サンドーラ
大会前、会場が砂漠という暑い環境であるため、早入りしていた。
「これがサンドーラか…ちょっとリリスの故郷に似てるんじゃない?」
「…そう?」
と言ってもリリスは森の中で育ったため、街の感じはあまり知らなかった。
「ああ、相変わらず日差しだけは辛いわね」
「暑い!早くホテルに行くわよ!」
「細目に水を飲むんだぞ」
お嬢様の三人はしっかり日傘で身を守っていた。
「ってかミナがローブ着てないの初めて見たな」
「ああ、あれは一応仕事着みたいなものだからな」
黒のローブから一転、ミナは夏服の制服を思わせる控えめな色の服装だった。
ルーも同じような服装なので姉妹コーデというやつだろうか?
「荷物はホテルに届くようにしてるから、しばらくは観光ね」
「ええ!?ホテルに行かないの!?…ですか?」
「ええ、暑さに慣れるためでもあるのよ。ってルーちゃん、今は普通に話していいから」
クルルもといミオはルーやミナと同じ貴族の魔道士で、
立場的には二人とさほど変わらない設定だそうだ。
面倒な設定を用意しないといけないとは、ミオもミオで大変である。
「確か砂風呂とか有名だったよね?そっちにする?」
「有名な所が近くにありますよー。行ってみますかー?」
完全に観光気分になりつつある。
「しっかし、すげぇ町だな。砂漠と川がうまく融合している」
まだ町の一部しか見ていないが、砂漠と町の境目に大きな木々が並び、
大きな河から支流を造り水路として町中を巡らせている。
地球で例えると砂漠にあるヴェネツィアのようだった。
そして砂漠地帯特有の強い日差しがあるが、河の水に冷やされた空気も心地よかった。
「水と高台を使い町全体を冷やすことで住みやすいよう考えられてるにゃ、
この町を造った人は、住む人の気持ちをよく考えてるにゃ」
リンシェンかららしくない台詞が出たが、町の景色を見てると納得してしまう。
「それにこの辺りは強い風が吹くからね。それも上手く使っているのよ」
高台には幾つもの筒型の風車があり、風を動力にして何かに使っているようだ。
「へぇ、もしかしたらこの町に吹く風って宝物なのかもな」
トウヤの何気ない一言にミナ達は驚いた。
「ん?どうした?」
「おみゃあ今変な事言ったにゃ。恥ずかプッ!」
リンシェンの発言に腹が立ち、蹴ろうとしたが、素早く逃げられた。
だがミナ達はまだ驚いたままだった。
「どうしたの?」
「あ…ああ、すまない。今の台詞ってこの国を治めてる一族の一人が言っていた台詞なんだ」
「まさかあんたの口から出るなんて思わなかったのよ」
「そうだったんだ。…その人って上級貴族か?」
「麗王の一花、オリエン・F・ネリウム様の弟君、キョウ・ネリウム様よ」
「へぇ、同じこと言ったなら似た感覚なのかな?もしかして好みも一緒だったりして」
「似てても仲良くしちゃダメよ!」
急に声を強めて、ミオは注意した。
「な…なんだよそれ」
「その人…最上ランクの指名手配犯なんだ」
「!?……何をしたの?」
「それは…」
ミナは教えようとしてくれたが、ミオが気まずそうに顔を逸らしているので言うか迷っているようだ。
「そーゆーときこそ、わたしの出番ではないでしょーか?」
能天気な声でミイナもといナナが話に割って入る。
「た…確かにナナならこんな柵は関係ないわね」
「はいー!マスターなら笑って許してくれますねー」
「ナナのマスターって何者なんだよ」
「麗王の一花ですよ?」
「は!?」
「麗王の一花、クラリス・ローデンドロン。みなさんには藤躑躅の君と言われていますよー」
「藤躑躅って前話してくれた人か!?」
ミナとルーは無言で頷く。
つまり、ナナは麗王に造られた人形と言うことだ。
「お…同じ立場の身内だから柵が無いということね」
トウヤは納得した。
「でー、キョウさまの話ですが、直接的な要因は数百人の罪人や魔道士で人体実験を繰り返していたことですねー」
「じん!?…そんな人から出た台詞とは思えないな」
「その台詞自体は幼い頃に言ったらしいからね。そこからなぜそうなったかまでは知らないわ」
「んー、マスターなら詳しそうですけどねー」
「そうなの?」
「はいー、マスターはキョウ様を敬愛していらっしゃいますからー」
「敬愛って……」
「それにとても優秀な方だったことは聞いていますよー?例えばこの下にある地下都市とかですねー
サンドーラの町の大部分はキョウ様の発案なんですよー?」
「え!?地下にも町があるの!?」
「はーい、そうなんでーす。サンドーラは暑い砂漠地帯ですが、地下に行くことで暑さから逃れられるんですよー
そして地下の至る所に水路を滝のように流すことで冷気を確保してるんですねー」
川よりも滝の近くの方が涼しく感じる原理と同じだろうか?
