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問題は山積みです

「……ったく……どいつもこいつも」


疲れた表情を晒した第5竜騎士団団長は横を歩くアルフレットに深いため息を吐きながら訴える。


「なんでこんなに問題だらけなんだよ!うちの団は」


「落ち着け、レイ」


魔術師団専用塔から騎士団長室に帰りながら愚痴る相手の肩をアルフレットは叩く。半刻前に週1で行われる竜騎士団内の会議を終えたレイが一番に向かったのは魔術師団の塔。会議が終わっても入り口でさめざめと泣くロディアが邪魔で会議室を出られない部下が幾名か居たので泣き続けるロディアを連行した。そしてそこで目にした光景が目に焼き付いて離れない。


「もう……魔術師ってのは闇の生き物なのか……“目が……目が……”とか、ただカーテン開けられて掃除されただけだろ」


魔術師の塔に入ればそこら中で塔内に入り込んだ光から逃れるかのように干からびかけている部下が幾名も居た。普段なら嬉々としてそんな部下を一掃してくれる筈のロディアですら“私の城……”と虚ろに呟いていた。その様子に戦場とは違う怖さを感じながらも足を踏み入れた先で行われていたのは副団長によるただの掃除。晴々とした顔のユークリッドと彼の素晴らしさについ先日気づいて服従した事務員達が嬉々としてそれを手伝う姿が光の使者に見えたのは廊下に転がる魔術士達の姿があまりにも哀れだったからにちがいない。思わず、副団長に“もう少し配慮してやってくれ”と言うぐらいには同情した。


「もうやだ……俺。こんな職場」


また目からしょっぱいものが漏れそうになったレイは深いため息を吐く。馬に乗れない副団長に闇の生き物のような魔術師達。女王様が怖くて部屋を出られない部下。


「団長職なんてただの貧乏くじじゃね?」


思わず真顔で横を歩くアルフレットに問いかけると肩を叩かれる。


「お前の気持ちはわかってやるから人目もあるからそれ以上は押さえろ。な?」


先ほど見た光景にげんなりしていたアルフレットは押し寄せる仕事の波と特殊すぎる部下との板挟みを嘆く上司の肩を叩いて慰める。


「わかってる!わかってるけどな……」


アルフレットの労いにレイは深いため息を吐く。春とは違い冬がやってくるこの前の時期も違った意味で忙しい。冬に備えての備蓄に砦の修繕。街の豊年祭の警備計画。そして何より秋は雪で街道が閉ざされる前に年一回王都で行われる団長と副団長出席必須の会議がある。もちろんこれも団長と副団長がいなくてもきちっと団が動くかの訓練なのだが、事務仕事が出来る人間がいなくなるので仕事は前倒しになるしと団長職と副団長職にはまったく嬉しくないイベントの一つだ。ちなみにエルバート国には5つの師団が存在する。国の中心部に第1竜騎士団と魔術士団。次に魔術士をトップとする第2魔術士団。そして竜騎士をトップとする第三竜騎士団にまた魔術士をトップとする第4魔術士団といった形で構成されている。これは何か物事を決める時に多数決による決断にならないようにとの初代王の決断らしい。それぞれに番号が重ならないようになってるのも戦場に立つ時に紛らわしくならないため。第5竜騎士団は竜騎士である自分を長に魔術士であるユークリッドを副長として構成されているがどちらの構成比が多いとかはない。団長が竜騎士なら副団長が魔術士というのも純粋に砦内権限が偏らないようにと配慮なだけだ。ただ、それでは決まるものも決まらないので団長職の方に強行権限は付与されている。


「それにしてもやることが多すぎる……」


はぁとため息を吐く上司の横顔に疲れが滲み出てるのを感じたアルフレットは苦笑する。


「ま、あんまり無理すんなよ。ぼちぼちやってけばいいんだしな」


アルフレットの言葉に肩をすくめたレイは歩きながらため息を追加する。その言葉にはユークリッドの件だけではないことも含まれる。


「まぁ……何事も初めてなことには不安がつきまとうってだけなんだけどな……」


「だろうな」


レイのため息にアルフレットも苦笑しながら同意する。竜騎士団は一つの隊が百名から二百名ほどで構成されている。その隊が10組あるので単純計算で10名の部下がレイの下にいることになる。ユークリッドの馬に乗れない事件とロディアの乱入により、思うように進まなかった会議だがとある案件に対しては今日もあまり色好い返事は貰えなかった。自分が帰って来てから毎週のように話し合われる2つの議題が思うように進まないことにも年下上司はやきもきしてるのだ。


「ノワールの子供の受入数の相談に今後の教育を受け持つための体制に……資金はメドがついたからいいとして、後は魔術士団とうちの事務員を統合した部署の創立。どれも目新し過ぎてすぐに理解しろってのが無理なのはわかってんだだよ……わかってんだけどな」


アルフレットに愚痴りながらもレイもわかってはいる。だが頭では理解出来ても心は理解しろ!と言いたくなる。ノワールの件に至っては毎週のように利点や資料を変えて説明しているが古参の人間はあまり気乗りしていない。押しきることも出来るが出来たら穏便に済ませたいというのが本音。初のことだからゆえ、リスクをどうしても抱えるのが嫌だと竜騎士団内では納得するに至らないのだ。そのため、本来なら決まっている筈のノワールへの子供の受入数が決まらず、第2魔術師団にもまだ申し入れが出来ていない。


「人って難しいな……」


横を歩く上司からポツリと溢された愚痴にアルフレットは無言でその肩を叩く。少年が久しぶりに見せた参った表情にこの二年間の少年の苦労を思う。様々なことを乗り越えてきた少年を誰が知らなくても自分は知っている。


「ま、今年ダメなら来年だ。だからあまり思い詰めんな。なんかあったら聞いてやるからさ」


「おう……」


アルフレットの言葉に頷きはしたものの、レイははぁとため息を溢す。


「さて……どうしたもんか……」


そう呟きながらレイは秋の気配を感じさせる草花を見やる。もう冬は目前に迫っている。初春の開始を狙うのなら雪で街道が閉ざされる前に出来れば案を纏めて、ノワールの街に下ろしたい。この冬が厳しければ子供達は春先に売られてしまう。いくらアルフレットが大丈夫だと言っても自分の力不足が嫌になる。竜騎士団内の会議が常に紛糾するのを淡々といなし、メリットとデメリットを伝えるも上手くいかないのだ。


“あいつなら上手くやったんだろうな……きっと……”


ふとそう考えてレイは自嘲する。その相手を殺したのは紛れもなく自分なのに。前任の副団長クライシスにしても彼にしても非常に優れていた。


「俺は長に向いてないんだろうな……」


団内の意見を纏めるのにも四苦八苦な自分に嫌気が差す。


「レイ」


「ん、何でもない」


アルフレットが自分を呼ぶ声に物思いから戻ってきたレイはいつも通りにニッと微笑む。


「ま、なんとかするさ」


そう言って微笑めばアルフレットが何とも言えない顔をする。その表情に横に立つアルフレットの胸をトンと叩く。


「しけた面してる暇はないからな。覚悟しろよ」


王都会議までは残り1ヶ月。


「豊年祭に冬支度とやらないいけないことは山のようにあるからな」


「ああ」


「さぁ、頑張るか……」


不安気な表情を見せる相手にレイは伸びをした。

いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。

先ほど、突然話が増えて消えたと思った方、幻ではありません。


割込投稿をしたかったのですがよく分からず、レイの独白を入れられませんでした。

お分かりになられる方がいらっしゃいましたらお教えください。


少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

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