すいません、濡れ衣です
部屋に駆け込んできた執事の言葉に凍りついた3人は互いに顔を見合わせる。いち早く我に返ったユーティリがポカンと立ち尽くす二人を見て表情を険しくする。
「騙したのか!!」
「すいません、濡れ衣です」
恫喝にも近い怒声に我に返ったユークリッドは冷静に突っ込む。前世ならヤのつくご職業な方に怒鳴られたらびくついていたかもしれないが残念な事にヤのつくご職業な方よりもこの世界には物理的に怖いものが多すぎる。魔獣とか貴族社会とか………。
………そもそも
「だいたい来たのは第2ですよね。我々は第5です」
第5竜騎士団ではなく第2魔術師団が来たのを自分達のせいにするなどどんな濡れ衣だ。“間違えないで頂きたい!”と主張するとユークリッドの気迫に飲まれたユーティリが頷く。
「うむ………そうだったな」
「なんで納得してんの!そこは問題じゃないだろ!」
妙にすっきりした表情で頷いた小太りの男にアルフレットは思わず突っ込む。執事がアルフレットの言葉にコクコクと頷く。その突っ込みにユーティリとユークリッドは顔を見合わせて頷く。
「そうでした。奴隷の売買契約中でしたね」
「ああ………」
「騒がしくなりそうなので早急に進めましょう」
「そうだな………」
「違うだろ!!」
なぜか普通に商談に戻ろうとする二人にアルフレットは額に手を当てる。突っ込み不在がこんなに怖いという事をこんな時に痛感する。
「この現場を押さえに来てるんだよな?」
「そうですよ」
「そうだろうな」
アルフレットの状況説明に二人して頷く。その姿にアルフレットはだからと訴える。
「…………逃げるのが普通じゃない……か…?」
『………………………………』
アルフレットの突っ込みにユークリッドとユーティリは顔を見合わせて“ああ!”とようやく合点が行く。
「そうでしたね」
「そうだな」
「だよな………普通は………」
3人でようやく“普通の定義”に辿り着いた時、廊下から拍手が聞こえてくる。その音に振り返るとそこには口元に笑みを浮かべたアデルが手を叩きながら部屋に入ってくる姿がある。
『アデルさん!』
ユークリッドとアルフレットがそこに見たのは途中で行き倒れて拾った筈の吟遊詩人の姿。二人の視線を受けたアデルは室内で繰り広げられていた喜劇を称賛する。
「最高の喜劇でしたよ」
「ですよね………」
その評価にアルフレットは遠い目で天井を仰ぐ。普通はきっと動揺するか慌てるかの二択のはず………。きっと嫌疑をかけられて濡れ衣だと主張している場合ではない。
「アデル様!令状を持っているからとはいえ不必要に壊さないで下さいよ」
“もういやだ………”とアルフレットが脱力感に見回れている間にももう一人が慌てた様子で部屋に入ってくる。
「カイル!」
「アルフレット!」
互いに見知った姿に声を上げる。二人が今の現状を理解する中、一人置いてきぼりを食らっていたユークリッドがアルフレットに顔を寄せて囁く。
「知り合いですか?」
「残念な事に知り合いだ」
知り合い所か知ってないと困る人だ。アルフレットが深いため息を吐きつつも、アデルとその横に並ぶカイルを紹介する。
「こちらが第2魔術師団団長アデル・ファミリア様。こっちが副団長のカイル・ファーレス」
「初めまして。第5竜騎士団副団長のユークリッド・コンフリートです」
「こちらこそ初めまして第2魔術師団副団長のカイル・ファーレスと申します。常日頃からうちの団長が第5竜騎士団にご迷惑おかけして申し訳ありません」
そんな状況ではない筈なのに握手を交わし、挨拶をする。そんなユークリッドにアデルは興味を抱く。
「君は本当に面白い」
「お褒めに預かり光栄です。改めまして第5竜騎士団副団長ユークリッド・コンフリートです」
「知ってますよ。で、ここで何をしていたかを教えて頂けますか?」
ユークリッドの差し出した手をおざなりに握りながらアデルはその背後にいるユーティリに視線を移す。アデルの刺すような視線を受けたユーティリは再度、ユークリッドを睨みつける。
「やはり知り合いだったんだな!」
「いえ、今知り合いました。さっきまでは行き倒れていた吟遊詩人その一でしたよ」
ユーティリの言葉にユークリッドは“あなたも見ていたでしょう?心外な………”と反論する。そんな噛み合っているのに噛み合わない会話に目眩を覚えたアルフレットはカイルに向き直る。
「こいつは現行犯だ。捕縛しろ」
「いいのか?」
「先に到着したからな」
「じゃお言葉に甘えて」
アルフレットの指示にちょっと斜めな思考回路を持つ上司同盟に是非加盟したいカイルは頷く。
「って………思い出した!アデル様。不用意に物を壊さないで下さいよ!」
先々行くアデルを追いかけて来たカイルは自分の仕事を思い出して口を開く。その言葉にアデルは嫌そうに顔をしかめる。
「うるさいですね。扉の一枚、二枚。はした金でしょう」
閉められた扉を一枚破壊したばかりのアデルは鼻で笑い飛ばす。しかしそんなアデルに向かってカイルは真剣な表情を向ける。
「だからこそです。気をつけて下さいよ!壊したものによってはうちの経費で補償もありえますから。アデル様なら視線一つでも何かが壊れるかもしれません!」
「そんな能力持ち合わせてませんよ。失礼な。君は私に一度謝るべきです」
必死な形相で訴える部下の言葉にアデルは部下からの濡れ衣に眉を潜めた。
「は………っ………はっ………は」
客間でそんな喜劇が展開されている頃。初老の男性は地下牢の鍵を握りしめて子供達の所に走っていた。
“………連れては行かせない………”
地下牢に集められた子供達は未来の希望だ。家に戻されてまた前と変わらない環境に放り込まれたら命すら助かるかわからない。息を切らして地下牢につくとその鍵を空け、子供達に微笑みかける。
「さぁみんな………一緒においで」
魔術師団が乗り込んで来た途端、蜘蛛の子を散らすように仲間達は速やかに逃げたが男は子供達を見捨てられなかった。
「さぁ………逃げよう………」
突然、現れた初老の男性の言葉に身を寄せあっていた子供達は顔を見合わせた。
いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。
この場を借りて御礼申し上げます。
やすーす様、感想とご指導ありがとうございました。ようやくご指摘の部分が分かりました。改稿の際に随時訂正させていただくように致します。
何より、やすーす様に私の書きたい時代背景が分かって頂いた事が非常に嬉かったです。
ユークリッドが賢者と呼ばれるようになるかは今のところ秘密ですが………。一人の人間の生きざまを描いていけたらと思っています。
最後までお付き合い頂けたら幸いです。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。




