第92話 与えられた猶予の結末
(どう、すれば……)
突如として降り掛かった最終通告。
使おうと。
思っていたカードからゆっくりと手を離す。
(な、なにか。なにか方法は……)
私の目の前に広がる十枚の手札。
それをジーッと見つめる。
(……とりあえず動くしかないわね)
どんなに考えても、今の手札ではどうすることもできない。
だったら。
少しでも可能性のある方に。
私は一枚のカードに指を掛けた。
「私は2マナを使ってスペル『バックドロー』を発動」
メリル
マナ9→7
手札10→9
「手札を1枚戻してから2枚ドロー」
メリル
手札9→8→10
(お願い……っ!)
想いと、願いを込めたドロー。
あえてシステムに頼らず、デッキの上に指を乗せて二枚のカードを一気にめくる。
そして、
「……っ!?」
めくった二枚のカード。
それを見た私の目が大きく開いた。
(これは……このカードは……!)
――見つかった、かもしれない。
カードを見て。
その効果を見る。
そして、脳裏に走った一筋の光。
私がこのバトルの中で探し続けたもう一つの答え。
その答えに手が届いた――。
そう思った私はデッキの方に目を向ける。
(あと、11枚……)
この『カード』を使うためには、少し枚数が多い。
けれど、これ以外に私の勝ち筋はない。
ならば、
(……やるしか、ない!)
やってやる。
私の目に、ボオッと闘志の炎が宿った。
「なにか良いカードでも引けたみたいだね」
「おかげでね。私は1マナを使って『白綿フワリィ』を召喚」
メリル
マナ7→6
手札10→9
『白綿フワリィ』
コスト1/水属性/アタック1/ライフ1
【効果】
①このユニットがバトルゾーンに出た時、このユニットを破壊して発動できる。カードを1枚ドローする。その後、手札を1枚選んでデッキの下に置く。
「私は召喚した『白綿フワリィ』を破壊して効果を発動。カードを1枚ドローした後に手札を1枚デッキの下に戻す」
メリル
手札9→10→9
まだ、11枚。
「ここで私はデッキの下から『ブルーリザード』の効果を発動!」
「っ! デッキの下だって?」
「そうよ! デッキの下にいる『ブルーリザード』をドロップゾーンに送ることでカードを1枚ドローできる!」
メリル
手札9→10
あと、10枚。
「2マナを使って『青少女セレン』を召喚」
メリル
マナ6→4
手札10→9
『青少女セレン』
コスト2/水属性/アタック1/ライフ1
【効果】
①このユニットがバトルゾーンに出た時、このユニットを破壊して発動できる。カードを2枚ドローする。その後、手札を1枚選んでデッキの下に置く。
「召喚した『青少女セレン』を破壊して効果を発動。カードを2枚ドローして手札を1枚デッキの下に戻す!」
「ふうん?」
メリル
手札9→11→10
あと、9枚。
もしかしたら、シーラに私の狙いが気付かれたかもしれない。
でも止まるわけにはいかない。
だって。
ここで止まったら――私の負けだから。
「私はデッキの下からもう一枚の『ブルーリザード』の効果を発動! 『ブルーリザード』をデッキの下からドロップゾーンに送って1枚ドロー!」
「っ、もう一枚か」
メリル
手札10→11
あと、8枚。
「私は2マナを使ってスペル『ドローサーブ』を発動!」
メリル
マナ4→2
手札11→10
「効果でカードを2枚ドローした後に手札を1枚デッキの下に戻す!」
メリル
手札10→12→11
あと、7枚。
(足りない……!)
「三枚目の『ブルーリザード』の効果を発動! デッキの下にいる『ブルーリザード』をドロップゾーンに送って1枚ドロー!」
「三枚も入ってたんだねその子」
「……パックでたくさん当たったのよ」
「……そうなんだ」
そうよ。
だからその憐れむような目をやめなさい。
別に全部で十五枚くらい被ったことなんて何とも思ってないんだから。
私は小さな怒りと悲しみを胸にカードを1枚引く。
メリル
手札11→12
(あと、6枚……!)
目に見えてデッキの枚数が減った。
でも――足りない。
「私は2マナを使ってスペル『ウォータースプラッシュ』を発動!」
メリル
マナ2→0
手札12→11
「効果でフィールドにいるユニット1体を選んで手札に戻すことができる! 私が選ぶのは『光聖龍オロライト』よ!」
「ありゃ、それって破壊する効果じゃないよね?」
「手札に戻すわ!」
「じゃあダメかぁ……」
残念残念、と。
シーラは特に困った様子もなく噴き出した水に攫われた一枚のカードを手に取る。
「そしてアタックフェイズ! 私は『水撃の槍兵』で相手に攻撃!」
私の指示を受け、身構える青色の兵士。
そして、槍を構えた『水撃の槍兵』はそのままシーラに向かって突撃していった。
「あ痛っ!」
『水撃の槍兵』
アタック2
シーラ
ライフ20→18
デッキにたった一枚だけ入れていた『ウォータースプラッシュ』。
大量にドローしたおかげでなんとか引き寄せることができた私の猶予。
これが、私にできる最後の抵抗。
それを示すように私はシーラに目を向けた。
「これで私はターンエンド」
「じゃあ私のターンだね。ドロー」
シーラ
マナ0→9
手札4→5
「さぁて。この戦場に再び光を差してもらおうか。私は8マナを使って『光聖龍オロライト』を召喚」
シーラ
マナ9→1
手札5→4
再び開ける空。
そこから差し込む光と共に、一体の龍がその巨体を大きく揺らしながらゆっくりと舞い降りる。
『光聖龍オロライト』
アタック3/ライフ12
『ガード』
「召喚した『光聖龍オロライト』の効果を発動。私のライフを4回復させてもらうよ」
「なら私は『神秘の泉』の効果でカードを1枚ドローさせてもらうわ」
「……仕方ないかな」
シーラ
ライフ18→20
メリル
手札11→12
「できることは特にないかな。これでターンエンド」
「私のターン、ドロー!」
メリル
マナ0→10
手札12→13
(あと、4枚!)
