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とりあえず、異世界の労働問題を解決しようと思います  作者: 高月怜
とりあえず、異世界の労働問題を解決しようと思います
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いやいやそんなに簡単に倒せたら騎士団いらないじゃん

ー眼下の光景は凄い速さで流れるー


その気になれば国土を3日で駆けると言われる竜騎士。そんな竜騎士の一人。第5竜騎士団団長レイ・アルファードは“それにしても………”と呟く。


「まったく…まさかここで使うとは思わなかったな」


ドンドンと近づいて来る魔獣を見据えながらレイは肩を竦める。そんなレイの呟きにオルソはニヤリと笑う。


「まぁ、練習だと思いましょうよ!実戦でいきなりやるよりはましですって」


団長のぼやきにオルソは吠える。明らかなに自分には手に負えないような魔獣の姿をみれば恐れが先立つ筈なのにオルソにはその片鱗は一切見えない。


「ま、それもそっか………」


自分の横を並走するオルソに納得したレイは指示を飛ばす。


「今から災害級魔獣と交戦を開始する!が、まずは人命救助を最優先。魔術部隊は降下後、半分は拠点を構築。残り半分は片っ端から治療にあたれ、ブレスが届く範囲に天幕なんて張んなよ!即行!」


『はっ!』


その支持に騎士団員の後ろに騎乗していた魔術師達が一切の減速をしない竜の背から次々に飛び降りていく。魔術師の降下を助けるために一時的に高度を下げていた騎手をレイは上に上げる。その間にもレイは視界を多い尽くすほどになってきた魔獣を前に命令を下す。


「片っ端から拾い上げろ!俺達の前では助けを求めるものは絶対に見捨てんな!」


魔獣の足元で息も絶え絶えに戦かっている領軍を救うべく、レイは号令をかける。


「行くぞ!」


『おおう!』


後ろに乗せていた魔術師分より軽くなって速度を上げた竜騎士は団長の命に従って、災害級の魔獣の前に躍り出るのだった。




「竜騎士だ!」


誰が上げたか分からない声にアルへ領軍の指揮をとっていた男は顔を上げる。もう3日にも及ぶ攻防に疲れきり、見えるのは絶望のみ。そんな少しずつ救いが失われていくこの場からまた部下も消えていく。そんな場にも恐れずに突っ込んでくる影は点から色に変わり、そしてそれは竜騎士に変わる。男が呆然と見ている間にも竜騎士の背からドンドン人影が降りて行く。降りた人影は怪我をして戦線を離脱したが、満足な治療も受けられていなかった兵士達に駆け寄って治療を施していく。また半数は凄まじい勢いで木と木の間に布を張り、簡易な治療所を作り上げていく。そこに見える姿はかつての魔術師のあるべき姿。


ーゴウッー


もはや呆然として竜騎士の出現を見守っていた男の目の前を風切り音を響かせた竜騎士の一人が横切る。交差するのは一瞬ー。視線が交差した瞬間。地面スレスレまで高度を下げていた竜騎士が速度はそのままに騎手を上げて去っていく。


「隊長!!」


「ああ………」


ーその時ー

         絶望は希望に変わる





「………………………………」


ここはー王都にある魔術師団のとある一角ー

資料を抱えて上司の部屋に急いでいた魔術師は無言で小走りに廊下を走り抜ける。今の上司は貴族の部下には一切、雑務をさせない癖に平民である自分には仕事を山のように押し付ける。今では自分よりも後輩の貴族の男は嘲るような表情で“先輩、これもよろしく”と床にわざわざ書類を落とす。


「………………………………………」


それを思い出す度にぎりっと歯を噛み締める。貴族の何がそんなに偉いのか………平民の何がそんなに劣っているのか。そう思うも貴族の上司を前にすると何も言えなくなる。意見すれば平民の自分では即座に居場所を失う。


ー金のためだー


そう割り切って仕事をすれば惨めな気分は味あわなくて済む。それだけが男が仕事をする上で抱いてる信念だった。


「そう………金のためだよな………」


自分の仕事が誰のためにしているのかはもう忘れた。金のために自分は仕事してるだ。


「………………………………」


魔術師団に入団した時に男が持っていた信念も誇りも生きていく上で失われた。


ーだがー


「よっ、久しぶり」


男が走り抜けようとした廊下片隅でとある男が待っていた。


「フラン………………」


「久しぶりだな。元気か?」


そこに居たのは………平民でありながら貴族の上司と上手く付き合う事が出来る憧れの男。


ーフラン・キャンドルー


がそこに居る。 


「なんだよ!」


その何でも出来る憧れのような男の姿に劣等感を煽られ、知らずうちに噛みつくような視線と口調が相手に向けられる。自分に向けられた敵意に近い態度にフランは凭れていた壁から体を起こすと相手に向き直る。


