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幻想冒険譚:科学世界の魔法使い  作者: 猫フクロウ
風塵遮視-サンドアウト-
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ルーとリリス

リリスはベッドにぐったりと横たわっている。


「汗をかいてないけど、体温は高い。呼吸は速く、浅い。そして脈は速い」


ルーはタオルを水に濡らしながら症状を述べる。


「ただの熱中症ね。あんたが暑さに弱いなんて知らなかったわ」


濡れタオルをリリスの首と脇に当て、今度は額のタオルを取る。


「……」


リリスの看病を引き受け、みんなを外に行かせた。


と言うよりルーは涼しい部屋でゆっくりしたかった。


「トウヤ達が買い出しに行ってるからもう少しガマンしなさい」


タオルを濡らし、再びリリスの額に乗せる。


よく考えてみたらこの子は温暖な気候でずっと育ってきた。


こんなに暑いのは初めてだっただろう。前入りして正解だった。


トウヤ、ミナ、ミオは買い出し、ナナは急用とかで一時離脱。


リンシェンも冷却装置作ってくるとか言って一度帰り、今はルーとリリスの二人っきりだった。


初めて二人っきりになったが、何とも言えない居心地だ。


リリスとルーは個人的な理由からあまり仲は良好と言えない。


だが仲間としてこれから戦う以上、私情をはさむわけにはいかない。


ルーは魔道士としてある程度経験があるが、リリスは初めてでそのようなことはしない。


むしろ敵視している部分が顕著に表れている。


(はあ。なんであたしがこの子の面倒を見るのよ)


全員来るのは初めてで、どこに何があるかわからない。


そんな中から目的の物を買わなければならないのだから、買い出しに一番人員を割くのは当然だ。


となると行きたくないルーがリリスの面倒を見ることになる。


「……ぉ…」


一瞬、リリスが何か話しているように聞こえた。


「…バカ…女…」


バカ女?誰の事だろうか?


「…ねぇ、聞いてるんでしょ?」


「ま、まさかと思うけどあたしのことじゃないわよね?」


「あんた以外に…誰がいるの?」


「はあ!?あたしにバカとか何言ってんの!?バカじゃないの!?」


「名前が…わからないの」


「ルツィエ・シフォンよ。あんたにも話したわよね!?」


「…水が…欲しい」


「え!?水!?」


ルーは大急ぎで用意し、リリスに飲ませる。


「今はこれしか飲めないけど、買い出しが返ってくるまで堪えて」


「うん…ありがとう、ルツィエ」


「ル、ルーでいいわよ。みんなそう呼んでるし」


「うん…わかった、ルー」


しおらしく素直に笑うリリスに、同姓と言えどドキッとさせられてしまった。


(な、なんか今のこの子いい子じゃない?)


一人っ子のルーには、まるで妹が出来たような気分だった。


(ま、まあ弱っているときは本心が出ると言うし?ホントは素直なのかもしれないわね)


ルーのなかでのリリスの評価は爆上がり状態だった。


「ま、まぁ、あたしがいるから?あ、安心して休んでるといいわよ」


「大丈夫…少し楽になった」


(うっ…)


少し冷静に戻れた気がした。


「そ、そう言えばバカ女ってどういう意味?」


「いつもバカバカ言ってるから。ホントは金髪バカなんだけど、バカ女でも通じるみたいだね」


「はぁ!?通じるわけないでしょ!?バカなの!?」


「今言った」


「!?」


思わず自分の口を塞ぐ。


「あんまりバカバカ言ってると、いろんな人にバカで伝わっちゃうよ?

現にバカバカ言ってる金髪バカで誰だか通じたんだから」


年下の子に言われるとかなりムカついた。


「だからルーも言う事に気をつけた方がいいんじゃないかな?」


看病してあげてるのになんか注意されて怒りが込み上げてきた。


(この子を一瞬でも可愛いと思ってしまったあたしがバカだったわ!)




「うわ!さっぶ!!」


夜は極寒と聞いていたが、その原因は強い冷風が吹くことのようだ。


砂漠地帯なので町灯りのみで薄暗いが、空には満天の星が輝いていた。


「夜もいい景色だよな」


水筒に入れた温かいティーを飲みながら、トウヤは景色を楽しんでいた。


「さっむ!!あんたよく外に出ようと思うわね」


「やっぱりこの町の風が気に入ったのかな?」


唐突に声をかけてきたのはルーとリリスだった。


「リリス、大丈夫なのか?」


「うん、ルーが看病してくれたから」


「へぇ、ありがとな、ルー」


「べ、別に、一緒の部屋にいたからついでよ」


と言うより珍しい組み合わせだった。


リリスが当たり前のようにトウヤの隣に座ると、ルーも急いで反対側に座った。


「なんか二人とも仲良くなった?」


「さあ?」


「いつも通りよ」


と言っているがいつもの睨み合う感じが二人には無かった。


「夜って嫌いだったの」


珍しくリリスが話し始めた。


「空はキラキラしてて綺麗だったけど、森は鬱蒼(うっそう)として不気味だった。

だからずっと奥で(うずくま)っていたけど、こうしてると怖くないって思えるな」


「はは、確かに夜のあの森は怖そうだな」


「あたしは嫌いじゃないわよ。森とかはイヤだったけど、街ではたまにお祭りとかやってたわ」


「お祭りか~俺のとこにもあったな。屋台とか並ぶ時もあったな」


「トウヤはどうなの?」


「俺は夜の方が好きかもしれない。俺の地元は夜でも明るくてさ、活気のある声が響いてるんだよ。

昼間の機械的な音が鳴り響くよりも、人の声が響いてる方がいいじゃん?

あ、まあその声も所々で怒声が混じっているのは、そう言う町の特徴かな?」


「どういうこと?」


「あー夜の街だから…お酒飲んでケンカしてとか…な」


「ああ…それは迷惑ね」


「お酒って?」


「あんたみたいなお子様が飲めない飲み物よ」


「お子様って…リリスは十五歳相当だろ?」


「あ!!…中身がお子様よ!」


魔法世界では十二歳で大人と呼ばれる。そのため結婚も酒も煙草も許されているのだ。


つまりお子様はトウヤとルーで、リリスは大人と呼ばれるのが相応しい。


「まあ亜人に人種(ひとしゅ)の常識は当てはまらないか?」


「そうよ」


「そんなのどっちでもいいよ」


そう言うとリリスはトウヤに身を寄せて肩に頭を置いた。


それを見たルーもトウヤに身を寄せて肩に頭を置いた。


「トウヤありがとう。私に新しい世界を見せてくれて」


「あ…ああ」


急にリリスに感謝されたが、何だこの状況?


両肩に体を密着させた女の子の頭があるって何の状況だ?


「あ、あの~」


「「なに?」」


ルーとリリスの声が揃った。


「動けないんですけど~」


「あ、…温めてあげてるのよ」


「寒いなら部屋に戻る?」


「「ここにいる!」」


「え~!?」


ただ星を見に来ただけなのに、なぜこうなった?


キラキラと輝く満天の星空が目の前にあったが、ルーとリリスに気を取られて見れなかった。


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