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僕らの終末旅行日記  作者: ワサオ
第3章 狂乱大阪編
122/125

修学旅行19日目 午後0時47分

 

 午後0時47分……


 尋問を続けてようやく男は状況を話してくれ、木田は書き記したノートを見ながら男の名前を確認した。


「名は名倉博幸。25歳、広島拳出身の現在無職と」

「そこまで細かく調べますか?」

「念の為だよ。念の為」


 男はぐったりと項垂れており、木田は髪を掴み上げて、無理やり目を合わせた。


「貴様はその飛悠雅という男がリーダーで、そいつの指示で自衛隊を襲撃したって訳か?」

「そ、そうだよ。市民を避難させようとした自衛隊を混乱に乗じて襲ったんだ。そして武器を取ってアイツらを動けない状態にして、動物小屋に押し込めたんだよ!」

「なるほど、つまりはまだ全員生きているって事だな」

「そうだよ!何かの役に立つってリーダーが言ってたんだよ!」


 木田は手を離してトイレに再び座らせると、個室から出て林と話した。


「幸久ってガキの言葉と重ね合わせると、同胞は今は生存している事は本当のようだ」

「ですが、助けに行くのはリスクが──」

「あぁ、その通り。困ったもんだな。だが、同胞を見捨てる訳にも行かんしな。暴徒相手には自衛隊という名の抑止力も必要だしな」

「国民の安全のためにもですね」

「そうだな」


 力無く言う木田だが、何処かやるせない気持ちになっていた。


「敵はやはり人間か」

「ゾンビ映画でも、最後は人間同士の戦いが定番なんて言いますが本当にそうなるとは……」

「ゾンビや動物とは違い、はっきりとした理性があるからこそ、人間はラスボスになりうる存在なんだよ。感染は薬で止められる可能性があるが、狂気の伝染は人の薬でも治せん」


 結局争うのは人間同士。

 こんなにも人々が団結をせざるを得ない状況でも、人は人と争わないと生きていけないのかと心を痛める。

 二人は源次郎に事情を話して、全員を呼び寄せて今の状況を再度説明した。


「今後は見張りを置くことにする。敵は感染者だけでは無くなったようだ」

「どうゆう事だ?」


 何人かが声を上げると木田はそこも含めて現在の状況を説明をした。

 銃火器を持った自衛隊風の男達が付近にいる事や幸久達が襲撃された事など、ここに来る可能性も少なからずあると。


「救助ヘリが来るのは数日に一度だ。一日一日何が起きるかなんて、こんな状況じゃ分かりやしない。だからこそ、不測の事態に備えて武器を持ってもらいたい。男女関係なくな」

「私達も武器を?」


 真沙美が問うと、木田がカッターを渡して来た。


「本当は女には武器を持たすことはさせたく無いが、そんな悠長な事を言っている場合じゃない。男女問わず武器を所持する事を義務付けたい。特には女性はカッターの一つでも隠し持っていて欲しい」

「……自己防衛ってやつですね」

「感染者以上の野蛮人だ。感染者は全て襲ってくるだけだ。だが、人間は分からん。一人一人思考が違い、十人十色だ。だからこそもしもの時は急所でも切り裂いてやれ。女子供でも男の弱点は理解しているだろ」

