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必要なのは力かそれとも………

ガヤガヤと騒がしい喧騒が周囲を支配する酒場でアデルはとある情報屋と接触していた。


「貴重なお話ありがとうございました」


そう微笑みながらアデルは机の上で銀貨を横に滑らせた。それに周囲を伺うそぶりを見せながらも男は銀貨を手にする。


「流石、金払いはいい」


ニヤニヤと下品な笑みを見せる男にアデルは冷やかな微笑みを浮かべて口を開く。


「これはこれは安くみられたものですね。私は有用なものに対しては価値を認め、それ相応の働きを見せれば金は払いますよ?」


こちらを刺すような瞳でみてくる相手に情報を扱う男は肩を竦める。


「流石は第2魔術師団の団長様だ。金の使い所を分かってる」


「当たり前です。有用な情報に対しては対価を払う。それが良い情報が集まる条件だと思っていますからね」


薄く笑う相手に苦笑した男は銀貨を懐にしまうと注文した麦酒の残りを煽る。喉を鳴らして飲み干すと口を拭い、立ち上がる。


「違いねぇ………情報は金がある場所に集まる。ほんならまたいい情報が入ったら連絡しますわ」


「ええ、よろしくお願いしますね」


アデルは自分に対して申し訳ない程度に頭を下げて去っていく男を見送り、嘆息した。ユークリッドとアルフレットの前に戯れに姿を見せてはみたが、本来の目的は子飼の情報屋との接触が目的だった。リルパで落ち合う予定にし、通り道で面白い二人組が通りがかると聞いて接触したのだ。


「………………………………………」


薄められた酒を口に運びアデルは酷薄に笑む。欲しかった情報は手に入れた。後はこれをどうするかだけ…。元からアデルにとってノワールの奴隷商の話はそんなに重要ではない。アデルが追っているのはとある密売組織。金さえ払えば何でも手にいれてくるという闇組織だ。


「でも………本当にこの国は腐ってますね」


思わず、口から本音が漏れる。国が法で禁じていながら、奴隷商から下働きの人間として貴族が奴隷を買う。また都や各所にある娼館は国の至る所から集められた奴隷という始末。


「………………………………………………」


自身の注文した水でかさましされた安酒を飲みながらアデルはぼんやりと考えに耽る。この安酒だって酒と認識するようになれば人は酒だと思うようになる。人を売ることも買うことも最初は嫌悪感を抱いていてもそれが当然だと思いだす。それが人間だ。熱いお湯に入れられれば跳ねる蛙も水からお湯にすればそれが水からお湯に変わったことに気づかない。そして死に至る。人間も最初から当たり前の環境に放り込まれればそれを疑問視しなくなる。それが人にとっていいのか悪いのか………。


「やけに今日は感傷的ですね………」 


自身がほの暗い考えに耽っていた事に気づいたアデルは苦笑して水で薄められた酒を煽った。




「私に何か用ですか?」


残りの酒を飲み干したアデルは酒場を後にしてからついてくる影に振り返る。そんなアデルからの問いかけに酒を飲んで野生の勘すら失った男達がニヤニヤと姿を現す。


「兄ちゃん、金もってんだろ?俺たちにも奢ってくれよ?」


「あいにく私には無用なモノに払う金はないんですよ」


細く華奢な肢体に優男風な容貌から自分なら少し脅せば金を巻き上げられると思い込んだ男達にアデルは向き直る。


「なんだと?」


「聞こえませんでしたか?無用なモノに払う金はないと」


優男だと思っていた男からの反撃に男達は気分を害する。いきり立つ男達がこちらに近づくよりも早くアデルは男達に向かって歩きだす。普通なら逃げる筈の男がこちらに向かって来た事に動揺した男達にアデルはふふふと楽しげに口元を緩める。


「私は襲われそうになった。これは正当防衛ですよね?」


「いや………その………」


自分達が金を脅し取ろうとした相手がこちらに笑いながら近寄ってくる姿が地味に怖い。男達が自分達が狩ろうとしたのが無害な生物ではないと気づいた時にはもう遅い。


「正当防衛ですよね?」


酷薄に笑いながら自分達に向かって手を差しのべた姿を目にしたのが男達の最後だった。




「ふう………正当防衛も大変です」


「残念ながら過剰防衛です」


掴んでいた男の胸ぐらを興味なく手放したアデルに物陰から姿を現した青年が突っ込む。その突っ込みにアデルは肩を竦めてみせる。


「人聞きの悪い。一対十の闘いを制した上司を君は労おうとは思わないんですか」


「人聞きが悪いどころか私の方が正しいってみんな証言してくれますからね」


そう言って肩を竦めるのは自分の副官であるカイル・ファーレスだ。


「迎えに来るにしては早いんじゃありませんか?」


その姿にアデルは知らず知らずのうちに口元を緩める。多くの人間が自分の性格に耐えられないと辞めていくなか、彼だけら2年という期間。自分の部下を努めている。


「団長が問題を起こしてないか心配で」


「失礼ですね」


「ま、今回は相手が悪いので一日、警備隊の牢屋で反省してもらいましょう」


周囲に転がる男達に残念そうな視線を送る相手を見つめ、アデルは嘆息する。


「君は本当に規格外ですね」


「団長言われたくないです。それよりも………」


「ええ。手に入りましたよ」

 

「なら収穫はありましたね」


“何が”とは言わないが彼は自分が団を放り出してでもとある情報を得るためならどこにでも行くのを止めはしない。


「宴の準備は?」 


「出来てます。いつでもご指示を」


そう言って騎士の礼をとる部下に頷く。


「では………まずノワールに巣食う密売組織をいぶりだしましょうか?」


「畏まりました。団長」


応えるカイルの口元にも酷薄な笑みが浮かぶ。そんなカイルを従えながらアデルは自分が伸した男達をそのままに裏道へと姿を消した。





「………………………………………」


「………………………………………………」


アデルとカイルがとある密売組織を追っていた翌日。ユークリッドとアルフレットは無言で馬車に揺られていた。昨夜以来、言葉を交わさずにユークリッドは今日も変わらずに御者を努める。あれ以来、二人のなかには言い知れない蟠りが燻り続けていた。


-人はモノじゃない-


アルフレットはユークリッドの告げた綺麗事だらけの言葉に。


-綺麗事言うのは寝言だけにしろ-


ユークリッドは自身の常識を綺麗事扱いされたことに………。


ただひとつ共通していたのは


    -何も出来ない自分に対する苛立ちだけ-


「………………………………………」


無言で馬の手綱を引いていたユークリッドは自身の不甲斐なさを責めていた。自分にもっと力があればと思う反面、本当に力だけで解決出来るのかともう一人の自分が問いかけてくる。


“いったい………どうすればいい?”


力だけでは一時の解決にはなっても永続的な解決には至らない。今、必要なのは………


“力か………それとも………”


ただ前を見据えて進みながらユークリッドは自問自答していた。

いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。

少しでも楽しんで頂ければ幸いです。


アデルさんとカイル君も一癖、二癖ありそうな二人組です。


一時的には力で解決出来ることもあるでしょうが、力だけでは駄目だと考えるユークリッドはどんな解決を見つけて行くのかどうぞお付き合い頂ければ幸いです。

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