間章・パジャマでおじゃまパーティーナイト♪
「ふぁ…ぁふぅ…
「ふふ、おっきなあくびね。」
時間は過ぎて、時刻は後の4時…なんて言っても、1日30時間のこの世界の、時刻を確認した所で、いまいちピンと来ないわよね~
時期にもよるけど、元の世界じゃ大体5時6時位が夕暮れ時だから、そこから大体5時間位、体内時計で経ったと思うから、元の世界の感覚で言うと、大体夜の10時~11時位って所かしらね。
あたし達は今、カタンの街の中にある、宿屋の一室に場所を移して、身体を休めていた。あのルカさんの、殺風景な執務室とは違い、室内には観葉植物や、アンティーク調のテーブルセット、そして部屋の中央にドドンっと置かれた、セミダブルサイズのベッドがあった。
そのベッドの上で、あたし達はパジャマ姿でくつろいでいた。目の前で、足を崩していかにも女の子らしく座るエイミーは、ゆったりした感じのピンクが可愛いふわもこ系のパジャマに身を包み、眠たそうにトロンとした瞳を、手でこすっていた。
極めつけが、普段ピンと立ってる彼女の耳が、今はくにゃっと垂れてるんだもん。心なしか、甘い良い匂いまでするんだもんな~
畜生!犯罪レベルで可愛いじゃない!!あ~もう、ハグしたい!チューチューしたい!!くんかくんかしたいッ!!
えぇ~い、落ち着けあたし!単なる可愛い物好きのライトオタ子が、これじゃ犯罪予備軍じゃ無い。とりあえず深呼吸よ、ひっひっふーひっひっふー(違
まぁ、心の叫び(?!)はさておき、可愛いって言うか、女の子らしいって言うのは、見てて羨ましいのよね。あたしなんて、言われてモノノフらしいだからね(笑
今も、エイミーさんが用意してくれました、彼女と色違いのパジャマを、気恥ずかしながら着ているんですが、あたしは今、ベッドの上で何故か正座ですからね。なして敬語かって?彼女の圧倒的女子力に、完全に打ちのめされてしまいましたからね!うわ~んっ!
家が古武術やっているせいか、椅子以外の座り方って、家族全員基本正座なのよね~だから、折角エイミーが用意してくれた、ふわもこパジャマも、なんか違和感あるのよね~あ、ちなみに色は水色系ね。
なんかあれね、今の彼女見てたら、ロップイヤーのうさぎを思い出したわ。あたし、うさぎの中じゃロップイヤーが一番好きなのよ。
やっぱ、あとで隙を見つけて抱きつこう。どうせこの後、同衾するんだし、ウフフフフ…
仕方ないわよね?あたしの琴線に触れる、エイミーの可愛さがいけないんだもん。ほら、昔からよく言うじゃ無い?
可愛いは正義!!(•̀ᴗ•́)و ̑̑ぐっ
「…どうかしましたか?
「うぅん、何でも無い。」
思わず握りこぶしを作っていたあたしを見て、彼女は不思議そうに首を傾げて聞いてくる。あたしは、すぐに握りこぶしを解いて、笑って誤魔化した。
ハッハッハ、いつも通り態度に出ちゃいました。いつもいつもサーセン。
そろそろ本題に入れって?デスヨネー
ルカさんの執務室を後にしたあたし達は、ギルド内にあったあの食堂で、昼食をとりながら、今後の方針を話し合っていた。とは言っても、どうするかは、村を出る前からある程度決めてあったから、その準備の為の確認だったんだけどね。
予定では、この街で旅に必要な物を調達してから、明日には次の目的地に向けて出発する予定だった。向かう先はカザンウェル山、そこに火の精霊イフリータと、その眷属達が住んでいるんだそうだ。
そこでまずは、エイミーが最初にあたしを召喚した時に、召喚する筈だった火の精霊に、話を聞こうって事になっていた。そこに行けば、今あたしとエイミーの間に繋がっているという、魔力パスをどうにか出来るかもしれないし、あたしが変わりに召喚された理由も、イフリータが知っているかもしれない。
まぁ、確実に魔力パスをどうにか出来るのは、精霊神イリナスだろうから、まっすぐ女神の居るという、帝都ヤマトに向かっても良いんだけどね~どう考えても、そんな重要人物、そんな気軽に会える筈無いからね。
だから、まず最初に火の精霊に会いに行こうって事になっていた。どっちにしろ、ヤマトに向かう通り道に、そのカザンウェル山もあるそうだから、二度手間にも成らないしね。
そのカザンウェル山は、馬車で大体2日の距離があって、歩くと結構な距離だから、あたし達は当然乗合馬車に便乗する予定だった。あたしのギルド登録と、エイミーの冒険者復帰申請も、問題なく済んだから、盗賊団の報奨金も出たことだしね。
ただ、結構な距離もあるし、その次の帝都ヤマトも、カザンウェル山から更に4日は掛かるから、無駄遣いは出来ないのよね~あたし、替えの服どころか、生活必需品だって何も持っていないし、食料も買わないといけないじゃない?
