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人狼騎士×少女 / 大祭

■28 祭 ■


 マナ王国では、農耕が始まった古来より、人々の生活を支えて続けてきた麦の収穫期である初夏が新年として考えられている。


 そしてその新年を迎える晦日(つごもり)、つまりは新月の日を迎えるにあたり、カラケシュではその年の豊穣を感謝し、来年の王国と繁栄を祈る為、その象徴たる竜を祀る年末の()()が行われる。


 主会場こそ王国一の都市であるカラケシュだが、この祭りは王国全土を巻き込んだものだ。


 特に、王国中心を流れるブラン川の沿岸都市は互いに連携を取りながら、晦日(つごもり)の半年前から祭りのメインイベントである「輝船(きせん)」を各々競いあうように作り上げていく。

 

 輝船(きせん)とは、その通り魔法や灯によって煌びやかに飾り付けられた船である。音と光に包まれた船がカラケシュの夜を幻想的に彩るのだ。

 

 晦日の早朝、タウロス山麓の都市ハッティは、数十人を乗せた輝船をカラケシュに向けて出航させる。


 ハッティから出た輝船が川を西へ向けて進むこと半刻ほど、米の一大生産地であるアシュルの横を通ると、河港から船が一隻出てきて、その後ろに着いてくる──アシュルの輝船だ。

 

 そうして、都市や街の港を通り過ぎる度に、輝船は一隻、一隻と増えていき、やがて宵のうちにカラケシュに着く頃には、数十隻の一大船団となるのだ。


 さて、輝船に乗っているのは船乗りだけではない。神秘的に輝きながらカラケシュへ来る船々のデッキには舞芸団や楽器隊、或いは花火師、魔法芸術家が現れ、都市ごとに特色のあるパフォーマンスを、両岸に居る人々に向け披露していく。



「毎年、どの都市の輝船が一番優れていたかグランプリを決めることになってるんだ」薄紺色の川上からカラケシュへ入ってくる船を、ホテルの屋上から眺めながら、ダンは初めて祭りを見るライラに説明する。


「グランプリになると、なにかあるの?」


「まぁ……名誉が貰える、とかかな」


「それだけ?」


「いや、名誉は大事だぞ? ちなみに今年のグランプリ候補は……ほら、今先頭を走ってるハッティの輝船だ」


 ダンの指の先にあるハッティの輝船では、デッキの上で過激で派手な水着衣装に身を包んだ踊り子達が光の中で舞遊んでいる。


「へぇ~……彼女たち際どい衣装、私恥ずかしくて着れないわあんなの……でも、エレナが言ってた通り、すっごく綺麗ね」


「でしょう? ここのホテル。祭りを一望できるからって、この時期殆ど予約で埋まってるのよ!」


「はっはっは! 予約をとっていたのは俺だがな。感謝しろよエレナ」


 そう言って、腰に手を当てて自慢気に鼻を鳴らすエレナの髪をくしゃくしゃと撫で回したのはユートだった。

 

 現在、ライラ達が居るのはカラケシュの中央、ブラン川沿いに建つ木造4階建ての大きな宿屋(一階は酒場)。旅商人や移動中の役人向けで、普段は値段もそこそこなのだが、川沿いという立地のおかげで大祭の時期にはカラケシュ市民も部屋を予約するほどの人気で、サービスは変わらない癖に一泊で高級リゾートホテル並の値段になるという。ボッタクリと言ってはいけない。商魂逞しいというべきだ。

 

 そんなところをユートは予約していたらしい、しかも展望デッキ付きの最上級のスイート。独り身のお前が何の為に、とダンが呆れながら訊ねると、帰ってきた答えは「なんとなく」だった。


 国王を守る親衛隊などという超高給取りである上、家族も居ない彼はお金が有り余っているらしい。家族が居る分、自分の趣味だけに金を使えないダンは、そういう生活も少し羨ましいな、と酒を煽った。

 

「でも、よくジジィが許したな。ユートも国王警備班だったんじゃなかったか?」


「お前、ライラの事件での俺の活躍を忘れたのか? おかげで南部問題も解決に向かうかも知れないだろ? 俺の活躍はもっと讃えられるべきで、なんなら聖騎士の称号だって貰っても不思議じゃないはずだ。って言うのをジジィに言い続けたら、折れたよ」


「すごいなお前……アホだ、アホ」


「別に俺はこの部屋を独り占めしてもいいんだがな?」


「……すまん」


「なんだ? 今日はやけに素直だな!っはっはっは!……っと、すまん、ちょっとトイレ」


 いつもならば口の減らないのダンだが、今日は家族が居るので自重気味。それに、ライラとエレナにとって、今日は大切な日、そんなところに水を差したくはない。変なことをして娘に嫌われたらどうするんだ。


 そんな肝心の子どもたちはと言うと、手摺りの近くに集まって、「わぁ~」なんて声を上げながら、かじりつくように輝船の隊列を眺めている。ハッティの船はもう港の方まで行って見えなくなったが、次々と川上から船が来て、踊りと音楽で街を盛り上げている。


 新月の夜なのに、カラケシュは昼のように明るかった。

 

 地上から離れている屋上にも大通りの喧騒が聞こえ、下を見れば、祭りに来た群衆の人いきれを目の前に感じられる程だ。


 圧倒的な光の中で、人々は祭りという非日常に浮かれ騒ぎ、踊り歌わねば損だと言わんばかりに狂い楽しむ。

 

 酒を片手に祭りの光景を俯瞰しながら、今年の祭りは三年前、アスラへ渡った年の初めに見た時よりも、派手で豪華、それに騒がしくなっているな、とダンは思った。

 

 そう。それは単なる彼の記憶違いではなかった。今回の大祭の中心にあるのは、一年前の被災から復興を果たした国民の歓声だからだ。一年前には瓦礫で溢れかえったていたカラケシュは見事に復興を遂げ、国民は新年という特別な日に、祭りという非日常に、喜びを全力で表していたのだ。


 だが、それは大人達の話。ライラやエレナ、ベルのような子どもは、ただ純粋に、その幻想的な夜を心から楽しんでいる。夜の炎に照らされた彼女たちの笑顔を見て、ダンは安心したように毛を垂れ下げる。



──しかし地上から彼らを覗く二つの視線。


「おったおった、あんなに獣臭けりゃす~ぐ分かる。んじゃ、んじゃ、後はお前さんの指示通りに」


 白羊の刺客は、獲物に向けられた目を細め、頭に生やした耳をピクピクと震わせる。


 機は熟した。

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