やぁやぁ我こそは、異世界の剣道小町、テヘペロ☆なりぃ〜(2)
さぁ!それじゃ踊りましょうか!
気持ちを切り替え(切り替えないとやってらんないしね)、あたしは斜めがけのベルトから、両手でナイフを抜き放ち、眼下に広がる男達に投げつける。
あたしが何故、一見逃げ場の無い空中に踊り出て、わざわざ見つかる様に声を張り上げたのか?もちろんそれは、ちゃんと考えがあってこそだ。
まず第1に、日が完全に登った今なら、太陽を背にして相手の視界を奪う事が出来る。かつ、あたしは逆光を気にせず、飛び道具があれば一方的に攻撃が出来るからだ。
そして第2に、人間の視界って、瞳が横長な分、左右の動きには強く対応出来るけど、上下の動きには弱くて死角も多い。それを利用しているから、忍者の動きなんかは上下の動きが多いらしい。
なんか狡いとか、卑怯とか思うかもしれないけど、圧倒的な戦力差を覆すには、戦術や戦略を駆使しないとね。結局、少数精鋭なんて聞こえは良いけど、圧倒的質量には無力なんだし。
ドスッ「ギャァ!」
ドスッ「グワァッ!」
次々とナイフを抜き放ち、狙いすまして投げ続け、盗賊団と思われる男達の、太ももや肩に突き刺していく。これでも、弓道やソフトボール部の助っ人なんかしてて、コントロールにはちょっと自信あるのよね〜
最近は兄の影響でダーツなんかもしてたし、ナイフ投げはその感覚で、どうにかなると思ったのよね。ぶっつけ本番だったけど、女は度胸!ってね。
捕まったエルフに、何本か掠っちゃったり、気にしたら負けよね、うん。馬鹿の足に刺さっちゃったけど、それは本気で気にしない!
「チィッ!」カァンッ!
太陽を背にしたあたしのナイフ投げに、全く対応出来ないでいた、盗賊団の男達の中で、明らかに1人他とは一線を画す男を見つける。多分、間違いなく、こいつが元騎士って奴ね。
そう思うと同時に、音を殺して着地する。出来ればここで、相手の意表を突いて、油断した所を一気に仕留めたい。その為には…
「あたし、参上‼︎悪いけど、本当〜〜〜に不本意だけど、そのおっさんを助けに来ました!」キラッ☆
考えうる限り、悪ふざけ満載満載の登場シーンを演出する。ウィンクに横ピースいえ〜い!
「…はぁ?ッ⁉︎」
予想通りの反応を見せた、元騎士と思われる男に、一足飛びに飛び掛かる。左手でロングソードを抜き放ち、それまで男が居た空間を斬りあげるけど、その剣筋は虚しく空を切っていた。
チッ、いけると思ったんだけどなぁ〜無理にロングソードで攻撃しないで、兼定で攻撃していれば、今ので決まってたのに。
「テメェ何者だ?ふざけやがって。」
そう呟いて、油断なく手に持っている剣を構える男に、あたしは不敵な笑みを浮かべて、もう必要のなくなった皮ベルトを脱ぎ捨てる。
「あら、待ってくれるなんて意外と紳士なのね。それとも怖気付いたのかしら?」
あたしの挑発に、男は眉を少し動かしただけだった。
反応無し…か。これは、本当に少し厄介かもね。
男の反応を見て、あたしは彼を評価して、ロングソードを正眼に構えた。相手の出方を伺う為に、わざと隙を見せてみたんだけど、どうやら相手は、思った以上に場数を踏んでいる様だった。
「質問に答えろ、誰だ貴様
「あぁ、ごめんなさい?うちの世界じゃ、悪党に名乗る名前なんて無いのよ
「ッ!例の異世界人か。」
あたしの言葉に、彼の顔が卑しく歪み、闘気が全身にみなぎっていくのが分かった。ま〜怖い。
「わざわざ出てきてくれるとはな…お前等囲め!」
