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僕らの終末旅行日記  作者: ワサオ
第3章 狂乱大阪編
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修学旅行19日目 午後11時40分 前半

 

 午後11時40分……


 感染者が蔓延る駐車場を進み出した博幸。


「何で俺が……こんな事になってるんだ」


 ライトを照らすと辺りは感染者だらけ。

 物音を立てれば、即座に補足されて食われる。

 油断の一つも許されない状況。

 息を吐く事すら忘れながら駐車場内を真っ直ぐ進み、出口へと目指す。

 一歩でも間違えば、自分はあのゾンビ達と同じになる。

 それだけは嫌だ。


 二週間前に九州で感染騒ぎのニュースを見て仲間内で笑っていた。


「どうせすぐに収まるさ」


 みんなそう言っていた。

 いつかは収まるって。


「うわっ!何だ!?」


 大阪で感染が広がった時、俺達は飲み屋街で酔い潰れていた。

 そんな時にゾンビ達に襲われて、何人も噛み付かれて、痛々しい声を上げてゾンビになったのをこの目でみた。

 あの時が一番酔いが覚めるのが早かっただろう。

 あの瞬間はずっと目に焼き付いている。助けてくれと叫んでいた。

 町がパニックに陥り、いつもは威勢がいい仲間たちも怖気ずいていた。

 このまま噛まれるのか?と──

 だが飛悠雅さんは違った。


「お前らぁ!酔いが覚めたならもっと飲み明かすぞ!」

「勘定は?」

「んなもんする訳ないだろ。こんな状況でよぉ!」


 酔ってるのもあるだろうが、何故だかこの人は冷静というより、この状況を簡単に受け入れていた。

 このゾンビ達を前にして、むしろ楽しそうにしていた。

 更に刃留斗さんも──


「店主も逃げたようだし、しばらくはここに居座れるな。日吉そいつらの始末をしてくれ。その間にここの酒を俺は吟味する」

「おいさ!」


 刃留斗さんは無情な指示をして、厨房の包丁を投げ渡した。

 日吉さんも言われた通りに動いて、ゾンビになった仲間達を躊躇いもなく包丁で首を切り落とした。

 何故こんなにも冷静なんだ?

 飛悠雅さんも刃留斗さんも日吉さんが戦っている横で高級な酒を吟味していた。

 三人以外の全員が唖然としている内に日吉さんは店内の元仲間であり、ゾンビの息の根を止めた。

 すると酒瓶を一つ飲み干した飛悠雅さんは言った。


「よぉし。日吉、次はこのボロ雑巾を外に投げて女連れてこい。華がなくて寂しいぜ」

「どう誘う?いつも通り?」

「バカ、こんな状況でいつもの謳い文句で来るかよ。守ってやるとかここなら安全とか言えばいくらでも来んだろうさ!美人連れてこいよ!美人!」

「美人だな!よっしゃ!」

「お前の趣味じゃなくて、一般感覚で頼むぜ」

「おうさ」


 そう言って日吉さんはウキウキな表情で阿鼻叫喚の外へと飛び出して行った。

 一度静まり返った居酒屋。

 刃留斗さんは飛悠雅さんの対面に座り、未開封の酒瓶を置いた。


「アイツに任せて良いのか?」

「アイツはロリコンだが俺の趣味じゃねえ。不安だが、今一番に動ける奴だ。任せるしかねぇよ」


 不安に思う所はそこじゃ無いだろと誰しも思ったが口には出せなかった。

 そう言って刃留斗さんが持ってきた高級そうな酒をガバガバと飲み始めた。


「お前らも好きな酒飲めよ!俺の奢りだ!っと言っても払う相手はいないがな!はっはは!」

「リーダーさんの言葉に甘えて皆んな飲めよ。機嫌が悪くなる前に」

「刃留斗は全員のおつまみ作ってくれぇ!とにかく朝まで飲むぞ!」

「了解」


 刃留斗さんは厨房に立ち、おつまみを作り始めた。

 俺を含めたメンバーは唖然としながらも、刃留斗さんの言葉通りに席についてカラ元気な状態で酒を胃袋に押し込んだ。

 ふとテレビを見ると、大阪の街が上空から映し出されていた。


「飛悠雅さん、ニュース!」

「んあ?」


 ニュースには感染者が岡山、鳥取、兵庫、京都、奈良、大阪からも確認と映し出されていた。

 更にスタジオのニュースキャスターも必死な顔で説明をした。


『先程の政府の発表で全国的に交通機関は全面運行停止し、国民の皆さんは屋外への移動を原則禁止として屋内待機をする事が感染を抑える最善の行動と発表しており、全国の市民の皆さんは屋外の移動はしないようにお願いします!』


 テロップにも大きく屋外に出るなどの行動は禁止と書いてあり、酔いかけて来た面々も再び酔いが一気に覚めた。

 やっぱし逃げた方がいいんじゃないと思い始めたが──


「へぇ関西ほぼ壊滅かよ。酒飲めなくなるじゃねぇか」

「呑気に酒飲みながら言う言葉がそれか?ほら、味濃いめの野菜炒めだ。酒と合うぞ」


 刃留斗さんが出して来てくれたのはオイスターソースを絡めた濃いめの味付けの大量の野菜炒め。

 普段なら喜んで食いつくのだが、その時は状況も状況なので喉に何も通る気がしなかった。


「これよ!これ!この匂いだけで酒が進みそうだ!」


 正直分からなかった。二人はこの状況をどう思っているのか。恐怖を紛らわす為の行動には到底見えない。

 本心でこの状況を楽しんでいるのか?


