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旅は道連れ、世は情け

“旅は道連れ、世は情け…でしたっけ……”


どこかでとある隠居様がそんな事を言っていたかは定かではないが、そういう事にしておこう。ユークリッドは目の前でニコニコと微笑む男を前に遠い目をする。旅用のローブを被り、竪琴を持った吟遊詩人の男は沈黙したユークリッド前に頭を下げる。


「お急ぎのところに申し訳ありませんが街までよろしくお願いします」


盗賊に竪琴以外の所持品を奪われ、水と食料すら持たないこの男をこの場で放置するのは流石に頂けない。横で自分の判断を待つアルフレットを前にはぁとため息を吐く。


「街までなら、なんとか乗せていけるでしょう」


「まぁ……街までなら俺達と行き先も一緒だしな」


ユークリッドの言葉に頷いたアルフレットも目の前で頭を下げる相手を前に頬をひきつらせた。

 



-話は少し遡る-


宿屋を早朝に出発し、今日はノワール地方でも比較的ましな地域にあたる街道筋の街まで行く予定だった。一面に広がる小麦畑を横目に馬車を進めており、平和ですねと二人で暢気に会話する余裕もあった。少し小高い丘に入り、森の中を進んでいた時にそれは起きた。


“……助かった……”


どこまでも青さが突き抜ける空を見上げ、ふうと一息吐いたユークリッド・コンフリートはこの世のあらゆる神という神に祈りを捧げる。手足は緊張で冷たくなり、ドクドクとはやる心臓は痛いぐらいだ。戦く馬を抑え、ようやく浮かんだのが今の言葉だ。


「大丈夫ですか!」


一足先に我に返ったアルフレットは先に馬車の御者台から飛び降りて馬車の前に倒れ込んで来た相手を抱え起こす。旅用のローブを着込んだ相手を膝で背を支え、息の有無を確認する。


「……生きてるな……」


倒れ込んで来た時に打ったらしい打ち身以外は特に目立つ傷はない。青ざめたまま、御者台に座っているユークリッドを振り返り、アルフレットは声をかける。


「ユークリッド、大丈夫だ。生きてるぞ」


「………………ありがとうございます」


アルフレットの言葉に今度こそ肺の奥から息を吐いたユークリッドは安堵のあまり、肩を落とす。


「なんとか……間に合って良かったです」


「だな。焦ったわ」


アルフレット自身もまさかこんな森の中からいきなり人が飛び出してくるとは思っていなかったために相手に怪我がなかったことに安堵した。二人して安堵の息を吐くと顔を見合わせる。


「それにしても驚いたな~」


「ええ……本当に驚きましたよ」


ユークリッドも御者台から降りて、アルフレットが抱き起こした相手に近づきながらも苦笑する。旅用のローブをつけた相手の顔を覗き込むと30代半ばの男らしいと分かる。


「とりあえず、道の真ん中にいるのもあれですから端によりますか?」


「そうだな」


目深にローブを被った人間は生き倒れたのかピクリともしない。流石にこのまま放置するのはいただけないとアルフレットが頭の方を抱き抱え、ユークリッドは足の方を持つといそいそと二人で道の端へと移動させる。


「俺達よりも多少年上かもな」


「そうですね」


馬車を寄せ、ひとまず男が起きるまで待つ体勢の間に軽く所持品を確かめて男の身元を確かめる。持っていた袋の中身は残念なことに空っぽ。空腹のあまり、馬車の前に飛び出してきたのなら話は簡単だ。


「通りすがりの盗賊にでも襲われたんですかね?」


剣一つ体に帯びていない相手の物品からユークリッドは状況を推理する。


「さぁ……どうだろうな。案外、盗賊団の一味で俺達を油断させようと虎視眈々と狙ってるかもな」


あるのは竪琴だがかなりの業ものだ。それを盗まなかったのか全てを投げ出して逃げ出したのかは分からないが所持品から旅の吟遊詩人かと検討をつける。


「ま、話は男が起きてからですね」


怪しい男を前にユークリッドは肩を竦める。


「だな」


ユークリッドの言葉にアルフレットも想像は想像に過ぎないと割りきると伸びをする。何時間も馬車に揺られていれば腰も痛いし、肩も痛い。そんなアルフレットを見て、太陽の位置を確認したユークリッドは視線を戻して口を開く。


「いい機会です。少し早いですが昼にしませんか?」


「いいな。そうしようぜ。どうせこいつが起きるまでは動けないしな」


流石に意識のない相手を放置して進むことは騎士団の一員として許されない。一向に目が覚める気配のない男を前にユークリッドとアルフレットは少し早めの昼食をとることに決めた。




