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幻想冒険譚:科学世界の魔法使い  作者: 猫フクロウ
風塵遮視-サンドアウト-
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嵐の前の

「調整はどう?」


ポーラは飲み物を差し出しながら聞いた。


「順調だ。今回はトウヤのデバイスのお陰で燃料系の心配が減ったのが大きいな」


ファイゼンは飲み物を受け取り休憩する。


「そう。まあその分、防壁を強化しないといけないから変わらないでしょうけどね」


「作戦はいつも通りでも、今回は上位を狙えそうなんだろ?」


「ええ。でもその理由が私達が原因じゃないから微妙なのよね」


「ああ…理由が“トウヤが叩き潰すかもしれない”は笑えるな」


「そうね」


勝負事に出るなら勝てるように全力を尽くしたい。


でも切り札が他のチームとして出る彼頼みなのは笑えることだ。


「リーシャもティアも上手くいってるし、そのあたりは問題なさそうよ」


「そのあたりは?」


何か含みのある言い方である。


「……ちょっと…アーニャの占いで不吉な影が出たのよ」


「え?うちらのチームか?」


「いや…どうやら大会全体に出てるみたいなの」


「マジかよ…ちょっと怖えな」


「だから局としては動けないけど、アローニャさんに個人的にお願いしてみるわ」


「ああ、でも結構な人数出るんだろ?人足りるか?」


「だからよ。パースレールの参加者にも事前に伝えておく。

何かあったときにはレースを中断してでも動けるようにね」


「ああ、そういうことか。なら全員の頭の片隅にでも入れとかないとな」


有事の時は参加者にも対応してもらうので、この情報は広く共有した方がいいのだ。


「しっかし、よりによって何で今年なんだよ~運が良いのか悪いのかわからないな」


「まあ、良い方で捉えましょ」


このような大会は魔導士としてチームをアピールする絶好の機会だ。


いわゆる広報活動の一環でチームの存在を宣伝し、

一般人から指名でクエストを貰うために出場する意味もある。


特にポーラ達は新規ギルドとして出場することで存在をアピールしなければ、

仕事が不足してギルドが成り立たなくなってしまうのだ。


その為、大会が正常通り進行し、なおかつ上位入賞しギルドをアピールする必要があったが、

大会中に問題が発生した場合、解決に貢献したとアピール出来れば同じ効果が得られるかもしれない。


「その問題もギャンブルみたいだがな」


「まあね。でもここ最近、昔よりもずっと強くなったのは実感できない?」


「俺は支援寄りだから実感は少ないが、クエストが楽になったとは感じるよ」


自分たちを支援するデバイスを創り出す存在が身近に出来た。


これはとても大きな変化だった。


魔力の心配をせずに魔法を使う、これがどんなに助かることやら。


そして懸念されていた性格面も噂よりもずっと大人しい。


そして今彼は、優秀な能力を持ちながら、さまざまな(しがらみ)で懸念されている貴族と仲良くしている。


その影響からか、貴族との面識が今まで以上に増えそうな予感がする。


「あの子が来てから劇的に変化してるわね」


「ああ、お前の目を信じて正解だよ」


「これで優勝でも出来たら、今後も安泰なんだけどねぇ~」


「そこまで都合良くいくかよ!むしろ怖いわ!」


「それもそうね」


何でも順調にことが進むほど、世の中は甘くない。


「さてと、私ももう少し調整するかな」


「おう、モービルは任せとけ!」


互いに背中で挨拶できるほどの仲の二人は信頼と安らぎがあった。


(あ、アローニャさんにお願いしにいかないと…)


あまりにもまったりし過ぎて、やらなければならないことを忘れてしまっていた。







「と言う作戦にゃ。これでいくにゃ」


あらかたの動きは決まった。個々の役割も決まった。後は本番を迎えるのみである。


「しっかしなぁ、この魔改造は悪目立ちするぞ。大丈夫か?」


「悪目立ちしても関係ないよ。勝てるなら目立とうが構わないし」


「それにいろいろ仕込んでますからねー」


「高速で動く戦車ね」


「あとは、わたしとミイナの名前を大声で言わないように気を付けてね」


「まあバレたところで騒ぎになるだけで、ルール上問題ない」


「マスターが判断は任せると言ってくれたのもありがたいですね」


「意外と気さくな人なのか?」


「まあ…我が子のように可愛がっている子からのお願いだからかな?」


「…ただの親バカ」


「リリス!?どこで覚えたの、そんな言葉」


チーム内の関係も悪くないように思える。


「そういえば、チーム名って決まってるの?」


「…あ…」


そういえば誰も気にしていなかった。


「にゅっふっふっ、それはおいらが決めてるにゃ!」


(あ、ろくでもない考えだろうな)


「その名も“超猫娘(チャオマオニャン)”にゃ!!」


「「「却下!!」」」


トウヤ達は即座に否定した。







「作戦に支障はありません。…はい。…はい。…ありがとうございます」


声は一人だが会話しているような内容だ。


おそらく電話で話しているのだろう。


「…はい、では失礼します」


「あのお方からか?」


電話が終わったところで女が尋ねた。


「ああ。ここからは俺の自由にしていいそうだ」


「ああそうかい。なら私らも勝手にさせてもらうよ」


「ああ、例の場所でなら勝手にしろ」


「ふん…なんであのお方も、お前のくだらねぇ復讐に手を貸したんだろうな」


「くだらねぇ…だと?」


「ああ、くだらねぇよ」


「てめぇに何がわかる!?」


「わからねぇよ!わからねぇから勝手にやるんだ!」


「……ちっ!」


「わからねぇが利害は一致してる。私はあいつが死んでくれれば文句は無い」


「てめぇも復讐じゃねぇか」


「お前と一緒にすんな!」


「……」


「……」


「…こんなことしてても何にもならない。作戦決行まで準備して待ってな」


「…ああ。映像はこっちにも寄こせよ」


「ああ、わかっている」


そう返事を聞くと女は部屋を出た。


女はあのお方が遣わせた魔道士だ。争い事では敵わない。


男はただ走るだけしか出来ない。誰よりも速く走ることしか……


その走りを奪われたら何が残る?


何も残らない。


それを知った時の絶望は語れるものではなかった。


「ああ、やるんだ。やってやる!」


男は強く拳を握った。


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