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僕らの終末旅行日記  作者: ワサオ
第3章 狂乱大阪編

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修学旅行20日目 午前6時59分

 

 時は進み、修学旅行20日目午前6時59分……

 相変わらずの肌寒い朝。

 寝ている茂尾らの部屋のドアを蹴り開けられ、全員が目を覚めた。


「何だよ、こんな朝か──」

「貴様!!」


 入って来たのは怒りの表情の木田。入ってくるなり茂尾の元へと駆け寄ってきた。

 寝起きで目もしっかり開けられない茂尾を掴み上げ、勢いのままに壁に叩きつけた。


「いってぇな!!」

「やはり、お前らか!!」

「はぁ?何の事だ?」


 とぼける茂尾に木田は苛立ちを覚えて、更に強く壁に叩きつけた。


「何の事かを言ってくれよ!」


 そう言うが茂尾には何を言っているのかは勿論分かっている。

 木田が怒っている理由。それは博幸を逃した事だと。


「あの博幸という男を逃す手伝いをしたのはお前だろ!」

「俺がした証拠でもあんのかよ?」

「……くっ!」


 茂尾の言う通り、奴らが犯人だとしても証拠という証拠はない。

 誰かが見たわけでもなく、明確な証拠なんてない。

 監視カメラも動いていない。

 証拠を提示できない木田に茂尾は調子づいて、木田を突き放した。


「あんたの確認不足だろ?俺らは何もしてないさ!お前がもっと確認すれば逃さなかったんじゃないのかい!!」

「言わせておけば!」


 木田が拳を出そうになるが、林が羽交い締めをして無理やり食い止めた。

 それでも木田は殴ろうとするが、林は必死に体を押さえる。


「落ち着いてください。証拠がない以上何も言うことが!それよりも今の状況を把握するのが大事ですよ!」

「ちっ!」


 林の言葉に木田は落ち着きを取り戻し、部屋から離れた。


「とにかく彼らは話す気がないようですし、我々で調べるべきかと」

「逃げたやつをこれ以上調べても無駄だ。どうせ奴は元の場所に戻ったはずだ。だが!」


 木田は壁を思いっきり蹴り、やるせない怒りをぶつけた。


「コイツらを野放しにした俺のミスだ。少しでも温情をかけたばかりに!」

「とにかく今は対策を打ちましょう!逃げたと言うことは復讐しに来る可能性もあり得ますから」

「……それもそうだな」

「皆さんに伝えて協力を煽りましょう」


 そこに幸久が背後から現れて、話に混ざって来た。


「ですが、それを皆に伝えるとパニックを起こす可能性がありますよ」

「盗み聞きしていたのか」

「生きる知恵ですから。先日話した時も反発が大きかった。そこに更に煽るのは危険だと俺は思います」


 幸久の言う通り、先日武器を持つように言った時も、反発の声は多かった。

 そこに武装集団が来る可能性があると言うのは、恐怖心を煽るだけである。


「じゃあどうするつもりだ」

「俺達学生だけでも出来る事は十分にあります。肝だけは他の人達よりはあるはずです」

「……お前らが大丈夫ならな」

「少なくても俺は大丈夫です」


 ※


 時忠高校の幸久含む男子生徒五人と西河先生が集められた。


「って訳で俺達がまた駆り出される訳な。寝起きだったのに」

「あぁ、達観しているお前らなら冷静な判断が出来るだろ。爆撃を受けても逃げれたんなら、普通の人間の何倍も肝据わってるだろ」

「まぁ、そうだけどもさ……」


 蒼一郎の愚痴に木田は適当にあしらい、簡単に説明をした。


「俺の責任で昨日の奴は逃げた!申し訳ない!」


 木田は頭を深々と下げて、全員に謝罪した。


「奴は戻ってくる可能性がある。軍を連れて」

「軍って昨日の爆弾魔の事か!?」

「そうだ。それらやあの女子の足を撃った奴もいるやもしれん。ここはまだ感染者がいるとはいえ、食料は豊富だ。襲われる可能性は高い」


 木田が言い終わると次に林が説明をする。


「だから皆んなで防衛策を練ろうと思うんだ」

「敵は自衛隊の装備をして我々の何倍、いや何十倍もの武器や防具、火器を装備している。対して我々は俺ら二人が持ってる小銃と拳銃二丁ずつのみだ。敵銃火器の素人だろうとも、俺らの生命の危機には変わりない」