目に見えて枚数を減らした私のデッキ。
それを見て、ふっと息を吐き出す。
「私は5マナを使って『麗流剣士シュトルムナイト』を召喚」
メリル
マナ10→5
手札13→12
『麗流剣士シュトルムナイト』
コスト5/水属性/アタック3/ライフ3
【効果】
①このユニットはこのユニット以外の自分の手札を2枚戻して手札からノーコスト召喚できる。
②このユニットがバトルゾーンに出た時、または、攻撃する時に発動できる。カードを3枚ドローする。
「召喚した『麗流剣士シュトルムナイト』の効果を発動! カードを3枚ドローするわ」
メリル
手札12→15
あと……1枚。
「さらに! 私は『泉の妖精フィーネ』を召喚。カードを1枚ドロー!」
メリル
マナ5→3
手札15→14→15
『泉の妖精フィーネ』
アタック1/ライフ1
これで。
私のデッキは――なくなった。
ふーっと息を吐き出して空を見上げる。
そんな姿を見せる私にシーラの不思議がるような声が届いた。
「いいの? もうデッキなくなっちゃったみたいだけど」
「構わないわ」
だって。
「これが――あなたに対する私からの『攻撃』だから」
「それは一体どういう……」
不思議が、止まらないでしょう?
でもそれでいい。
私は一枚のカードを手にして――それをフィールドに投げ込んだ。
「過ぎたる流れは大いなる反逆を引き起こす」
「……?」
「今それを見せてあげるわ! 私はこのカード自身の効果によって召喚コストを-4して3マナで召喚! 来なさい! 流れの反逆者――『大逆龍ポロロッカ』!!」
メリル
マナ3→0
手札15→14
いきなり現れた大きな渦潮。
その中から。
一歩、また一歩。
ゆっくりとその大きな体を持ち上げる。
そうして現れたのは、一匹の龍。
まるでカバみたいな大きな口をした紺色の龍が私のフィールドに浮き上がった。
『大逆龍ポロロッカ』
コスト7/水属性/アタック4/ライフ4
「これまた、すごい形をしたドラゴンだね」
「そうね。そのすごい形をしたドラゴンの効果を発動するわ」
そう言うと、『大逆龍ポロロッカ』がその口の中にブクブクと水を湧き上がらせる。
「バトルゾーンに出た『大逆龍ポロロッカ』の効果を発動! 私のデッキの枚数と同じになるように――相手のデッキの上からカードをドロップゾーンに送る!」
「っ! なんだって!?」
「喰らいなさい! リバース・エクストリーム!」
私が宣言した瞬間、吐き出される溜め込まれた大量の水。
その水はまるで濁流のようにシーラのデッキを飲み込む。
すると。
「こ、れは……!」
サーッと引いていく濁流。
そこにはさっきまであったはずのシーラのデッキが――元から何もなかったかのように『空っぽ』になっていた。
「私はこれでターンエンドよ」
「攻撃はしてこないんだね」
「あなたのそのドラゴン、『ガード』を持ってるでしょ」
「鋭いね。流石だ」
白々しい。
ハッと息を吐き捨てる。
(私は、私のできることをした)
『キング オブ マスターズ』では、デッキからカードをドローできなかった時点で敗北が決定する。
そして。
バトルには『ドローフェイズ』――ドローをしなければいけないフェイズがある。
(これで私の勝ちよ……!)
目に炎を宿しながら、口元を緩める私。
ところが。
「っ! こ、これは!?」
ターンが終わった直後。
変化が起きたのは、その時だった。
「残念だったね」
「な、なにが……!?」
突如、私達のフィールドを照らした眩い光。
その光の主は――『光聖龍オロライト』。
「スタートフェイズ」
「……えっ?」
「スタートフェイズ、だよ。メリル」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
だけど。
そのすぐ後に続いたシーラの言葉が、私を襲った。
「ドローフェイズより先にスタートフェイズが行われる。よって――『光聖龍オロライト』の効果発動」
少しずつ強くなっていく光。
その輝きに耐えられなくなって顔を両腕で覆い隠す。
それでもなお。
「私のライフは『20』ある。だから――『光聖龍オロライト』の効果によってこのバトルは私の勝ちで終わりかな」
シーラの声は、不思議と私の耳まで届いて。
「楽しかったよメリル」
「光聖の審判」
光が、私とフィールドを真っ白に埋め尽くした。
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