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【改題】嶋左近とカケルの心身転生シンギュラリティ!  作者: 星川亮司
二章 激突!武田vs徳川 三方ヶ原の戦い
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64家康に過ぎたるもの……。(戦国、カケルのターン)

 何をグズグズしておる、ワシが申したのは本多忠勝のような小物首ではないわ! 狙うは大将、徳川家康の首! 駆けよ! 風よ! 林よ! 火よ! 山よ! あの金の扇の船を狙うのだ!!」


 と、山県昌景は自ら口に咥えた矢を弓につがえて、金扇の徳川家康目掛けて放った。


 昌景の放った矢はピュ―と一直線に、家康の乗る小舟の扇を射ち落とした。


「ひいい」


 家康は、霧の晴れた天竜川の対岸に怒涛のように迫り来る赤の軍団に腰を抜かした。


「ひひぃぃぃぃい! 退却じゃ! 退却! これ、何をしておる船を戻さぬか!」


「あれが徳川家康じゃ、あやつのの首を獲った者は恩賞は思いのままじゃ、者どもかかれ!!」


 と、山県昌景は二の矢を放った。


 シュパン!


「ひひぃぃぃぃい!」


 昌景の放った二の矢は、家康の兜のシダの前立てを射ち落とした。


「これは、いかぬ!」


 山県昌景の狙いの確かさを知った本多忠勝は、正面の嶋左近ことカケルと槍を交えながら、配下の梶勝忠、荒川甚太郎、中根正照に指示を飛ばし、ズズッ、ズズッと陣を動かして、赤の軍団と、徳川家康の間に立ちはだかる。


 本多忠勝は、正面に、嶋左近と槍を打ち合う。


 忠勝の配下の梶勝忠は、左近配下の、青鬼、菅沼大膳と、荒川甚太郎は、赤鬼、菅沼正忠と、細身の中根正照は、女武者の山県虎と凌ぎを削りよく防いでいる。


「ええい、本多忠勝一人に何を手間取っているのだええい、ここはワシに任せて、左近お主は、家康の首を獲れ!」


 と、大将の山県昌景が、カケルと入れ替わりで本多忠勝へ槍を放つ。


「おう、これは大将首、山県昌景のお出ましか、我ら本多隊も、狙うは山県昌景の首一つ!かかれ!!」


 疾風怒濤の赤の軍団の足が止まった。


 後に、戦国最強と謳われる本多忠勝の奮戦により、家康の命脈は繋がったかに見えた。



 いや、まだだ。


 愛馬、霧風に跨った嶋左近ことカケルが、一騎掛駆けに追撃している。


「かかれ! かかれ!」


 本多忠勝の配下と槍を交えていた赤鬼青鬼、菅沼父子も、山県虎も、”林”の沈着冷静、孕石源右衛門はらみいしげんうえもん、 ”火”の石火電光”昌景の娘婿の、三枝昌貞、”紫電一閃”、広瀬景房の両大将に入れ替わり、家康を追撃するカケルへ加わった。


「ひひぃぃぃぃい! ワシはまだ死にとうない」


 家康は武具も脱ぎ捨て逃げ出す始末。


 ジリッ!


 ジリッ!!


 ジリ!!!


 風の軍団の追撃が家康へ迫る。


「そこにおるは徳川家康と見た! 我こそは山県昌景が配下、嶋左近! 徳川家康あきらめてそこへなおれ!!」


 疾風のごとくカケルが、愛馬霧風とともに、愛槍、大千鳥十文字槍を徳川家康に放った。


 グサッ!


 肉を突く鈍い衝撃が、カケルの槍に伝わった。


「虎松!」


 カケルの槍の穂先にはまだあどけない小僧武者、松下虎松が身を犠牲にして家康を庇ったのだ。


「ああ、ああ、ああ……」


 はじめて人を刺したのだ。カケルは自分が人殺しになる恐怖に襲われた。


 カケルは、いままで、岩村、田峯、作手亀山、長篠と、たくさんの戦場を体験してきたが、皆に助けられ、幸いにして、人の命を奪うことはなかった。


 現代に、生きる人間は、食らう肉、牛や、豚、鶏さえ自分で殺したことがないのが当たり前だ、人が命を奪うということは、悲鳴をあげ、涙を流し、血を流す。残酷な痛みと向き合うことだ。


 人はそれを自己(おのれ)が体験して初めて痛みを知る。


(このままでは目の前で人が死んでゆく……)


 カケルはそう思うと、頭の中を駆け巡っていたドーパミンが一気に冷めるのを感じた。




「おい、左近! しっかりしろ、嶋左近!」


 次の瞬間、カケルが意識を取り戻したのは、追いついた山県虎に肩を揺すられて、起こされた時だった。


「左近よ、家康はどうなったのだ?」


「……家康」


「そうだ、家康の首だ」


 “ハッ!”


 我に返ったカケルは、目の前に広がる戦場の斬撃をイメージしたのだが、足元には、自己が殺したはずの松下虎松の死体もない。もちろん、家康の首もない。しかし、手には徳川家康のシダの前立てを握りしめていた。


「左近よ、お主、家康を見逃したのだな」


と、山県虎が冷たく言い放った。


「いいや、そんなつもりは」


「いいや、左近、父上の作戦にはお館様同様に一点の隙もない。万が一にも、作戦に従えば、家康を討ち漏らすことなどないはずじゃ。左近、お主、これは軍法ものじゃぞ」


「え?!」


「覚悟しておけということじゃ」





 ――その夜、勾坂城を奪取した山県昌景が軍議を開いた。


 この席には、合流した山県昌景と並び称される馬場信春も列席していた。


「さてもさても、驚くべきはあの徳川の本多忠勝と申す武者の働きじゃ」


「おうおう、見て居ったぞ山県殿、あやつ、武田家最強の赤備えの精鋭部隊を相手に一人で奮戦しおって、とうとう”疾きこと風の如く”と謳われるお主の足を止め居ったのう」


「面目ない次第にござる」


「いいや、山県殿。あやつの奮戦ぶりは尋常にあらず。もしやするとあの本多忠勝とか申す武者は鬼神の生まれ変わりやも知れぬぞワハハ」



 と、そこへ、山県虎に促されたシダの前立てを握ったカケルが現れた。


「おお、左近よ戻ったか」


 と、山県昌景が盃を差し出した。


「父上、実は」


「うむ、家康めを取り逃したのか」


「左様にござります」


「左近めが、目前で打ち漏らし……」


「待て、虎よ、それ以上、言うな。それ以上言えば、小物の本多忠勝めを討ち漏らしたワシも責め腹を切らねばならなくなる」


「そうだ、こんなところで山県昌景を失うわけにはいかん」


「うむ、美濃の守殿のありがたいお言葉いたみいる」


「そうじゃのう。この戦は、家康めに過ぎたるものが二つあった」


「ほう、それは?」


「唐の兜に本多平八郎忠勝! と、いうことだ」





 つづく


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