「知りたい事がある。助けてくれないか?」


「………………………」


フランの予想外の言葉に男は凍りつく。憧れの男が自分に助けを求めてる?頭の中を疑問符が過るが………。


「からかうなよ!」


「からかってなんかない。お前しか頼れる人間がいないんだ」


「………………………………」


フランの真剣な眼差しが自分を射抜く。その眼差しに男はため息を吐く。


「………少しだけだぞ」


「ああ!!ありがとう!」


相手の態度に色好い返事を貰えないかと危惧していたフランは相手の言葉には笑顔を向けた。




「災害級魔獣の討伐依頼伝達時刻?」


人目をさけるように場所を移動した二人は魔術師団内部の回廊で話をする。フランが頷くことで相手の言葉に間違えがない事を確かめた男はフムと顎に手を当てる。


「分かることには分かるぞ。だって俺が手続きしたしな」


「本当か!」


「ああ。でもなんでそんな事知りたいんだ?」


フランが辺境の騎士団ー第5竜騎士団ーへの連絡時刻を気にする理由が分からずに不思議そうな視線を向ける。その視線にフランは繋ぎをとるまでは適当に誤魔化そうとしていた理由を悩みながらも口にする。


「ユークリッド・コンフリートを助けたい」


「………………………………」


その名前に男の眉間に皺がよる。普通の貴族とは違うと聞くが貴族は貴族だ。協力する気が失せる。無言で身を翻そうとする男の背にフランは声をかける。


「シーク」


「貴族なんてみんな一緒だ!」


「ユークリッドは違う!!」


シークにフランは首を振る。


「ユークリッドは違う………シーク、何かを変えたいんなら自分が変わらないと何も変わらないぞ!」


「………………………………………」


フランの声に足を止めずに職場に戻るために歩きだしたシークはその言葉に歯を食い縛る。自分だって好きで諦めた訳ではない。 


「………………………………………」


厳しい表情でシークの背を眺めていたフランは一番に協力を仰ぎたかった相手の態度に内心で焦る。相手が誰かに吹聴するとは思っていない。だが、彼ほどに魔術師団の情報に精通している人間はいないのだ。暫くの沈黙の後、シークははぁとため息を吐く。


「今回だけ教えてやる」


「シーク!」


フランが明るい声を上げるのにシークは振り返ると言い放つ。


「俺はユークリッド・コンフリートを信用した訳じゃない。お前の頼みだから聞いてやる」


「ありがとう。助かる」


「分かり次第連絡する」


それだけを相手に告げるとシークはそそくさと身を翻す。早く戻らないとまた上司からネチネチと嫌みを言われるではないか。そそくさと部署に戻っていく男をフランは見送り、嘆息する。


「いつか………俺達の実力で仕事が出来る場所作るぞ」


貴族だから………ではなく。フラン・キャンドルとして仕事出来る場を………。それがフランの願いだった。




「遅いぞ、貴様。そんな簡単な仕事も出来ないのか!」


「す、すいません!」


部署に戻るなり、飛んで来る罵倒にシークは愛想笑いを浮かべて頭を下げる。それに周囲の同僚達が嘲るような笑みを向けてくるのが分かる。


ー何かを変えたいんなら自分が変わらないと何も変わらないぞ!ー


そんなシークの耳にフランの声が甦る。


「………………………………」


「シーク!」


「今すぐ!!」


思わず動きを止めたーシーク・ラクデリアーは再び動き出す。………後に異世界初労働組合を作り上げる男はまだ何も知らずに居た。




「だいたい、片付いたか………」


幾度となく災害級魔獣の前を飛び、気を引いて気をそらせ。部下達が負傷者達を救出するのを助けていたレイは部下達が半数以上の負傷者達を助けたのを確認し、騎手を上に向ける。キマイラ三倍もどきの足元で動かない物体は悲しいかな。もう動くことのない亡骸だけだ。


「………………………………」


胸に込み上げる感傷は無視する。今必要なのは戦う力だ。


『ー』


空を目指して騎手を上げたレイの口から人間には理解出来ない音階の旋律が紡がれる。その音に感づいた部下の騎竜達が怯えて去っていくのを確認し、更に言葉に力を込めて行く。


ー周囲の音が消えるー


「いけ………」


力を練り上げた最大級の氷結魔術をレイは下にいるキマイラ三倍もどきに投げつける。言葉とは裏腹な勢いでキマイラ三倍もどきにぶつかった氷結魔術はその効果をいかんなく発揮し、キマイラ三倍もどきを凍らせた。




「!!」


竜騎士団が現れてから立ち直っていく自軍に目を見張ることしか出来なかった男は目の前で凍りついた魔獣を前に言葉を失う。


「………やったのか………」


「んな、わけないだろ」


あれほど自分達の手を焼かせていた魔獣が凍りついた事に呟いた男の耳に呆れた声音が被さる。


「!」


その声に呆れたような表情を隠しもせず男の前に降り立った第5竜騎士団団長レイ・アルファードは肩を竦めた。 


「お初にお目にかかる。第5竜騎士団団長レイ・アルファード。要請に従い加勢しに来た」


目の前で言葉を失う男を前にレイは呆れたように言い放つ。


「つーか、そんなに簡単に片付いたら竜騎士団なんていらないじゃん」


いったい何のために加勢に来たのか分からない。真顔でそう口にしたレイの背後では応急処置で凍りついた魔獣が天に向かって咆哮していた。

いつもお読み頂きましてありがとうございます。

誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。


少しでも楽しんで頂ければ幸いです!

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