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【改題】嶋左近とカケルの心身転生シンギュラリティ!  作者: 星川亮司
一章 疾風! 西上作戦開始!
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58山県昌景の策(戦国、カケルのターン)チェック済

 奥平信昌は、10名の手勢を引き連れ、武田家赤備えの山県隊が消えた設楽ヶ原へ登った。


「やはり武田は去ったのか……」


 と信昌が胸を撫で下ろした時である。


「セイヤー!」


 掛け声とともに、背後の林から、一陣の風が吹き抜けた。


 小柄な侍は、赤い甲冑をまとい顔を隠すように仮面をかぶり、朱槍一本を携え、信昌めがけて突っ込んで来る。


「たった一騎ごときでなにするものぞ、迎え撃て!」


 信昌が声をかけるやいなや、赤い甲冑の男の槍が飛んできた。


「ヤヤヤッ!」


 信昌は身構える余裕もなく斥候の早足の駿馬から落とされていた。


 キリッ!


 赤い甲冑の侍が、信昌の首に鍵槍を据えた。


「名のある武将と見た。名はなんと申す」


 信昌は、口をへの字にして抵抗した。


 赤い甲冑の侍は、朱槍を一回り旋回させ、ブンッ!と信昌目掛けて振り下ろし、兜を弾き飛ばした。


 信昌も、覚悟を決めてやり返す。


「ワシも誇り高き侍じゃ、覚悟は出来ておる、殺すなら殺せ!」


「ハハハ、弱き男のくせに笑わせる。お主のような弱虫など殺したところで、刀のサビにしかならぬわ。イイだろう、逃がしてやる」


「ワシを逃がすのか?」


「そうだ。逃がしてやる」


「ワシを逃がすとはなぜじゃ?」


 赤い甲冑の侍は吐き捨てるように応えた。


「お主のようなへっぽこ侍の首をとったところで自慢にならぬわ」


「逃げてよいのだな」


「かまわぬ。とっとと尻を捲って長篠城へ逃げよ」


「礼は申さぬぞ」


「そうだな。一応、名前だけは聞いておこうか」


「ワシは作手亀山城の城主奥平定能の嫡子、信昌じゃ、お主は?」


「ワタシは……」


 と、赤い甲冑の侍は、仮面を脱いだ。


 すると仮面の下から、長い黒髪の美しい女が現れた。


「ワタシは山県昌景が娘、山県虎だ」


 奥平信昌は、馬にヒョイッとまたがり、


「山県虎か、覚えておこう。次会う時は戦場じゃ。さらばだ」


 と、馬腹蹴って遁走した。



 馬首を返して虎が、設楽ヶ原の後背の林に引き上げて来た。それを大将の山県昌景が馬首を並べて出迎えた。


「父上、これでよかったのですか?」


「そうだ、これでよい。まあ、見ておれ長篠城は面白いことになるぞ」




 ――長篠城


 長篠城へ斥候へ出た奥平信昌が戻った。


「信昌殿、殿がお呼びだ」


 戻った信昌は、すぐさま、城兵に槍を向けられ捕らえられた。


 信昌は、城兵に両脇を抱えられ疑り深い目を向ける城主の菅沼昌貞の前に突き出された。


「なにを致すのだ離さぬか!」


 菅沼正貞は、信昌へ疑り深い視線をむけて問いかけた。


「よう戻ったの信昌殿、さて、武田に捕らわれてどのような交換条件をエサにここへ戻ったのじゃ?」


「なに?!」信昌には城主の菅沼正貞の問いかけは寝耳に水だった。確かに、武田の山県虎に力及ばず一旦は捕らわれた。だが、山県虎は信昌を弱き男として解き放ったのだ。


 話の本題にたどり着かないと見た城主、菅沼正貞の叔父満直が割って入った。


 満直は、後ろ手で抵抗のできない信昌の首元へピシャリと扇子をあてがい、まるで、返答次第では、その首打ち落としてやらんようだ。


「いいかの信昌殿、お主と武田の赤備えのサムライとのやりとりは、場内の物見矢倉から逐一見させてもらった。真っ当なら、お主はあの場で討ち果たされてしかるべき身じゃ。それがどうして無傷で舞い戻れたのじゃ、そこには、武田と奥平の密約があるのであろうよ」


 と、ズバリと切り込んだ。


「なにを!」評定へ列席している作手亀山の奥平貞能をはじめ家臣団が一斉に立ち上がった。


「これが武田の狙いか!」奥平信昌は痛感した。もともと、作手亀山の奥平と、長篠の菅沼は同じ山家三方衆として、田峰の菅沼家と3家合わせて徳川へ仕えているとはいえ、領地が隣り合う独立独歩の国人領主である。


 台風で川が氾濫すれば治水をめぐって争い。飢饉にあえば、隣り合う村で食う米をめぐって争いが起きる。元々、争いはしても協力する関係にはないのである。


 それが、この度の武田の襲来で、作手亀山を放棄して奥平が兵糧と共に長篠上へ逃げ込み、協力して武田へ当たる打ち合わせのない作戦だ。どだい机上の空論、上手くいくはずもないのである。


 だが、奥平と長篠の菅沼は目の前の敵武田に恐怖して手を結んだにすぎない。話が1つこじれれば仲違いするのが烏合の衆の骨頂である。


 長篠城内で、味方同士が疑心暗鬼になり菅沼家と奥平が睨み合い、まさに、一触即発の事態である。


 と、そこへ、城門を守る足軽が駆け込んできた。


「殿!引き上げたと思われた武田の兵が突如沸き上がり、この長篠城を一もみの勢いで取り囲んでおります」


「なに?!」


 長篠城にいる者すべてが武田の疾風の如き赤備えの将、山県昌景に手玉にとられたのだ。


 武田の強さ、中でも赤備え山県昌景の名前は敵味方問わず、近隣に響き渡っている。それが、城を取り囲み恐怖させたと思うと、明くる日には姿を消した。ホッとしたのも束の間、こんどは長篠城へ疑惑の種を撒き、内部に疑心暗鬼を生んだ。そこへ、ここぞとばかりに城を取り囲んだのだ。


「山県昌景にしてやられた!」


 と、信昌が思ったとき、


「急報でございます。武田家より嶋左近と申すものが降伏勧告の使者で来ております」





 つづく

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