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頼むから自重してくれ

「私の……ですか?」


ユークリッドは目の前の箱を前に目を瞬く。そこに納められているのは黒いローブ。意味がわからずに首を傾げた自分を前に上司は悪戯が成功した子供のように楽しげに笑う。


「そ、それは紛れもなくお前の」


自身の前に差し出された箱を前に戸惑いを隠せないユークリッドにレイは一歩前に進み出て見上げる。


「お前は確か第5竜騎士団副団長として任命を受けた時にローブを留めるためのブローチをもらってるだろ?」


「はい」


上司の言いたいことが分からなくてユークリッドはコクンと頷く。魔術師に服装規定はなく、ローブであればそれでいい。そのため、どこで所属を判断するかといえば胸元を飾りつつ、ローブをとめるブローチについている魔石の色で判断するのだ。それは今もユークリッドの胸元で輝いている。ユークリッドの言葉にレイは二ッと笑う。


「だからこれは俺からの贈り物だ。 第5竜騎士団副団長であるお前の着任を祝ってのな。受けとれ。そして改めて言う。ユークリッド・コンフリート。貴殿を第5竜騎士団副団長として迎えられて大変光栄だ。今後も竜の意匠を纏うにあたり、その身をこの国の盾としてその知恵を国の剣とせんことをこれに誓え」


自身を見上げてまっすぐと告げられる言葉に更に目を見開いたユークリッドはふっと笑って深く一礼する。


「……慎んでお受けいたします。今後もご指導ご鞭撻の方をよろしくお願いいたします」


「これからもよろしくな。ユークリッド」


その言葉にレイはユークリッドの胸を叩く。本来ならば豊年祭に間に合うように作る筈だったのが怒涛の異動騒ぎなどで今まで伸びていたのだ。こちらを見るレイの笑顔に微笑み返しながらユークリッドは箱の中身を手に取る。


「……団長と同じ意匠ですね」


一目みるだけで一級品だと分かる品は予想通り手触りも光沢も素晴らしい出来である。ユークリッドはその仕上がりにほうと息を吐く。ユークリッドの感想にレイは苦笑する。


「お前なぁ……俺と違ってどうすんだよ?竜騎士団に来たんならそれを纏うのが一種のステイタスなんだからな。子供達の憧れを一心に集める式典服なんだぞ」


そのいかにも呆れたと言わんばかりの表情に今度はユークリッドが苦笑する。


「そうですね。失礼いたしました」


その言葉に頷きながらユークリッドは手の中のローブに視線を落とす。その背に刻まれた竜の意匠は黒地に赤糸。目立ちはしないがその真紅が更に品よく見せる。


「第1竜騎士団は黒に金糸。第3は黒に紫。第5竜騎士団は黒に赤でしたね」


自身の胸元を彩る魔石は真紅。ちなみに第2魔術師団は海のような鮮やか青。第4魔術師団は緑色。感慨深げにローブを眺めるユークリッドの横顔に滲む表情にレイは肩を竦める。


「でも、この前の豊年祭には間に合わなくて悪かったな」


その言葉にユークリッドは首を振る。まさか同じ意匠のローブを貰えるとは思っていなかった。


「いえ、そのお気持ちだけで充分です。ありがとうございます」


上司が今日という日に間に合うように準備してくれた気持ちだけで充分だ。そう答えるとユークリッドはそばに来た執事に一度手にしたローブを渡し、今着ているローブから新しいローブに着替える。元着ていたローブからブローチを移せば完了だ。


「どうですか?」


「よく似合ってる。馬子にも衣装なんて言うもんだな……」


「ええ」


着丈を直し、自身達と同じ色と意匠を纏うユークリッドを眺めたレイとナイルはその見た目が凄まじく立派に見えるのに遠い目をする。こんなに出で立ちは立派なのに…まさか馬に乗れないという残念スペック持ちだと誰が思うのか……。ユークリッドの満更でもない笑顔に二人で嘆息する。そんな思いを振り切るようにレイは話題を移す。


「んじゃ、ユークリッドに渡すものも渡したし……そろそろ行くか」


「そうですね」


いつの間にか時間が過ぎていたのを玄関脇に吊るされた魔道具で確認し、ユークリッドは傍に控える執事を振り返る。


「馬車の準備を」


「はい」


「あ、お前うちのに乗ってくか?」


ユークリッドが馬車の準備を命じたのに気づいたレイは自身について来た使用人を労って帰した後振り返る。上司からの申し出にユークリッドは目を瞬く。


「よろしいのですか?」


「ああ、どうせ向かう馬車は一緒だしな」


自身も王都内の移動には向かない竜の代わりに馬車を使っていたレイは頷く。そして遠い目をする。


「それにお前って目を離すと何しでかすか分かんないからさ」


ここ数ヵ月のユークリッドの行動に未来の自身の頭部が心配になるほどの驚愕を味わっているレイはしみじみと呟く。


「頼むからそれを来てる時は第5竜騎士団副団長であるという認識を忘れんなよ!」


自分の予測を色んな意味で覆す自分の部下にレイは懇願する。必死な形相で訴える上司にユークリッドは心外なと言わんばかりの表情を向ける。


「団長、私だってこれを身に纏う覚悟は決めていますから安心して下さい」


「安心出来るか!」


自身と同じ意匠を背負う相手にレイは即座に返す。


「頼むからそれを着てる時はまかり間違っても御者台で仁王立ちなんてしてくれんな!」


団長の言葉にウンウンと頷くナイルを視界に入れながら念を押されたユークリッドは上司の自分に対する認識に沈黙を貫いた。

いつもお読み頂きましてありがとうございます。

誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。

少しでも楽しんで頂ければ幸いです。


さて、無事に王都についていた上司とともにいざ次回王宮に乗り込みます(笑)

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