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【改題】嶋左近とカケルの心身転生シンギュラリティ!  作者: 星川亮司
二章 激突!武田vs徳川 三方ヶ原の戦い
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79松永久秀の二つの顔(現代、左近のターン)

 信貴山城の主、乱世の梟雄と呼ばれる裏切り、裏切り、下剋上を重ねる松永久秀であるが、神事仏事を欠かしたことがない。


 起床すると、夏でも冬でも、水を頭からかぶって身を清め、肉を嫌った精進料理をつつく。そして、規律正しく領国経営の政務を日暮れまで勤めて、夜は夜で水をザブンとひっかぶり身を清めてから床に就く。酒に溺れ夜更かしなどもってのほかだ。


 そうしておいて、イザ、戦となれば、誰より貪婪どんらん(ひどく欲深い事)に、殺し、奪い、貪りつくす。


 比叡山延暦寺焼き討ちに悩んでいた信長をそそのかしたのは、この松永久秀だ。久秀の寺の焼き討ちには前例がある。奈良の東大寺大仏殿の焼き討ちだ。一度、仏に背くも、二度背くも、罪と罰、死んであの世で罰を受ければよい。極楽浄土など戦、殺生を生業としたからには、最初はなから地獄行はとうの昔に決まっている仏罰をなにを恐れることがあろうか。


 そんな神も仏も恐れぬ久秀であるが、一歩戦を離れ、日常に戻れば誰より高潔だ。


「殿のお考えはわからぬ」


 対局の行動によって、心の内が読めない男それが、松永久秀だ。



 明日に、朝護孫子寺の蜜虎大僧正による施餓鬼法要が執り行われる。


 その日、政務を終えた久秀は、朝夕の水浴びの日課を終え獣肉を嫌った精進料理を食べ終え、広い床の間へ来ると、天井から薄紫の蚊帳が寝床を隠して吊るされている。


(これは?!)


 蚊帳を潜ると新調された寝床が一畳敷かれている。


 部屋には、甘く誘惑するような香木のかぐわしい匂いが漂っている。


(今日はその日か……)


 すると、奥の襖が、スッと引き開けられ、老女の侍女が現れた。


「殿、先の戦で捕らえた娘の床入りの準備が整いました」


 久秀は、血圧が吹き出しそうな戦場においては、目に入る人間を巨人のように頭から貪り食うような、貪婪な男であるが、日常の久秀は、これ以上ない程の聖人君子だ。


 明日に法要を控えた前夜に、女を抱くような床入りなど乗り気じゃない。


 しかし、この床入りの仕立ても、この老女の務め、自己おのれの我がままのために、この老女の仕立てと手間を思うと久秀は、申し訳ないようにも思う。


「うむ、わかった。女を連れて来い」


「かしこまりました」


 老女は下がって、純白の寝巻を着せた月代を連れてきた。


 この日に、あわせて久秀への粗相がないようみっちりと仕込んだのだろう月代は、これからこの男に抱かれるというのに、礼にかなったつつましい所作で三つ指ついて頭を下げる。


 それを見た久秀は、どしどしと野性的に近づいて、いきなり月代のアゴに手をあてがい顔を見た。


「娘、名をなんと申す」


「月代にございます」


 久秀は、月代の自己を律して、心を保ち、久秀という、男に心まで飲み込まれないよう必死で抗っている。


「月代、震えておるな。ワシが怖いのか」


「いえ、殿様は怖くはありません」


 久秀は思案するようにアゴの髭をシャクって、


「ならば、なにを震えておるのだ」


 すると、そばに控えた老女が、口を挟んだ。


「月代は、生娘にございます」


 久秀は、珍しい物でも見るように、月代を、目を向いて見つめた。


「まだ何色にも染まらぬ娘であったか」


 久秀は、身を乗り出して、月代と額を合わせんばかりに顔を近づけた。


「ほほう、よく見れば、なかなかの器量だ。しかも生娘だ。これは、使えるやも知れぬな」


 すると、久秀は、月代から身をひるがえして、


「だれや、高山右近を呼べ! 」


 と、右筆ゆうひつ(文書係)の高山右近を呼びつけた。



 すぐさま家来に呼び起された高山右近は、久秀に、何やら耳打ちされた。


「殿、誠にござりますか?! 」


「誠じゃ。武田信玄は時期に死ぬ。おそらく、京への上洛は叶わぬだろう。そうなれば、信長包囲網は空中分解じゃ」


「あの武田信玄が死ぬとは確かなのでありますか? 」


「ああ、確かじゃ。よもや一族一門の者からの情報じゃあやまりはあるまい」


「しかし、先ほど裏切った織田に再びつくとは正気の沙汰とは思えません」


「今は乱世じゃ、この世に頭角を現す者に正気な者などあるまいて、しかも、此度は、生娘の贈り物つきじゃ。信長はダメでも、信長の重臣、木下藤吉郎あたりに女をちらすかせればスグにワシの帰参きさんを承諾するであろうよ」




 ――翌日。


 空に月が浮かぶ、まだ明けきらぬ早朝に、朝護孫子寺の閉ざされた勝手門から、文を持った小僧が信貴山城へ向かって駆け出していった。


 それを、境内の井戸水で頭から水浴びをする左近が見送った。


(はて、こんな時間から使いとは……)


 左近は、不思議には思ったが、それほど心には止めず、精神を清めるため、冷たい水を頭から引っかぶり水行すいぎょうに務めた。


 と、そこへ、蜜虎大僧正が起きてきた。


「左近よ、幼き頃と変わらぬな」


「幼き頃に、蜜虎様に教えられたように、戦で、人の命を殺める武士もののふは、日常は、仏門に伏し、殺めた人間の御霊を弔って生きねばなりません。そして、心は、無用な殺生はせぬように誰より清らかな慧眼けいがんに務めねばなりません」


「左近よ、良き心がけじゃ」


「すべて、蜜虎様に教えられたことにございます」


「うむ、そろそろ、朝餉あさげ(朝食のこと)の支度じゃ、久しぶりに、ワシを手伝わぬか? 」


「蜜虎様は大僧正になっても朝餉の支度に立たれるので?! 」


「そうじゃ、大僧正と言っても、坊主は坊主じゃ、坊主に上も下もありゃせんよ。しかし、そんな、ワシを嫌っておるものも少なからず居らぬ訳ではないが、わはっは~」


「蜜虎様には敵いません。左近も久しぶりに小僧に戻ったつもりで、ご一緒に朝餉の支度にかかります」


「そうじゃ、つもりが大事じゃよホホホホホ~」



 つづく

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