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僕らの終末旅行日記  作者: ワサオ
第3章 狂乱大阪編

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修学旅行19日目 午後11時40分 後編

 

 台莪君を乗せて車は次の場所へと向かった。

 台莪君は無言でゲームで遊んでおり、車内はゲームの音と飛悠雅さんが流している爆音の音楽が支配していた。

 それから十分経つと、飛悠雅さんはコンビニに車を停めた。

 店内は電気は付いているが、人の気配はなく店員もこの状況からか店を放り出して逃げたようだ。


「流石にコンビニは誰もいないようだな。よし、お前らはまた外を見張っていてくれ。食料調達してから刃留斗と合流すっぞ」

「分かりました」


 台莪君を車に残し、飛悠雅さんともう一人はコンビニへと向かい、俺ともう一人は外の見張りに徹した。

 飛悠雅さんがコンビニに入ろうとすると、台莪君が窓を開けて呼びかけた。


「に、兄さん!」


 慣れないのか裏返った声で呼ぶが飛悠雅さんは振り向かずに片手を上げて答えた。


「分かってる、ミルク味だろ」

「う、うん!」


 意外と仲いいんだと思わず考えてしまった。

 待っている間、静かなこの街が少し怖いと感じた。

 この時間は出勤する人、登校する学生達、ウォーキングする老人を毎日見かけるがこんなにも誰もいない朝は初めてだ。

 だからこそ感じる静けさへの恐怖。静かな夜も十分怖い、だが今だけはこの朝の空間の方が遥かに怖い。

 何処から来るか分からない状況に俺は冷や汗が止まらなかった。


 少し時間が経った頃、飛悠雅さんはカゴに大量のお菓子や保存が効きそうな食べ物や飲み物を詰めて戻って来た。


「すまんな遅れて。詫びだ」


 そう言って飛悠雅さんは俺らに缶ビールを投げ渡して来た。


「それ飲んで拠点に向かうぞ」

「はい!」


 車に戻ると台莪君に小さなお菓子の袋を投げわたした。


「ほれ、店のあるだけ持ってきた。大事に食えよ」

「ありがとう」


 台莪君は笑顔で袋を乱雑に開けてミルクキャンディを2個口に含んだ。

 元気になった顔を見て、飛悠雅さんは車のエンジンを掛けて車を発進させた。


「んじゃ、拠点に向かうぞ!」


 車を進めていると、空には無数のヘリがあちこちに飛び交っていた。

 見る限り、自衛隊のヘリっぽい。


「あれは?」

「自衛隊のヘリか。高みの見物って奴か?」

「俺らを助けに?」

「助けを寄越している奴なんてこの付近全員だ。全員無事に助けられる訳ないだろ。どうせ、要人を乗せた安全圏内に避難するヘリだろ」


 そう言って飛悠雅さんはこれ以上何も言わずに車を目的地に進めた。

 そして──


「ここが当分の我々の拠点である!」


 車が止まった場所は小学校であった。


「小学校ですか……?」

「その通りだ!ここなら、広々と使えて逃げ道を多い。更には付近には大きな建物も少なく、周りがよく見渡せる!」


 確かに学校なら広く、物品も揃っている。

 それに屋上からは広々と外の状況を確かめられる持ってこいの場所。


「刃留斗も、もういるようだな」


 教員の駐車スペースに刃留斗さんの車が止まっていた。

 すると上の方から声が聞こえて来た。


「おっす!皆来たようだな!遅いじゃんか!」


 屋上のフェンスの上に座っている日吉さんがこちらに手を振っていた。


「危ないですよ日吉さん!」

「なぁに!こんくらい怖かねぇよ!」


 皆が心配する中、日吉さんは刃留斗さんと共に外に降りて来た。

 刃留斗さんは俺らが持っている大量の食料と台莪君を確認すると飛悠雅さんに語りかけた。


「そっちの収穫は上々だな」

「そっちも良い場所見つけてくれたようだな」

「いい眺めだぞ、見てみるか」


 全員、屋上に立ち学校の外を眺めた。

 町が一望出来て、良い眺めと言えるが。

 とても静かだ。

 人の声はもちろん。小鳥の鳴き声は一つも聞こえない。