だから今も、お金の節約のために、2部屋やツインじゃなく、セミダブルで安い宿屋を、ギルドで紹介してもらったのよ。あたし、元の世界じゃ妹と同じ部屋だったから、そういうの全然気にしないし。
兄妹が多いとどうしてもね~上2人の兄達も、一番上が1人暮らし始めるまでは、同室だったし。最近は無くなったけど、つい半年位前までは、妹と同じ布団で寝たりもしてたし。
…先に言っとくけど、気が付いたら妹が、あたしの布団に入ってきてたんだからね?妹毒牙に掛けてないから!むしろ逆だから!!
「ふわぁ…
「…そろそろ寝ましょうか?」
ふたたび大きなあくびを漏らしたエイミーに、あたしはそう聞きつつ、床の準備をいそいそとし始める。
「…ですが、優姫さんはまだ眠くないのでは無いですか?」
すると彼女は、眠たそうな目をこすりながら、そう返してきたので、あたしはその手を止めて、思わず苦笑を浮かべて肩をすかして見せた。
実を言うとあたしは、ギルドで宿を紹介してもらったすぐ後、そのまま仮眠を取っていたのよね~日用品とか、着替えとか、必要最低限購入する予定だったんだけど、ちょっと色々辛くてね。
女の子の日とかじゃ無いわよ?単なる時差ぼけなんだけど、これが馬鹿にならない位、結構酷いのよね~
考えれば至極単純な話だけど、元の世界1日24時間の世界から、突然30時間の世界にやってきたんだから、当然と言えば当然よね。こっちに来て、まだ4日しか経っていないんだもの、まだ身体もその感覚に慣れてる訳無いわ。
特にあたしの場合、体内時計が結構しっかりしているから、どうしても元の世界との差異で、体調不良を起こしてるみたいなのよね~昨日の道中も、そんな感じだったから、早めに切り上げて休ませてもらったのよ。
今日も、宿屋を決めて買い物に行こうってタイミングで、ちょっとめまいを感じたから、2時間位仮眠を取らせてもらったの。お金が掛かるけど、馬車を利用する事にした理由も、この時差ぼけが理由なのよね。
買い物は、申し訳なかったんだけど、エイミーに全部任せちゃったのよね。んで、彼女が選んでくれた寝間着がこれです。
あたしが仮眠しようと思って、皺になっちゃうから袴と長着を脱いで、下着で寝ようとしてたら、慌てて買ってきたのよね~女の子がはしたないって言われたわ、アハハ~
女子力足んなくてサーセン。一応、家じゃTシャツとホットパンツは、着けて寝てたけどさ。
「別に気にしなくて平気よ。あたし、割と寝付きは良い方なの。部屋が暗くなったら、自然と眠くなるから大丈夫よ
「そうですか?…ふみゅ…
「はいはい、無理しなくて良いから、サッサと横になっちゃいなさい。」
あたしに併せようと、健気に眠気と戦っていたエイミーは、いよいよ限界が近いようで、こっくりこっくりと船をこぎ出していた。あたしは、そんな彼女を微笑ましく思いながら、その身体をベッドに横たえて、布団を首元まで掛けてあげる。
「それじゃ、電気消すわよ?
