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【改題】嶋左近とカケルの心身転生シンギュラリティ!  作者: 星川亮司
二章 激突!武田vs徳川 三方ヶ原の戦い
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87左近、近江国坂本城下へ身を寄せる(現代、左近のターン)

 現代の高校生、時生カケルと魂が入れ替わった戦国武将の嶋左近は、どういうわけかゲームの戦国時代にカケルの姿のまま逆戻り、松永久秀の襲撃に合い、一緒に戦国時代にやって来た北庵月代は、久秀に囚われた。


 松永久秀は、捕まえた月代を貢物として織田信長へ再び寝返る作戦。しかし、月代を届ける道中、山賊に襲われた。混乱のどさくさ紛れに左近は月代を救出し、そのまま身を隠した……。


 ――南近江。


 琵琶湖から大阪湾へ流れる大川、淀川を登って千石船が、西面の湖畔の入り口、坂本へ乗り付けた。


 菅笠を目深に被った侍が、若い娘を伴って降りてくる。


「さあ、着きましたぞ。ここが織田家家老の明智光秀様が領国、坂本にござるぞ」


「ありがとうカケルくん」



 ここ坂本は、先頃、織田信長が焼き討ちした比叡山延暦寺の寺領で、領内では、信長に対する反感が渦巻いている。信長は、そんな領国経営の難しい土地を明智光秀に与えた。


 しかし、ここ坂本は、交通の要衝である。琵琶湖を伝う水路と、平安時代、遣唐使で中国へ渡り先端の仏教を学んできた天台宗の開祖、最澄から始まる比叡山延暦寺の門前は、京都へ入る白鳥道と山中道が通じ、琵琶湖の幸を京都へ商う街道となっていた。


 信長は、ここを新興の家臣として頭角を現してきた明智光秀へ与え、人心の掌握と、町の復興、比叡山の抑えとした。


「これが、天下に名高い坂本城であるか」


 左近は、月代を連れて、知己ちきのある明智光秀の家老、斎藤利三さいとうとしみつを訪ねた。




「なに?! 利三殿は、ワシを知らぬ会ったこともないと申すのか!」


 左近は、そう言って、門番に追い返された。


「仔細は、色々あって、詳しくは話せぬが、ワシは正真正銘、嶋左近にござるぞ」


「何を申す、若造が、お主なぞ、武勇で知られる筒井家の嶋左近で有るはずがない。どうせ、明智様の名声に取り入ろうとする輩に違いない。シッシ! 帰れ、帰れ」


「いや、門番殿、ワシは姿かたちこそ違えど、正真正銘の嶋左近にござる。どうか、利三殿へ取り次いで下され。話せば、利三殿なら分かって下さる」


 門番は槍の背で左近を押し飛ばした。


「うるさい、帰れ!」


「いや、そこをなんとか」


「しつこいぞ、若造!」



「なにを揉めておるのだ」


 と、そこへ、城内から大手門を潜って、駕籠が乗り付けた。中から、紫の法衣を纏った高僧の姿をした男が顔を出した。


「おお、これ良い所へ起こしになりました。まこと、こやつが筒井家の家臣、嶋左近殿ならば、同じ筒井家の慈明寺じみょういん順国じゅんこく殿が知らぬ訳はござりますまい。どうか、こやつめを一目見聞下され」


 慈明寺順国は、左近の顔を、この場合は、正確には、現代の高校生のカケルであるのだが、一目見て、


「知らぬ」


 と、残して駕籠を走らせた。


 門番は、「ほれ見よ」と、でも言いたげに、後は、左近を槍で追い返すのに終始した。



 坂本の港から、琵琶湖を望み左近と月代が石に並んで座り、力なく、湖岸をたどり、遠くに見える安土城を眺めている。


「月代殿、ここまでで山賊から奪った路銀を全部使うてしもうた。なんとか知己のある斎藤利三殿に掛け合い路銀を借りようと思うたが、ここまでじゃ」


「カケルくんごめんなさい。ワタシが、もう歩けないってわがまま言う、から船に乗ることになって、大事なお金を使わせたわね」


「どうせ、奪った金じゃ、それは、構わぬのじゃ。しかし、どこかで、月代殿を匿う場所を見つけねば、いつ、また、どうして、松永久秀の手の者に襲われるやも知れぬ」


「ごめんなさい、ワタシが足手まといで……」


 月代は、俯いて泣き出した。


 オロッ、オロッ。


 左近は、こうした場合どう対処してよいかわからない。


 とりあえず、子供をなだめるみたいに、月代の背中へ手をおいて、視線を合わせて、


「構わぬ。月代殿、お主は悪くない。悪くない……」


 と、声をかけるのが精一杯であった。



 と、そこへ、


「お主か、ワシを訪ねてきた嶋左近を名乗る若造は」


 左近が、振り替えると、供も連れず、一騎で駆けて来た、馬上の斎藤利三がいた。


 斎藤利三は、さすがは、西美濃にしみの(岐阜県)三人衆と呼ばれる、城持ち武将の稲葉一鉄から明智光秀が引き抜いただけのことはある。額も広く理知に富む精悍な面持ちで、切れ長な視線も鋭い。髪はザンバラで後ろで簡単に白ひもで束ねただけだ。


「おお、いかにも嶋左近にござる。お久しぶりにござる斎藤内蔵助利三殿」


「ほう、内蔵助と言う、ワシの官職を知っておると言う、ことは、お主、ただの若造ではないな」


「左様にございます、内蔵助殿。仔細は複雑ゆへ語るのは難解にござれば、省かしていただきたいが、ワシが、正真正銘、嶋左近にござる」


「ほう、姿かたちが違っても、そなたが、嶋左近だ。信じよと申すか?」


「左様にござる」


「しかしな、ワシも今や、明智家の筆頭家老の身、おいそれとは信用する訳にはゆかぬ。お主が、嶋左近だと証明する証拠はないのか」


「それならば簡単、ワシと一手、手合わせ下され」


「いや、それはならん。そなた敵対する浅井朝倉の残党やもしれぬ素性がわからぬ間は、武のやり取りは控えよう。それ以外のことはないのか?」


「ならば、明智家の秘事を少しばかり、お耳を拝借……」


 左近が、なにやら、斎藤利三に耳打ちした。


 すると、サッと利三の顔色が変わった。


「お主、どこでその秘事を?」


「正真正銘、嶋左近であるからにございます」


「うむ、しかし……」


 と、斎藤利三は、一瞬、顔を曇らせたかと思うと、いきなり抜刀して、左近に斬りかかって来た。


「明智家の秘事を知るものを生かしてはおけぬ。真の盟友、嶋左近ならいざしらず。その名を騙る不届き者、この斎藤利三が刀の錆にしてくれるわ」


「あいや、待たれよ内蔵助殿」

(なにか、なにか、ワシを正真正銘の嶋左近だと証明する物はないか……)


「うるさい、そこに、なおれ!」


「あぶないカケルくん!」


 斎藤利三にあわや切り殺されそうな左近を庇うように身を挺して、月代が割って入った。


「ムムッ、その顔は、左近の妻、北庵月代殿でははないか?! これは……」


 斎藤利三は、月代の顔を見るなり、目を見開いて、刀を鞘へ納めた。


「わかった。お主が嶋左近である確証はないが、月代殿はまことに月代殿である。まずは、話だけでも聞いて見ようか、ワシの屋敷までご同行あれ」




 つづく




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