最初の一歩は挫折から………
その日、第5竜騎士団団長室に響く声は悲哀に満ちていた
「なんで私はこんな簡単なことに気づけなかったんでしょうか………」
第5竜騎士団副団長ユークリッド・コンフリートは踏み出した最初の一歩からつまづいた事に深い溜め息を吐く。
「まぁ経験の問題じゃない?」
憂うつ気な表情で現実逃避体勢のユークリッドに書類をめくっていつも通りに仕事進めていた第5竜騎士団団長レイ・アルフォードは肩を竦める。
「ま、そんなに深刻になるなよ。実際にはあれを読めるやつが両手と左足で数えられる人数しかいなかったってだけの話なんだからさ」
「何でもないように言ってるが結構な内容だぞ。お前」
この数ヵ月………癖の強い上司に挟まれ、すっかり常識人的の役割を押し付けれるようになってしまったアルフレットは冷静に突っ込む。直属上司のレイに書類を提出しに来ただけなのになぜか突っ込み要員と化している。そんなアルフレットの突っ込みに“はぁ………”と溜め息を吐いたユークリッドは更に遠い目をして床に視線を落とす。
「まさか………あれが何て書いてあるかを当てるトトカルチョになるなんて思いませんでしたよ………」
つい先日………意気揚々と砦内でも随一の広さを誇る訓練所に“目標”を見える化して掲げたユークリッドは期待に胸を奮わせていた。
ーここから始まるんですー
高揚する気分を押さえられず、自ら作り上げた目標を見上げていると周囲に人が集まってきたのだ。その中の一人が話しかけてきた。
“あれは副団長が?”
“はい。この団の目標にしたいと思って………”
背後から問いかけてきた団員に力強く頷いた所まではまだ良かったのだ。問題はその後………。ちなみに“目標”とは何かと聞かれなかった理由は………聞かないで欲しい。
“へー………そうなんですね………”
背後からの声に満面の笑みで振り返るとそこには人だかりが出来ており、こそこそと自分を見ながら何かを紙に書いて箱にいれている。
“あの………何してるんですか?”
“いえ。何も”
さきほどと同じ団員が首を振っていた。その後、トトカルチョの問題にされていた事が判明。自分の認識の甘さをユークリッドは痛感したのだ。顔を覆ってその時の衝撃を受け流している部下を横目にレイも遠い目をする。
「確かにこの団の事務能力の低さを目の辺りにして目標を掲げるって聞いた時は勇者だなとは思ったけどさ」
ユークリッドから相談された時は大爆笑したが落ち着いて冷静に考えたら怖いことに気づいてしまったのだ。
ーこの団………ヤバくねぇ?ー………と。
「トトカルチョされてた事よりも俺はこの団の事務能力の低さに戦いてるわ………」
トトカルチョが始まったのは別にいいとしてその答えがわかる人数の少なさに絶望を味わった。ユークリッドとは違う意味で遠くをみやる上司にアルフレットは苦笑する。
「確かにな………」
第5竜騎士団の構成員の半分は“平民”。自身も少し前に演習目的を“農作物の保護”と書いて提出し殺気だったレイに“ふざけんな”と一蹴された過去を持つアルフレットも遠い目をする。入隊時誰か一人が名字のスペルを間違えたら同じ名字の奴の大半が間違っている事態に陥る。アルフレットの呟きに仕事の手を止め、レイは頬杖をついて現実逃避する。
「ま、下の面々は気長にやってくしかないよな………と思ってる………でもな…………文字が書ける奴の識字率向上に向けては早急に取り組むべきだと思ってる」
「ああ………」
「そうですね………」
つい先日名前が書けないなんて“可愛いな!おい!”みたいな問題に直面した3人は重々しく頷く。ーほんの一月前に起きた事件ー災害級魔獣討伐依頼書がまさかの“王都からの近況を伝える手紙”になっちゃう事件を目にした第5竜騎士団団長と副団長の悩みは砦の背後に聳え立つ山脈よりも高いのだ。そんな自団の絶望的な事務能力の低さにレイは天井を見上げてしみじみと呟く。
「事務能力の低さは自団を壊滅させる危機に追い込むって事を知らなかったからな………………まさか誤字・脱字が騎士団一つを壊滅の危機に陥れる兵器にもなりえるって事を………」
若冠ー17歳の若き団長ーを失意の底に叩き落とす事件の張本人は今も在籍中だ。
ーヴァイゼ・オネストー
きっと壊滅させたい軍に放り込めば血を見る事なく、壊滅させてくれるだろう生物兵器。
「世界って広いな………」
改めて世界の広さを噛み締めた第5竜騎士団団長レイ・アルフォードは同時に世の中の不条理さを噛み締めるのだった。
いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。
なんとか年内に投稿できました。
文字数が少なくて申し訳ありません。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです




