王×騎士+陰謀 / 王宮②
■25 騎士団■
「奴隷、薬物、武器、食糧の密貿易、反国家分子への人的援助、収賄、地元商会との癒着が疑われる……か」
王が読み上げたのは、別都市の騎士団から受け取った調査報告書。そこに記載されていたのは、ヒザン騎士団の不法行為の数々だった。
「なんですかそれ。やっぱり真っ黒じゃないですか」
「そもそも、約1ヶ月という短期間で、全く証拠の見つからなかったはずの組織を特定するなど不可能だろう。ならば、元々騎士団と白羊という団体の間に何らかの繋がりがあったと考える方が自然だ」
「ああ、確かに。なんかアイツ。えらくかしこまってましたしね」
「……それが自然だ」
王の皮肉をダンは軽く受け流し、何かに気がついたように「あ」と声を漏らした。
「だったら何故それを咎めず、彼を返したんですか?」
「お前も知っているだろうが、この国の騎士団は決して一枚岩ではない」
元々マナ王国は他国と同様に封建社会であり、各地方の騎士団は各地方を治める諸侯貴族に仕えており、国王の臣下ではなかった。臣下の臣下は臣下でないという言葉もあるとおり、彼らは体制も風土も全く別の組織。故に仲の悪い領主が互いの騎士団を動員して争うこともあった。
しかし、海運業の発展と国際都市化に伴い、王都とカラケシュが諸侯に対し絶対的な経済的優位を確立する。国王の権力は増大、所有地も拡大していった。そうなると、諸侯貴族の権力は低下、遂には没落する家も現れた。
だが、貴族が没落すると、彼らに仕えていた騎士団が、武力に物を言わせ自治を宣言したり、反乱を計画する事件が相次ぎ、王国の統一が揺るぎ始めていた。
それを受けた次代国王イシュは国家安定の旗印の元、半ば強制的に王国中の騎士団を国王の直下の臣とし、王国の自治組織として統一・再編成を行った(この時、いくつかの領主はこれに反対し蜂起を画策したが、連合騎士団の介入により、大規模紛争に発展する前に領主権を剥奪された)。
このような中で、経済だけでなく軍事力でも王国内で絶対的な地位を獲得したヒューム家は、絶対王政を確立するに至った。
しかし、各諸侯の騎士団は必ずしも進んで国王の臣下になった訳ではない。自領の安定化の為に国王に協力しているに過ぎず、真の君主は国王ではないという意識が根強い騎士団も少なからず存在する。中でも、南部砂漠地方の騎士団ではその傾向が顕著だ。
南部は砂漠という厳しい環境に囲まれた地方であり、王都からも遠い為、元々民心として中央からの独立性が高かった。さらに、河川の発展している北部に比べて交易路も少なく、王国内の経済格差は顕著。わずかに流れる河川の水利権をめぐり、オアシスの都市同士の問題も絶えない地域だ。だが、その河川の少なさが一年前の嵐の折は逆に好都合だった。
河川氾濫の被害をほぼ受けなかった南部砂漠地方では、王都・沿岸部諸都市・内陸北部が経済的に大きく後退した現在、では反国王の気運が高まっているという。
「王都・カラケシュの経済力が低下している今、ヒザンの反国家勢力を真正面から相手にしている余裕は無いのだ。使えるものは敵でも使わねばな」
しかし、騎士団自体が反乱を企てている可能性も決してゼロではない。むやみに王都の騎士団を派遣すれば、反発は更に大きくなるだろう。
「南部には、南部の間で均衡を保って貰う必要がある。王都の騎士団が介入すれば、余計な反発を生むだけ。かといって何事も起きていない状況下で今回のような勅令を出せば、『王は南部の騎士団を疑っている』と宣言しているようなものだ。だから、大義名分を用意する必要があったのだ」
「それが、ライラを誘拐した組織を調査しろ、というものですか?」
「そのとおり。そして、それは功を奏した。こうして反国王派の組織をあぶり出せたし、その筆頭であっただろうヒザン騎士団を、一旦はこちら側に引き入れることも出来た」
「どれだけ大枚をはたいたんですか? と言うか、金と名誉だけで動くんですか? 反国王派の奴らが」
ダンは怪訝な顔になった。南部地方の騎士団は国王体制からの分離色が強い上、ヒザンは汚職を働いている。明らかに中央を敵視していると考えられる。話を聞く限り、いくら報奨が大きくても、国王からの勅令に素直に従うとは思えなかった。
「何を言う、金は大事だ。金だけで国や組織はたやすく動く。だが、たしかに今回はそれだけでは無い。砂漠地方は、地理的に近いこともあり、非常にアスラ王国との繋がりが強いのだ。よもや、自分たちの地域の犯罪組織が国際問題になったとなれば……彼らとアスラの関係は悪化し、自治組織として騎士団の面子は丸つぶれだ」
その言葉で、ダンは遂に酒場でのユートの話に合点がいった。ユートがわざわざアスラへと出向いたのは、ただ事件の収束の為だけではない。「国王の勅令で外交官がアスラ王国へ行った」という事実こそが重要だったのだ。
それによって、この事件は「重大な国際問題になりうる事件」であると南部の騎士団へ強調する事ができる。そして、国際問題の早期鎮静化の為、というのは立派な大義となる。それが、自分たちと関係の深い国とのものであればなおさらだ。
「なるほど、ただの心配性では無かったんですね」
「ああ。たかが娘一人だけの為に、国は動かせんよ。しかし、彼女は運がよかった。もしこのような状況でなければ、事件解決は遅れただろう」
そう言って王は背もたれに体を預けると、思い出したようにダンに訊ねた。
「ところで、ライラ……彼女に課していたモノはどうなった?」
数秒の沈黙。「課していた?…………あぁ。翻訳のことですか。順調ですよ」
「忘れとったろう?」
「いえ…………そんなことはございません」
そうか、遂に彼女を家に帰す時がきたのだ。よかった。事件は解決し、彼女は無事父と母に再会できるのだ。
しかし……
エレナは、悲しむだろうな……。
窓の外、遠くを見つめるダンの耳がへたっと垂れていた。