「ふわぁぃ…」カチッ
彼女の返事を待ってから、部屋の中央の天井からつり下がった、電球状の照明器具のスイッチを切る。そう、驚いたことに、この世界には電気が存在するのだ。
エルフの里は、月や星の明かりと、でか蛍の光があるから、夜でも割と不便ない位明るいから、必要なかったんだて。あと、エルフは夜目もそれなりに利くんですって。
けど、基本的に大きな街では、今の主流は電気なんですって。少し前までは、ガス灯なんかもあったらしい。
それを聞いて、まさかと思って聞いてみたんだけど、どっちも異世界人の技術者が、こっちの世界にやってきて時に、提供してくれた技術なんですって。それを踏まえて考えると、こっちの世界にもたらされた、異世界の産物って、あたしが思っている以上に多いのかもしれないわね。
ちなみに、この世界の電気っていうのは、あたし達の世界とは、少し毛色が違うみたいなのよね~あたし達の世界じゃ、発電所で電気を作って、それをケーブルで各地に送電してたから、町中至る所に電線が張り巡らされていた。
けど、この街に電線なんて、1本も張られていなかった。じゃぁ、どこで発電してんの?って事になるんだけど、そもそも発電所なんて物が存在してないのよね。
この世界には、発電所で電気を作るよりも、もっと手軽に発電する方法があるじゃ無い?つまり、それが魔法なのよ。
雷系の魔法を、どうにか電気として利用出来ないかって、その異世界人の技術者は考えたそうなのよね~んで、見事雷魔法を蓄電させて、エネルギーとして利用する技術を開発したって訳。マジゴイゴイッス~
電気を消したあたしも、エイミーの隣に潜り込み、布団を首元まで掛ける。けど、そのまま目を閉じても、すぐには眠れそうに無かったので、少し彼女の寝顔を眺めていようと思い、横向きに身体を整えた。
「おやすみ、エイミー…
「ん…優姫さん…
「ん?
「お昼のこと…気にしないで下さいね…」
不意に彼女は、眠たそうに薄目を開けながら、あたしに向かってそう言ってくる。お昼のこととは、リンダが言っていた、勧誘とか戦争とかの話だと言うことは、あたしにもすぐに解った。
「えぇ、気にしてないわ。ありがとう
「なら…いいんです。おやすみなさい…
「えぇ、おやすみなさい。」
そう言って、エイミーは目を閉じた。その後すぐに、寝息が聞こえてきたから、相当眠かったんでしょうね、悪いことをしちゃったわ。
あたしは、そんな彼女を見つめながら、その額に掛かる前髪を、指ですくって整えながら、さっき彼女に返した答えとは、真逆の事を考えていた。
そうは言っても…なのよね。
戦争だ何だって言われても、ピンと来ないのが正直な所だった。元の世界でだって、もちろん戦争はあったけれど、あたしにとってそれは、テレビの向こう側の世界の出来事で、自分の身の回りでは起こりえない、縁遠い物だと思っていた。
実際、そう思って日々を過ごしている人が、きっと大半だと思う。日本だって、テロリストの標的になる可能性が、あるって言われてたこともあったけれど、それを想定して準備をしていた個人なんて、はたしてどれだけ居たんだろう?
少なくとも、あたしもあたしの家族も、一番上の兄以外は、そんな事今まで考えたことも無かったわ。古流武術を伝える家系だって言うのにね。
ちなみに一番上の兄は、正義の味方を地で行く人なのよね。職業も自衛隊員だし。
ま、それはともかく、あたしにとって戦争だ何だって言われても、現実味がないのよ。実際おかしな話よね?武術っていう、戦の為に発展してきた技術を、伝承していたとしても、それを実践する為に、習っていた訳じゃ無いんだから。
正直、今まで培ってきた物が、実戦で通用するのかっていう興味はあるわ。けど、昼の時も思ったように、家族も友人も知らないような場所で、みんなに気づかれること無く死んでしまう様な、不幸者にはあたしは成りたくないのよ。
けど…
「すぅー…すぅー…」
静かに寝息を立てるエイミーを見て、くすりと笑いながら、心の中で謝罪する。
こうして出会ってしまった、知ってしまった、触れてしまった…たった4日だったけれど、人を好きになるには、十分な時間よね。
もしも、この世界で出会った彼女達が、危険を顧みず戦争に赴くとしたら…それを知りながら、あたしは元の世界に帰れるだろうか?
「…平和って、尊い物なのね。」コツン…
「うぅん?…すぅー、すぅー…」
そう呟いて、あたしはエイミーの額に、自分の額をくっつけて目を閉じたのだった。