演習開始です!
ー夏の日差しが仕事を始めるにはまだ間があるこの時間ー
真新しい制服に身を包んだ14、5歳から20歳前後と幅広い年齢層の兵士達は期待半分、不安半分の気持ちでいまかいまかととある人物の訪れを待っていた。その初々しさに年長者で今回の子守役の面々は微苦笑する。この演習での洗礼にどれだけの面々が耐えて、兵士として騎士として………また魔術師としてやっていけるのかが決まる。色んな期待と不安を抱く様子に昔の自分を見ているようで懐かしくも感じるものだ。
「敬礼!」
その声に休めの姿勢をとっていた面々がざっと姿勢を正す。まだまだ慣れない動作にもたつく人間もいるが新人のみで形成された部隊なのでそれはご愛敬だ。今まではお試し期間でこの演習で容赦なくふるいにかけられる。そんな新兵達が待つ演習場に足を踏み入れたレイはその緊張した面持ちを顔に出した面々に口元を緩める。右後方にアルフレット、左後方にユークリッドを従えて前方にしつられられた壇上に向かって歩く。その姿に憧れの視線を向けるものもいれば、妬みの視線を向けるものと様々だがそんな視線を意に介さず、レイは壇上に登るための階段に足をかける。壇上に登る上司の傍らに控えるように壇上の脇でアルフレットとユークリッドは歩みを止める。
“上々”
壇上に上がったレイは一死乱れぬ整列をしつつも目の前で緊張した面持ちを晒す新兵達に口元を緩める。ここからが本番なのだ。
「さぁ、今日という日が来た。夏を迎えるにあたり、諸君らは今日この日、ついに初めての演習を迎える」
しんと静まり返った演習場に堂々としたレイの声が響き渡る。
「学園で学び、その身に力をつけたもの。また自らの力を示して入隊したもの。手段も己の抱く信念もそれぞれ違うだろう。だが、ここに集ったからにはその剣は全て国に捧げよ!己の力を示し、また仲間を助け、その力は全て力なき人々を守るためにあると心得よ!」
まるで目の前に原稿があるかのように朗々と今から初めての魔獣討伐に赴く面々を鼓舞する上司の言葉を聞きながらもユークリッドは欠伸を必死に噛み殺していた。
“眠い………超絶に眠い………”
顔は涼しげに上司の言葉に聞き入っている表情を作りながらもユークリッドの内心は早く終わらないかなと思っていた。
レイの演説に更にピシと背を伸ばす面々を観察しながらもユークリッドはこっそりとため息を吐く。
“なんでこうも偉い人間の話って抽象的なんでしょうね………”
もちろんそうである理由も長い理由も分かっているが、それでも早く終わらないかなというのが大半の中間管理職の本音ではないだろうが。前世に自身も数十人単位を前に事あるごとに店の方針を伝えていた。もちろん抽象的な言葉を具体的な言葉に言い換えて。反対に今のように“農作物被害減少のために野獣と魔獣を街道から一掃する”という具体的な言葉を押し隠す必要もある。新人研修も兼ねてますみたいに言われたらそれだけでげんなりだ。演習をして、本番の出動に備える練習だが………時には建前が必要な事もある。ユークリッドがぼんやりと考えている間にも演説は続き、ようやく最後の言葉が発される。
「これで以上だ!全員が自分の役割を理解し、果たすことを期待している。では出立!」
最後の言葉を受け、それぞれお守り役の面々が隊長の指示を受けて動き出した。
「………で、後は頼むぞ」
壇上を降りて、再び廊下に戻ったレイはようやく眠そうな顔をして欠伸する。黒の隊服に自身の所属を表す、紅いマントを背につけた出陣時の正装だ。
「はい、打ち合わせ通りに」
同じく目の下に隈を作ったユークリッドは頷く。
ー先に言っておくが3馬鹿トリオを気に病んで眠い訳では一切ないー
「お前ら、ボロボロだな………」
そんな二人を前にアルフレットは背後を歩きながら苦笑すると恨めしげにレイが振り替える。
「当たり前だ!どこの世界に3日前に魔獣の出没地域が広範囲にあたるから、演習期間を増やせ!なんて言われて“はい、そうですか!”なんて言えるやつがいるんだよ!!」
3日前に来た王都からの指示に演習日程と場所を書き直し、ユークリッドととの連絡方法を確認した。演習までには色々落ち着いて行けるなと算段していたレイの愚痴にユークリッドは苦笑する。その余波で新しい指定場所が新人たちでも刈り取れる魔獣と野獣なのかを確認する所から始まり、二週間かけた演習の日程を組み直したのだ。そのため、3日間不眠不休だ。今、王都を滅ぼうそうぜと誘われたら笑顔で協力してしまう。
「ま、なんとかなりましたから」
「ユークリッド、お疲れ」
愚痴とは違うがどこか遠い所を見て呟く上司をアルフレットは労う。元々は上司として接しており、敬語を崩さなかったが打ち解けていくうちにユークリッドから敬語は必要ないと言われたのでアルフレットは敬語を使っていない。
「あー、マジ眠い!」
大人組の会話にブスッとした表情を崩しもしないレイはようやく見えて来た砦の入り口に待つ新人部隊とは別に待機していた第2隊を視界に入れて歩を止める。
「ユークリッド」
「はい」
視界に入る歴戦の竜騎士に気づいたユークリッドも団長の声かけに頭を下げる。
「砦を頼む」
「かしこまりました」
その言葉にユークリッドは恭しく頷く。
「無事のお帰りをお待ちしております」
ユークリッドの無事を祈る声に軽くうなずいて、アルフレットにも視線を向ける。
「頼むぞ」
「了解しました」
アルフレットも正式な騎士の礼で団長の言葉を受ける。それに頷いて第2隊に向かって歩いて行こうとしたレイは再び歩を止めてユークリッドを振り返る。
「ユークリッド、お前に教えとくわ」
「はい?」
突然、機嫌よく問いかけられたユークリッドは自身よりも背の低い上司を見つめる。そのいかにも何でしょうか?と小首を傾げる姿にクックッと笑いながらレイは口を開く。
「魔法の言葉だ。俺がいない間はお前に全ての権限が委ねられる。忘れんなよ」
「………はぁ」
予想外の言葉にユークリッドが目を瞬くのに“ニヤリ”と笑ったレイは手をあげる。
「じゃ、後よろしく~!行ってくるわ!」
ニンマリとした笑みをそのままにレイは自身を待つ第2隊に向かって駆け出した。
いつもお読み頂来ましてありがとうございます。誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。
まだまだ話は続きますがようやく第一章の終わりが見えて来ました。ユークリッドが決める覚悟に笑って頂けたら幸いです。