それを合図に、手近にいた盗賊団達が動き出し、あたしを取り囲む様に包囲する。男達の数は6人で、その中にはナイフを突き立てた、エルフ達を取り押さえていた男達の姿もあった。
ちらっと見ると、エルフ達の見張りは、足をナイフで刺されて動けない男が1人だけだった。
俯瞰して見ていたジョンの話だと、表に出ていた人間は10人。櫓の2人は倒したし、外の見張りが1人居たはず。今ここにいる人数で、間違いない様ね。
もっとも、小屋の中にも捕まっているエルフ達が居る筈だし、その見張り役が何人かいると考えるべきだでしょうね。そいつ等も出てきてくれると、楽なんだけどね〜
まぁ、出てこないなら仕方無いので、さっさと思考を切り替えて次に備える。ある程度時間を稼げば、エイミー達の援護が始まる筈なので、それを悟られない様にしつつ、援護が始まれば、一気に攻めに出られる様にしておきたい。
「…手負いの部下を、随分遠慮なく使うのね。あなた達可哀想ね、とんだブラック企業に就職しちゃって
「何を訳の解らない事を言っている?自分のおかれた状況が解って無いのか?」
そう言われて、あたしを取り囲む男達に、視線を巡らせつつ警戒する。と言っても、6人中3人は手負いで、あたしからしたら人数に入れなくてもいいかなと思っているんだけど。
まぁそれでも、手負いの獣ほど怖いものは無いと言うし、一応警戒は怠らない。まぁ1番警戒しないといけないのは、この元騎士の男で、その次が小屋の中に居るだろう仲間に、魔法使いが居る場合と、なんらかの飛び道具を構えている場合だろう。
今まで見聞きした限り、この世界は剣と魔法の世界の様だけど、近代兵器である銃や、異世界物で良くある魔法銃が無いとは言い切れないしね。個人的にはガンソードとかめっちゃ欲しいです!もちろん、ソード部分は刀キボンヌ。
「もちろん。解ってるわよ?あなた達も、ちゃんと解っているんでしょうね?
「はぁ?何を言っていやがる?おい!予定通り、先行した奴等に合図を送れ!
「おお!」
あたしの言葉に訝しがる様子も無く、元騎士の男は、囲いを作っていた男の1人に、そう言って指示を出した。それに応えて、踵を返して、何処かに向かおうとする姿を見て、口の端を釣り上げて笑う。
男達を警戒する為、視線を巡らせた時に、あたしは勝利の女神の姿を、しっかりと目に捉えていたのだ。同時にそれは、あたしがこれ以上時間稼ぎをする必要が無い事を示していた。
ヒュンヒュン!
「ギャッ!
「ウワッ!
「な、何⁉︎」
風切り音と共に、何本もの矢が男達目掛けて飛来して、男達は明らかに動揺を見せる。それを合図に、あたしは踵を返して、まずは背後の男達に狙いを定めて駆け出した。
「だから言ったでしょ?あたしがなんで1人で飛び込んだのか、ちゃんと解っているんでしょうね?って。まさか、そこの捕まってる可愛そうな人達を囮にして、その隙に侵入してたとでも思っていたのかしら・・・ねっ!」ブォン!
ドカッ!「ゲフッ!」
言いながら、背後の敵との距離を一気に詰めて、プロ野球選手も真っ青なフルスイングよろしく、ロングソードの腹で男の胴を目掛けてブン殴る。防御が間に合わず、お腹にモロに食らった男は、為すすべも無く簡単に吹き飛んでいった。
ふっふっふ、さっきも言ったけど、ソフトボール部の助っ人に良く駆り出されてたからね!フルスイングならお手の物よ!
え、ならロングソードよりも棍棒でいいじゃないって?いや無かったし、棍棒は乙女が振るう様な物じゃないでしょ?テヘ☆
「ソーイ‼︎」ブォン!
