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自分のやるべき事

いつもお読み頂きましてありがとうございます。

少しでも楽しんで頂ければ幸いです。









「副団長!第3竜騎士団が動きました!」


その一報が第2魔術師団に飛び込んできたのは昼に差し掛かろうかと言う時間だった。息を切らしながら天幕に駆け込んできた伝令にアデルとカイルは顔を見合わせると、すぐにカイルが伝令に向かって指示を出す。


「予定通り、こちらに向かっている全部隊に伝えろ。全軍はただちに、メイシール前に集合。ただ、指示を出すまで戦闘行為は禁止すると」


「畏まりました」


カイルの言葉に一つ頷くと、伝令が再び天幕を慌ただしく出ていく。その姿を見送り、カイルはため息混じりに目の前の上司へと視線を戻す。


「それにしても全く予想通りですね。あの脳筋、本当に何も考えずに動いてますよね」


第3竜騎士団団長に向かって隠しようのない毒を吐き捨てたカイルに、アデルは肩を竦める。


「そもそも脳味噌が筋肉なんだから仕方ないでしょう」


そう自分もサラリと毒を吐き捨てると、“さて”とため息を吐く。


「それでは打ち合わせ通り、私は先に現場へと向かいます」


「はい」


自分の言葉にカイルが頷くのを確認し、アデルは目の前に広げられた地図を見下ろすと指示を出す。


「貴方と、他の竜騎士達はメイシール前街道に軍を展開して下さい。それと………分かっているとは思いますが、決して華奴隷は殺さないように。それから、出来る限り非戦闘員に怪我をさせるような事もしないように」


釘を指すような言葉にカイルは何度か目を瞬かせると、“ハァー”とため息を吐き出した。


「団長………失礼ですが、私はどこぞの脳筋騎士団長じゃないんで、そんな寝た子を起こす事なんてしませんが………」


「念の為ですよ。君がそんな馬鹿な事はしないと思ってますが」


「なら、いいですけど…………」


そう言いながらも、疲れた表情でカイルは役目を終えた地図をクルクルと手早く纏めた。そして最後に紐で縛ると、カイルは『封印』と呟く。その次の瞬間、自身の手から地図が姿を消えるのを見ながら、カイルはアデルに向き直る。


「そもそもあの内乱のきっかけとなった出来事は騎士として働く以上、忘れてはならない事だと俺は思っています。まぁ確かに……第3竜騎士団団長が言うようにまだまだ生き残った華奴隷達が盗賊行為を働く事もあります。ですが、犯罪を犯すのは華奴隷達ばかりではありません」


華奴隷でなくとも、生活に困窮すれば生きる為になりふり構わないのはどの人間でも同じだ。それを出身が卑しいから事件を起こすのだと決めつけるのは人間として恥ずべき事だとカイルは思うのだ。何より自分は出自にも負けず、自身の持てる力を使って人を守る事を選んだ魔術師を知っている。自分を見つめるアデルに向かって、カイルは肩を竦める。


「だから、俺は『華奴隷だから犯罪を犯す』なんて決めつけるのは間違ってると思うんですよね」


その言葉に、暫く虚を突かれたような表情で押し黙ったアデルは“ハァー”とため息を吐きながら、首を振る。その迷いない姿にカイルが王都の早々たる面々を前に啖呵をきった姿が重なった。


『私は自分の努力では変えられない部分で人を嘲笑するやつが一番嫌いです』


かつて、そう言い切った彼は今もその言葉を違える事は決してない。


「…………時々、君のそのお馬鹿な性格が羨ましくなります」


「はぃ!?」


自分の言葉にカイルが目を剥くのに、口元を緩めながらアデルは身を翻す。


「………でも、残念な事に私は君のその超がつくほど真っ直ぐな性格が嫌いではありませんよ」


自分に背を向けたアデルの言葉にカイルは目を瞬くと微苦笑すして、深く一礼した。


「………私の仕事は貴方が守りたい物を守れるよう、その背を支える事です。どうぞ、こちらは気にせず安心して行って来て下さい」


自分の背にかけられた声に、一度目を閉じてからアデルは振り返る。


「…………せいぜい足を引っ張らないようにお願いしますよ」


その言葉にカイルはニヤリと笑うと殊更恭しく、“畏まりました”と頭を下げた。


「どうぞ、ご武運を」



その言葉に今度は何も答えずに天幕を出たアデルは中天に登った日に目を細めると、目元を隠すように手を翳す。


ーそして


「………さて、今日は長い1日なりそうですね」


アデルはそう呟くと、自分の姿を鳥へと変えて空へと舞い上がる。その後そのまま数回天幕の上で旋回し、アデルはメイシールに向けて進路をとった。








「今、本隊からの連絡がありました!」


アデルより遅れる事、十数分。第2魔術師団に潜伏中のレイ達、第5竜騎士団の面々がその言葉を聞いたのは少し早めの昼食を食べている最中だった。各々が持参した糧食を岩に腰掛けて談笑しながら齧っている中、伝令役の竜騎士が慌てた様子でレイの元までやって来たのだ。