「……」


 真沙美は静かに何個かのカッターを貰い、先生らに渡し、南先生に由美へと武器を渡すかを聞く。


「先生、由美に渡しますか?」

「……持っていた方が良いけど、今の精神状態では渡すのは危険だわ。今は私が持って、隣にいるように努めるわ。優佳ちゃんの分も私が預かっておくわ」

「はい。私もなるべく二人に寄り添います」


 真沙美は今の優佳と由美の状況を思うと一人頑張らないとダメだと自分を心の中で鼓舞した。

 由美は精神状態が不安定になり、優佳は足を怪我している。

 ずっと先生に頼り切っていては、先生も負担が掛かってしまう。


「私が頑張らなくちゃ……」


 そして木田は雅宗ら高校生に武器を常備させる事を勧めた。


「若い男、お前らは特に多く武器を取れ」


 そう言うと蒼一郎は軽口で答えた。


「武器と行っても、奴らは銃ですよ。どう立ち向かうんですか?武田騎馬隊のように突撃しろと?」

「そのつもりの方が死ぬ気になって戦えるだろ。死ぬかもしれん時が、集中力が高まるんだよ」

「そんな根性論と理想論で言われてもなぁ。もし死ぬ時にはアンタらに恨みつらみ叫びながら、死んでやるよ」

「その気合いの入れ方なら、簡単には死なんよ」


 そう話していると、林が男性陣の前に鉄パイプやハンマー、ナイフなどの武器になりそうな物を大量に置いた。


「持ちやすい武器はナイフやハサミが良いですが、パイプなどの長い武器も接近戦の場合は有利になります」

「これでね、銃相手にね……」


 愚痴をこぼしながら武器を品定めしている蒼一郎は、雅宗にぼやいた。


「昔から一番死ぬのは若い男と言うけど、こうゆう事ね」

「けど、俺達は慣れるからもう良いけどさ」

「そんな慣れほど、怖いものはないってもんだぜ」

「そりゃそうだ」


 由弘や龍樹も混ざり、二人も武器を品定めをした。


「アイツらの言うとおり、銃相手にこの程度の武器で……」

「そこは戦略次第だな。逆に考えれば、銃相手には接近戦が有利になる。その場合はナイフが有利だ」

「その状況に持ち込めってわけか。まぁ、俺は素手の方がやりやすいよ」


 二人も探している中、幸久だけは少し離れた場所から呆然と立ち尽くしていた。

 それに気づいた雅宗は手招きで幸久を呼んだ。


「幸久も来いよ。なんでも良いから持っておこうぜ」

「あ、あぁ」


 雅宗は幸久のぼんやりとした顔に聞こうとしたが、今はよそうと聞くのを辞めた。

 木田達はそんな積極的な高校生らに感心した。


「口答えの多い奴らだが、肝っ玉だけあるな」

「えぇ、でも彼らの士気の高さには我々も助かってますからね」

「だが、アイツらの言う通り、慣れほど怖いもんはない。油断をしてしまったら元も子もない」

「そうですね……ここから脱出するまでは気を張らないとですね」

「脱出できればな」


 敵も感染者も攻めて来なければ安全。

 だが、内部の崩壊が今一番恐れている事だ。

 特にあの茂尾と言う男達が不安の対象である。


「あの茂尾という男らには渡すなよ」

「分かってますよ。それくらいは」

「何を企んでるか分からん奴らだ」


 木田達が全員に説明してある裏では──

 博幸が縛られているトイレの中に、一人の男が忍び込み、頭を軽く殴って話しかけた。


「よぉ、お久しぶりだな博幸」

「茂尾?茂尾なのか?」


 それは茂尾であり、茂尾は周りをキョロキョロと見ながら、博幸の口を塞いだ。


「少し静かにしろ。見つかったらめんどいんでな」


 博幸が何度か頷くと手を離し、二人は小声で話し始めた。


「誰かお前の名が聞こえたんでな。来て見たらご本人とはな」

「助けに来たのか?」

「まぁそういう事でもないが、助けてほしいか?」

「そりゃそうだ!」

「だから黙れって」


 茂尾が外の見張り二人に目を向けると、二人は大丈夫だと頷いた。


「助けてやるよ、お前を」

「本当か!?なら、脱出後に近くの学校に行こう!そのに飛悠雅さんの元に──」


 博幸が言うと茂尾は額にデコピンを食らわせた。


「いや、あいつと手を組む事はしない」

「なんでだよ。飛悠雅さんは俺と組めば、生きてるって」

「お前だって感じてるだろ?あの野郎といたって、どうせ生きているだけの下っ端デク人形が良いところだ」

「……」


 博幸は顔を俯かせて黙り込んだ。

 戻ったところで、扱いが良くなるわけとは限らない。

 むしろ捕まっていた事が知られれば、今の立場が危うくなり、狙撃される立場になるかもしれないと。

 博幸の表情を読み取り、現状に不満を持ってるなと茂尾は把握し、博幸に揺さぶりを掛ける。


「どうせ、お前も捨て駒同然な扱いだ。言葉だけで信じるほど馬鹿ではないだろお前も」

「そうかもだが……」

「この状態で戻れるか?捕まっていたなんて言えるか?どうせお前の事だから、殆ど吐いたんだろ。あの自衛隊野郎に」


 この状況下での孤立は死に等しい。

 一人でこの感染者が蔓延る街で生きるのは不可能。

 博幸の中でそれだけは避けたいという気持ちがあった。

 だからといって、ここにいても自分がどうなるか分からない。

 あの高校生は俺を許してはいないだろう。下手をすれば置いていかれる可能性すらもある。

 そう考えると心底震えが止まらない。

 悠長に考えている暇なんてないんだ。


「吐いたよ。でも、ここで死にたくはない! あっちにも戻りたくなんかない!」

「だからこそ、俺らが逆にアイツを殺して俺らが上に立つんだよ。昔のよしみだ、アイツよりは破格の扱いにしてやるからよ」

「本当か?」

「あぁ、俺らはダチだろ。俺だって飛悠雅と組みたくねえし、ここにずっといるのはごめんなんだよ。だからこそ、逆にアイツを倒すために、別勢力を作るんだよ」


 博幸は茂尾も分かっているはず、飛悠雅には武器も兵力もある。

 この状況で飛悠雅に勝てるのか?と


「でも、味方もいないのに」

「ここにいるだろ。大量の的が」


 この時午後1時57分……

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