バキッ!「ギャァー!」
「ソーイッ‼︎」ブォンッ‼︎
ガツンッ!「グオッ!」
同じ要領で、左右の男達にもフルスイング。右の男はガードした腕の上から、左の男は甲冑を着込んでいたけど、構わず胴をぶっ叩く。下手に頭を狙っちゃうと、今のあたしの力じゃ、簡単に首が吹っ飛びかねないしね。
それに、胴を狙う分には、細かく狙いを絞る必要もないから楽だしね。今のあたしは、自分の身体能力を、十全に使いこなせる自信がないから、単純な力技で攻めるなら、ある程度雑な戦法の方が良いのよね。
「ッ‼︎」
一気に3人吹っ飛ばして、もういっちょと思った瞬間、不意に背後から殺気を感じ取って前方に跳ぶ。着地と同時に身体を捻り、手にしたロングソードを振るう。
ガインッ!「貴様!やってくれたな‼︎
「あら、ようやくお怒り?少しはいい顔になったじゃないのっとッ!
「チィッ!」
あたしがロングソードを振るった先に、元騎士の男のロングソードの斬撃が重なり、甲高い音を立ててぶつかり合う。そのまま鍔迫り合いの形に持っていき、力任せに男を弾き飛ばした。
やっぱり思った通り、元騎士とは言っても、素の身体能力はあたしの方に分があるみたいで、簡単に押し返す事が出来た。だけど、それはあくまでも素の状態での話で、この世界にはスキルと言う、特殊技能があるから、それだけで油断する事は出来ない。
「優姫さん!」ヒュンヒュン‼︎
「邪魔だ!」バキバキッ!
エイミーの声と同時に、側に控えたエルフ2人が、構えた弓からそれぞれ矢を放つ。それを男は、声を荒らげて易々とロングソードで叩き落とした。
「エイミー‼︎こっちは任せて良いわ!それよりもそこに転がってる馬鹿と、他のエルフを解放して、小屋の制圧をして頂戴!
「えぇ!解りました‼︎
「クッ!させるッ⁉︎」ガンッ‼︎
あたしとエイミーの会話を聞いて、忌々しそうに声を上げて、そっちに向かおうと動き出した男に、あたしは一瞬で間合いを詰めて、ロングソードで斬り掛かり、それを男が受け止めた。
へぇ、今のも併せてこれるんだ。なかなかいい反応してるわね。
完全に意識がエイミー達に向いていて、これで決められるかもと思ったんだけど、結果は男をこの場に押し留めただけだった。これは少し、コイツの評価を上げる必要があるかもしれないわね。
ちらっとあたりに視線を向けると、表に出ていた盗賊団の男達は、ほぼ制圧が完了している様子だった。あたしが3人倒したし、予定では外の見張りも、エイミー達が突入する際に倒しておく手筈だった。
残りの3人も、腕や足に矢が刺さって無力化出来た様だし、いよいよ残っているのは、元騎士の男だけの様だった。もちろん小屋の中にもまだ居るだろうけど、差し当たっての脅威は、この男だけだろう。
ここまで奇襲が上手くいくとは思わなかったわね〜ま、結果的にだけど、あの馬鹿が先走ってくれたおかげもあるんだけどね。
「ねぇ、一応聞くんだけど、降伏してくれないかしら?もうあなた以外、あらかた片付いたと思うのよね
「あぁ?何言ってやがる。異変に気が付いたら、先行させた仲間が
「来ないわよ。あたし達の仲間が、そいつ等の相手してるんだし。」
あたしの一言に、いよいよ余裕がなくなったのか、忌々しそうに顔を怒りに歪めて、あたしに対する殺気も膨れ上がっていく。それを、抵抗と判断したあたしは、呆れ気味にため息を一つ吐いた。
「あらそ。ならあなたの相手は、あたしがしてあげるわ。」