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僕らの終末旅行日記  作者: ワサオ
第3章 狂乱大阪編
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修学旅行19日目 午後11時40分 中編

 

 俺達は二台に分かれてエンジンを掛けて出発をする。

 車のエンジンは静かな街中に響き渡り、ゾンビが来ないか手下達は心配そうにする。

 俺や数人の仲間は飛悠雅さんの車に乗り、刃留斗さんの車には日吉さんと女の子が乗っており、先に拠点先へと向かった。


「大丈夫なんですか?ゾンビは音に敏感らしいですが」

「轢けば良いんだろ?多少車が傷ついたって構いやしねぇよ。それにこの()()()()()()なら、ゾンビを一人二人轢いたって止まらない馬力を持っている」


 車はあちこちに乱雑に止めてあり、真ん中に止めてあったり、ぶつかって事故が起きていた跡すらある。

 中にはコンビニに突っ込んで黒い煙が上がっている場所もある。

 そのせいか道路はいつもよりも狭くなっていた。

 走りながら、飛悠雅さんはテレビのボタンを押すと、日本の地図が映し出された画面が現れ、どのチャンネルに切り替えても同じ画面が出て来た。


「んだこれ?」

「緊急事態云々って奴ではないのでしょうか?」


 地図には西日本全域が赤く染まっており、赤い部分が感染者確認地域とされている。

 テロップには"感染者確認地域にお住まいの人は不用意な外出は控えて近隣の警察や自衛隊からの案内が来るまで自宅待機をお願いします"と表示されていた。


「そんな事していたって餓死するに決まってんだろって!」


 車が通るとその後ろから追うようにゾンビ達が路地裏や店から出て来て、追いつかないのに車を追いかけてくる。


「こんな中で警察や自衛隊がまともに機能するとは思えないけどな!」


 飛悠雅さんはバックミラーで追いかけてくるゾンビを見て、笑っていた。


「追いつけるなら追いついて見ろ!」

「飛悠雅さん!前からも!」


 前から出てくるゾンビ達にも飛悠雅さんは車を汚すまいと、巧みな運転技術を見せてゾンビ達を避けながら走っていく。

 だが──


「助けて下──」


 といきなり角から飛び出して来た親子をそのまま車にぶつけてしまい、親子は宙を舞い、地面に力無く落ちてしまった。

 飛悠雅さんは一度車を止めて、サイドミラーで後ろの親子を確認した。

 母親の片足が在らぬ方向へと曲がっており、倒れたまま体を震わせていた。

 子供の方は頭から大量の血が流れており、身体はピクリとも動いていない。

 その無残な姿に日吉さん以外のメンバーの額から冷や汗が流れ、一瞬だけ静まり返った。


「……」


 飛悠雅さんは助ける事はせず、アクセル全開でその場から離れた。

 流石に助けないの?と声が出そうになった。

 そこに


「い、今の一般人の親子でした……けど」

「そうか?俺にはゾンビに見えたが?」

「でも──」


 飛悠雅は突然車を止めて博幸の胸元を掴み上げた。


「今轢いたのはゾンビなんだよ。分かるだろ?」


 その時の飛悠雅さんの手は何処か震えていた。

 流石の飛悠雅さんでも、顔を見て分かるい以上に身体を強張らせていた。


「とにかく行くぞ!過ぎた事は気にするな!」

「は、はい……」


 誰一人文句も反発も無かった。

 いきなり飛び出して来たあの親子が悪いんだ。

 誰一人としてこれ以上後ろを見ることも無く、あの親子がどうなったのかすらもう分からない。

 生き残って欲しいと思う反面、あの状況からの生存は絶望的であると考えれば考える程、倒れた親子の光景が浮かんでしまい、胸が締め付けられるように痛くなってきた。


 そして一時間近く経ち、誰も喋らないまま車は走り続けて、飛悠雅さんは一つ目の目的地についた。


「ここは確か……」

「俺の家だ、というよりも元実家だ」


 住宅街にある普通の家……いや、よく見ると家の節々に異変があった。

 庭先には草が伸びっぱなしで、木の枝も隣の家の庭にまで侵食している。

 それに窓ガラスも至る所がひび割れていたり、ゴミ袋がいっぱい放置されていた。

 分かりやすいくらい付近の住民も近寄りがたい存在なのだと全員が理解した。

 にしても──


「ここいらはもう死体が何体も……」


 狭い道路の端々にゾンビに襲われて絶命したと思われる死体が何体も放置してあった。

 カラスやハエが集り、生臭い腐臭が鼻につく。


「中入ってくる。お前らは外の見張りを頼む」

「わ、分かりました」


 正直こんな臭う場所は早く出て行きたいと誰もが思ったが反論できずに従うだけだった。

 そう言って飛悠雅さんは家の中へと入っていった。


 *


 家の中に入り、ゴミやビール瓶が散乱している廊下を進み、真っ直ぐと二階へと進んでいく。

 感染者はもちろん、人の気配が無い中二階のとある部屋の前に立つと飛悠雅はドアを思いっきり蹴り破った。

 部屋へと入ると、真っ暗に閉ざされた狭い部屋の奥に膨らんでいるベッドがあり、布団の隙間から光と小さなゲーム音が流れていた。

 飛悠雅は躊躇いもなく布団を捲り上げた。


「ひっ!」

「何してるんだ台餓」


 布団の中に隠れていたのは携帯ゲーム機で遊んでいた10代前半の小柄な少年だった。

 飛悠雅の姿を見ると涙目で身体を震わせ、怯えている様子だった。


「兄さん……?」

「何一人でこの家に残っているんだ?親父は居ないのか?」

「パパなら……また仕事で」

「どうせ女といるんだろうな。子供二人とも置いてよぉ」


 弟の台莪。

 彼の部屋は色んなアニメや漫画のポスターが貼られており、年相応な少年の部屋だった。


「またFSPのゲームでもしてんだろ」

「……うん。それしかやる事がないから……でも、日本のサーバー全く人いない」

「当たり前だろ。んで、外の状態はしっているのか?」

「昨日から叫び声が聞こえてきて、皆んなが泣いたり叫んだりして──」

「つまりは怖くて一人で現実逃避をしていた訳か」

「怖かったんだもん……人の悲鳴が、うるさくて……」


 怯えながら言う台莪。

 飛悠雅は窓際を見て、あるものを見つけた。


「じゃあこの双眼鏡は何だ?うるさい言う割には趣味悪りぃじゃねえか」


 飛悠雅が見せつけたのは双眼鏡だった。

 双眼鏡が見つかると台莪は飛悠雅から目を逸らした。


「そ、それは……」

「昔からお前はそうゆうの好きだよな。自分以外の物が痛ぶられている姿を」

「……」


 黙り込む台莪。

 部屋の空気を嗅ぎ、何かに気づいた飛悠雅は呆れた顔をして言う。


「お前が何に興奮するかは俺は詮索しないが、キモいとだけは言ってやる」

「う……」


 落ち込む台莪に飛悠雅は手を掴み上げた。


「ついて来い」

「え?」

「お前の事は俺が一番よく知っている。兄貴だからなぁ、必要だぜお前が」


 その言葉に台莪の暗い表情から一転し、明るい眼差しに変わった。


「僕が必要?」

「昔、射的が得意だったよな」

「うん……」

「お前の武器が役に立つかもしれん。虐めていた奴らに復讐をすんだよ、なぁ?」

「復讐?銃もないのに?」

「手に入れる手段はあるんだよ。だから来てくれよ、なぁ台莪」


 *


 飛悠雅さんが入って10分ほどが経った。

 ゾンビに囲まれるんじゃないかってソワソワしていたが、気になったのがのが付近の逃げ遅れたであろう市民が窓からこちらを見つめていることだった。


「待たせたな!」

「飛悠雅さん、さっきから付近の住民が窓から──って誰ですか?」


 全員が誰だ?と疑問を抱いた。


「こいつが俺の弟の台莪だ。よろしく頼むぜ」

「よ、よろしくお願いします」


 俺は恐る恐る手を上げて質問をした。


「飛悠雅さんの子供?」

「んな訳ないない。俺の弟だ。言わなかったか?」

「聞いたこと無いっすね……」


 高笑いする飛悠雅さんは台莪君の背中を押して、俺達の前に突き出した。


「コイツは役に立つかもしれねぇ。俺のお墨付きだ、期待は裏切らせねぇぜ」

「頼りにしてる?」

「そうさ。お前の力が俺達が生き抜く為には必要なんだよ」


 正直、この台莪君が何かの役に立ちそうには到底見えない。

 こんなにもオドオドして、俺らとも目も合わせられない。

 でも、飛悠雅さんのこの自信の高さ。

 弟だからって訳ではなく、それほどこの子に何か特殊技能があると言うのか?

 そして俺らは台莪君を乗せて、次の目的地へと向かった。

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