過大評価は一人歩きする
「話は分かった。協力させてくれ」
休憩時間に繋ぎをとった相手は話を聞くなり、了承の意を返す。
「助かる」
「彼には借りがあるからな。ぜひ、協力させて欲しい」
ガヤガヤと騒がしい店内で騎士団に所属するキース・クラッチは向かい合って座るフランに笑う。金髪・碧眼と貴族に近い色彩を持つが彼はれっきとした平民出身。騎士らしく鍛えられた体を自分の背や隣を給仕が通る度に小さくしている相手にフランはほっと息を吐く。そんなフランを前にキースはニカッと笑う。
「いきなりお前が訪ねて来たから何事かと思った」
注文した料理が目の前に置かれると待ってましたとばかりにキースは食事に取りかかる。その瞳は豊満な肉体を持つ店の看板娘をおっている。学園に入学する前からの付き合いなので相手の好みを知っているが今は時間が欲しいとフランは呆れた顔をする。
「なんだよ。その言い方は。まぁ、とにかく頼むぞ」
「ああ。任せとけ」
ちょっと忘れっぽい相手に念を押すとフランも昼食を口に運ぶ。魔術師団の塔にある食堂と違う働き盛りに嬉しいボリュームと濃い味にフランは目を細める。
「うまい」
「お前の方が心配だわ」
食事に来たのが目的じゃないかと言わんばかりにモクモクと食事に精を出すフランにキースは呆れた目を向ける。その視線にフランは澄ました顔をして肩を竦める。
「お貴族様の食事は味は薄い。量は少ないし、なのに割高だろ。昼なんて食ったきしないからな」
休憩時間の間に街に降りることも出来るがめんどくさいという理由で師団の食堂を利用するフランは浮かない表情で吐き捨てる。
「ガッツリ肉を食いたい日にさ、今日は川魚のソーテになります。なんて言われた日には午後は一日中、肉の事で頭が一杯になる」
「仕事しろよ。仕事」
フランのぼやきにキースは生暖かい視線で突っ込む。騎士団にも身分による差別はあるが魔術師団は更にそれが顕著なのだ。
「肉が食いたい日にだぞ!なんで定食が一種類なんだ!って言いたくなるだろ」
「お前の所のトップに言えよ。トップに!」
フランの盛大な愚痴に顔をひきつらせながらキースは突っ込む。かなり大きな声で会話した後、周囲が自分達に注目していないのを互いに確認して表情を一変させる。
「で、いつの間にコンフリート様は左遷されたんだよ?」
ひそめられた声にフランはため息を吐く。
「2ヶ月前にな。厄介な貴族のボンボンに目をつけられてな。あの馬鹿、こっちが助けられる段階を越えるまで何も言わなかったんだ」
「ああ………あの人。仕事以外に興味なさそうだったもんな」
フランを通してユークリッドを知るキースも遠い目をして同意する。ユークリッド・コンフリートは貴族なのに平民出身でも差別しないと有名だった。本人は前世で身分社会を経験した事がなかったので、貴族と平民の差を金持ちと一般庶民ぐらいの差だとしか思っていなかったという裏話つきだ。
「アイツはこの歪んだ仕組みを変えてくれる奴だと思ってた」
フランの心底悔しいという思いが籠った言葉をユークリッドが聞いたら“え?”と自分の過大評価に三度ぐらい振り返っただろう。ユークリッドには仕組みを変えているという自覚もなかった。ただ、自分が仕事しやすいのであれば立場を気にせず、協力を惜しまなかっただけだ。
「ああ………あの人は俺たち平民出身者の希望だったからな」
まだ魔術師団よりも実力優先な騎士団でさえも差別はある。そんな騎士団に対しても、一緒に仕事をするとき。彼はいつも分け隔てなく、“お疲れさまでした。ありがとうございました”と頭を下げていた。その謙虚な姿勢に平民出身者の騎士団の面々は尊敬していた。自分が貴族というのを鼻にかけない態度が素晴らしかった。貴族の中には自分達を肉の盾ぐらいにしか思っていない奴もいる。貴族も自分達も人間で命はひとつ。使い捨て出来るものではない。
「俺が理不尽に新米の頃。貴族のボンボンに暴力を振るわれてる時、あの人は通りすがった時、無視せずに上司に意見してくれた。あの人は本当に凄い人だ」
キースもまたユークリッドが聞いたら“挨拶は仕事の基本ですよね?”と怪訝そうに自分への過大評価を不安視しただろう。
「ああ………だから助けてやりたい!頼む」
「当たり前だ!こんな時に助けられなかったら男が廃る!」
フランの言葉にキースもまた力強く頷く。
「騎士団にもユークリッド様の力になりたいという人は一杯いる。今日、一日くれ」
「分かった。俺も平民仲間に協力を仰ぐ。今日中に情報集めるぞ」
「ああ」
こうして街の食堂の一角で物語は始まる。
ーユークリッド・コンフリートー
後に銀の参謀と呼ばれ、エルバート公国の身分制度や識字率アップに多大な貢献を果たした人物として後世に語られることになる男は知らぬ間に過大評価を受けていた。
ーそんな………後に銀の参謀と呼ばれる事になる男は………ー
「一番安いエールを百樽買います!だから値引きして下さい」
辺境の地ー第五竜騎士団の食堂の裏手ーで酒屋との真剣勝負に挑んでいた。
「ね、値引きですか!」
「はい。百樽買えばそれなりの利益になりますよね?」
前世の知識を元にユークリッドは慰労会の準備を進めるべく、手始めに酒の納入に来ていた酒屋に話を持ちかける。
「この条件を飲んでいただけるんであれば今後2年間。貴方の所からしかお酒を買わないと約束します」
「喜んでご尽力させて頂きます。ご協力させて下さい」
突然のNo.2の出現に戸惑っていた男はユークリッドの既得権益の確約に満面の笑みで頷いた。
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少しでも楽しんで頂けたら幸いです




