世の中、円滑に生きるには事前連絡が必要です
「うっ、ちゃんと連絡届いてるよね………うん、きっと届いてるはず………」
ゴウゴウと鳴る風切り音の中、カイルは一人呟く。少し時間は遡るが事の発端はまさに領主館に向けて急行しようとした時。
「は?」
団長から放たれた言葉が嘘ならどれだけいいか………。思わず、動きを止めた自分を咎めないで欲しい。
「聞こえなかったんですか?」
「いいえ、一音一句正確に聞こえましたよ」
団長の呆れたような顔にカイルは真顔で言い返す。額に手を当てて自身の上司の言葉を点検する。聞き間違えでなければ囮役は第5竜騎士団の副団長と第1隊隊長のアルフレット・ノワール。
“冗談じゃない………”
そんな相手を囮役として捕まえるのはいい。だが、事前連絡もなく何をしようとしてるのか………。
「もちろん、それは第5竜騎士団に連絡済み………」
「いえ、連絡してませんよ」
「団長、ちょっとよろしいですか」
アデルの不思議そうな顔にカイルは真顔で額に青筋を生やす。
「世の中、円滑に生きていくには事前の連絡が必要なんです。何の連絡もなく第5竜騎士団の副団長とアルフを捕縛したらいくら穏和なあのレイ様でも今度会った時に口きいてくれませんよ!」
普通なら自分の小言を聞き流すアデルも可愛い弟には弱い。すでにこちらの話など聞かずに騎乗の人になっていたアデルは竜騎士にことわるとこちらを振り返る。
「レイが?」
憎まれ口でも口をきいてくれるのが喜びのアデルにしてみれば無視されるのは耐えがたい。
「自身の部下を囮に使われた挙げ句に事前連絡なく捕縛なんてしたらきっとレイ様と言えどもアデル様のことを毛嫌いするでしょうね」
既に多大な迷惑を受けてアデルに対して好感情を抱いていない。こんな事を事前連絡もなくやらかしたら既にマイナス値に近いアデルへの好感度は紛れもなくマイナス値をぶっちぎるだろう。
「………それは困りますね」
「俺も困ります」
この破天荒な上司に付き合って早二年ほど。少しは建前も勉強して欲しいのが本音。しばらく待っていると思案したアデルがこちらを見下ろしてくる。
「………くれぐれも私の起こした問題だとは」
「伝えません」
そんな事を伝えるのは第5竜騎士団の執務室で土下座する時だけで充分だ。
「じゃ、連絡しますからね!まだ動かないで下さいよ!」
騎乗したアデルに向かって叫びながらカイルは魔石に魔力を通す。連絡先はもちろん………。
「あ、ナーブさん!すいません、至急連絡して頂けますか!」
インテリ眼鏡こと第2魔術師団の常識人ナーブ・ザハラだった。
「………………………………」
つい30分前のやり取りを思いだし、カイルは遠い目をする。魔術師団の中でも一番の実力者である癖にアデルはそういった貴族世界のしがらみを嫌う。
“これでも少しはましになりましたが………”
自分が副官としてつくまではその破天荒な性格からアデルに振り回された部下たちは上司を理解出来ずにいた。実際には何度も煮え湯を飲まされてはいるがアデルは常に最善を尽くすためなら手段を選ばない。その最善は常に他人のため。そう知ってしまえば破天荒な行動も多少は許容範囲内だ。自分が先回りしてそう言った煩雑な事を片付けてしまえばアデルは何も考える事なく、自分の最善だけを大事に出来る。そう気づいてからナーブに砦を任せ、自分は常に上司と行動をともにする。冷たい言葉で分かりにくいがアデルは常に他人の為に行動する。
「俺も大概だな………」
常に先陣をきり、その背で部下を鼓舞する姿にカイルは決めてしまった。この人について行こうと。
「あとは事前連絡が届いてる事だけを祈るのみか………」
物思いに耽っている間に点でしかなかったノワール領主館が目の前に近づく。呆れたような顔のまま口元に笑みを掃いたカイルは更に前傾姿勢を取った。
「ひとまずはこのような人数でいかがですかな?」
有力貴族の子息であるユークリッドを前にユーティリは奴隷を並べてみせる。
「そうですね」
目の前に並べられた5人ほどの奴隷達は状況が分からず、互いに顔を見合わせてこちらを伺ってくる。8歳程の幼い少女から16歳ほどの少女と幅が広い。目の前に立つ奴隷として連れてこられたのが少女なのは自分の性別ゆえ。
“怪我をしたり、暴力を受けたりはしてないようですね”
どの奴隷を買うかを品定めするように視線を向けつつも子供達に怪我がない事を確認しホッとする。不自然に痩せたりしていないのにも一先ず安堵する。同じようにこちらを見ていたアルフレットが驚いた顔をしているので後で聞こうと思う。
「他には?」
「気に入りませんか?」
ユーティリを振り返り、そう告げると怪訝そうな顔をされる。ユークリッドはこの際だと口を開く。
「力仕事もあるので男の奴隷も欲しいのですが」
「なんと!」
ユークリッドの発言にユーティリは驚いたような顔をしている。その横でアルフレットは天井を仰ぐ。上司の噂に幼女趣味+お稚児趣味が加わった瞬間。ユークリッドが二人が驚いた事が分からずに小首を傾げた瞬間。
「ユーティリ様!!第2魔術師団長が屋敷を捜索すると来られてます!」
-バン-と音を立てて飛び込んで来た執事の姿に全員が顔を見合わせた。
いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
この場を借りて御礼申し上げます。
t 様、ご指摘ありがとうございました。改善出来るようにしたいと思います。つきましてはお手数になりますが“ダッシュ”の多用場面を教えて頂けますと幸いです。ダッシュの多用とご指摘頂いたのに今一ピンと来てませんでして………。改善したいと思いますのでお読み頂いてましたら是非よろしくお願いいたします。




