変わるのは自分
「さ、出るんだ」
初老の男性の言葉に顔を見合わせていた子供達は恐る恐る地下牢の入り口に近づく。
「さぁ………早く………」
ノロノロと行動する子供達を先導して男性は歩き出す。
“逃げなくては”
その思いだけが男性を突き動かす。あの日、あの時自分に力があればと思った事はない。寒さの厳しい冬の季節だった。質の悪い風邪が流行り、多くの子供や体力のない者が亡くなった。その中に自身の妻子が含まれていたのはありがちな悲劇だったかもしれない。その年は諸外国に商品の買い付けに出ており、自分はこの国の生活がどれだけ厳しかったかを知らなかった。雪で街道は閉ざされ、僅かな食料は高騰。自分がいればそんな状況で苦しむ妻子を救ってやれたかもしれない。本来なら助けてくれる筈の国は何もせず、自分の妻子は亡くなった。妻子を失って嘆く自分が知ったのは国は何もしてくれないということ。失意にくれる自分の前に現れた男はそんな自分を保護してくれた。そこでようやく自分も流行り病にかかり、死にかけていたことに気づいた。
「その才能を俺にくれ」
病に伏せる自分の傍らに座った30代の男はそう語りかけてきた。
「悔しいだろ?国のために尽くしたのに国に見捨てられて。だから、俺に死ぬぐらいならその才能を」
話を聞けば男の過去に涙が止まらなかった。この世には自分のせいではないのに苦しむ人間が多い。だがそんな人間を助ける人間の少ない事。死ぬぐらいなら自身の全てをかけて妻子に出来なかった償いを………。その思いを胸に恵まれない子供達を助けるために奴隷商になった。
「さぁ………早く」
男に教えられていた“もしもの時の隠し通路”を使い、子供達を外に連れ出す。屋敷の裏手に止められた馬車に子供達を押し込む。今日の昼間に連れ出す予定だったために止められていた馬車に子供達を乗せると男は御者台に上がり、そこに座る部下に指示を出す。
「出せ!」
その言葉に馬車は動き出した。
「とりあえず、この男とこっちの男は拘束しますが………」
客間での喜劇をようやく終えたアデルは目の前の執事らしき男と小太りの男に視線をやった後………ユークリッドとアルフレットに視線を移す。その視線に気づいたユークリッドはアデルに微笑む。
「第5竜騎士団で買い取ろうかと思ってました。そのために商談してました」
「奴隷の売買を認めるんですか?」
奴隷の売り買いに関わったと見なされれば最悪、死刑もありえる。そんな中でユークリッドは堂々と自分が何をしていたかを述べる。
「奴隷商をしているという事実は売買契約を押さえないと難しいです。団長から証拠物件の買い取りは許可を頂いてます」
-証拠物件-
奴隷をそう見なすユークリッドにアデルは呆れたような視線を向ける。この場に居たのは証拠物件の買い取り。そう言われると上司認可の上の囮捜査だったと言い切れる。後は上司の証言だけだが、この分だとシロだと言い切れる範囲だ。
「第5竜騎士団で買い取ってどうするんです?」
ユークリッドの応対に肩を竦めたアデルは買い取った奴隷をどうするつもりなのかと薄笑いを浮かべる。その問いかけにユークリッドは目を瞬く。
「どうするって……」
「子供を保護したところで不要になれば家に戻すのでしょう?」
アデルの呆れたような問いかけにユークリッドは言葉を失う。
「そうすればまた違う人間に売られるだけです。ここで保護されても子供に安息の地はないんです………どこにも」
冷笑を浮かべたアデルに対し、ユークリッドが口を開こうとした時。
「団長、第5竜騎士団が到着しました。自団の副団長と隊長に合わせて頂きたいと申し出が入ってます!」
その声が扉の向こうに響き渡る。その声に顔を見合わせるとアデルが扉の向こうに指示を出す。
「入りなさい」
「失礼します!」
第2魔術師団の竜騎士に伴われた第5竜騎士団第1隊ナイル・プラティクスが姿を現す。
「ナイル」
アルフレットの呟きに微かに口角を上げて見せたナイルはそのままユークリッドに向き直る。
「団長より文をお預かりしました。ご確認下さい」
「受け取ります」
ナイルの差し出した文を開封し、中身に目を通したユークリッドはその文を握りしめる。そしてナイルに視線を移す。
「ありがとうございます」
「団長からは安心して全員連れて帰って来いとの事です!」
ビッと敬礼したナイルにユークリッドは頷くとアデルに視線を移す。
「ご安心下さい。こちらで保護した子供たちは第5竜騎士団で雇用します」
不思議そうなアデルを前にユークリッドは力強く微笑む。
「今後はノワールで育つ子供は第5竜騎士団が雇用します」
「どういうことですか?」
ユークリッドの言葉にアデルは眉を潜める。それにユークリッドは頷く。
「今後は第5竜騎士団がノワールに介入し、奴隷として売られる前に子供を買い上げます。そして雇用し、その後の未来に繋ぎます」
その言葉にアデルは目を瞬く。その横に立つカイルもユークリッドの言葉に目を瞬く。二人のキョトンとした様子にユークリッドは自身の案を詳しく説明する。
「それは面白い…」
ユークリッドの案を聞いたアデルは悪戯を思い付いた子供のように微笑む。カイルもうんうんと頷く。
「確かに国境沿いにあるうちも人手不足ですから子供たちの受け入れは可能ですからね」
ユークリッドの案を聞いたアデルとカイルはその斬新な案に頷きあう。
「それに…子供の時から接すればアデル様の性格にも慣れて…ごふっ…」
横で遠い目をするカイルの腹に肘を叩き込み、アデルはユークリッドに向き直る。
「ユークリッド・コンフリートでしたね。その案、第2魔術師団も乗ります。詳しくは次の王都の会議であった時に詰めましょう」
「よろしくお願いします」
ユークリッドはアデルの予想外の言葉に頷くとずっと目を見開いて信じられないという顔をしているアルフレットに微笑む。
「何でもやってみるものですね!」
その言葉にアルフレットはくしゃりと笑った。
いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
この場をお借りして御礼申し上げます。
やすーす様、楽しい予想ありがとうございました。私的には主人公不在という選択肢もありかと思ってしまいましたが、親友から主人公の大事さを説いてもらい、あえなく諦めました。
やすーす様の知識の豊富さに勉強になるばかりです。やすーす様の考察からとうエルバート公国はエルバート国に改名すべきだと決心がつきました。
今後はエルバート国としていきます。あわせて改稿もさせて頂きたいのですが、現在仕事の波に溺れております。時間が出来次第改稿させて頂きます。
まだまだ、ユークリッドの話は続いていきます。お付き合い頂きますと幸いです。
ナンバーリングの謎については次章にて明かさせて頂きますので今、暫くお待ち下さい。
本当にありがとうございます




