愚痴を聞くのも部下の仕事です
「俺、本当に誰を募集するんだと思った………」
ガヤガヤと騒がしい食堂内で自分と向き合いながらげんなりとした表情をさらした相手にアルフレットは苦笑する。
「ま、ユークリッドに悪気はなかったんだから忘れてやれよ………」
仕事終わりにだいたい週の半分は連れだって食堂に足を運ぶレイとアルフレットは本日も向かい合って食事をとる。本日は若き団長の熱烈要望で第二食堂にやって来た。疲れた表情で注文したマレルのクリーム煮を口に運びながらレイはアルフレットに問いかける。
「でもさ冷静に考えてもみろよ?警備隊の詰所にお前は仕事を探しに行くか?」
「行かないな。絶対に」
同じようにクリーム煮を注文したアルフレットは即座に首を振る。何より………警備隊の詰所に行くときは犯罪者の連行か通報のみ………それ以外で行く理由が分からない。
「だろ?………ああ………癒される………」
ーマレルのクリーム煮ー
団員達に心の故郷と有名なクリーム煮を頬張りレイは幸せそうな顔を晒す。その姿にアルフレットは笑いながらも自分も頬張る。
「うまいな」
「ああ………」
それだけを交わすと後は無言でひたすら匙を動かして腹を満たす。焼きたてのパンにつけて食べれば更に美味い。暫くの間、無言で食事に没頭していたアルフレットは腹が満ちると顔をあげる。
「で、本当に求人広告で行くのか?」
ユークリッドの案自体は悪くない。だが、この物騒な世の中。ギルド保証や人の伝と言うのは侮れない。そう問いかけると食事に没頭していたレイは匙をくわえながら肩を竦める。
「悪くないだろ」
「まぁ、発想はな。でも、身元保証が全くないぞ」
ユークリッドに“いいじゃないか?”と言ったレイの意思を尊重したが全くの身元保証がない状態で一師団の下働きには出来ない。採用したはいいが他国の間者とか困るからだ。アルフレットの懸念にレイはニヤリと笑う。
「身元調査すればいいんだろ?ようは」
「まさか………」
団長の爆弾発言にアルフレットは食べていたパンを手から落とす。
「この前新しいの仕入れたからさ。使わないともったいないかなと思ってさ」
「はぁ?お前いつ!!聞いてないぞ」
思わず身を乗り出すアルフレットをよそにレイは“ん~”と唸る。
「つい2週間ぐらい前だったかな………部屋に帰ったらさ、いきなり熱い挨拶を頂いたから驚いて沈めたのが最初の出会いかな」
何でもないように告げられる内容に呆れたように頭を抱えたアルフレットはため息混じりに突っ込む。
「本当にお前、よく差し向けられるな」
「人気者はツラいね」
「違った意味でな」
何でもないように暗殺者を沈めて、自分の手駒にする相手にアルフレットは突っ込む。
「まぁいい………で、新入りに何させるんだ?」
今が自分の使い勝手を知らしめる時と命をかけての活躍を狙っている元暗殺者に何をさせるのか気になって仕方ない。
「ユークリッドの求人広告で集まった面々の身元調査をさせようかと………」
アルフレットの言葉にレイは微かに笑う。
「手間じゃないか?」
「ん~、確かにギルド保証と比べると手間がかかるよな」
ーギルドライセンスー
その資格を有するだけで身分保証になると言われるほど経歴が記載される。年齢出身地。保有資格などなど………。それを持っていればまず間違いなく犯罪者ではない。犯罪を犯せばはその資格は剥奪される。
「でもさ、平民でギルドライセンス持ってる奴ってどれだけいる?」
「………それは………」
皆無に等しい。ギルドに登録するにはそれなりの金と学がいる。ギルドライセンスを保持する事は一つのステイタス。突然のレイの質問にアルフレットは目を瞬く。その反応に木のカップに入った水を飲み干し、レイは頬杖をついてアルフレットを見上げる。
「いないよな?」
「ああ」
レイの悪戯を思い付いたような顔を見下ろし、アルフレットは何をするんだと見つめる。そんなアルフレットの視線に照れたように笑いながらレイは口を開く。
「って事はさ………この国の平民は生きるためにお前が言ってたように嫁いで子供を産むか次男だったら軍属になるしかないじゃん。だけどさ、それっておかしくね?なら、平民を直接雇用出来る形がどうであれ出来るんならやってみてもいいかなと思ってさ」
告げられる言葉にアルフレットは目を瞬く。ニッと笑いレイはアルフレットを見る。
「いいじゃん。やって見ようぜ。うまくいかなきゃ止めたらいいんだしな」
「………そうだな」
何にも考えていないような言動をする癖にサラリと新しい方法と価値観で問題を解決する少年にアルフレットは嘆息する。
「でもとりあえず、お前は後で俺の部屋な」
「は?なんで!」
ため息を吐いてそう告げる相手にレイは皿から残りのクリーム煮を食べながら驚愕する。匙をくわえる相手がこちらをみるのにアルフレットは疲れたように突っ込む。
「当たり前だろ。お前の事だ。めんどくさいって理由で掃除してないだろ。………フレアに頼んでお前の部屋を綺麗にしてもらうまで帰せるか………」
「ちゃんと掃除したけど?」
「そういう筋の方に掃除して貰え!」
暗殺者が送り込まれたと言うことは部屋の備品に細工されている可能性もある。うっかり死なれたら寝覚めが悪い。暗殺者を送り込まれ過ぎて感覚が麻痺してる相手にアルフレットはため息を吐く。
「大丈夫なのに………」
アルフレットの言葉にレイは拗ねたように肩を竦める。その態度にアルフレットはガシと上からレイの頭を鷲掴みすると微笑む。
「いいよな?」
「って、痛い!痛い!」
「当たり前だ!痛くしてんだからな。お前はあれほど新しい奴が来たら報告しろと言ってんのに。この鳥頭!」
「ひど!!」
「酷いのはどっちだ………たく………」
自分達を心配させたくないと思っているのだろうが。何も言われないとそっちの方が心配になる。
「フレアを呼べ」
「呼ぶから!ちょっ………アルフレットさん!痛たた!」
「ほら」
頭を握りつぶさんように握るアルフレットに目に涙浮かべたレイは食堂で給士をしている手駒を呼ぶのだった。
ーそれから数日後ー
「駄目ったら駄目!認めないからな! 」
「何故、駄目なんですか!」
「通勤時間なんてかいたら誰も募集して来ないからに決まってるからだよ!」
「来たぞ~レイ………………」
報告と提出物を持って団長室を訪れたアルフレットは部屋を開けた途端のやり取りに目を瞬く。衝突した事のない二人が机を挟んでやり合っている姿が視界入る。二人の視線が自分に集まるのを感じたアルフレットは開けた扉を閉めて退出したくなるが天井を仰ぐと部屋の中に足を踏み入れる。
「どうしたんだよ」
「アルフ!」
「アルフレット!」
問いかけると同時に自分に訴えかける視線が自分を射ぬく。
「ユークリッドが!」
「団長が!」
『通勤時間を記載する!《な!』
『と言うんだ!』
「あ~、とりあえず一人ずつ話聞いてやるから落ち着け」
口々に訴えて来る声に今日の仕事の予定を白紙に戻し、アルフレットは覚悟を決めた。
ー第1隊隊長アルフレット・ノワールの仕事は多岐に渡るー
いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
伝えたいのはそこじゃない!
加筆修正しました。総料理長の悲哀が追加されています。お読み頂かなくても話の進行に問題はありません。




