51受験勉強のタクティクス(現代、左近のターン)チェック済み
東京の医大を目指す現代の高校生、時生カケルと魂が入れ替わった戦国武将の嶋左近は、受験勉強のやり方が分からない。ましてや、足りない偏差値を上げないといけない。
左近は、奈良の街で偶然見かけた月代と男子大学生とのデートを目撃し尾行する。
追ってみたら、月代のデートの相手は従兄の医大生、北庵春陽であった。
成績の飛躍が必要な左近は、春陽から渡された名刺に記された電話番号へ連絡する。
プルルルル……。
「あ、もしもし、北庵春陽さんの携帯でしょうか? はい、こないだ奈良でご迷惑をかけた月代さんの幼馴染みの時生カケルです……」
突然の左近の電話に春陽は快く対応した。
目的の受験勉強のやり方は、YouTubeの春陽のチャンネルへ上げてるのでそちらを見て欲しいとのことだ。他に、困ったことがあったら個別に相談に乗ると請け負ってくれた。
左近はパソコンを立ち上げYouTubeの春陽のチャンネルを開いた。
壁一面の書籍の山に囲まれた部屋に、カウンターテーブルに立ってパソコンをパチパチ叩きながら、視聴者の質問に答える対話形式の番組だ。
春陽は知的にシャープなスクエアメガネを掛けて、紺のジャケットにピンクのシャツをビシッと着て、見るからに清潔で信頼できる雰囲気だ。
左近は、春陽のチャンネルを第一回から順番に見て行く。
”春陽チャンネル”
「はい、春陽チャンネル第一回の放送は……」
春陽の口舌は鮮やかだった。第一回の放送は、ゆとり教育でもてはやされた”ほめて育てる"勉強法をイキナリ科学的に否定した。
ほめる手法はモチベーションを上げて、勉強への継続意欲を生む。しかし、この方法には欠点があって、解らない難問にであったら結局打つ手無しなのだ。
効果のある勉強法は、ほめるのではなく、もちろん、弱点を補強するでもない。勉強のプロセスを肯定し、その上で、適時、次の目標へ向けてのアドバイス、手法を指導するのだ。
「な~んだよ。ほめて育てる手法と同じじゃないかよ」
確かに、どちらも勉強をしている学生を肯定するのは同じであるのだが、ほめる手法は自己鍛錬への意欲を、プロセスを肯定する手法は効率的な成長をピンポイントに育てる。
左近は、毎日、春陽のチャンネルを見た。あわせて左近は、YouTubeにある受験勉強へ役立つ番組を乱見した。さらに、左近はメモをとる。
メモ帳の左右のページの右に、事実を書く。左に、事実を踏まえての打開への工夫を考える。
例えば、この「疾風怒濤!~嶋左近~」をメモに取ってみる。
まずは、目的は紙の本の出版化。しかし、人気が出ない理由を考えて見る。
右
ライティング技術が脚本的で読みにくい→サイトの人気作品の技術を取り入れよう。
読ませる技術が未熟→そもそも、時代劇特有の小難しさが受けない理由かもしれない。
ネット小説にはそもそも時代劇に馴染みのない世代しかいない→高齢者が見るネット小説投稿サイトを探してみる→無ければ立ち上げたらどうだろうか?
など、思いつくままに列挙してみた。
左近は、受験勉強以前に、学びの仕組みを体感的に分かったつもりになっていただけで、技術的に体系化していなかったのだ。
左近は、勉強法を改めた。それは、戦国時代に織田信長がそれまで戦国最強と言われていたヒット&ウェイの騎馬隊を近ずけさせずに打ち殺す鉄砲隊を組織して立ち向かったように、学校の授業を教師の言うままにノートへ書き写し記憶する勉強法から、自分の理解できなかったポイントは何なのかを明確にし、教師へ的確に質問して克服する。
そうやって、左近は、受験勉強の戦術を立案した。
(受験勉強も戦の一端じゃて、どうせ戦するのなら、ワシは負けるのは性に合わん)
学校で、放課後の月代との図書館での自習で、帰宅後の春陽チャンネルで、朝に、夕に、夜に、左近は頭に詰め込めるだけの知識を詰め込んでいった。
「カケル、最近変わったわね。目がギラギラしているわ」
と、左近は、トーストへトマトのスライスをのせのび~るスライスチーズを重ねて、トースターでカリッと焼き上げた朝食を、母、清美に渡され心配の声をかけられた。
清美にしてみれば、稼ぎのいい医者になんてならなくてもいい。稼ぎが少なくても医者ならなんだっていい。と、現金な下心でせっせと応援している。
「お兄ちゃん、また、ワタシの靴下履いて行こうとしてる」
妹の清香は、勉強へ集中するあまり、夢うつつで、日常が心もとなくなった左近の聞いていずやのチグハグになってゆく行動を心配している。
(なんて、兄思いのやさしい妹なのか……)
「お兄ちゃん、医者になった暁には、百倍にして返してね♡」
と、かわいらしく母同様に下心を先行投資しているところも抜け目がない。
左近は、受験勉強邁進、夢現の足取りで通学し、帰宅の途へつく。
シュー!
「カケル先輩あぶない!」
パッカ~ン!
左近は、魂がここにあらず現を抜かして歩いているから、校庭からサッカー部の後輩の蹴ったミスキックを避けられずボールを頭へうけて倒れた。
つづく