 林はデパートの地図を広げ、木田が説明をする。


「敵を仮に30〜50人程、全員が武装していると仮定して話す」

「仮定の話とは言え、勝てるのよそんな相手を」

「生きたいのなら、話を聞け」

「は、はい」


 蒼一郎を黙らせて、木田はボールペンで印を付け始めた。

 一階二階の出入り口、非常階段に非常出口。はたまた小さな窓がある場所まで全てに◯の印を付けた。


「敵は知性も品性もないが、少なくとも感染者よりはある。その中で侵入しやすい地点を印付けた」

「お二人的には何処が一番危険だと思いますか?」


 幸久の問いに木田と林は真っ先に屋上入り口二箇所を指した。


「やはりそうですよね……」

「一階は感染者に制圧されているから、簡単に侵入は出来ないし、敵も躊躇うだろう。だが、屋上は感染者を防ぐ坂の壁だけだ。あそこを崩されれば、敵の侵入は愚か感染者をも呼び込み、俺らは一貫の終わりだ」

「なら、二階を中心に防御を固めるべきでしょうか?」

「第一優先はそうだ。と言っても屋上の出入り口は二箇所。片方が突破されたら終わりだ」


 屋上入り口は両方ともエスカレーターでの登りしか出来ない。

 屋上エスカレーターの構造上、吹き抜けのような構造の為、簡単に封鎖や防衛するのは難しい。


「だが、ここに残っているお前らを除く男性陣を集めても全体をカバーするのは困難だ。だからこそ、二階のドア片方は放置する」


 その言葉に全員が驚いた。

 この人明け渡す気か!?と思わず考えてしまった。


「「「ほ、放置!?」」」

「そう驚くな。放置といっても明け渡すって意味じゃないぞ」


 その言葉にホッとする面々。

 流石にそんな事はしないかと、心から安心した。


「片方をダミーとして敵を誘い込む」

「ダミーとしてですか?」

「そうだ。片方に味方を集中させる。もう片方は仕掛けを施す」

「仕掛けを?」

「敵を欺くな罠を。両方の出入り口に罠を施したい所だが、もしもの脱出の場合、両方が埋まっていては意味がない。片方は解放して起きたいんだ」


 木田の作戦に由弘も頷いた。


「敵は火炎放射器も持っている。上を完全塞いだ場合、下の階から火炎放射器などの火器による煙で窒息もあり得る」

「その通りだ。本屋に入り浸っているアイツらを呼んで来い。少しは現実に向き合わせてやらんとな」


 その二人とは──


「僕らが?」

「作戦の手伝いを?」


 本屋さんでずっと絵を描いていた赤松とその相方となるはずだった原作の須恵であった。

 何故呼ばれたのか分からず、互いの顔を見合って困惑していた。

 蒼一郎はこの二人が役に立つのか不安になり、雅宗にコソッと言う。


「この二人に任せて大丈夫なのか?」

「木田さんが指名したんだから、何か策でもあんだろ。赤松さんは絵が上手いんだし、須恵さんもホラーパニック系の原作やってるって言っていたし」

「絵が上手くて、フィクション作家がこの状況を打破できるのかね」


 木田と林が現状を簡単に話し、二人に告げる。


「お前ら二人にはダミーの壁を作ってもらう」

「僕らがですか?」

「敵の気を引かせる騙し絵を作ってほしい。お前らの創造力で」

「どうゆう事ですか?」

「片方に味方を集中させる為に、もう片方に敵を欺く工作を施す。無人の入り口にあたかも人がいるように絵や工作を施してほしい。また、黒く塗りつぶした段ボールを大量に作って欲しい」

「わ、分かりました!」


 何故だか、二人はウキウキしていた。


「僕達の手で敵を欺きましょう須恵さん!」

「はい!!」

「スケッチブックに僕の案があるんで、良い案を語り合いましょう!」

「はいはい!!」


 まるで、こんな時を待っていたかのように、二人は目を光らせて走って行った。

 木田も皆んなも不安に思ったが、敢えて言わなかった。


「……俺らも敵を欺く作戦に移るぞ」

「どんな?」


 雅宗が問うと、木田はそっと地面を指差した。


「感染者を一体捕まえるぞ」

「え?」

「感染者を捕まえるぞ」

「本気ですか?」

「あぁ、感染者は今の俺らにとって最大の武器だ」

「マジっすか」

「マジだ」


 この時、午前7時47分……

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