抱える思いは皆それぞれ
「本当にそうでしょうか?」
「ん?」
独白に近い呟きに返ると思っていなかった返事が返る。それに目線だけをユークリッドに向けると相手は自嘲的な笑みを浮かべたまま天井を見上げている。
「俺のような奴が増えただけで世界は変わりますかね……」
別の人生を生きた記憶を持ってこの世に生まれてきても自分は何一つ出来ていない。知らないこと、当たり前ではないことを知ろうともせずに生きてきた。
「俺はただ……貴族としての在り方を知らないだけではないかと思います」
貴族としては規格外。でも平民にもなれない。前世のように流されるように生きている。
「…………………………」
ユークリッドの言葉にアルフレットは目を見開く。街から出る前にもこんな会話をしたような気がする。王都からやって来た貴族。そういう目でみていたのは自分の方ではなかったか。
「魔術師団に就職を決めたのもの安心安定を望んだからです」
「……ちょいちょいお前思考が現実的だな」
ちょっとユークリッドに対して親近感を抱きつつあったアルフレットはその発言に苦笑する。アルフレットの突っ込みにユークリッドは微苦笑して部屋の天井を見上げる。
「現実的じゃないと貴族は生きていけませんよ」
誰と誰が敵で、隙を見せてはいけないか。自分の実力はどれぐらいなのかを正確に計れなくては生きていけない。どこの世界にも駆け引きはある。だか、ここは違う。常に自分の実力でしか自分を救えないと突きつけられる。だから常に目を向けるのは自分自身。基準は他人ではなく自分。
「だから俺はここに来て視野が広がったと思います」
手を中に伸ばし、拳をぐっと握る。自分に足りないものがあれば自分が成したいことのために全力で取り組むべきだと教えてくれた。
「自分の弱さも足りない所も容赦なく突きつけられます。だから、自分が常に全力でなければ何もなせないと思っています」
「だから今回着いて来たのか?」
常に冷静沈着で斜めな思考の持ち主にそんな葛藤があるのかと問いかけるとユークリッドが笑う。
「それもあります。でも一番は貴方を知りたいと思いました」
「俺?」
「はい」
アルフレットの問いかけにユークリッドは頷く。
「貴方は貴方が思っている以上に団長を支えている。俺はまたまだ団長を支えるには力が足りない。だから、俺は貴方を見習いたいと思っています」
「そんなに大層な奴じゃないぜ。俺は」
「すごい方ですよ、貴方は」
普段、面と向かっては言えない言葉を吐き出してユークリッドは笑う。
「だからこれからもよろしくお願いしますね」
「そうかよ」
「はい」
ユークリッドの独白に自身がユークリッドに抱いていた劣等感が少し薄れたような気がしたアルフレットはふっと笑いながらベットサイドに置かれたランプに手をかける。
「明日も早いからもう寝ろ」
「そうですね。お休みなさい」
「ああ。おやすみ」
ふっと息を吹き掛けてアルフレットが火を消し、言葉を少なく掛け合うと明日に備えた。
「女の話題って偉大だな」
ユークリッドとアルフレットが互いの距離を縮めているそんな頃。自身の若者らしさについて自信をなくしていたレイはオルソとキリアを前に胸を張る。
「良かったすね」
アルフレットから仕事人間の団長が食事を忘れないように食事に誘えと言われていたオルソはその様子に嘆息する。
「なんとかきっかけが出来たみたいですね」
夕食の誘いに来たオルソと連れ立って歩く二人と食堂の前で鉢合わせたキリアも一緒に食事をする事にしたのだ。
「だな!明日は昼は一緒に食おうかと思って!」
「それはいいですよ!団長!」
普段年上ばかりと居ることが多い相手に部下とはいえ、同年代の会話が出来る相手が出来た事をオルソは手放しで喜ぶ。その様子に満更でもないレイにキリアも顔を綻ばせる。
「でも、なんでいきなり魔術師団の人間と騎士団の人間が一緒の部屋で仕事する事になったんですか?」
「ん?」
ちょっぴり家出していた自信が帰って来た事にホクホクして麦酒をあおっていたレイはコップを置いてキリアを見る。キリアの言葉にオルソも団長を見る。二人分の視線を受けたレイは唸る。
「ん~、一番はユークリッドからの提案をやって見てもいいかなと思ったのと……あとは直感かな……」
「直感?」
頼んだつまみと伴に麦酒を飲みながらオルソはその言葉にキョトンとする。なんでも結果と過程を重視する団長には珍しいとオルソは思う。そんなオルソをよそにキリアは口元を緩める。
「そうなんですか?」
「ん……まぁな……ユークリッドが言うようにこの団ってさ、識字率がヤバイんだよな」
「まぁ……それは」
「耳が痛いっす」
下級貴族出身で自分の名前を書くのと簡単な文字を読むのが精一杯のキリアは言葉に詰まり、勉強が苦手なオルソは耳を塞ぐ。二人の反応に苦笑しながら干し肉をかじったレイは更に言葉を重ねる。
「正直さ、魔術師団と騎士団って貴族と平民をそのまま体現したものだから俺は端から一緒に仕事をさせるって選択肢は頭の中になかった」
その言葉に二人は相手を食い入るように見る。二人の視線に微苦笑してレイは一口、麦酒を飲む。
「でもさ、魔術師団ばっかり文字がかけるようになっても、騎士団はそのままじゃ意味ないなと思ってさ。なら二つの部署が端から一緒になればいいんじゃないかと思って」
自分がどれだけ抽象的な事を言ってるかは自分がよく分かっている。それでも今より隊がよりよくなるならやる前に諦めたくないなと思ったのだ。
「実際、騎士団は俺がアルフレットに作った問題集で自主勉だろ?」
「小隊長になると事務作業が出るのでアルフレットから貸してもらってやってますがいかせん。自主勉なので習得率はあまり」
キリアも今の状態だと出来る人間は限られてくると懸念を抱いていたために深く頷く。
「だろ?でもさ、能ある奴はやっぱり出世させてやりたいのが親心じゃん」
「平民出身だと出世するのも一苦労ですしね」
なんとかアルフレットとキリアからの猛指導で今の地位につけてもらったオルソは遠い所をみやる。
「かと言って……辺境のうちでは事務員を一隊ことに配属するなんてことは夢の夢だろ?だったら腕はイマイチでも頭はいい、魔術師団の面々が新兵に文字を教える仕組みを作れないかと思ってさ」
そのためにはまず魔術師団と騎士団の架け橋となるべく事務課職員が一緒に仕事をするという見える例えが欲しいと思ったのだ。
「団長、俺協力します!分からない事は何でも聞いて下さい!!」
常に部下の事を思う上司に酒が入って涙もろくなったオルソが協力を申し出る。その様子にキリアも頷く。
「私も微力ながらお手伝い出来ることがあれば何でも言って下さいね」
「頼む」
「はい!」
「いえ」
上司の言葉に頷いた二人を確認し、レイはさっそくと声を潜める。ちょいちょいと顔を寄せるように指示を出すと二人が耳を寄せる。二人が近い距離になったのを確認し、レイは口を開く。
「悪いけどさ、今時の若者は女の次に何が興味あるのか教えてくれ」
『……………………………』
17歳と若者の域に入る少年の相談に二人は沈黙する。そんな二人を前にレイは真顔で言い放つ。
「だって何を話したらいいか分かんないんだから仕方ないだろ」
この世に生まれ落ちて弱冠17歳の少年の弱点は“若者らしさ”がないことだった。
いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。
どうしてもキリの良い所まで投稿したくなり投稿しました。少しでも楽しんで頂ければ幸いです。