 まるで自分達が誰もいない世界に送られたのではないかと思ってしまう程静かだ。

 と言うよりもそうゆう世界になってしまったのだ。


「この静かな空間、俺が好みだ」

「飛悠雅、宣誓してみろよ。この世界に」

「宣誓。違うな、宣戦布告だ」


 だが、飛悠雅さんに刃留斗さん、日吉さんの三人はこの状況にウキウキしている様子だった。

 彼らだけは、この環境に刺激を求めているようだった。


「クソッタレな時代も政府も終わった。ここからは権力なんて無意味となり、力がどうにかする世界へと変わった。覚悟しろよ、クソな世界!そしてようこそ元来の地球!」


 飛悠雅さんは拳を振り上げて声を上げた。

 その横ではゲーム機をギュッと抱きしめた台莪君も小さく拳を振り上げていた。


「俺を馬鹿にした奴らめ、覚悟しろ!」


 それから俺達はあの小学校に拠点を築き、宣戦布告をした。


 *


 それから数日後──俺はゾンビの群れの中を走っていた。


「なんでこんなことに……」


 そうだった。

 あの時は生きていけると思っていたのに、今や生きるのがピンチにまで追い込まれている。

 本当は大声でバカヤローと叫びたいが出来ない。


 その時──

 ガン!

 歩いているすぐ横に止められている車に感染者がぶつかって倒れた。

 その音に周りの感染者は一斉に車の方へと走って来た。

 やばい!

 ゆっくり、そして急ぎ足でその場から離れた。


「いつもならバイクでスイスイっと行けるのになんでこんな──」


 感染者を避けながら駐車場を抜けた博幸。


「まだ遠い……でも!」


 学校の方面へと足を進める。

 走る事もできず、音も立てれず時間をかけて歩いて向かった。


 それから約一時間後──

 小学校の屋上から、外を見張っていた和樹が何かに気づいた。

 光がチカチカと点滅を繰り返し、学校側に合図を送っている誰の姿を発見した。

 双眼鏡で一度確認すると、それが博幸であると判ったのだ。


「あれは……まさか博幸?」


 和樹はすぐに飛悠雅を起こした。


「んだよ、人が寝ている時に。俺は寝起きが一番機嫌が悪いんだよ」

「す、すいません。でもあれ、博幸です。捕まったと言っていた──」

「あぁん博幸だぁ?」


 寝起きでボサボサの髪のまま屋上に来た飛悠雅。

 半目の状態で渡された双眼鏡で指された位置を見ると、そこにはライトをカチカチとライトで点滅させる博幸の姿を確認した。


「眩しっ!何だあれ?」

「博幸ですよ!博幸!」


 未だに寝ぼけて欠伸をする飛悠雅は状況把握しているのあやふやな状態な中、刃留斗も起きて来たのか屋上に現れた。


「どうした?こんな深夜に」

「博幸が戻って来たんだとよ……ふぁ、眠い」

「飛悠雅は戻ってろよ。俺が対処するから」

「すまねぇな」


 飛悠雅はまた欠伸をして屋上から立ち去った。

 刃留斗も双眼鏡で一度確認し、和樹は尋ねた。


「どうします?」

「学校に迎え入れれば良いが、裸で教室に閉じ込めておけ」

「え?」

「念の為だ。見る限り感染はしてなさそうだが、時間経過と共に感染が進行して、自我崩壊を起こすかもしれん。昼頃までは閉じ込めておくんだ」

「分かりました」


 刃留斗の言われた通りに和樹は手持ちのライトを複数回点滅させ、合図を送って手を振って気づいているアピールをする。

 そして手招きをして学校側へと来いとジェスチャーをした。


「気づいてくれたか!」


 博幸は嬉しそうに学校へと向かった。

 だが──


「お、おい!俺は感染してないぞ!」


 学校に着くなり、博幸はいきなり押さえつけられて、手足を紐で縛られた。

 そして空き教室に閉じ込められ、ドアをしっかりと鍵を閉められた。

 和樹はドア越しに博幸へと説明をした。


「すまんな博幸。刃留斗の言う通りにしてくれ。昼頃までに何も起きなければ感染の疑いは晴れるからさ」

「……分かったよ」


 何処か不満に思いながら、博幸は昼まで縛られる事となった。


 この時、午前0時49分……


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