「お前らも気にせず食えよ。ガスはすぐには止まる事はない。もっと作るから食ってくれよ」

「は、はい」


 再び厨房に立ち、刃留斗さんは料理を始めた。

 俺を含めたメンバーは困惑しながらも酒を飲んで忘れられるなら食べてやろうと決めて、酒と食べ物に食らいついた。

 そうしていると──


「ほらほらぁ。ここなら安全だから、落ち着くまでここにいようぜ」

「あ、ありがとうございます」


 日吉さんが女性を三人連れて来た。

 若々しい女子大生で、少しだけ酒に酔っているのか頬が赤くなっていた。


「おぉ!日吉!可愛い子連れて来てくれたか!」

「おうよ!言われた通りだ!」


 三人は不安そうな顔になり、細い声で話した。


「あ、あのぉ。ここで大丈夫なんですか?」

「大丈夫だって!俺らは喧嘩は強いからさ!」

「でも、皆んな逃げていますけど……」

「まぁまぁ!明日には自衛隊が何とかしてくれるって!今は忘れるように酒を飲もうや!」


 そう言って飛悠雅さんは女の子達を席に座らせて、刃留斗さんに机へと酒を置かせた。


「貴方のお店なんですか?」

「……そうだよ!俺達の店だよ!だからこそ、ここでやり過ごそうや!何があっても俺達が守ってやっからよ!」

「こんな時に飲むのはちょっと……」


 すると厨房からまた料理を持って来た刃留斗さんが女性陣に向けて優しく告げた。


「彼は荒々しく酒にもガメツイが逞しさは筋金入りだ。俺や他の仲間もいる。ここが今一番安全だ。信じて欲しい」

「そ、そうなんですか?」

「あぁ。今の気を落ち着かせよう。さっ」


 そういって刃留斗さんはあまり出さない甘い声を出して女性陣に酒を振る舞い、言葉巧みに気を落ち着かせた。

 女性陣的にもこの状況を落ち着かせるためにも、刃留斗さんの言葉を信じようとでも思ったのだろう。

 瞬く間に酒を飲んで酔いが回って来た。


「ははは!さぁ!皆んなも飲め!楽しもうぜ!」

「おうおう!」


 飛悠雅さんや日吉さんは宴会の如く叫び、飲み続けた。

 俺を含む他の仲間達や女性陣も恐怖を紛らわすように飲み明かした。

 非現実的過ぎて、現実逃避しなくちゃやってられなかった。彼女達も同じだろう。

 そうして飲んでいる内にいつしか記憶が飛んでしまっていた。


「……っつ!」


 何時間が経ったのだろうか。

 目が醒めると外は明るくなっており、音一つ聞こえない無音な空間になっていた。

 二日酔いで頭が痛む中立ち上がり、外をそっと確認した。


「……これは」


 外を見た時、絶句した。

 朝でもうるさい大阪の街並みが静まり返っていた。

 人の気配はなく、物が散乱しており、地面には赤い血のような。と言うより血が至る所に飛び散っており、昨日何が起きた想像するだけで瞬時に酔いが覚めた。

 人の肉片らしき物も落ちており、だんだん生臭い匂いが鼻に来て、俺は酔いの影響もあってか思わず吐いてしまった。


「はぁ……はぁ……夢じゃない。現実なのか」

「博幸起きたか」


 後ろから起きた刃留斗さんが背中をさすってくれた。


「刃留斗さん……すいません。やっぱりこれって夢じゃ──」

「あぁ現実のようだが、ゾンビ共は付近にはいないな」


 何故冷静で居られるか分からない。

 だが、その冷静さに少し救われている気がする。

 こんな状況でも、周りを見れる能力は凄いと心から思った。


「はい……そうっぽいですが」

「なら、すぐに避難先を探すぞ。皆を起こしてくれ」

「わ、わかりました」

「男だけな。女は起こすな」

「はい」


 言われた通りに仲間達を全員起こした、

 女性陣は全員が酔いつぶれており、未だに爆睡をしていた。


「ふぅ、よく寝た」


 女性をここに呼び込む事こそ、飛悠雅さんの狙いだった。

 飛悠雅さんを起こすとすぐに立ち上がり、女性陣へと目を向けた。


「よぉし。女どもはぐっすりと酔い潰れたな」

「どうするつもりですか?」

「テイクアウトすっぞ。隠れるに良い拠点でな」

「拠点?」

「こんな狭い所じゃ窒息死しちまう。ここの食料持って広い場所に行くぞ!」

「一体どこに?」


 その問いに飛悠雅さんは刃留斗さんへと目を向けて言う。


「避難場所はデパートはどうだ?食料もあるが」

「良い案だが、人が集まる場所はもう感染しきってるだろう。それにもう人が集まりきっている可能性もある」

「なら何処がいいんだよ」

「学校……とかはどうだ。付近の小学校があったはずだ」

「学校?」

「学校ならば今の時点なら人はいないだろう。拠点としての役に立ちそうな物品も豊富にある。近年は非常食の常備がされているとも聞く」

「なるほど……それに付近は住宅街。屋上からは周りの状況を容易に見渡せるって訳か」

「ビル街にはない利点の一つだ」

「よぉし!お前のその言葉を信じて、決定だ!早速移動するぞ!ここの食料や酒を持って移動するぞ!」


 飛悠雅さんが全員に号令を掛けると、刃留斗さんが言葉を挟んだ。


「SNSの情報だと音に敏感だとは聞くが」

「音に敏感だぁ?んなもん轢き殺せば良いんだよ!ゾンビだから関係ねぇがな!」

「もっと酒飲みたいなら、素直に動くことだな」


 飛悠雅さんは刃留斗さんの言葉に素直に従い 刃留斗さんの指示のもとに俺達は行動をした。

 人気のない店の裏側から移動し、乗って来た二台の車に酒や食料などを積み込んだ。

 未だに起きない女性陣も車に放り込み、出発の準備が整った。


「奴らが来る前に出発するか」

「っと待てよ。もう一人仲間が欲しい。俺の実家に寄ってくれるか」

「何か忘れ物でも」

「あぁ、俺達にとって重要なモノさ」


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