間章・モブの扱いは何時だって酷い。
三度舞台は変わり、そこは森の中に造られた、小さな集落の中。3メートル程ありそうな囲いの中に、5軒程の家と物見櫓が建てらている。
そして、その集落の中心は開けた広場となっていて、数十人の男達が集まっていた。
「くそ!エルフが攻めてくると踏んでたが、この程度とはな。おい!潜伏している奴等を、全員エルフの里に向かわせて見張らせろ‼︎異世界人を逃がすな‼︎
「はい!」
そう言って、偉そうに手近の男に号令を送る、黒髪の若い男。年の頃は30位で、ボサボサ頭に無精髭を生やした、体格の良い人間族の男。
その身体には、防具はほとんど装備されておらず、その変わりとばかりに、腰に幅広なロングソードを佩いていた。彼こそ、この集落…もとい、盗賊団の頭領だった。
「えぇい!クソッ‼︎離せ人間共め‼︎」
ふと、広場の端が騒がしくなり、頭領はそちらへと向き直る。その先には、7名のエルフの男達が、縄で縛られてどこかに連れて行かれそうになっていた。
その中の1人は、エルフの隠れ里の長、ベルトハルトだった。
「ったく。お目当ての異世界人は出てこないわ、思っていた以上に釣れた獲物は少ないわ、上手くいかねぇな。冒険者ギルドも動き始めて、大規模な討伐隊が動くという噂だし、この辺りが潮時か…」
そう呟いて、頭領の男は、捕らえられたエルフ達の元へと歩いていく。
「おい、おまえ。大人しくしていろ。そうすれば、命だけは助けてやる
「うるさい黙れ!下等種族が‼︎さっさとこの縄を外さんか!
「その下等種族に、とっ捕まった間抜けはお前だろう。ったく、何があったか知らんが、たった7人程度で攻めてくるなんて、どう考えても間抜けだろう。」
呆れた様に、頭領の男はベルトハルトを見下す様に見つめる。その瞳は、まるでゴミを見る様な眼差しだった。
「…おのれ、忌々しい人間共めが。」
そう呟いて、ベルトハルトも負けじと睨み返す。その瞳もまた、ゴミを見る様な眼差しだった。
「気にいらんな。おまえ…自分の立場が分かってないのか?
「ふんっ!そうやって粋がっていれば良いわ‼︎どうせ貴様等はもうお終いだ!
「あ?どういう事だ。」
ベルトハルトの言葉に、眉をひそめて聞き返す。それに対して、ベルトハルトが口の端を歪めて、嫌な笑みを浮かべた。
「今朝方、里に金と銀の冒険者が現れたのさ!これで貴様等もおしまいだ‼︎」
その言葉に、盗賊団の男達に動揺が走る。金と銀の冒険者ともなれば、彼等が束になったとしても、勝てる相手ではないからだ。
「落ち着け!今すぐそいつ等が攻めてくる訳じゃないだろう‼︎…おまえ、馬鹿か?そんな情報を晒せば、俺達が逃げ出す時間を与える様なものだろうが。」
混乱する盗賊達を、一喝して落ち着かせると、ベルトハルトの方へと向き直りそう告げる。その瞬間…
「全くね‼︎
「何ッ⁉︎」
頭上から響いた声に、その場に居た全員が頭上を見上げる。そこには、太陽を背に大きく羽ばたく様な姿をした影が目に写った。更にその次の瞬間。
ドスッ「ギャァ!」
ドスッ「グワァッ!」
羽ばたく影から、細長い物がいくつも飛来し、盗賊の男達の肩や太ももに突き刺さる。それは、簡易な作りのナイフだった。
「チィッ!」カァンッ!
頭領の男は、舌打ちしつつ、腰に下げたロングソードを引き抜き、飛来してきたナイフを叩き落とした。と同時に、頭上から音もなく地面に着地した。
それは、袴姿の黒髪の女性で、長い髪を頭の後ろで結わえた、鶴巻優姫その人だった。
「あたし、参上‼︎悪いけど、本当〜〜〜に不本意だけど、そのおっさんを助けに来ました!」キラッ☆