「お、目覚めたか?」


ユークリッドの少し休憩しましょうとの言葉で男が待つ間、小休止することになったアルフレットは炙ったパンの上にチーズを乗せたものを口にしながら横の男が起きたことに気づく。


「………………………………」


今の現状がよく分かっていないのか警戒するように体を起こした男はユークリッドとアルフレットを油断なく観察する。


「大丈夫ですよ。我々は怪しいものではありませんから」


魔術で起こした火に鍋をかけて作った汁物を啜りながらユークリッドは男に優しく笑いかける。二人の様子を警戒して観察していた男はこちらが何もしない事を更にしばらく観察してからホッと息を吐く。


「申し訳ありません。助けて頂いたんでしょうか?」


「ん?」


「街までの道をよく知っているからとショートカットするために道からそれたら盗賊に出会ってしまいまして……」 


恥ずかしそうに自身の失態を告げてくる相手を前にユークリッドとアルフレットは“ズズー”と音を立てて汁物を啜る。その言葉に顔を見合わせた二人は軽く肩を竦める。


「いや、俺達はその盗賊とやらは見てないな」


「え?」


「あなたが突然馬車の前に出てきたところしか知りません……」


不思議そうに肩を竦める二人を前に男は目を瞬くとホッと息を吐く。


「そうですか……良かった……」


目の前で安堵の息を吐く男を前にユークリッドとアルフレットは視線を交わしあってこの男に怪しい所がない事を確認する。多少、言動に怪しい所はあるがこちらも突っ込まれたくない事もあるのでそこはしない。


「そうだ。ここで出会ったのも何かの縁です。よろしければ一緒にいかがですか?」


「え?」


自分の食べていた器を魔術で呼び出した水で軽く洗ったユークリッドはそこに汁物の残りをよそって目の前の男に差し出す。盗賊から逃げ切れたとホッとした男は差し出された器を前に動揺するが体は裏腹に音を鳴らす。その音にサッと顔を朱に染めた男は恥ずかしそうに差し出された器を受けとる。


「……いただきます」


「どうぞ。こちらにはパンとチーズを炙っただけのパンもありますのでどうぞ」


「ありがとうございます!いただきます!」


食料を全て失い、腹を空かせていた男は施しに礼を言うと汁物を啜りながらパンを口に頬張った。




「自己紹介が遅れて申し訳ありません。私、アデル・ファミリアと申します。旅の吟遊詩人です」


一通り腹を満たした男は安堵の息を吐くと今更ながらに頭を下げてくる。


「この度は生き倒れていた所を助けて頂きましてありがとうございました」


深く頭を下げる相手にユークリッドとアルフレットは微苦笑する。


「いやいや、助けられて良かったよ」


「そうですね…………盗賊に襲われて命が助かってよかったです」


「はい、そう思います」


アデルと名乗った男はユークリッドの言葉にウンウンと頷く。


「今度からは旅慣れたからといって街道をそれないようにします」


意気消沈した様子で告げるアデルにアルフレットも苦笑しながら頷く。騎士団の一員としてもそれは絶対に守って欲しいことだ。


「それが一番だな」


「はい」


意気消沈したアデルからアルフレットはユークリッドに視線を移す。


「ユークリッド、アデルさんの様子も大丈夫そうだしそろそろ行くか……」


「そうですね」


アデルに異常がないのをこの目で確かめた二人は長くなった休憩を切り上げて目的地に向かうべく、腰をあげる。


「あの!」


『ん?』


アデルの分だけ食料をべつに避けていたユークリッドと火の始末をしていたアルフレットは目の前の男から上がった声に視線を移す。自分達を見つめる目は必死さに満ち溢れている。


「どうか私も街までご一緒させてください!!」


『…………………………』

 

突然、馬車の前に飛び出してきた男からの熱烈なラブコールにユークリッドとアルフレットは顔を見合せた。


       -そして話は冒頭に戻る-




「ふふん♪」


ユークリッドとアルフレットが行き倒れの男を拾っているそんな頃。昨日とは違い、休憩の間は少し雑談が増えた面々を前にレイは鼻歌混じりに今日の朝までに終わらせたかった仕事に目処をつける。


-正午の鐘までは残り僅か-


今か今かとその鐘が鳴るのを待っていたレイはその鐘が鳴り始めた途端、席を立つ。


「食事に行こうぜ!」


その言葉が部屋に響き渡った。

いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。


少しでも楽しんで頂ければ幸いです

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