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幻想冒険譚:科学世界の魔法使い  作者: 猫フクロウ
最低世界の最強魔道士
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祈りの種

雨の中、一人の少年がしゃがみながら祈りを捧げていた。


異国の十字架を掲げた墓標の下には一人の少女が眠っている。


少女の血の繋がらない家族が見届け、去って行った後も少年は残っていた。




少女に永遠の眠りを与えた連中はその残虐性を問う声もあったが、

未成年という理由で数年間別の施設に行くだけになった。


この世界は未成年と言う理由だけでどんなに残虐であろうと更生の道に進められる。


その更生の道もまた、ごく一部にしか効果は無く、被害者遺族の虚しさは計り知れない。


あいつらも数年後には街中を普通に歩き、

何事もなかったように過ごすことになると思うと殺してやりたくなる。




でも少女の最後の言葉、最後の願いを叶えるためには気持ちだけで押さえようと思う。




ふと女性が現れ自分が濡れるのも構わずに少年に傘を差し出す。


「…ごめん…」


ポーラは絞り出すように謝る。


「何であんたが謝る?」


トウヤは微動だにせず話し始める。


「私のせいで…私が何もしないで君を誘ったから」


「あんたのせいじゃない。俺のせいだ。

俺が…俺があいつらを恐怖で支配していたからだ」


動かないがとても悔やんだ顔をしてるのがわかる。


「私も彼女のことをもっと考えるべきだった。しっかり保護してから君を誘うべきだったわ」


「そしたらチビ達の誰かになっただけだ」




トウヤはあいつらに恐怖心を植え付け威圧し、子供達に危害を加えないように脅していた。


しかし恐怖で支配すると鬱憤(うっぷん)は溜まる。それが毎日となれは溜まる一方である。


そしてその溜まった鬱憤(うっぷん)はトウヤという守りがなくなったとたん、弱い子供達へ襲いかかる。




それがわかってた。




だからここに留まり続け、子供達を守ってきた。


あいつらがいなくなり、子供達が大きくなるまで。


そう思ってた。




「それでも考えなければとか言うのか?」


「それは…」


「誰もわからないんだよ。未来なんて」


例え子供達も保護したとしても、シスターが犠牲になったかもしれないし、

他の誰かが犠牲になったかもしれない。


そもそもトウヤが威圧しなければ誰も犠牲にならなかったかもしれない。


過去のことにどうこう言っても今が変わる訳じゃない。


今の結果を受け入れ、割り切るしかないのだ。


だとしても…悔やむ気持ちがそうさせてくれない。




「なあ、知ってるか?」


不意にトウヤが問いかける。


「死者ってのは、その人のために流された涙の分だけ、天国で安らぎを与えられるんだって」


初めて聞く。この国の…いや、この子と暮らすシスター達の教えだろうか?


「だからさ、こいつのために何か出来たって悔やむよりも、こいつのために泣いてあげてほしい」


「でも私は他人よ?」


「俺の代わりになってくれ。……もう出ないんだ」


ポーラはトウヤの横に座り顔を見る。


雨で泣いてるかわからないが、泣き続けたことで目元を腫らしている。




「…それはうちらでもいいか?」


ポーラと一緒に来たリーシャとファイゼンもいる。




ポーラとトウヤが眠り続けた理由は怪我ではない。


大量の魔力を一気に消費し、(から)にしたことによる昏睡だった。


トウヤは元々(から)になりそうだった魔力を振り絞り爆縮(ばくしゅく)を使ったこと、

ポーラはその爆縮(ばくしゅく)から逃れるために、

全ての魔力を逃げることに使ったことが原因とされている。


その引き金となったのはリーシャの誤解からだった。


強い責任を感じている彼女は、今すぐにでも頭を地に付け謝りたいはずだ。




「ああ、頼む。それに紹介しないとな」


全員でトウヤと同じ姿勢で祈りを捧げる。


「こいつら新しい仲間だ」


そう言うとトウヤはゆっくりと目を開け墓標を見つめる。


「俺、こいつらと一緒に行くよ」


そして眠る少女に誓いを立てるように言う。


「そしてお前が頑張ってた人助けってのをやってみようと思う」




「だから……」




「だからお前が持ってた気持ちを、俺にも分けてくれ」


それは今を必死に受け入れようとする小さな祈りだった。







「本当に行ってしまうんだね?」


恰幅のいいシスターは目を潤ませながら話す。


「はい、お世話になりました」


穏やかな笑顔で答えるトウヤ。


まだあの子のことを乗り切れたわけじゃないだろうけど、

未来へ進むために頑張っているのがわかる。


「トーヤにーちゃん…」


「おにいちゃん…」


泣きながらも見送ろうとする小さな子供達の頭を優しく撫でる。


「お前たちも頑張れよ」


初めは一緒に連れて行こうとした子供達。


だが最愛の姉との別れを経て、子供達にあるものが芽生えたことに気付いた。


「みんなを守る警察官になりたい」


「弁護士になって弱い人たちを守りたい」


「お医者さんになってどんな怪我も治してあげたい」


「いろんな人たちを助けるシスターさんになりたい」


「お姉ちゃんのように小さな子供達を助けたい」


こんな小さな子供達がこんなに早く未来に目を向けられてるのは、

あの姉が子供達に小さな種を送っていたからだ。


そしてその小さな種が、この世界で大きな花を咲かせるようにと祈り続けたのだろう。


そう気付いたら子供達を連れて行くことは出来なかった。


いや、あいつの祈りが届くようにしたいと思った。


だから……俺も未来を向こう。




「一生の別れじゃない。だから……いってきます」




子供達を抱きしめると、大きな声で泣き出した。


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