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騎士×少女×竜 / 王都

■16 ルン ■



「どうしてこうなった……」


 夕日で長く伸びる影の上を、肩を落として歩くダン。

 

 こころなしか毛の光沢も鈍くなっている感がある。


 結局、ダンはライラと竜の子の二人を預かることになってしまった。

 

 王が言うには、彼女を家に帰す事が出来るのは、調査と折衝、それに出入国手続きが済んでから。そして、それには一月ほどかかるとのこと。


 それまで、ライラの身柄を誰かが預かる必要があり、白羽の矢が立ったのがダンだった。


 気心の知れた者の手にあったほうが良いだろうとの事だったが、ダンも彼女を保護してからまだ一日も経っていない。気心も何もあったものか。


 単に彼女が物怖じしない性格の子どもであっただけで、立場が違えばユートでも同じ状況だっただろう、と彼は鼻に皺を寄せた。

 

 ……いや、独り身で、暇さえあれば酒場に入り浸っている彼には、子どもの面倒を見るなど無理か。であれば、家族のいる自分が面倒を見なければいけないというのも納得だ。


「それにしても、ここの王様は変なことを考えるのね。なんだっけ、ディクテーション?」


 ディクテーションとは、言うなれば簡単な翻訳で、王が彼女と竜人に与えた課題だ。ライラはペンと紙を持って、竜の子がなんと言っているのか、現代の言葉と古代竜人族の言葉で会話内容のメモを取る。

 

 これも驚くべきことなのだが、彼女は会話だけでなく、動物の言葉が文字で表せられるもののなら読み書きさえも可能らしい。大方、後でそのメモを元に、詳しく研究するつもりなんだろう。


 王は、古代呪術の影響がどうの、全語話者(マスタータング)の伝承がどうのと色々宣っていたが、自分の頭には殆ど入ってこなかった。もう疲れた。思えば昨日から一睡もしていないのだ。


「私って保護対象の重要人物だって、王様言ってなかったけ?なんでこんな事をさせられるの?」


「そりゃあ、あの人は面白そうなことには首を突っ込むさ。ちゃんとやってくれよ?報告するのは俺なんだから。それより」


 ダンは自分の横をすまし顔で歩いている女騎士に目を向けた。

 

 竜人の世話をしているという女だ。名前は、確かルンだと紹介された。

 

 見たことがないので、恐らくはこの二年の内に新しく配属されたのだろう。

 

 七三に分けられた赤毛ときっちりした四角い眼鏡から堅物な印象を受けるが、王宮では殆ど言葉を発しなかったので、人となりは分からない。しかし……


「なんでアンタまでついてくるんだ?」


 彼の渋い視線に気づいたルンは、コホンと咳払いをすると、一音一音はっきりと発音するように話し始めた。


「私はこれまで竜人の“世話係”として任務についていましたが、本日から彼がダンさんの預かりになるということで、引き継ぎに来たんですよ。国王の話は真面目に聞くべきではありませんか、先輩?」


「ジジイの話を真面目に聞いてたら、一ヶ月でノイローゼになっちまう。話半分に聞いておくのが一番だ」


「確かに、入隊直後、いきなり竜人の子どもの世話を言い渡された時は度肝を抜かれましたが、そこまで突飛なお方には見えません」


「そりゃ、今が災害からの復興で忙しいからだよ。今だって朝あって昼前には城を追い出されちまった。王の仕事ん時はまともだが、プライベートの時は変人も変人だ。なんせ、俺みたいなやつを気に入って親衛隊に加えるぐらいだ」


「ダンさんのことは他の隊員から伺っています。確か、“人間以上に人間臭い人狼”だと」


「誰だそんなこと言った奴は。俺は人間だって」


「けど、確かに間近で見ると迫力がありますね。首の付根とかどうなっているんですか?」


「知るかよ」


 そんな話をしている内に、四人は家のすぐ近くまで来ていた。

 

 すると、ライラが「私が鐘を鳴らすわ」と子どもじみた事を言って、竜人の子と一緒に駆けていった。

 

 その姿を見て、やれやれと息を抜くダン。

 

 しかし、その時、ヒンヤリとした何かが彼の首に触れ、思わずダンは声を上げた


「な、なにしてんだお前ッ!」


「私、気になると確かめたくなる性格なんですよ。狼と人間の境目ってやっぱり気になるじゃないですか」


「お前、真面目そうに見えて本当は馬鹿だろ!」


 二人が言い争っている丁度その時、ダンの耳はカランカランと鐘の鳴る音を捉えた。


 まずい!


 しかし時既に遅く、何も知らない妻は扉を開けた。


「はいはい。今日は早かったわね、あな……た」


 しかし、彼女の目に飛び込んできたのは、今朝会ったばかりの少女と、脇に佇む幼い男の子。

 

 そして、その奥には顔を紅潮させる夫と、彼の首に抱きつく女。

 

 その光景に理解が追いつかず硬直する彼女だったが、すぐに気を取り戻すと素知らぬ顔で再び扉を閉めた。


「ごゆっくり~……」


「閉めるな!」


 ダンの突っ込みが、日が沈み始めた静かな街に響いた。


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