅く光る蛍のような物を見つけて、視線で追っていく。
「さぁ、あの先が目的の場所になります。」
ちょうどその時に声を掛けられたあたしは、蛍の存在は一旦忘れて、進行方向へと視線を戻した。するとその先は、壁で行く手が塞がれていた。
壁…と言うか、ドアかしらね。その奥から、何人もの気配を感じるわ。
「で、これどうやって開けるの?」
そのドアの前で立ち止まったて、あたしはエイミーに視線を向けつつ、疑問を投げかける。ドアノブも無ければ、引手らしいくぼみも見当たらない、一見して何の変哲も無い壁なのよね~
その壁の向こう側に、人の気配を感じなかったら、ただの壁と区別がつかないわ。中から開けてもらうにしても、分厚そうな鉱石製だから、叩いて中の人に気付いてもらえるのかしら?
「えっとですね、これは私達精霊種にしか、開けられない作りになっているんです。こうして手を扉につけて…」ゴゴゴゴ…
「わっ!」
そう言ってエイミーが、扉に手をついた瞬間、重い音を響かせながら、行く手を阻む壁が横滑りに動き出し、中からさっき見た蛍の群れが、無数に飛び出してきた。それにビックリしたあたしは、思わず目を閉じて顔を覆っていた。