「ご確認下さい」


そう言って差し出された紙を受け取って中身を確認したレイはそれを一瞬で手の中で灰にすると、伝令役の竜騎士に頷く。


「分かった。すぐに向かうと伝えてくれ」


「分かりました」


自分の言葉に一礼して、去っていく竜騎士の姿が見えなくなった所で隣の岩に腰掛けていたターキが声をかけてくる。


「……何か動きがありましたか?」


他の人間には聞こえないよう配慮したのか、抑えた声量での質問にレイはため息混じりに“まぁな”と肩を竦める。


「予想通り、第3竜騎士団が動いたみたいだ」


そう教えてやると、ターキが顔色を変えた。分かりやすい反応に苦笑しつつ、レイは自分の手の中にあった堅パンを口の中に放り込む。そのまま咀嚼して、飲み込むと薄く笑う。


「だから最悪を想定して、武力衝突の危険性も考えて遠征中の第2魔術師団は全員メイシール前の街道で待機しろって事らしい」


レイ自身は説明する声に苦さが滲むのを止められなかった。


「……つーかさ、渦中にいない俺にもどうみたって罠だって分かるのによくやるよなぁ。自分の遠征中に都合よく、華奴隷が村を襲うなんてどう考えたっておかしいだろう」


そもそも日程は隠されてはいるが、自分達がこの時期大規模な遠征を行う事は毎年の恒例行事だ。その為、むしろこの時期は盗賊行為を働く輩達は皆息を潜めるのだ。なのになぜ、この時期に都合よく事件が起きたのか。考えなくても、誰かが裏で糸を引いている事は予想出来る。しかも、その誰かは王都にある第1魔術師団内の|人物(・・)だ。


「ほんと、嫌になるよなぁ………」


眉間に皺を寄せて、レイは唇を引き結ぶ。別に自分だって根っからの善人ではないが、自分の欲望を満たす為に誰かを犠牲にしても構わないと思うほど暴君でもない。


「争いはいつだって、起こした人間じゃない奴が犠牲になるんだからな」  


そう吐き捨てたレイは残りの堅パンを口に放り込むと水で流し込んでから立ち上がる。自分を心配そうに見るターキに向かって肩を竦める。本当はこのまま何事もなく終わる事を望んでいたが、難しいと分かった今。自分は自分に出来る事をするだけだ。


「でもさ、ここでぐちゃぐちゃ言ってても事態が改善する訳じゃないからなぁ〜。俺、ちょっと先に行くわ」


“だから、お前達は指示通りの布陣で頼むぜ”と伝えると、自分の言葉に何度か目を瞬いたターキが深いため息を吐きながら頭を下げた。


「……はい。こちらは気にせず行って下さい。私達は後から向かいますので」


その反応にレイはため息を吐く。


「あのなぁ、勘違いすんなよ。俺はお前達が邪魔だから置いて行く訳じゃない。お前達が居るから、俺は後を気にせずに行けるって話なんだからな」


「…………え?」


予想外の言葉にターキが声を上げれば、呆れた表情でレイはわざとらしく腕を組むと“当たり前だろ”と渋面を作った。


「そもそも人間が1人出来る事なんて限られてるんだよ」


唇を尖らせたままレイは心の中で自分の竜を呼びながらターキを見やる。


「そもそも俺は自分1人だからって最初から諦めるのが1番嫌いだ。だからどんな時でも自分のやるべき事はやってから諦めたいだけ」


“キゥイ!!”


“まるでその通り!!”と言わんばかりに高らかな声を上げて現れた自分の半身が肩に降り立つのを見守りながらレイは目元を緩める。


「でもその為には自分の背後を気にせず、集中出来る安全な環境が必要だ。だから、俺が後顧の憂いなく全力投球出来る環境を作る為にもお前達の協力はいつでも必要不可欠なものだ」


そう言いながら自分の頭に首を寄せてきた半身の鼻先に“ちょん”と口づけながら、レイは“ニヤリ”と笑う。


「皆それぞれ出来る事は違っても、自分のやるべき事をやり通せばそれが回り回って人を助ける。それは変わらないと俺は思うぜ?」


悪戯を思いついたような勝ち気な表情で自分に笑いかける上司にターキは“敵わないな”と苦笑する。


「ですね」


上司の言葉に同意すると、背を正しターキは一礼する。


「謹んで、団長の背をお守りいたします」


「おう!」


部下の言葉にレイは満面の笑みを浮かべると、呼び出したキウイに跨がると上空へと飛び出した。

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