「そして高台にある風車を利用して冷気を循環させているんですよー」
冷気は滝周辺のみで町の隅々まで届かないから、風車を使い送っているようだ。
「さらに地熱を利用して一定の暖がとれるようにして、住みやすい環境を作っているんですねー
サンドーラの発展にはキョウ様のお陰と言っても過言ではないですよー」
砂漠地帯であるサンドーラは昼は酷暑、夜は極寒と言う二面性を持つ。
そんな厳しい環境でも人々が快適に住めるように尽力した功労者が犯罪者に成り下がるなんて…
その人の身に何があったのだろうか?
地下へ行くと風が吹いていた。吹く風は確かに涼しい。
サンドーラ全体は標高500mほどの崖のようにそびえ立つ岩山の一部にあり、
その崖部分の一部を居住空間として使っているようだ。
岩山と言っても大陸のように広大で、山頂部分だけでも数百kmの広さはある。
ここまで広大だと山と言っていいのかわからないが麓には湿地帯があるし、
さらに遠くには海があるらしいので、ここは山であると判断されている。
「地下何mまで町があるんだ?」
「たしか百数mよ。たくさん縦穴があるから日の光も届くし、
風車で発電もしているから夜でもかなり明るいわよ」
ホテルの部屋に荷物を置くと、暑さになれる意味で観光、買い出しで出歩いていた。
「水も風も、太陽の光までも使える限り使う。ホント、天才って言葉が良く似合いそうだね」
「そうだな。昔は暑いだけの田舎が、今じゃ有数の観光地だ。それだけのことをやったんだよ」
「…ますます…会ってみたいな」
「おい」
「わかってるよ。でも、この町のために頑張っていた頃のその人には興味持ってもいいだろ?」
「まあ、それくらいはこの町にもたくさんいるし、
だからこそ桃竹の君が麗王でい続けられる理由でもあるからね」
「ああ、そうか。貴族社会じゃ身内にそんな人いたら追い出されてもおかしくないよな」
「だから、桃竹の君の耳に届かない程度で話してね」
「いや、あのお方の能力ではもう聞かれてるだろ」
ふと純粋な疑問が出来た。
「その人、どんな魔法使うの?」
「魔法じゃない。異能だ」
「え?どう違うの?」
「血に刻まれた誰にも真似できない魔法を異能と呼ぶんだ。上級貴族はみんなそうだよ」
「ってことはミオの“聖譚歌”も?」
「ええ、異能の一つよ。異能は相手を滅することに長けた物が多いから、
“祈り歌の毒”と書いて“オラトリオ”言うように、名前に毒と付いているのよ」
「毒…」
地球での知識からオラトリオにはみんなで合唱的なイメージが強かったが、魔法では全くの別物のようだ。
「桃竹の君の異能は“全感全知の毒”と書いて“テリグノシス”。
広範囲において全ての感覚を支配し、その感覚から得られる情報を知ることが出来るのよ」
「感覚を支配って…じゃあ…」
「ああ、ここでの話は聞いてるかもしれないし、その気になれば自殺させることも簡単だ」
「ひぃ!」
本物の敵にしてはいけない存在がすぐそばにいる。
そんな感じがした。




