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【改題】嶋左近とカケルの心身転生シンギュラリティ!  作者: 星川亮司
二章 激突!武田vs徳川 三方ヶ原の戦い
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91明智光秀の算段(佐近のターン)

「内蔵助殿、これは、どういうことにござるか」


 現代の高校生、時生カケルと魂が入れ替わった嶋左近が、斎藤内蔵助利三(さいとうくらのすけとしみつ)へ噛みついた。


「どうも、こうもないわ! 未来から来たと申す、怪しいガキの言葉なぞ誰が信じると申すのじゃ、隣に居るのは、まっこと北庵月代。しかし、明智殿の腹の内をどこで聞きつけたのか知っておる、まったく用心してかからねばならぬ」


 松永久秀が、目抜き窓へ顔を近づけて、


「これは織田信長への手土産になるよい娘であったが、ワシと、明智(あけち)日向守(ひゅうがのかみ)光秀(みつひで)殿の秘密を知ったからには、生かしてはおけぬ……だが、ワシの女になるというならば命を助けてやらんでもない。どうじゃ?」


 松永久秀は目抜き窓から手を差し伸ばして、月代の長い髪を触った。


「きゃ!」


 月代は、汚らわしい物にでも触れられたかのように、身を引いて、左近へ飛びついて助けを求めた。



 松永久秀は、肩眉を、ピクリと”くの字”につり上げた。


「夫である嶋左近を裏切って間男と駆け落ちしておるのを、ワシが、手討ちになるところを命は助けてやろうというておるのにまったくバカな女だ」


 すると、左近が、松永久秀へ


「松永殿、織田信長殿へ帰参を果たされる存念ならば、この月代じゃのうて、お手元の城にある家宝の茶器、九十九髪茄子(つくもがみなす)や古天明平蜘蛛(こてんみょうひらぐも)を献上あそばせばよい」



 松永久秀は髭をさすって、


「ほう、九十九髪茄子か、平蜘蛛のどちらかか……それはのう……」


 思案する松永久秀に、明智光秀も頷いて、


「それならば、信長様も、きっと、帰参をお許しになるであろう。ちょうどこないだ信長様は、茶入れを滑らせて割ったと申して居った。九十九髪茄子がよろしかろう」


「九十九髪茄子か……」


「ここは、きっぱり信長様へ献上されよ」


「しかしな、九十九髪茄子は一国の価値があるしのう……」


「これ、弾正殿、欲が過ぎるぞ。茶器を偲んで命を散らしてはなにもならんわ。諦められよ」


「わかった。後日、日向守殿へお預けもうす」


「それが、よろしかろう。だが、しかし、こやつらをどうするかじゃが……松永弾正殿ならどう裁かれる」


 明智光秀の問いかけに、松永久秀は、醒めた目をして、


「男は、殺すしかなかろう」


「ほう、ならば月代はいかがいたす」


「月代は女なれば、日向殿、そこもとの妾としておいて生かしておけばよろしかろう」


「いや、ワシは、松永弾正殿と違うて、女は妻の煕子(ひろこ)一人と心に決めておる。松永弾正殿のように好色にはなれぬ」


「日向殿は、まったくもって堅物じゃのう。確かに、煕子殿の父、妻木(つまき)広忠(ひろただ)は、明智家の重要な親族衆ゆへ、妻の煕子殿を無下にはできなかろうが、今は乱世じゃ、自己(おの)が家臣じゃのうて、ほれ、有力な織田家の重臣の柴田勝家(しばたかついえ)、林秀貞(はやしひでさだ)佐久間信盛(さくまのぶもり)、丹羽長秀(にわながひで)、いいや、これから攻略を命ぜられておる、丹波の波多野(はたの)秀治(ひではる)らから娘御をもらいうけ、織田家での地固めをしたり、外の敵を懐柔して、下剋上の布石を打てばよろしかろうものを」


「謀反はワシには向かぬ。それに、ワシは織田信長という男に心酔しておるんじゃ」


「ほっほっほ、信長の目の届かぬところで、今は敵であるこのワシとつながっておいて、よくぞ白々しいウソをおっしゃる。日向殿は、織田信長が天下を統一さえしてしまえば、後は鎌倉幕府を開いた源頼朝(みなもとのよりとも)の例の如く、執権、北条(ほうじょう)時政(ときまさ)よろしく、主家乗っ取りを企んでおるのだろう。どうじゃ?」


 辛辣な松永弾正の詮索に、明智光秀は、キラリと輝く真っすぐな目を向け、首を振った。


「いいや、ちがうぞ松永弾正殿。ワシは、心の底から織田信長へ心酔しておるのじゃ。この日ノ本(ひのもと)を治める器量がある男は、天下広しといえど織田信長をおいてどこにも居りはしない」


「そうかのう? 中国地方を治める毛利(もうり)輝元(てるもと)はどうじゃ?」


「毛利は祖父の謀聖(ぼうせい)毛利元就(もうりもとなり)ならば天下も望めたが、後継の輝元は二十歳じゃ若すぎる」


 では、関東を治める北条氏政(ほうじょううじまさ)はどうじゃ?」


「あやつは、相模(さがみ)(神奈川県のこと)の獅子(しし)と恐れられた父、北条氏康(ほうじょううじやす)には遠く及ばぬ凡夫じゃ」


「ならば、越後(えちご)(新潟県のこと)の龍、上杉謙信(うえすぎけんしん)はどうじゃ?」


「あやつは、引きこもりじゃ」


「では、現在(いま)三河(みかわ)(愛知県の東部のこと)の徳川家康(とくがわいえやす)を攻める甲斐(かい)(山梨県のこと)の虎、武田信玄(たけだしんげん)はどうじゃ」


「あやつならば、天下を望める器量であったが……」


「あったが?! なぜ、言葉を濁すのじゃ」


「武田信玄はもう長くない。松永弾正殿、お主は、ほとほと悪運が強い男じゃ。武田と徳川の戦が静まってからでは、お主の帰参は叶わなかったぞ」


「どういうことじゃ?」


「すべてはいえぬが信玄はもう長くはないということじゃ」



 明智光秀と、松永久秀の話を聞いていた、左近は、光秀の「信玄はもう長くない」との言葉に目を見張った。


 左近は、光秀のこの言葉に、かつて左近も参戦していた武田と徳川の歴史、三方ヶ原の戦いの陣中で総大将の武田信玄が突然病に倒れた裏に、織田信長と、この明智光秀だけが知る何かの策が隠されていた事実を、現代の高校生、時生カケルの姿で転異して初めて知ったのだ。





 つづく




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